nanaseの世界

このブログは週間少年ジャンプで連載していた、冨樫義博先生の原作漫画の幽✩遊☆白書の続編小説を中心に、映画のレビューや日々の出来事をメインにしています。

小説更新!!最新話公開中 幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #108「二回戦最終試合・凍矢vs戸熊(大会編)」

幽☆遊☆白書 #038「屍の中の少女(大会編・前章)」

ーー魔界24番地区集落・間田愚

 

スープがあった家から出た幽助と楽越は話し合って、

これからやることを再確認。

これまでと同様に、まずは集落に住む妖怪の捜索が最優先事項となった。

小さな集落でも少なく見積もっても500匹から1000匹の妖怪が暮らしている。

この集落に入ってからまだ1匹の妖怪すら見つけていない。

 

「もう少し先まで行ってみようぜ。着いて来いよ楽越」

 

そう言うと幽助は一気にトップスピードで走っていく。

楽越もその後ろに着いていく。

走りながら集落内を見渡すが、特に何も変わった様子はない。

本当に、ただこの集落の住人がいないだけなのだ。

何も変わった様子がないという事が逆により不気味さを醸し出している。

途中で幽助と楽越は左右に分かれて、家を見つけたら中に入って住人を捜すという作業を繰り返した。

もちろん楽越には、道に迷う行動はしないように幽助からきつく念を押されていたのは言うまでもない。

 

「ここも誰もいねーな」

 

これで不発だったのは何軒目だろうか。もう分からなくなるぐらい、片っ端から家の中に入って探し回った。

流石の幽助にも疲れが見えてきた。

上手くいっていない時は疲れは倍増するもの。

幽助がフゥ~っと溜息をついていると、

向かいの家から中を調べていた楽越が出てきた。

 

「そっちはいたか?」

 

幽助が聞くと、楽越は首を振る。

やっぱりこっちも不発か。

このどこにでもあるような集落で一体何が起きたのか?

ますます謎が深まってくる。

 

「もうこれでここの1/3ぐらいは見たんじゃねーか」

 

髪の毛をガ〜っと掻き毟る。

幽助がイライラしてきている。

 

「ああ。ここの食べ物は美味い」

 

真面目な顔で訳の分からない事を答える楽越。

その口元には何種類かの食べカスがついている。

 

「あ?何言ってんだ?って何だおめーのその口は…!

おめー、さては入った家にあった食べ物を片っ端から食いやがったな!」

 

「え、だって誰も食べないならもったいないぞ」

 

またもキョトンと不思議そうな顔。

…だから少しぐらい警戒しろよ。

 

「まったくおめーは…よ…。この非常時に…」

 

幽助の額に再び青筋が浮かぶ。

笑顔で楽越の前に立つ。

 

「うん?どうした幽…」

 

幽助の顔を見て氷つく楽越。

このパターンは…。

見たこともない絞め技をかけられた恐怖が頭の中を過ぎる。

ジワリジワリと1歩ずつ後ろに下がる。

 

「ごめんよ~!!」

 

そして全力で逃げた。

 

「あっ、コラ!!待ちやがれてめー!!」

 

無人の集落を全力で走り抜ける“大きな子供たち”。

だが、楽しい追いかけっ子は直ぐに終わることになる。

楽越が逃げた先にはかなり大きな広場があった。

 

「な!?」

 

目の前に広がる光景を見たら立ち止まるしかない。

楽越は呆然となって動きが止まった。

後ろから幽助が追いついてくる。

 

「やっと追いついたぞ、てめー」

 

楽越の後ろから首に腕を回して思いっきり締め上げる。

 

「く、苦しい…死ぬ~死ぬって…!!」

「てめーはいっぺん死んでこい!!」

 

幽助はまだ目の前に起きている事態に気付いていない。

 

「ゆ、幽助…あ…あれ…見れって…」

 

必死に暴れながら目の前の光景を幽助に見るように指差す。

 

「あ?何だってんだ。」

 

幽助は楽越の肩から顔をひょこっと出して指を差す方を見てみる。

そこには幽助も驚く光景があった。

 

「おいおいマ、マジかよ…」

 

楽越の首を締め上げていた幽助の手の力が抜けていく。

目の前の惨状に幽助もまた呆然とした。

 

「な、何だこれ!?一体なにがあったんだ!!」

 

辿り着いた広場には、無数に広がる妖怪たちの死体。

これは一つや二つではない。何十いや何百とあるかもしれない。

 

「もしかして…これは、ここの集落の住人全てじゃないのか…」

 

楽越は、恐らくこの集落に全然住人がいなかった理由の答えを言った。

幽助は黙って頷く。

その顔は険しい。

幽助と楽越は無数にある死体の状況を調べてみる。

見ただけでも分かるのだが、全ての死体にはある共通点があった。

それはまるで全ての生気を吸い取られたかのように、

酷く身体が萎んでいること。

 

「楽越、おめーはこの死体をどう思うよ」

 

楽越は目の前で死んでいる鬼妖怪の身体を手で触りながら観察していた。

普段は見せない真剣な顔だ。

 

「幽助、俺思ったんだけど、これだけの死体があるのに争ったような感じがないような気がするんだよ」

 

確かに楽越の言う通りだった。

反撃すらすることも出来ないほどのとてつもない強さの者が住人を皆殺しにしたのか?

それとも他になにかがあるのか。

 

「何かこれはありそうだが、俺考えるの苦手なんだよな。こういう時にワトソンがいたら」

 

「ワトソン?」

 

楽越が誰それ?って顔で聞いてくる。

 

「あ~。俺の仲間に蔵馬っていう妖怪がいるんだよ。そいつ頭がめっちゃいいんだぜ」

 

実際に幽助が妖怪専門のなんでも屋を始めた頃、蔵馬と一緒に、螢子が当時通っていた女子高の幽霊事件を解決したことがある。

※原作KC19巻参照

 

「蔵馬…蔵馬…」

 

楽越は蔵馬という名前はどこかで聞いた事があった。

頭の中で記憶を手繰る。

そしてしばらく考えると蔵馬が一体誰なのか思い出した。

 

(確か比羅がその名前を言っていたな。黎明を殺した男か)

 

黎明を蔵馬が殺したからといっても特に敵討ちをしたいとか、そういう感情はない。

楽越にあるのは強い男と戦いたい。ただそれだけだ。

 

「幽助、その蔵馬って奴も大会には出るのか?」

 

蔵馬がもし大会に出れば、戦える可能性がある。

 

「ああ。蔵馬も大会に出るぜ」

 

幽助の言葉に楽越は心の中で笑った。

強い奴がなによりも好きなのだ。

 

「この中に生存者はいないかもな」

 

ちょっとこの状況だと絶望的な気はするが、生存者が一人でもいないか呼んでみる。

 

「おーーい!!誰かいねーか!!!」

 

幽助の大声が静かな集落に響き渡る。

だが、何も返事はない。

 

「おい幽助、今何か聞こえなかったか?」

「いや、俺には聞こえねーぞ」

 

楽越には何か聞こえたらしい。

耳を傾けながら死体の山の中を進んでいく。

幽助は怪訝そうにその後ろを着いていく。

 

「誰かいないかー!!」

 

今度は楽越が大声で叫んだ。

 

「幽助、今確かに女の声が聞こえた」

「…俺には分かんねー…」

 

楽越はこっちだと幽助を誘い、死体の山の中を進みながら、声が聞こえたところに行ってみる。

声が聞こえた場所に近付くと、幽助にも声が聞こえた。

これは子供の声か。しかも女の子のようだ。

 

「あー!マジで女の声だ。楽越、おめー、スゲーな。

俺は全然分からなかったぞ」

 

幽助と楽越が声が聞こえた場所に辿り着くと、そこには一人の女の子がいた。

 

幽助は楽越に「やったな」と、笑顔で彼の髪の毛をぐしゃぐしゃにすると、急いで女の子のところに向かう。

 

「おい、おめー大丈夫か?」

 

幽助が女の子に話しかける。

女の子は黙ってコクリと頷く。

改めて女の子の姿を見る幽助。

女の子は種族は不明だがどうやら妖怪のようだ。

薄い水色のおかっぱ頭で、目が大きく可愛らしい顔をしている。一際目立つ英語のXに似た形の模様が入った紺色の着物を着ている。

妖怪の年齢は分からないが、見た目は中学生ぐらいか。

 

楽越も女の子のところにやってくる。

そしてちょっとしゃがんで女の子に顔を近付けた。

 

「名前は何ていうのかい?」

 

優しい声で女の子に声をかける。

女の子は少しだけニコリと笑うと名前を名乗った。

 

「私の名前はゆりだよ」

 

彼女の笑顔は、可愛さと妖しさが合わせたような

そんな笑顔だった。

 

続く

 

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