幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #039「非情な選択(大会編・前章)」
ーー魔界24番地区集落・間田愚
妖怪たちの屍の中から現れた少女は、名前をゆりと名乗った。
幽助はゆりにこの集落で起きた事を聞いてみる。
「おめーは、こいつらが、何でこんな状態で死んでるのか知ってるか?」
ゆりは少し困った顔で答える。
「ごめんなさい。私もあまり分からないの。私がここに来たとき、もうこの状況で。それで私、死体を見て
気持ち悪くなってしまって、さっきまで気を失っていたんだ。私はお兄さんたちの声で目が覚めたの」
「そうか…」
幽助はせっかく見つけた生存者からも有力な情報を得る事が出来ずに落胆する。
ゆりも落胆している様子に気付いて、なんか申し訳なそうに俯く。
幽助がゆりの肩に手を置く。
「気にすんな。俺たちもさっきここに着いたばかりなんだ。誰もいねーから、こいつ(楽越)と見て回っていたら、ここに着いたって感じだ。ま、とにかくおめーが無事で良かったぜ」
「うん、ありがとう」
幽助の言葉にゆりは微笑む。
ゆりのこの笑顔を見て、落ち込んでいても仕方がないと思い、頭の中を切替ることにした。
「俺は浦飯幽助だ。で、こっちの赤い頭のボーっとしているのが楽越」
ゆりにまずは自己紹介する。
「ボーっとはよけいだよ幽助」
横で抗議し、口を膨らませて拗ねる。
ゆりは彼等のやりとりにクスッと笑うと、ペコりと頭を下げて改めて自己紹介。
「さっきも言ったけど、私の名前はゆり。ちょっとした希少種族なの。宜しくね」
ゆりの希少って単語に幽助が反応した。
「希少ってレアって意味だろ!なんか得した気分だぜ。そうあれだ。おめーと出会えるのは人間界で言うと、芸能人とかに会えてラッキーとか、そんな感じと一緒なんだろ?」
「え?え…っと」
幽助の意外な反応に固まるゆり。
《 ちょっと違うと思うぞ幽助ー》
楽越は幽助に聞こえないぐらいの小さな声でツッコミ。
幽助、ギロりと睨む。
「またなんか言ったか、楽越?」
「い、いや 、な、何も言ってないよ」
直ぐに小さく縮まる楽越。
(幽助、絶対に地獄耳だよ…)
幽助はゆりに、ゆりの他に誰か生存者はいないか聞いてみた。
ゆりは目を覚ましてから、自分以外に生きている妖怪には会っていないという。
幽助は改めて辺りを見渡してみた。
無数の妖怪たちの死体が転がっている。
これだけの死体の数だ。もう他に生存者はいないかもしれない。
だけど万が一の可能性があるかもしれない。
駄目元でもう少し探してみることにした。
「誰かいねーか!!」
幽助は大声で呼びかける。
楽越も幽助に続いて大声で呼びかけている。
だが、やはり呼びかける声だけが、空しく響き渡るだけだった。
広場全部を細かく確認して回ったが、もうゆり以外には、ここに生存者はいなかった。
そして次のことをどうするか考える必要がある。
幽助は胸のところで手を組んで頭の中で考えている。
ゆりはその横で幽助の様子を伺っている。
幽助の頭の中で思いついた選択肢は2つある。
1つ目はこのままこの集落に残って手がかりを探すということ。
2つ目はここをもう出て、そのまま当初の目的通り、
7番地区に向かうということ。
「あ、そういえば」
ここでまだ、ゆりの行先を聞いていなかったことに気付いた。
「ゆり、おめーはどこ行くつもりだったんだ?」
突然自分にふられてびっくりするゆり。
「あ、あ…、私は7番地区にいる知り合いに会いに行くつもりだったの」
7番地区なら幽助たちの向かう先と同じ方向。
ゆりと目的地が同じということが分かった幽助は、
2つ目の選択肢を選ぶことにした。
「ゆり、俺たちも7番地区に向かってる途中なんだ。
こんな状況だ。何があるかわかんねー、良かったらおめーも俺たちと一緒に来ないか?」
この幽助の申し出をゆりは喜んで受けた。
「うん、私1人だと本当に怖かったから、嬉しいです。ありがとうございます」
楽越が幽助の隣に来る。
「幽助、ここの事はもういいのか?」
正直、これだけの妖怪たちの変死事件だ。
このまま去るのは後味が悪い。
関わった手前、出来る事なら原因を突き止めて解決したかった気持ちは少しはある。
だが、ここは幽助にとっては誰も知っている者がいない場所。
非情だが、このまま切り捨ててもなんとも思わない。
この選択は人間の時だったら出来なかっただろう。
これが人間から妖怪になったって一番実感するときだ。
それに今はゆりもいる。
無関係な事件にこれ以上首を突っ込んで、せっかく助けた女の子をわざわざ危険に去らすのも馬鹿らしい。
「ああ。ここを出て、7番地区に向かおうぜ。出る前に、その辺の家を探して食い物と水を沢山持っていこうぜ」
食い物と水の単語に楽越は笑顔。
「分かったぜ。沢山持っていく!」
「あ、私も運ぶの手伝います」
こうして謎の妖怪たちの変死事件は未解決のまま、
幽助たちは集落を出て、7番地区に向かうことにした。
ちなみにゆりは、幽助が背中に背負った。
ゆりがかなり恥ずかしがって抵抗をしたが、二人の走る速さに着いてこれるわけがないので、最後には諦めて、顔を真っ赤にして背負られたのだった。
ーー間田愚を出て6時間後
7番地区まで残り1/3までのところまでやって来た。
ゆりも一緒にいるということから、今日はここまでという事で、適当な岩を背に野宿をすることにした。
食事を済ませて、軽い談笑の後、3人は眠りに着いた。
寝静まってしばらくすると、ゆりは目を開けた。
音をたてないように立ち上がると、チラッと幽助と楽越の様子を見る。
彼等は疲れているのか、よく眠っているようだ。
幽助は豪快に大の字になってイビキをかいている。
楽越は幽助のリュックを寝ながらかじっている。
何か夢の中で食べている夢でも見ているのだろう。
ゆりはそっとこの場から離れて、少し離れたとこの岩場までやってきた。
首にかけているペンダントの先についてる勾玉を手に持って念じる。
すると勾玉が小さく光だした。
勾玉から光線が出てきて、岩壁に当たる。
すると光が当たった岩壁に映像が写し出される。
映像には、女性の姿が見える。
緑色の長い髪。それに華奢で、少し顔に幼さが残るが、大人の綺麗な女性だ。
そしてその女性の隣に男がやって来る。
ゆりは女性と男の顔を見るとニコリ。
「上手くいったよ、皐月お姉ちゃん、樹」
続く