幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #037「無人の集落(大会編・前章)」
ーー魔界24番地区
「何だ、おめーも魔界統一トーナメントに参加するのかよ」
さっきは天然発言はあったものの、ようやく楽越の目的が、魔界統一トーナメントに参加する為ということが分かった。
「ああ。3番地区で大会があるのは知っていたんだが、道に迷っちゃって。その挙句、腹が減った上に、喉もカラカラっていうダブルパンチ」
笑顔で、てへっと舌を出す。
幽助、かなり呆れ顔で大きな溜息をつく。
「3番地区ってここと全く反対方向じゃねーか。方向音痴にも程があるぞ」
このまま進むと7番地区に着くことを楽越に教えると、
またやってしまったって顔をした。
「いやあ~、俺、ずっと住んでる家ですら、よく道に迷うんだぜ。どうだスゲーだろ」
ドヤ顔で言う楽越に、幽助は疲れ気味にもう一度大きな溜息をつく。
なんかこいつは憎めない奴だなっと幽助は思った。
「俺はこれから7番地区に行く用があるんだ。用が終わったら俺も大会に参加するから3番地区に行く。寄り道していいなら、俺に着いてこいよ。3番地区に連れて行ってやるから」
妖気は大した事ないし、しかも方向音痴。
このまま放っておいたら、この男は絶対に3番地区に、辿り着けないなって幽助は心の底から思った。
この幽助の申し出に楽越は大喜び。
涙を流しながら幽助の両手の手首を握って上下にブンブンと振って大感謝。
「幽助、お前ってめっちゃめっちゃいい奴なんだな」
屈託のない満面の笑顔。
なんか調子狂う。今まで出会ったことのないタイプだ。
「でも俺は走っていくからな。付いてこれなければ置いていくぜ」
口ではこうは言ったが、楽越が付いて来れる速さで走ってやろうっと幽助は思っていた。
だが、いざ実際に走ってみると楽越は幽助のスピードについて来ていた。
かなり抑え気味で走っているとはいえ、初めて雷禅の国に向かうときのスピードよりもずっと速いのに。
(楽越、意外にスゲーじゃねーか。感じる妖気は全然大した事ないのによー)
予想以上の楽越の体力を見て彼をすこし見直していた。
幽助の中で楽越の評価が少し上がっていた。
「おー!あの鳥でかいな!!」
楽越は空を飛ぶ巨大な魔界の肉食獣に見とれてる。
「焼いたら美味そう」
肉食獣が楽越には別の物に見えているのか、
空を見上げながら、肉食獣が飛んで行く方向に向かって走って行く。
「ああ~、バカ野郎!おめーはどこ行くんだよー!!」
楽越の首根っこを捕まえて、通常ルートに引きずり戻す。
……幽助の中で楽越の評価が僅か数秒でダダ下がり。
方向音痴の楽越に振り回されながらも、幽助たちは、
7番地区への道のりを進んでいた。
当初の幽助の予定よりだいぶん遅れて…。
幽助は一旦、足を止めると何かを考えるように見ている。
「幽助、何見てるんだ?」
楽越は幽助の隣に来て、幽助が見ているものを自分の目で確認してみる。
そこには妖怪が住む小さな集落があった。
小さいといっても魔界の大地は広大である。
人間界の普通の市の大きさぐらいはある。
ただ、住んでる妖怪の数は人間界に比べると圧倒的に少ない。
大体100:1の割合ぐらいだ。
「楽越、ちょっとあの集落に寄って行こうぜ。おめーも疲れただろ?休憩しようぜ」
幽助の言葉に楽越はキョトンとした顔をしている。
「俺はまだまだ走れるぜ。休憩なんかしなくても全然大丈夫だぞ。それにさっき予定より遅れているって幽助言っていたじゃあないか。先行こ。それとも幽助はもう疲れたのか?」
アクロバット的な動きや、腕に力こぶを作ってみせたりと、元気さを幽助にアピールしてくる。
幽助の額に青筋が。楽越に無言で近付くと頭をゴツンと叩く。
「痛てーよ幽助…。何すんだよ」
涙目で頭を擦りながら幽助に抗議する。
「遅れてるのは、おめーが変な方向に行ったり、家畜用に仕掛けてる餌を食べて、罠にかかちまったせいじゃねーか。それとおめーがあれだけあった俺の飯を、全部食っちまったからよー。あの集落に食いもんを手に入れに行くんだよ」
幽助の言葉に楽越はまたもキョトンとする。
「あれ、そうだっけ?」
プチッと幽助の何かが切れる音がした。
幽助は笑顔で腕をポキポキと鳴らしながら楽越の前に立つ。
「うん?」
幽助、ニコリと笑うと楽越に飛びかかる。
「うわぁぁぁぁ!!!」
格闘技マニアである幽助にお仕置きとして、
ありとあらゆる技をかけられる楽越。
ーー数分後、幽助に成敗された楽越は大人しく幽助の後ろに付いて行く。
「首が酷いぞ…。何もあんなに絞めなくていいのによ…」
首を擦りながらブツブツ呟いている。
「何か言ったか?」
幽助、ギロりと睨む。
「な、なんも言ってないです」
冷や汗をかきながら笑顔で誤魔化す。
この地獄耳!!と心の中で叫ぶ。
幽助たちは集落の入口の前にまでやってきた。
入口の横に薄汚れた木の看板が置いてあった。
看板を読んでみると間田愚と書かれていた。
この集落の名前だろう。
「よし、行こうぜ」
楽越は幽助より先に物珍しそうに集落に入っていく。
小さい建物があっちこっちに建っている。
これは妖怪たちが住む家なのだろう。
楽越は集落の中に入ると直ぐに違和感を感じた。
それなりの広さの集落のはずなのに、
妖怪の姿が全くないのだ。
話し声はもちろん、音すら何も聞こえてこない。
本当に不気味なほど静かである。
楽越は辺りをキョロキョロと見渡している。
「幽助、この集落、誰もいないぞ」
楽越に続いて幽助も集落の中に入った。
確かに楽越の言う通り、不気味なほど静かで、妖怪たちの姿は見当たらない。
まるでゴーストタウンのようだ。
「なんか変だな。楽越、ちょっと中を見てみようぜ」
二人は走りながら集落の中を手分けして見て回った。
楽越が案の定、道に迷ったがそれは今回はおいておこう。
妖怪たちの家の中を幾つか見てみたが、どこの家も質素な感じで、あまり裕福な集落ではないのが分かった。
そしてどこの家にも誰もいない。
「なあ幽助、ここってもう誰も住んでいない廃墟の集落じゃあないのか?」
散々探してみても誰もいないのだ。楽越がそう考えるのも無理はない。
幽助も最初は廃墟の集落だと思った。
だが、この集落を調べるうちに、ここで妖怪たちが生活していた痕跡を幽助は見付けた。
それも最近まで。
「いや、それは多分違うぜ」
「え?」
幽助は楽越をある家の中に連れていく。
そこにはスープらしきものがあった。
ここの集落の妖怪はどうやら人間を食べるタイプではないようだ。
楽越はスープを見ると、幽助が止めるのを聞かずに
スープを飲み出す。
「まだこのスープ少し温かいぞ。しかもこれ美味い」
楽越はスープを黙々と飲んでいる。食べる事が本当に好きだということが分かる。
警戒せずにスープを食べる姿を見て、毒がもし入っていたらどうするんだと幽助はツッコミたかったが、
嬉しそうに食べる楽越を見て言うのを止めた。
これが桑原なら容赦なくシバいたが。
「楽越、スープがまだ少し温かいって意味分かるか?」
ズズズとスープを最後まで飲み干すと楽越は答える。
「それは、さっき作ったからじゃない……あっ!?」
幽助が言いたい事を楽越はようやく理解した。
スープが少し温かいということは、すなわち誰かがこれをさっきまで作っていたということになる。
「誰かここにいたんだと思うぜ。しかもさっきまでな」
幽助の言葉に頷く楽越。
「このままここを出て7番地区に向かってもいいが、
やっぱ気になるぜ。楽越、おめーはどうだ?」
楽越ニコリと笑って答える。
「このスープ美味かったぞ。作った奴探さないと」
楽越の答えに幽助もニヤリと笑う。
「決まりだ。もう少しこの集落を調べようぜ」
続く