nanaseの世界

このブログは週間少年ジャンプで連載していた、冨樫義博先生の原作漫画の幽✩遊☆白書の続編小説を中心に、映画のレビューや日々の出来事をメインにしています。

小説更新!!最新話公開中 幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #108「二回戦最終試合・凍矢vs戸熊(大会編)」

幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #102「勝者(大会編)」

――魔界統一トーナメントAブロックの二回戦・第二試合

 

武威(ぶい)
×
桑原(くわばら) 

 

――Aブロック

 

「オリャァァァァァ!!!!!」

 

「フルパワーァァァァァ!!!!!」

 

ぶつかり合うお互いの最強の技と技。

桑原が武威に放つ時雨の技、それは狙いを一点に集中して妖気、または霊気を最大限に剣に込める。

そして神速で動いて相手を切り裂く。

次元刀は空間ごと相手を切り裂く為に、どんな者でも防御は不可能である。

桑原の狙いは武威の腹部。

桑原の次元刀と時雨の技が合わさった一撃。

その一撃が、武威の鋼鉄の身体を切り裂く事が出来るかどうかが、桑原にとっての最後の勝負の分かれ目であった。

そして武威。

フルパワーとなり武装闘気を最大限まで放出している。

武威の鋼鉄化した身体は、突進による体当たりの攻撃力はもちろんだが、特に防御力が格段に上がっていた。

そして最大限までに放出された武装闘気は最強の鎧、そして全てを飲み込み、破壊する武器となっていた。

最後の勝負の桑原の獲物が、防御不可能の次元刀と知りながら突進して来ている武威。 

空間ごと切り裂いてしまう次元刀の前では、武器闘気の鎧は簡単に突破されてしまう事は承知していた。

そして突破される事により、武威自身の身体も次元刀によって斬られる事も覚悟の上であった。

だが、武威は鋼鉄化し、武装闘気をフルパワーで限界まで放出したその身体を、次元刀で斬られても、それを打ち破り、桑原の身体を粉々に砕く絶大なる自信を持っていたのだ。

仲間の復讐と未来への道。

相手への深い殺意と憎しみ。

桑原と武威。

それぞれの想いや狙いは違うが、相手を倒すという気迫は互角であった。

そしてこれが、死闘となってしまった桑原と武威にとっての最後の戦いとなる。

 

「ウォォォォ!!!!!」

 

ズガガガガガガ!!!!!


突進して来る武威の身体から限界まで放出した武装闘気がその周辺を全て飲み込み破壊していた。

 

「武威ィィィィィ!!!!」

 

桑原の叫ぶような大声が闘場に響き渡る。

師である時雨が得意とする必殺の一撃。

桑原にとって、この技を放つのは一回戦の牛頭戦、そしてこれが二度目となる。


シャキーン!!

 

桑原は狙いである武威の腹部を次元刀で斬りつけた。


ズバァァァ!!!!!

 

空間ごと切り裂く事の出来る次元刀が武威の身体から放出されている、その鎧ともいえる武術闘気をなんなく切り裂いた。

そして。

 

ザクッ!

 

次元刀が武威の鋼鉄の腹部に接触

だが、武威の鋼鉄の身体が次元刀を止めていた。

しかし体当たりの為に突進していた武威の身体も次元刀によって止められていた。

 

「ウォォォォォ!!!!!」

 

お互いに大声を上げる二人。

 

武威は技を止めて、両手を使って桑原を殴り飛ばす事も、突き放す事も出来た。

それは桑原も同様で、次元刀を消して武威から離れて、再び態勢を整えて技を再び放つ事も出来た。

だが、彼等はこの技で最後の勝負を決めるつもりでいた。

 

「切り裂けェェェェェ!!!!!!!!」

 

武威の腹部に刺さった次元刀にさらに霊気を込めて、完全に切り裂こうとする桑原。

 

「無駄だァァァァァァ!!!!!!!!」

 

ブォォォォォ!!!!!

 

そして桑原の攻撃を弾き飛ばし、体当たりして桑原を粉々にする為に、さらに武装闘気を高める武威。

 

ドォォォォォン!!!!!


凄まじいまでの桑原の霊気と武威の武装闘気の源である妖気の柱が天に向かって放出された。

 

――選手たちの休憩所

 

妖気の柱を見て躯、ニヤリ。

「やはり命がけの真剣勝負とはいいものだ」

 

真剣勝負を好む躯は、腕を組んで二人の戦いを楽しそうに見ていた。

 

――メイン会場

 

「和真さん……」

 

観客席から立ち上がった雪菜は、胸の前で両手を組んで桑原の勝利を祈っていた。


「雪菜ちゃん」

 

棗は雪菜の組んだ手にそっと手を置いて、ギュッと握った。

棗の顔を見る雪菜。

 

棗、ニコリ。

 

棗は口では何も言わなかったが、優しいその笑顔は「大丈夫。彼を信じなさい」っと雪菜に言っていた。

 

「棗さん…」

 

スクリーンには命を賭けて、お互いの力を振り絞る二人の男が映し出されていた。

 

――Aブロック

 

「この次元刀が弾かれた時こそ、桑原お前が死ぬ時だァァァァァ!!!!!」

 

「俺は絶対におめーをぶった斬るぜェェェェェェ!!!!!」

 

鋼鉄の身体に付き刺さる次元刀が武威を完全に切り裂くのが先か?それとも次元刀を弾き飛ばして桑原の身体を粉々にするのが先なのか?

均衡した二人の戦い。

勝利の女神が微笑むのが果たしてどちらになるのか?

まさに緊迫した状態であった。

 


武威、ニヤリ。

「桑原!!お前は地獄というものを見た事があるか?」

 

武威が突然、桑原に問いかける。

 

「あ?地獄かよ!俺は高校受験に地獄を見たぜ!!!」

緊迫した状況の中で頓珍漢な答えを言う桑原。

 

「フッ、俺は見たぞ。この数年間の間に本当の地獄をな!!!」

 

「その地獄とやらが、てめえをそんな風に変えたのかよ!!!」

 

怒号にも似た声で武威に言い放つ。

 

「そうだ。俺は変わった。今の俺は昔とは違う。目の前に立ちはだかる者は全て破壊して殺す。それが今の俺の全てだ」

 

鋭い眼光で桑原を見る武威。

 

「てめえは自分の今の顔を鏡で見た事があっか?強い殺意と憎しみで顔が歪んでいるぜ!!!」

 

「笑止。強い殺意と憎しみこそが感情の中で最も強いものなのだ。これが俺の強さの源」

 

「そんな歪んだ感情を押し出して、てめえは一体何がしてーんだよ!!」

 

「お前に話した所でお前の頭の中では俺の考えは到底、理解する事は出来ないだろう」

 

激しい会話をしながらも二人の霊気と妖気はどんどん大きくなり放出されていた。

 

「へっ!俺はおめーの頭の中なんか理解もしたくねーけどな」

 

武威の顔が邪悪な顔となり激しく歪む。

 

「殺してやるぞォォォォォ!!人間界で平和な暮らしをしてきたであろうお前ごときに地獄を見てきた俺は倒せん!!!!!」

 

武威の殺意と憎しみという負の感情が爆発。

 

「野郎!!!」

 

ズズズ……

 

(!)

 

桑原の身体が徐々に押され出した。

 

「俺のこの身体は切り裂けん!!この身体に刺さっている次元刀が弾かれた瞬間にお前の身体は原形も残らない程に粉々になる!!」

 

「うぐぐ……。チクショー!!!」

 

徐々に追い詰められていく桑原。

 

その時だった。

 

《桑原》

 

《桑原》

 

桑原の脳に男の声で何者かが語りかけてきた。

 

(だ、誰だ!?)

 

《桑原分からないのか?》


(こ、この声は月畑!?まさか、おめーなのか!?)

 

桑原の脳に語りかけていたのは武威に殺された月畑であった。

 

《そうだ。この闘場で死んだ俺の魂がお前に語りかけている》

 

(月畑、俺はまだやられていねーぞ!呼びに来るにはまだまだ早いぞ)

 

《アホか!!相変わらず、とぼけた奴だ。今のお前は俺の仇討ちの気持と自分と大事な氷女の為に生きたいという強い気持が共存している》

 

(ああ、そうだな。特に月畑の仇討ちの気持はかなり強いぜ!おめーを殺した武威の野郎を俺は許せねーからな)

 

《俺の仇討ち等は考えなくていい。あの男の負の感情に復讐という負の感情で挑むな。巨大なあいつの負の感情に飲み込まれてしまうぞ。負の感情を捨てて、自分の為にだけその力を出せ桑原》

 

(!!)

 

月畑の言葉に驚く桑原。

 

《俺は武威に殺された事を恨みに思って、魂がここに止(とど)まっているのではない。お前に俺と同じ様に死んでもらいたくないのだ。生きてくれ、そして俺の魂を安心させてくれ》

 

(つ、月畑……)

 

《お前とは本当に短い付き合いだったのに、俺の為に本気で仇討ちを討とうとしてくれて嬉しかったぞ桑原》

 

月畑の声がここで途絶えた。

その間、時間にして僅か数秒に過ぎなかった。

それは夢か現実だったのかは分からない。 

だが、月畑の魂の言葉は確かに桑原に届いた。

 

(ありがとよ月畑。分かったぜ!!そこで俺が勝って生き残る瞬間を見てろよ!!)

 

「これで終わりだ!!砕け散れ桑原ァァァァァ!!!!!」

 

もはや武威に次元刀が弾き飛ばされるのは時間の問題であった。 

 

鋭い目で武威を見る桑原。

「終わりはてめえの方だ!!武威ィィィィィ!!!!!!」

 

復讐という負の感情を排除して、これからの未来の為に殺しに来た武威を倒して生きるという強い正の感情を爆発させた桑原。

この試合で最大となる桑原の霊気が放出される。

 

ググッ!!!

 

武威の腹部に突き刺さって全く動かなかった次元刀が動き出す。

 

(な、何!!)

 

「ダリャァァァァァ!!!!!!」

桑原の絶叫とも言える声が闘場に響き渡った。

 

ズバァァァァァァァァァァ!!!!!!!!

 

ついに桑原の次元刀が鋼鉄の武威の腹部を完全に切り裂いた。

 

「ヌォォォォォォォォォ!!!!!!」

 

プシューーー!!!

 

腹部から凄まじいまでの鮮血が飛び散る。

 

武威を完全に切り裂いた桑原は少し離れた位置から背後の武威の姿を見た。

 

(………)

 

お互いの目が合う。

 

武威、ニコリ。

「桑原…」

 

武威は何故かホッとした様な笑顔を桑原に見せた。

 

そして。

 

ズドン!!!

 

武威の身体は仰向けに倒れた。

 

「う……」

 

ドテッ

 

武威が倒れたのを見届けると力尽きる様に地面に座り込んだ桑原。

 

「や、やったぞ……」


口からそれだけを言うのが精一杯であった。

そして桑原は空を見上げる。

空には月畑の姿が見える。


月畑、ニコリ。

月畑が安心した様に微笑んだ。

そして静かにその姿が消えていく。

 

桑原、苦笑い。

「へっ!魚ヅラが笑った顔なんか初めて見たぜ」
(ありがとよ、月畑。そしてあばよ)

 

上空から審判が桑原と武威の姿を見つめる。

 

「Aブロックの第二試合は桑原選手の勝利です!!!!」

 

審判が桑原の勝利を宣言した。

 

命を賭けた激しい激戦の末に勝利を勝ち取ったのは桑原であった。

 

――メイン会場

 

雪菜、ニコリ。

「和真さん良かった……」

 

涙を流して隣にいた棗に抱きついた。

 

そして優しく雪菜の髪の毛を撫でる棗。

 

(良かったね、雪菜ちゃん)

 

――選手たちの休憩所

 

「桑原君の勝ちだ」

 

「全く、最後までヒヤヒヤさせやがってよー」

 

「あいつにしては良くやったな」

 

幽助達は桑原の勝利に安心したのであった。

 

――Aブロック

 

桑原は立ち上がり、仰向けに倒れた武威に近付いて行く。

 

「武威……」

 

倒れている武威に声をかける桑原。

 

「見事だ桑原。俺の負けだ……」

 

笑顔を見せる武威の顔から殺意と憎しみは完全に消えていたのだった

 

続く

 

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幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #101「回想と決戦(大会編)」

――選手たちの休憩所

 

「どこから話そうか……」

 

凍矢達の前で、蔵馬は武威の事を語り始めた。

 

――蔵馬の回想

 

幽助は雷禅、飛影は躯の国に赴き、修行に励んでいた頃に時は遡る。

 

幽助、飛影の後を追う形で黄泉の誘いに応じて魔界に赴いた蔵馬だったが、当時の蔵馬はまだ黄泉の国のNo.2にはなってはおらず、黄泉の国のNo.2は軍事総長の鯱という妖怪だった。

この時の蔵馬の立場は黄泉の参謀の様な立場。

巨大な妖力を持つ雷禅と躯と黄泉の三国の国王。

三国は互いに牽制しあって均衡していた。 

だが、長年に渡る三国の均衡が崩れようとしていた。

雷禅がおよそ1000年もの間、エネルギーの源である人間を食べるのを絶っている為、もうすぐ死を迎えるのだ。

蔵馬は雷禅が死んでしまう事で魔界の均衡が崩れてしまう事を恐れていた。

魔界の均衡の為に蔵馬の内に秘めた策を実施する為に、ある行動を起こし始めていたのだった。

 

――人間界のとある喫茶店


一人の青年が喫茶店に入って来た。

 

「待たせたな蔵馬。久しぶりじゃな」

青年は人間の姿になったコエンマである。

 

「ええ」

 

蔵馬は喫茶店にコエンマを呼び出していた。

霊界にある頼み事をする為に。

 

「コエンマ、忙しい所をすみません」 

 

コエンマ、ニコリ。

「気にするな。今は特に忙しいという訳でもないしな」

 

「職務の方には戻られたのですか?」

 

仙水忍との魔界の扉を巡る戦いの中、魔族へと覚醒した浦飯幽助を危険な者として抹殺を特防隊に指示したコエンマの父・エンマ。

コエンマはその指示に逆らって幽助をかばった。

その為に表面上の咎めはなかったものの、一時的ではあるが職務から外されていた。

 

「うむ。先日、復帰したぞ」

 

「そうですか。意外と早く職務に復帰出来ましたね」

 

「まあな。忍の事件以来、霊界で問題視されていた幽助、それに力をつけてきたお前と飛影が魔界に行った事がワシの早期の復帰に繋がったのだがな」


やれやれといった顔をするコエンマ。

 

「そうかもしれませんね」

 

「それで、ワシに用とは何なのだ?」

 

「コエンマに一つ頼みがあるんですよ。霊界の情報網で、ある妖怪達を探してもらいたいんです」

蔵馬は真剣な顔で本題を切り出した。

 

「妖怪?霊界の情報網なら捜すのは簡単ではあるが、何の為にだ?」

 

「訳は後で話しますよ。この紙に書かれた者達の居場所を調べて欲しいんですよ」

 

スッ

 

そう言うと蔵馬は一枚の紙をコエンマに差し出した。

その紙には八匹の妖怪の名前が記載されていた。

 

・鈴駒
・酎
・陣
・凍矢
・吏将
・鈴木
・死々若丸
・武威

 

コエンマは紙に書かれていた名前に驚いた。

 

「これは暗黒武術会でお前達が闘った者達の名前ではないか?」

 

「ええ」

 

コエンマは真面目な顔で蔵馬に問いかける。

 

「蔵馬、お前は一体何を企んでおる?」

 

蔵馬、ニコリ。

「それは企業秘密です」

笑顔で答える蔵馬。

 

「おいおい………」


蔵馬の答えに困った顔をするコエンマ。

 

「フフ、いずれお話ししますよ」

 

「……まあ良かろう」

 

蔵馬の表情から何か深い考えがある事を察したコエンマはこれ以上聞くことを止めた。 

 

「すみませんコエンマ。宜しく頼みます」 

 

蔵馬の頼みを受けたコエンマは直ぐに霊界の情報網を使って捜索を開始。

八匹の妖怪の居場所は直ぐに見つかった。

蔵馬は霊界の情報網によって見つかった彼等を訪ねてまわったのだった。

蔵馬は訪ねた彼等に今は亡き幻海の元での修行を誘った。

誘いにのった彼等はコエンマの協力を得て、幻海の元で修行を開始したのだった。

この蔵馬の誘いを受けたのは八匹の内の六匹。

それは鈴駒・酎・陣・凍矢・鈴木・死々若丸であった。

このメンバーの中では、死々若丸が浦飯チームに対して悪態をついてはいたが、彼は鈴木に強引に連れて来られてしぶしぶ参加。

その他のメンバーは基本的に暗黒武術会で対戦した浦飯チームのメンバーに好意的であった為に、すんなりとOKを出した。

そして蔵馬は期限を設けて妖力値が100000Pを超える者を六匹連れて来ると黄泉と約束したのだった。

それはあくまで表向き。

蔵馬は雷禅の死後に、最悪の場合はその六匹と共に自身が第三勢力として立つ事も視野に入れていた。

魔界の均衡の為に。

蔵馬の誘いに応じなかったのは吏将と武威。

吏将はそのプライドの高さと性格の悪さによって、仲間である凍矢と陣の説得も虚しく、蔵馬の誘いには応じる事はなかった。

そして武威。

リストアップした八匹の妖怪の中で蔵馬が真っ先に訪ねた男はこの武威であった。 

彼もまた蔵馬の誘いには応じなかった……。

 

――とある田舎の山奥

 

コエンマから武威の居場所を聞いた蔵馬は、武威がいるという山を訪れていた。

地元の者でさえ殆ど近付く者がいないという不気味で深く険しい山。

その山の中に暗黒武術会で戸愚呂(弟)の死後、その行方が分からなくなっていた武威がいたのだ。

 

「随分と険しい山だ。こんな場所に武威がいるとはな」

 

険しい道を少しずつ進んで行くと一つの大きな洞窟があった。

 

「ここか……」

 

薄暗い洞窟の中に入ろうとしたその時。

 

「誰だ!」

 

シュルルルルル!!!!!


背後から男の声が聞こえると、同時に小型の斧が蔵馬めがけて飛んで来たのだ。

 

(!!)

 

蔵馬は咄嗟に斧をかわした。

 

シュルルルルル!!!!

 

パシッ

 

投げた者の手元に戻る斧。

斧を投げた者は武威であった。

武威に近付く蔵馬。

 

「久しぶりだな武威」


「お、お前は!?」

 

予想外の訪問者に驚く武威。

 

「……何の用だ蔵馬?それ以前によく俺の居場所が分かったな」

 

「まあね。それより武威、お前に話しがある」

 

蔵馬は本題を直ぐに切り出して武威に話したのだった。

蔵馬の話しを一通り聞き終えた武威は口を開く。

 

「あの幻海が生きていたとはな。暗黒武術会の決勝の前に戸愚呂(弟)が殺したものだと思っていたぞ」


「ああ、幻海師範は戸愚呂(弟)によって一度は殺されたよ。忘れたのか武威?暗黒武術会では優勝者の願いが叶うという事を」

 

「なるほど、生き帰らせたという事か。昔、戸愚呂兄弟が人間から妖怪に転生したように、あの大会は優勝者は願いが叶うのだったな。左京達、大会の運営者達が死んだから不可能だと思っていたぞ」

 

蔵馬、ニコリ。

「俺や幽助達も驚いたよ。帰りの船に乗ろうとしたら、死んだはずの幻海師範が現れたのだからな」 


「話しがそれてしまったな。お前からの誘いだが……」

 

武威の声のトーンが変化したのを蔵馬は聞き逃さなかった。

 

「ああ」

 

「悪いが断る」

 

蔵馬は正直誘いを断られるとは思っていなかった。

 

「何故?」

 

断る理由を問う。

 

「俺は自分の限界を知っている。これ以上は修行をした所で無駄だ」

 

「武威、お前は自分自身で限界の壁を作ってしまっている」

 

蔵馬の言葉に笑みを浮かべる武威。

 

「他に理由を付け加えるなら、俺は目標としていた戸愚呂(弟)を超える事はおろか、お前の仲間の飛影にも敗れてしまったのだ。本当に俺が倒したかった戸愚呂が死んだ今、もはや戦う事には未練はない」

 

「武威……」

 

武威は暗黒武術会の決勝戦の第二試合で飛影に敗北。

戸愚呂(弟)以外の者によって敗北した事、そして武威自身が目標として、その命すらも狙っていた戸愚呂(弟)の死。

敗北のショックと目標を失った武威は既に蔵馬が暗黒武術会で見たあの武威ではなかったのだ。

まるで戦う事自体を拒否するような目をしていた。

 

「戸愚呂(弟)は死んだんだ。いつまでもその幻影を追いかける事は無意味だぞ武威」

蔵馬は武威の説得を何度も試みた。

 

死んだ者を追いかける無意味さ、そして魔界には戸愚呂を超える妖怪がいくらでもいる事も説いた。

だが、武威は決して首を縦に振る事はなかった。

 

「蔵馬、俺はここで静かに暮らす。もう帰ってくれ」

 

「……分かった。今日の所は帰るよ。また明日も来る」

 

(………)

武威は蔵馬の言葉に何も答えなかった。

 

その日は大人しく帰った蔵馬は武威に言った通り、翌日も武威の所に赴いたのであった。

だが、武威は既に住んでいた洞窟から姿を完全に消していた。

 

――蔵馬の回想終わり

 

「俺の話はここまでだ。その後、再びコエンマに武威の行方を探して貰ったが、彼の行方は全く分からなくなった」 

話しを終えた蔵馬。

話しを聞いていた者達の中で最初に口を開いたのは凍矢であった。

 

「それで姿を完全にくらました武威の奴は、この大会に突然現れたという事か?」

 

「ああ」

 

近くで話を聞いていた死々若丸が話しに加わる。

「戦う事を止めた武威は何がきっかけで再び動き出し、あれだけの力を付けたのか」

 

「あの妖気は並大抵の修行では身につく者ではない」

 

「姿を消して三年以上の空白の時間の中に武威に動き出す何か大きなきっかけがあった事は間違いない」 

 

「一回戦の相手を殺した時、そしてあの失敗ヅラ(桑原)に向けている殺気は凄まじいものだ」

 

「何が武威を変えたのか……」

 

飛影の脳裏に魔界での武威との出来事が浮かぶ。

 

「あの強さだけなら御堂の力が大きいだろうな」

 

「御堂??」

 

飛影が魔界での出来事についてここにいる皆に語った。

そして話しを聞き終えて、蔵馬が最初に口を開いた。

 

「御堂か。噂は聞いた事がある。試練を乗り越えた者に、望む能力を与えられる者」

 

「御堂から聞いた。あいつは試練を受けて、力を得た。だが、完全に成功したわけではなかったのだ」

 

桑原の試合の様子を見ながら話しを聞いていた幽助が声を上げた。

 

「話しはそこまでだ。おめーら試合を見てみろ!どうやらあいつら勝負を決めるみてーだ」

 

スクリーンには時雨の技の構えをしている桑原と武装闘気をフルパワーにした事によって身体を鋼鉄化した武威の姿が映し出されていた。

 

「武威の身体が変化しているぜ。そのせいか知らねーが、妖気がまた馬鹿出かくなってやがる」

 

「桑原君のあの構えは!?」

 

「時雨の技だ」

 

――Aブロック

 

「一回戦で見せたあの技か。俺には通用せんぞ」


「武威、それはやってみねーと分からねーぞ!」


「分かるさ」

 

互いに構える二人。

 

「俺のこの身体はお前の技を弾く。お前の全てを粉々に打ち砕く」

 

先に動いたのは武威であった。

 

ズンズンズン

 

武威は桑原に向かって突進した。

その身体で体当たりして桑原を粉々に砕く為に。

 

「ウォォォォォ!!!」

 

ブォォォォォ!!!

 

武威の身体から凄まじいまでの武装闘気が放出される。

 

(…………)

 

向かって来る武威を見つめながら桑原は狙いを一点に集中する。

 

「行くぜ武威!!最後の勝負だ」

 

ドーーーン!!!!!

 

桑原は突進して来る武威に向かって、ついに時雨の技を発動させた。

 

――メイン会場

 

「和真さん!!」

観客席から思わず立ち上がる雪菜。

 

棗も戦いを見入っている。

「これで勝負が決まる」

 

――選手たちの休憩所

 

「桑原ァァァァ!!」


「桑原君!!」

 

――Aブロック

 

「オリャァァァァァ!!!!!」

 

「フルパワーァァァァァ!!!!!」

 

武威は桑原を殺す為に。

 

桑原は月畑の仇討ちと自分と愛する雪菜との未来の為に、自分を殺しに来ている武威を倒して生き残らねばならない。

 

それぞれの想いを胸にお互いの最強の技がついにぶつかる。

 

続く

 

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幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #099「あいつは俺が倒す(大会編)」

――魔界統一トーナメントのDブロックの二回戦・第二試合

 

梟(ふくろう)
×
鈴木(すずき) 

 

――選手たちの休憩所

 

梟の肢体爆弾によって起こった大爆発の映像がスクリーンに映し出される。

 

飛影の顔が厳しい。

(あの野郎の今の妖気はこの俺に迫るものを感じたぞ)

 

凍矢も飛影と同じく厳しい顔をしている。

「蔵馬、鈴木は大丈夫だろうか?」

 

「鈴木は今の攻撃をまともに受けたはずだ。無事だったとしてもこれ以上の戦闘はおそらく…」

蔵馬は険しい表情でスクリーンを見つめる。

 

――Dブロック

 

梟の肢体爆弾による大規模な大爆発が起きたDブロック。

辺り一面が爆発によって酷く焼けて地形も大きく変わっていた。

それは梟の起こした爆発の大きさを物語る。

立ち込める砂煙の中で、梟の変化していた髪の色がゆっくりと元に戻っていく。

梟の視線の先には、鈴木が仰向けに倒れていた。

 

梟、ニヤリ。

「ククク、手応えはあったぞ」

 

肢体爆弾をまともにその身体に受けた鈴木は、全身に大きな傷を負って瀕死の状態となっていた。

 

「うぐぐ……」

 

「あの一撃を受けて粉々にならずによく生きていたな。それがお前の強さの証なのだろうが」

 

「クソォォ……」

 

「私の肢体爆弾をその闇アイテムで使える様になったとしても、その様ではもはや私とは戦えない筈だ」

 

「……さっきのお前の一撃は爆発的に妖気が上がった。俺がかわせない程にな。鴉の姿と技、そして再生能力……、お前は俺が知っているあの鴉ではないな……。一体何者だ!?」

 

梟に問いかけながら苦しそうに上半身を起こす鈴木。


スッ

 

梟は軽く手を前に突き出した。

 

「フッ、私の名は梟だ。鴉ではない」

 

梟の瞳が妖しく光る。

 

(!!)

 

ボン!!!

 

鈴木の胸部が爆発した。

 

「ぐわァァァァ!!!!!!」

 

ドサッ

 

トドメともいえる一撃で鈴木は力尽きた。

梟は上空を見上げる。

 

天海は上空から鈴木の様子を確認。 

 

「Dブロックの第二試合は鈴木選手の戦闘不能と見なして梟選手の勝利です!!!」

 

天海は梟の勝利を宣言した。

 

「ククク!!ハッハハハハ!!!!」

梟の高笑いが闘場に響き渡った。

 

鈴木の敗北によって三回戦の第一試合は蔵馬と梟の対戦が確定となった。

 

――選手たちの休憩所

 

休憩場にあるスクリーンに映し出されているDブロック。

蔵馬はその闘場の二つの光景を深く目に焼きつけていた。

梟によって倒された鈴木の変わり果てた姿。

そして変わり果てた鈴木の姿を見ながら高笑いしている梟の姿。

隣にいた凍矢は蔵馬の表情を見た。

 

ゾクッ

 

凍矢は一瞬だが背筋が凍る様な感覚に陥る。

 

「蔵馬…」

 

勝負は既についている状態にも関わらず、瀕死の鈴木に対して非道ともいえる一撃。

蔵馬は梟に対して強い殺気を放ち始めた。

そして蔵馬は静かに呟く。


「あいつは俺が倒す」


――メイン会場

 

「あ~あ、いい男がすっかりぼろぼろになっちゃって」

 

皐月は残念そうな顔をする。

 

イチガキ、ニヤリ。

「ヒョヒョヒョ。あの梟は実験体とはいえ、ワシの研究の集大成ともいえる作品。見事な勝利じゃわい」

 

「あれだけの強さを持っている梟ならば、樹の計画が順調にいけば、これから復活する事になる“彼”のいい手駒になりそう。見事な仕事だよイチガキ」 

 

「ヒョヒョ、枯れかけたワシの夢を叶える機会と、闇撫の不思議な力による技術力を与えてくれた、樹と皐月には感謝しておるぞ」

 

イチガキの濁りきったその目は大きな野望を持つ男の目に変わっていた。 

 

「フフ、貴方の本当の役目はこれからなのだから、樹も私も期待してるよ」


ズズズ……

 

皐月はそう言うと再び空間の中に入ろうとする。 

 

「行くのかね?」


「ええ。今から樹の策の手伝いにね。沢山の血が見れそうよ」

 

「今度は何を企んでいるのかは知らないが、相変わらずご苦労な事じゃな」

 

「フフッ、ある世界を滅ぼしてくるのよ」

 

フッ

 

不気味な言葉を残して皐月は空間の中に消えていった。

イチガキは皐月の消えた後を見ながら心の中で呟く。


(ヒョヒョ、いずれお前達はワシにとっては邪魔な存在になる。いつまでも大人しく従っておるワシではないぞ。最後に勝つのはこの天才Dr.イチガキ様じゃよ)

 

――Dブロック

 

天海は全く動かなくなった鈴木の側に行って様子を見る。

 

「死んだ?いや、微かに息をしているわ」

 

天海は直ぐに救護班に連絡を入れた。

暫くすると瑠架を含んだ救護班と一緒に鈴木を慕う樹里が闘場に現れた。 

 

「鈴木!!鈴木!!」

必死に鈴木の名前を何度も呼び続ける樹里。

 

だが樹里の必死の呼びかけに鈴木は応えなかった。

鈴木は意識がなくてグッタリとしていた。

生きているのが不思議な状態であった。

 

「瑠架さんお願い!鈴木を助けて」

必死で訴えかける樹里。


瑠架、ニコリ。

「大丈夫よ樹里。鈴木の事は私に任せて」

 

瑠架は今にも泣きそうな顔の樹里に優しい笑みを浮かべて安心させる。

 

「樹里、貴方も心配でしょう?一緒についてきなさい」

 

「いいの?」

心配そうな顔で問いかける樹里。

 

「もちろんよ。これは小兎も了承済みだから大会の方は任せて大丈夫よ」 


樹里、ニコリ。

「ありがとう」

 

瑠架の言葉に笑顔を見せる。

樹里は救護室に向かって運ばれて行く鈴木に付き添う事にした。

鈴木はこの後、瑠架達の軒目な治療と樹里の手厚い看護により無事に一命を取り止めたのだった。

これがきっかけとなって後に鈴木と樹里は結ばれる事になるのだが、これはまた別の話しとなるのでここまでにしておこう。 

 

――霊界

 

蔵馬と電鳳が激闘を繰り広げていた頃に時は遡る。

幽助に頼まれてから比羅達の事を調べていた霊界のコエンマ達。

ぼたんはコエンマの推測から、樹が比羅達の協力者として関与しているかも知れない事と、見つかった資料から比羅達の事で分かった事を、通信機を通じて幽助に伝えようとしていたが、肝心の幽助と連絡を取ることが出来なかった。

 

「駄目だ~。幽助の奴、絶対に通信機を忘れているよ」

 

ハァーッとぼたんは大きな溜息。

 

ガチャッ

 

ぼたんのいる部屋にコエンマが入って来た。

 

「ぼたん、幽助とはやはり連絡がとれないか?」

 

「はい、駄目です」


「やれやれだ。幽助に連絡が伝わらんのなら直接あいつに伝えるしかないのう……」

 

通信機を見ていたぼたんはコエンマに視線を移した。


(!)

 

コエンマの姿を見て驚く。


「ぼたん、何をそんなに驚いているんだ?」


コエンマの姿は人間界バージョンになっていた。

 

「だってその姿は人間界バージョンじゃあないですか!コエンマ様、そんな格好で一体どちらへ?」


「魔界だ。どうしても嫌な予感がしてならん。この予感が何か分からんが、万が一の自体に備えて桑原を霊界の方で保護しておこうと思ってな」

 

「コエンマ様お一人で魔界に行くのですか?」

 

「いや、護衛も兼ねて、特防隊の舜潤と草雷と才頭を連れて行く。行ったついでに魔界の王が誰になるのかも見届けようとも思っておるがな」

 

舜潤は特防隊の現在の隊長。

草雷は女性の隊員。

才頭は坊主頭の隊員である。

 

「コエンマ様、あたしもたまには一緒に連れて行って下さいよ~」

 

「な、何!?お前も一緒に来るのか?」

 

ぼたんは目をうるうるさせて頼み込む。

 

「ぼ、ぼたん気色悪い顔をするな」

 

ぼたんのうるうる顔を見て、嫌な顔をするコエンマ。

 

「コエンマ様、お願いしますよ~」

ぼたんは不気味な程にさらに目をうるうるする。

 

「うう~む。ま、まあ、霊界にはあやめがいるから良かろう」

コエンマはしぶしぶ承諾したのだった。

 

「やった~!!ありがとうございますコエンマ様ァァァ!!!」

 

両手を上に挙げて大喜び。


「さてと行くなら直ぐに準備するんだ。お前の準備が出来しだい出発するぞ。今から行けば大会の終盤には間に合うだろうからな」


「あいあいさ」

ぼたんは急いで準備に取りかかり始めた。

 

(もし関与しているのがワシの推測通り、本当に樹だとしたらあいつの目的は一体何だ?)

 

コエンマは昔から樹の事を良く知っているだけに、妖気の強さを超える樹の底のしれない力を警戒していたのだった。 

それから暫くしてコエンマとぼたん、特防隊の三人は魔界に向かって旅立った。

コエンマは自身が感じた嫌な予感が間もなくこの霊界で起こる事になるとはまだ知るよしもなかった。

それが全ての世界を巻き込む壮絶な戦いの幕開けとなるのである。

 

続く

 

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幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #097「鈴木の最高傑作(大会編)」

――魔界統一トーナメントのDブロックの二回戦・第二試合

 

武威(ぶい)
×
桑原(くわばら) 

 

――Aブロック

 

雪菜の念信による愛の告白によって、秘められていた力を発揮して、桑原は急激に霊気が強くなった。

今の桑原には、武威に対する恐怖はない。

むしろ自信に満ち溢れていた。

 

ブォォォォォ!!!!!

 

愛の力?によるその強くなった霊気を放出。

闘場が激しく揺れた。

 

「さっきまでのお返しだ!行くぜ武威」

 

ズキューーン!!

 

急激な霊力の増加により、速度か遥かに増した桑原は、高速で武威に向かっていく。

 

武威は仁王立ちで待ち構える。

 

(これが桑原か?スピードもさっきまでとはまるで違う)

 

桑原の右手には次元刀が作り出されていた。

 

(防御不可能の次元刀。あれは確実に避けなければな)

 

ビューー!!!!!

 

次元刀で武威を斬りつける。

武威は左に素早く避けて攻撃をかわした。

 

「ウラァァァァァ!!!」

 

ビューン!!!

 

桑原は武威に避けられるのを察知していたかの様な動き

左に避けた武威の顔面を左手で殴りつけた。

 

バキッ!!!

 

(何だと……!?)

 

ザザザ

 

殴りつけられて後ずさる武威。

 

武威の全身から放出されている武装闘気は、武威の身体を目に見えない鎧として守っている。

その為にある程度の攻撃を防ぐ事が出来る。 

試しの剣による霊剣の強化版と防御不可能の次元刀以外では傷をつけることが出来るとは武威は思っていなかった。

まず、試しの剣は武威により破壊されてしまった。

その為、この状態では武威の身体を傷つける事が出来るのは、次元刀だけだと完全に思っていた武威は、素手で殴られた事にかなり驚いたのだった。

 

(武装闘気に守られている俺を素手で殴ってきたか。想像以上に霊力が上がってきている)

 

「どんどん行くぜ!」


直ぐに次の攻撃に移る為に武威に向かっていく。

 

武威、ニヤリ。

「これは本当に楽しい戦いになってきたぞ!!」


実力の差が縮まり、戦いの行方がこれからどうなるか分からなくなった桑原と武威。

両者の霊気と妖気の激しいぶつかりあいが始まった。


――選手たちの休憩所

 

「スゲーぞ桑原!!何があったか分かんねーが、あれだけの霊気なら武威と戦えるぞ!」 

 

危機的状況から脱出して、さらに武威とほぼ互角に戦えるぐらいに一気に強くなった桑原に少し興奮気味の幽助。

 

「でも本当に後一歩で桑原を助けに行くつもりだったからな。これでとりあえずは安心したぜ。な、飛影?」

 

(………)

 

飛影は幽助の言葉に黙ったままでいた。

何故か機嫌が悪い。

 

「うん?飛影は嬉しくねーのかよ?おめーが俺より先に桑原を助けに行こうとしていたくせに」

 

「フン、俺があの馬鹿を助けるか」

 

「へっ、よく言うぜ。武威に対してどんどん殺気を強くしていたくせに」

 

「知らないぞ」

あくまでしらを切る。


「まあいいけどよ。それで、急に恐い顔してどうしたんだ飛影?」

 

「理由は分からん。桑原の霊気が急に上がった時、スクリーンに映るあいつの顔を見てから胸の辺りが急にムカムカしてきたのだ」

 

それは雪菜の双子の兄としての直感である。

 

「何だよそれは?」

 

飛影の答えに不思議そうな顔をする。

 

(何故か嫌な予感がする。桑原が生きて戻って来たらあの馬鹿を問いつめねば)

心の中で密かに誓ったのだった。 

 

(理由は分からないが桑原君の霊力が上がった。今の桑原君なら武威と互角に戦えるはずだ。これでひとまずは安心だ)

 

蔵馬は桑原の今の状態に少し安心した顔を見せると、スクリーンに映し出されているDブロックに今度は目を移した。

Aブロックとはうって変わって険しい表情でスクリーンを見つめる。

 

「鈴木……」

 

スクリーンに映し出されているDブロックの映像では、梟の追跡爆弾の大爆発によって起った爆風による凄まじいまでの砂煙により、鈴木がどんな状態になっているのかは全く分からない状況であった。

 

「蔵馬」

Dブロックを険しい表情で見つめる蔵馬の視線に気付いた幽助が話しかける。

 

「何だ幽助?」

 

「さっきのあの爆発は凄かったけど鈴木はあの程度の攻撃では倒されないと思うぜ」

 

「ああ、そうだな。だがあの攻撃ではっきりした。あいつは鴉だ」

 

「だな」

 

幽助と蔵馬はDブロックを再び見たのだった。

 

――Dブロック

 

砂煙の中にいる梟は周囲を見渡す。

 

「少しやり過ぎたか。肉片の一つでも残っていたらいいが」

 

暫くすると徐々に砂煙が晴れてきた。

そこには鈴木の姿がなかった。

 

「あの足の傷では追跡爆弾をかわせまい。少々やり過ぎたようだ。肉片すら残さず吹き飛ばしてしまったみたいだからな」

 

梟が勝利を確信して気を少し緩めたその時。

 

魔笛散弾射」

 

ヒュー!ヒュー!ヒュー!


氷の塊が上空から地上にいる梟をめがけて飛んできた。

それは鈴木の技ではなく凍矢の技である魔笛散弾射であった。

 

「何!?」

 

突然の上空からの攻撃に驚く梟。

 

バッ!!

 

梟は素早くジャンプして大量に降りそそがれた氷の塊をかわした。

 

ズガガガガガ!!!!!!


氷の塊は誰もいない地面を直撃した。 

梟は地面に着地すると同時に上空を見上げる。

 

――Dブロックの上空

 

「かわされてしまったな。残念だぜ」

 

上空から攻撃してきたのは鈴木であった。

 

梟の追跡爆弾をまともに受けたと思われた鈴木は上空に逃れていた。

しかも陣の様に風を操って宙に身体が浮いていたのだ。

だが完全にはかわしきれなかった。

爆撃を受けたような傷が身体にあった。


「フッ、今の俺の姿を見たら一緒に修行をした連中と酎と鈴駒以外は驚いているだろうな」

 

――選手たちの休憩所

 

「鈴木!!」

 

蔵馬はスクリーンに映し出された空中に浮いている鈴木の姿に驚いた。

 

「おいおいマジかよ」


(…………!?)

 

幽助と飛影も蔵馬同様に驚く。

 

(さっきの鈴木の攻撃は間違いなく凍矢の魔笛散弾射だったぞ。しかも今度は陣の様に風を操り空中に浮いている) 

 

陣、ニコリ。

「鈴木の奴は無事だったみたいだぞー」

 

死々若丸も陣の隣で笑顔。

「全く驚かせてやがって」

 

凍矢は苦笑い。

「あいつめ、俺の技を早速使ってきたな」

 

陣の顔がワクワクしていた。

「いよいよ、あの反則的な秘密兵器が出て来たぞ」


――Dブロック

 

鈴木「フフフ、驚いたか?これが俺の発明した作品だ!!」

 

スッ

 

鈴木は地上にいる梟に見せつけるように右腕を前に出した。

 

キラーン

 

その右腕には青く光る腕輪がつけられていた。

 

――選手たちの休憩所

 

驚いている蔵馬たちの側に凍矢がやって来た。

 

「お前達は流石に驚いているようだな」

 

「凍矢」

 

「あれは少し前に鈴木が作り出したアイテムだ。あいつの右腕に腕輪がついているだろう」

 

「あの青い腕輪だな」


「そうだ」

 

「さっきのあの鈴木の技は、お前の魔笛散弾射ではないのか?それに陣の様に風を操っているように見えるが、一体これはどういう事なんだ凍矢?」

蔵馬は感じた疑問を凍矢に問いかけた。

幽助と飛影も興味深そうに話しを聞いている。


「あの闇アイテムは…………」

 

凍矢は蔵馬に鈴木の闇アイテムについて語り始めた。


――Dブロックの地上

 

「生きていたか」

 

フッ

 

梟の目の前には追跡爆弾が再び姿を現した。

 

「行け、追跡爆弾」

 

《ギース》

 

追跡爆弾は先程と同じく不気味な鳴き声を上げて向かっていく。

 

――Dブロックの上空

 

「さっきの爆弾か。もう通じないぜ!一発程、身体に受けたからな」

 

ギュウウウウウ!!!

 

鈴木は陣の様に風を操り追跡爆弾に向かっていく。

 

「その攻撃が無駄だということを見せてやる」

 

ピカーーー!!!

 

鈴木の右腕に装着された青い腕輪は輝き始める。

そして眩い光りを放出した。

 

――選手たちの休憩所

 

「何だ!?スゲー光だぞ」

 

「何が起こっているのか分からない」

 

スクリーンに映し出されているDブロックは、鈴木の腕輪が放ち出した光によって、闘場の様子がどんなっているのかが全く分からない状態であった。

 

凍矢、ニヤリ。

「あの男が放った爆弾はこれで破壊される」

 

幽助、苦笑い。

「凍矢に話しを聞いた限りでは結構、反則だよな」 

 

――Dブロックの地上

 

腕輪から放出された光に、上空では何が起こっているのか分からなかった。


「何だこの光は……」

 

ドカァァァァァン!!!!!!!

 

光の中で大きな爆発音が辺り一面に響き渡る。

 

「追跡爆弾があいつに直撃したのか?」

 

その瞬間、爆発で音が一瞬の間かき消されていた。

 

ギュウウウウウ!!!!!


その一瞬の間に鈴木が風を操り梟に近付いて来たのだ。

 

「くらえー!!お前の技だ」

 

フッ

 

梟が先程、鈴木に放った追跡爆弾がその姿を現した。


《ギース》

 

梟が作り出した追跡爆弾と同じ様に不気味な鳴き声を上げると梟に遅いかかる。


(これは追跡爆弾!!)

 

――選手たちの休憩所

 

スクリーンに映し出されている梟に向かって凍矢が話しかけるように解説。

 

「鈴木自身が最高傑作と呼ぶあのアイテムは、一度受けた技を自分の物にすると同時に、その技を全て無効化させる光を放つ。さっきの奇襲の逆襲をされるのはお前だ鴉」

 

蔵馬は鈴木の闇アイテムに感心していた。

(まさか陣に凍矢、死々若丸。一緒に修行した三人の技が使えるとはな) 

 

――Dブロック

 

「もらった!」

 

「チッ」

梟は舌打ち。

相殺する為に追跡爆弾を作り出す。

 

《ギース》

 

梟の追跡爆弾も不気味な鳴き声を上げると鈴木の追跡爆弾に向かっていく。

鈴木の追跡爆弾を相殺する為に。

 

バッ

 

そして素早くジャンプして梟はその場を離れた。

離れたと同時にぶつかりあう追跡爆弾。

 

カーーー!!!!!

 

ドォォォォォン!!!!!


ぶつかり爆発を起こして消滅した。

 

「逃がさないぞ!!」

 

ギュウウウウウ

 

鈴木は風を操りジャンプした梟に向かっていく。

 

「受けてみろ」

 

空中で無意味なポーズを鈴木は決めた。

 

「ニューレインボーサイクロン!!!」

 

ドギュウウウ!!!!!

 

波長を変えた七色の妖気を放出して梟に向かって放つ。

 

(面白い。受けてやる)

 

ブォォォォォ!!!!!

 

空中で妖気を集中して高める。

 

「ハッ」

 

梟は両手を前に突き出す。


ピカーー!!!!!

 

梟の身体が光り始める。

 

(何!?)

 

ドガァァァァァン!!!!


七色に放出した鈴木の攻撃は、梟の身体に直撃する寸前に爆撃されて消滅させられた。

地面に何事も無かった様に着地する梟。

 

ギュウウウウウ!!!!!


「ハァァァァァ!!!!!」

 

鈴木は風を操り着地した梟に向かっていった。

 

――メイン会場

 

観客席の最上段の目立たない位置で鈴木と梟の試合を見ている者がいた。

その男は小柄の妖怪。

不気味な容姿に医者が着ているような白衣を着ていた。

 

「ヒョヒョ、中々上出来だぞ梟」

男は薄気味の悪い笑みを浮かべた。

 

続く

 

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幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #096「雪菜の想い(大会編)」

――魔界統一トーナメントのDブロックの二回戦・第二試合

 

梟(ふくろう)
×
鈴木(すずき) 

 

――Dブロック

 

上空から天海が両者を見つめる。

 

「始め」

 

海の声が闘場に響き渡る。

 

――選手たちの休憩所

 

陣がスクリーンに映る梟を観た。

「なあ凍矢、あれはどっからどう見ても鴉だよなー?」

 

「ああ。あの姿形は鴉だ」

 

鈴木の試合を見ている凍矢たちもスクリーンに映し出されている梟の姿が鴉と瓜二つだと気付いた。

そしてDブロックの試合開始の合図が聞こえてくると蔵馬も桑原の事が気になりつつも鈴木と梟の試合に目を移していた。

 

(いよいよ始まるのか)


――Dブロック


鈴木、ニヤリ。

「お前には今大会で初披露となる俺の作り上げた最高傑作を見せてやる」

 

ゴソゴソゴソ

 

鈴木は腰にぶら下げている道具袋から何かを探し始める。

 

ズズズ……

 

鈴木の足下の土が何やら動き出した。 

 

バクッ

 

「な、何だ?」

 

足下に異変を感じる。

何者かが鈴木の足を捕まえたのだ。

鈴木の足を捕まえているのは爪のような生物。

その身体から細い一本の触手のようなものが少しずつ伸びてくる。

 

《キキキ》

 

触手は不気味な鳴き声を発して大きな目を開いた。

開いた目は不気味な一つ目。 

 

「こいつは!?」

 

《捕まえた》

 

カーーー!!!!

 

ボムッ!!!!

 

生物の身体が光るとその場で爆発した。

鈴木の右足が吹き飛ぶ。

 

「ぐわァァァァァ!!!!」

 

ドシャッ

 

鈴木は右足を吹き飛ばされた衝撃でその場に倒れた。


「クソッ!いきなりとは。油断した……」

 

鈴木の右足からは大量の出血。

 

「ハッ」

 

フッ

 

梟の声と同時に複数の羽の生えた丸い爆弾の形をした生物が姿を現した。

 

メキメキメキ

 

ギョロ

 

生物は瞑っていた目を開く。

 

「追跡爆弾(トレースアイ)」

 

《ギーース》

 

梟の作り出した爆弾の生物が不気味な鳴き声を上げると、足を吹き飛ばされて苦しむ鈴木に向かっていく。

 

「トドメだ」

 

「何!!!」

 

カーーー!!!!!

 

複数の爆弾の生物は鈴木の側に来ると一斉に身体を光らせた。

 

(!!)

 

ドガァァァァァァァァァァン!!!!!!!!!!!


鈴木のいた場所は梟の放った爆弾の生物により大爆発を起こした。

その爆弾の爆発の威力は、かって蔵馬が暗黒武術会の決勝で鴉が使用した地下爆弾と追跡爆弾と比べても桁違いに上がっていたのだった。

 

――選手たちの休憩所

 

スクリーンに映る光景に蔵馬は言葉を失う。

(…………!)

 

死々若丸が叫ぶ。

「す、鈴木!!」


Dブロックの二回戦の第二試合は、試合開始早々に衝撃的な幕開けとなった。

 

――Aブロック

 

鈴木と梟との試合が始まった同時刻。

岩壁から出てきた桑原は次元刀を武威に向けて構える。

 

「殺られてたまるかよ」

 

苦しい表情を浮かべながらも桑原は真剣な目で武威を見る。

 

「いい目をしている。勝負を諦めた目ではないな。さっきの様に俺を恐れている感じではなくなった」

 

(悔しいがさっきの俺はあいつの妖気にびびっていた。でもびびっていたって何もならねー!武威は俺を殺しにきている。こいつを倒さねーと月畑の仇討ちどころか俺の未来はねー)


「久しぶりに俺は抑えていた力を開放したのだ。そう簡単に終わらせはしない。戦いを楽しませてもらうぞ。直ぐに死ぬなよ桑原」

 

桑原、ニヤリ。

「へっ!俺は死ぬつもりはねーぞ。この桑原様はてめえをぶち倒すのだからな」

 

「そうか」

 

フッ

 

武威の姿が目の前から消え去る。

 

(何処だ!!)

 

必死に武威の妖気を辿って探す。

 

フッ

 

武威は桑原の背後に姿を現した。

 

「クソッ!!」

 

桑原の耳元で武威は囁く。


「今の俺の前ではお前は無力だ」

 

ガシッ

 

桑原の頭を掴む。

 

ズガガガガガン!!!!!


武威は桑原の顔面を地面に思いっきり叩きつけた。

 

「……うぐぐ」

 

「こんなものでは終わらんぞ」

 

ガシッ

 

左手一本で倒れていた桑原の頭を掴むと、その力で軽く身体ごと持ち上げる。

 

「ぐっ……、チクショー!放しやがれ!!!」 


両足をバタバタして抵抗する桑原。

 

メキメキメキ

 

桑原の頭を力で締め付ける。

 

「グァァァァァ!!!」

 

あまりの苦痛に桑原は一切の抵抗が出来なくなる。

 

ビューーン!!!!!

 

武威は右手で桑原の背中を殴りつけた。

 

ドゴォォォォォ!!!!!


「ウァァァァ!!」

 

ゴボッ

 

口から血を吐き出す桑原。


「フン」

 

ドゴォォォォォ!!!!!


「アァァァァァ……」


ドゴォォォォォ!!!!!


身動きが出来ない桑原をさらに激しく背中から殴って痛めつけた。

 

「ギャァァァァ!!!!」

 

桑原の悲鳴が闘場に響き渡る。

 

――メイン会場

 

「おーーっと!!Aブロックでは武威選手が桑原選手を捕まえて容赦なく激しい攻撃を続けています!!!」

 

「あの人間が武威に殺されるのは時間の問題だ」

 

「そうだな。さっきまでは中々頑張っていたようだが武威とは力の差があり過ぎる。圧倒的だ。これはもう勝負あったぞ」

 

「うっ、和真さん……」

 

一方的に武威に攻撃され続けている桑原の姿がスクリーンから映し出されている。

その凄惨な光景に雪菜は思わず目を反らした。

 

「大丈夫?雪菜ちゃん」

女性が雪菜に声をかけた。

それは三回戦進出を決めた棗であった。

曲尺を倒した後、棗はメイン会場にいる雪菜の所にやって来たのだ。

 

「棗さん……」

目に涙を溜めて棗を見る。

 

「和真さんがあんなに苦しむ姿なんて…。駄目です。もう私は見られません」

棗の胸に顔を埋(うず)める。

 

「あの武威って男は、あの桑原って人間を殺すつもりでいる。彼が負ける時は間違いなく死しか残されていない」

棗は冷静な声で桑原の置かれている状況を雪菜に話した。

 

「棗さん…私、私は和真さんを失いたくないです……」

 

雪菜の目から涙が地面に溢(こぼ)れ落ちる。

 

コロンコロン

 

その涙は美しく光輝く氷泪石となった。

 

(雪菜ちゃん……)

 

スッ

 

棗は優しく雪菜の頭を撫でながら語りかける。

 

「雪菜ちゃんはあの桑原って人間が好きなのね」

 

(!?)

 

雪菜は棗の言葉にハッとなり棗の顔を見上げる。

棗は優しい微笑みを浮かべて雪菜の顔を見た。

普段は大人しくて自分の本当の気持を伝える事が苦手な雪菜。

出会ってから短い付き合いでしかない棗と雪菜だが、姉の様に棗を慕う雪菜はその想いを口に出した。

 

「棗さん……、私は、私は和真さんが好きです」


涙を流しながら雪菜は武威との戦いの中で、今にも殺されそうになっている桑原という一人の人間に対する想いを初めて口にしたのだ。

雪菜は人間界にやって来てから色々な人間と出会った。彼女をお金を手に入れる為の道具の手段として扱った垂金という人間。

故郷に残した妹と同じ年頃の雪菜が重なり、捕われていた雪菜を助けようとその若い命を落とした名前も分からない心優しい人間。

男っぽいとこがあり、一つ屋根の下で雪菜と暮らすようになってからは親身になって実の妹のように可愛いがってくれる人間の女性。

少し変わっているが異世界の住人である彼女をホームステイとして受け入れ、家族の一員として娘の様に扱い大切にしてくれる人間。

人間の良い面と悪い面の両方の姿を見てきた雪菜であったが、彼女は心から人間が好きであった。

それは沢山見てきた人間の中でもある一人の人間の影響が大きかった。

いつ終わりがくるのか分からない捕われの身になってからの辛かった日々。

そんな辛い日々から彼女をその人間は救い出してくれた。

そしてその人間は、彼女が人間界で生活する様になっても、その隣でいつも優しく温かい目で見守っていてくれていた。

その人間の名は桑原和真。

心まで凍てつかせていた生まれ故郷の氷河の国では感じる事が出来なかった心の温もり。

桑原と彼の家族の優しい心の温もりに囲まれて雪菜は人間を心の底から好きになったのだ。

不器用で素朴な温かい心を持ち、常に命がけで雪菜を守ってくれていた桑原。

雪菜はいつの間にか人間界で生活していくうちに桑原に対して異性として惹かれていたのだ。

 

「雪菜ちゃんは自分の気持に気付いたのね」

 

雪菜は頷いた。

 

「安心して雪菜ちゃん。万が一の場合は私が彼を助けるから。仮に私が行かなくても幽助君や飛影が彼を助けにいくと思うわ」

 

「棗さん……」

棗の言葉に少しホッとした顔。

 

「和真さん……」

両手を胸の前で組んで桑原の事を祈り始める。

そして雪菜は妖気を集中し始めた。

 

――Aブロック

 

「ゴホッ、ゴホッ」

 

口から血が溢れ出る。

 

「かなり霊気が弱まってきたな。死が近いな桑原よ」

 

(クソッ)

 

<<和真さん>>

 

その時、桑原の耳に女性の声が聞こえてきた。

 

(こ、この声は!!)

 

<<和真さん>>

 

(俺の脳に語りかけているのはま、まさか雪菜さんっすか!!?)

 

雪菜は念信で桑原の脳に直接語りかけたのだった。

 

<<はい、私です。和真さんの脳に直接語りかけています。和真さん、お願いです。勝って生きて下さい。私は和真さんへの自分の気持に気付きました。私は、私は和真さんが好きです>> 

 

(!!!!!!!!)

 

桑原は突然の雪菜の告白で一瞬にして顔が真っ赤になった。

 

「な、何だ?」

 

突然の桑原の変化に戸惑う武威。

 

「雪菜さ~~~ん!!!!!」

 

ブォォォォォォ!!!!!


(!!)

 

桑原は歓喜の声を上げた。

それはまるで魂の咆哮。

雪菜の名前を叫ぶと急激に霊気を急上昇させていく。

 

「放しやがれーー!!!!!」 

 

「ぐっ………」

 

桑原の急激の霊気の上昇によって武威は掴んでいた桑原の頭を放した。

桑原の身体から放出された霊気が先程までと別人の様に急激に上昇し、掴むことが出来なくなったからだ。

 

「ば、馬鹿な……」

あまりの桑原の霊気の変化に驚きを隠せない。

 

――メイン会場

 

「どうしたの彼は!?もの凄く霊気が上がっているわよ。一体彼に何が?」

驚く棗に雪菜は笑顔で答える。

 

雪菜、ニコリ。

「念信で和真さんに告白してしまいました」

舌をペロッと出して照れた顔。

 

「……雪菜ちゃんって意外に大胆な事をするわね…」

 

(まさかあの状況の彼に告白するなんて驚きよ)

 

予想外の雪菜の行動にちょっと飽きれる棗であった。

 

――Aブロック

 

武威、ニヤリ。

「何がきっかけか知らないが、お前の急激な変化には驚いた。だがこれで戦いは面白くなったぞ」

 

「もう俺は負ける気はしねーぞ武威!俺には勝利の女神様がついているからな」

 

雪菜の告白がきっかけとなる愛の力?で桑原の眠っていた爆発的な霊気が目覚めようとしていた。

 

勝負はこれからだ。

 

続く

 

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幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #095「動き出した陰謀(大会編)」

――大会を一望出来る崖の上

 

駁が難しい顔で比羅の隣にやって来た。

「おい比羅、砂亜羅の気が途切れて随分経つが大丈夫なのか?」

 

「確かにな。外部に魔光気が漏れないように結界を張っているのだろうが、少し時間がかかり過ぎだ」 

 

「砂亜羅の気がこれだけ時間が経っても途絶えたままだということは、あいつの身に何かあったのではないのか?」

 

駁は砂亜羅が心配でたまらないようだ。

そんな、駁の様子を見た比羅が動いた。

 

弥勒!」

同じ十二魔将の一人であり、参謀の弥勒に声をかける。

 

「何だい?」

金髪の男が比羅の隣に歩いて来た。

 

弥勒は短い金髪の細身の体型。

その容姿はハンサムではないが特徴のある顔つきで優しげな顔をしている。


「お前も砂亜羅の気が途絶えたのは分かるだろう?私はあいつの様子を見て来る。私が戻るまではここの指揮はお前に任せていいか?」


「分かったよ。ここは大丈夫だ。安心して行っておいでよ」

 

比羅、ニコリ。

「すまんな。直ぐに戻る」

 

フッ

 

比羅の姿が消え去った。

消えた後を見ながら駁が溜息をつく。

「やれやれ、勝手な行動を許すからこんな事になる」

 

弥勒、ニコリ。

「あの比羅も妹には甘いさ」

 

弥勒は大会の方を見た。

穏やかな顔が一転、厳しい顔になった。

 

(何故だか分からないが胸騒ぎがする)

 

杞憂であって欲しい。

心の中で砂亜羅の無事を祈った。

 

――選手たちの休憩所

 

桑原と武威の試合を見ている幽助と飛影の下に、電鳳との試合を終えた蔵馬が戻ってきた。

 

「武威は凄い妖気だな」

 

「蔵馬」

戻って来た蔵馬を幽助が笑顔で出迎えた。

 

飛影が蔵馬の身体の状態を見た。

「その身体では次の試合がかなり厳しくなるだろう。あの瑠架とかいう女の所で傷を治してこないのか?」

 

「そのつもりだ。だけどその前に気になる試合があってね」 

 

「桑原の試合か?」

 

「桑原君の試合はもちろんだが、俺が気にしているのはDブロックの鈴木の試合だ」

 

「鈴木?そっか鈴木が勝てばおめーと三回戦で当たるんだっけな」

 

「違う。鈴木ではない」

 

「あいつは」

スクリーンに映し出されているDブロックの試合に視線を移した飛影が驚く。

 

「何を驚いてんだ飛影?」

幽助もDブロックの方に視線を移した。

 

「あ、あの野郎は!?」

幽助も飛影と同様にスクリーンに映る男の姿に驚いた。

 

「蔵馬、あいつって戸愚呂チームにいた爆弾男じゃねーか」

幽助の言葉に頷く蔵馬。

 

「鴉か。武威に続いてこの男まで出てくるとはな」

飛影は少しうんざりした様子。

 

「武威はともかく、あいつは蔵馬と戦って死んだはずだぜ。何で生きてんだ?」

 

「それは俺も気になる。他人のそら似ではない。さっきあいつと接触したが、その時感じた感覚は鴉その者だった」

 

幽助の目が真剣になる。

「この大会は何が起こるか分かんねーな」

 

――Dブロック

 

鈴木と梟。

対峙する両者。

 

鈴木が梟に向かって口を開いた。

「梟っていうからどんな奴かと思ったらお前だったんだな鴉」

 

梟は何も答えずに黙っている。

 

「暗黒武術会の決勝で蔵馬に殺されたとばかり思っていたぜ。まさか生きていたとはな。驚いたぜ」

 

上空から天海が鈴木と梟を見つめる。

 

「それではDブロックの第二試合の鈴木選手対梟選手の試合を始めます」

 

鈴木と梟の試合が間もなく始まろうとしていた。

 

――Aブロック

 

鎧を纏うことで抑えつけていた、自分自身で制御すら出来ない武装闘気をついに開放した武威。

目に見えてしまう程の巨大な武装闘気が全身を包み込んでいた。

 

武威、ニヤリ。

「この力を開放するのがお前とは思わなかったぞ」

 

ザザザ

 

桑原は武威の武装闘気に圧倒されて思わず後ずさる。


「マジかよ……。こ、こんなにスゲー妖気とは思わなかった…」

 

「どうした桑原?身体が震えているぞ」

 

「ば、馬鹿を言うんじゃねー!!誰が震えてるってんだコラァ!!!」

 

「そうか?今のお前は本能的に俺を恐れている」


武威の言葉に桑原の顔色が変わった。

 

「俺はてめえなんかを恐れてねーーー!!!」

 

桑原は手に持っていた強化版の霊剣を宿した試しの剣を強く握り締めると武威に向かって駆け出した。

武威の言葉を否定する為に。

 

「オラァァァァァ!!!!!!」

 

ビューー!!!

 

真っ正面から向かっていき、試しの剣で武威の頭部を狙って斬りつけた。


パシッ

 

だが、武威は試しの剣を右手で軽々と受け止めた。

 

「さっきは俺の腕に傷をつけたその剣だが、冷静さを欠いたな桑原。俺に確実に攻撃を当てるなら次元刀を選択すべきだ」

試しの剣を素手で受け止めているのにかかわらず、その手には傷ひとつついていなかった。

 

グググ……

 

「何で斬れねーんだよ!!!」

 

「開放した俺の武装闘気が形のない鎧となっている。鎧を纏っていた時の俺と同じだと思うな」

 

ブォォォォォ!!!!!!


武威は受け止めている試しの剣に妖気を伝え始める。


ピシッ!

 

桑原の握っている柄の部分に亀裂が入った。

 

(け、剣が!!)

 

「フン」

 

ブォォォォォ!!!!!

 

さらに試しの剣に妖気を伝える。

 

バチバチバチ

 

「熱っ!!」

 

試しの剣を握っている桑原の右手にまで武威の妖気が伝わってきた。

桑原はその衝撃で思わず試しの剣を放してしまった。 

 

パラパラパラ……

 

桑原の手を放れると同時に、試しの剣は粉々に砕け散った。

 

「た、た、試しの剣が!?」

 

フッ

 

驚く桑原の目の前から武威の姿が消え去る。

 

(消えた!!)

 

ポンポン

 

何者かが背後から桑原の肩を手で叩いた。

 

(!!!!)

 

血の気が引いて固まる桑原。

恐る恐る振り向くとそこには武威が立っていた。

 

ビューーーン!!!!!

 

武威の鋭い一撃が放たれる。

 

ドゴォォォォォォォ!!!!!!!

「ガハッ!!!!!」


大量の血を口から吐き出す。

武威の拳が桑原の腹部にめり込んだのだ。

 

バキィィィィィ!!!

 

腹部に一撃を受けて苦しむ桑原の顔面を追い討ちをかけるように殴りつけた。

 

(くっ!!)

 

ヒューーーーー!!!!!


ズガガガガァァァァァァ!!!!!!!

 

桑原の身体は地面を削りながら叩きつけられた。

 

「うっ……、ゲホッ!!ゲホッ!」

血を口から再び吐き出した。

武威は桑原を涼しい顔で見ている。

 

「どうした桑原?この程度の攻撃でその様か?そんな事では仇討ちなど出来ないぞ」

 

(つ………強すぎる……)

 

――選手たちの休憩所

 

「桑原君!?」

 

「ヤベーぞ!!殺られちまう!!!桑原の手に負える相手じゃねー!」

 

「まさかここまで強くなっているとはな。御堂の洞窟でもう少し戦えば良かった」

 

幽助たちも開放された武威の強さに驚いていた。

 

――Aブロック

 

ググ……

 

ゆっくりと桑原が立ち上がった。

 

「もうかかって来ないのか?」

 

「言われるまでもねー!!」

 

ジジジ……

 

左手に霊気を集中し始めた。

 

「くらいやがれーー!!!!」

 

ビュー!ビュー!ビュー!


左手から霊剣手裏剣を武威に向かって放った。

 

「霊剣を手裏剣にして飛ばすとは器用な男だ」

 

「オリャァァァァァ!!!」

 

霊剣手裏剣を放つと今度は右手に次元刀を作り出して駆け出した。

 

「ハァァァァァ!!!!!」

 

ブォォォォォォ!!!!!


武威は妖気を高めた。

 

ビュー!ビュー!ビュー

 

霊剣手裏剣が武威に迫っていた。

 

(あいつが霊剣手裏剣を防いだ時に僅かに隙が出来るはずだ。その瞬間を次元刀で攻撃してやる。防御不可能の次元刀と今の俺の剣術なら隙が出来れば武威をぜってーに斬れる)

 

しかし桑原の思惑とは裏腹に、武威は霊剣手裏剣を防ごうとはしなかった。

 

「あいつどういうつもりだ!?」

 

「消え去れ!!!」

 

グォォォォォ!!!!!

 

武威が叫ぶと同時に武威の全身から衝撃波が放たれた。

 

シュゥゥゥゥゥ……

 

霊剣手裏剣は武威の衝撃波により打ち消された。

 

「ウォォォォォ!!!」

 

武威に向かっていた桑原も衝撃波に巻き込まれて吹き飛ばされた。

 

ヒューーーーー!!!!!


ドガァァァァァ!!!!!


吹き飛ばされた桑原は岩壁に叩き込まれた。

 

「悪いが中途半端の攻撃は俺には通用しない」 


ガラガラガラ

 

崩れた岩壁の中から桑原が出て来た。

満身創痍の状態だ。

 

(チクショー……)

 

――選手たちの休憩所

 

「強い」

 

「負けを認めろ桑原ァァァァ!!本当に殺されちまうぞ!!!」

幽助は大きな声でスクリーンに映る桑原に向かって叫んだ。

 

躯と時雨も想像以上の武威の強さに驚いていた。

「あれほどの妖気を鎧で抑えていたとはな」

 

時雨の額から汗が落ちる。

「このままでは桑原は……」

 

「鎧を纏っていた時ならなんとかなったが、今の桑原とあいつの力の差はあまりにもありすぎる。殺されるのも時間の問題かもしれない」

 

――大会を一望出来る崖の上

 

スクリーンに映る桑原と武威の試合を見ていた駁が顔色を変えた。

「マズイぞ!桑原が殺されそうだ!!」

 

「落ち着いてください駁」

慌てる駁をなだめる袂。

 

「これが落ち着いていられるか!!さっきまでの戦いを見ていてもヒヤヒヤさせられたが、ここまで力の差があれば桑原に勝ち目はない。確実に殺されてしまうぞ」

 

「確かに今の状態では殺されるかもね」

弥勒は冷静に試合を分析している。


弥勒、桑原が殺されてしまう前に闘場に行って桑原を奪うか?」 

 

「比羅が不在の今は貴方に私達を指揮する権限があります。私は弥勒に従いますよ」

 

弥勒は考えるように目を瞑った。

駁と袂、その他の十二魔将も弥勒に視線を向けた。

 

弥勒が目を開けた。

「ここはこのままこの場に待機する」

 

駁が弥勒にくってかかる。

「待機だと!もし桑原が殺されてしまったら俺達の目的が果たせなくなるぞ」

 

駁の肩に手を置いて宥める。

「冷静になるんだよ駁。私達が大会に姿を現せば煙鬼をはじめたとした妖怪たちと戦うはめになるよ」


「何を言っている!どちらにしろ桑原を奪うには奴らと戦う事になるんだぞ」


「忘れていないか駁?今の私達は比羅、砂亜羅、楽越、黎明の四人を欠いている。大会はまだ二回戦、煙鬼やその仲間、躯、黄泉の力はまだまだ充分だよ。戦力が落ちた今の状態で戦ったらこちらの方が敗北する可能性が高い」

 

袂が恐る恐る弥勒に質問。

「しかし弥勒、駁の言う通り桑原が殺されてしまったらどうするつもりなのですか?」

 

「万が一桑原が殺された場合の事も考えてあるよ」

弥勒は何か策を持っているような顔だ。

 

「何か策でもあるのか?」

 

「忘れていないかい駁?樹が連れて来たあの妖怪を」

 

「はっ!?」

 

弥勒の言葉に駁は何かを思い出したようだ。

 

「なるほど。奴なら桑原が死体となっていても身体さえ手に入ればその能力を吸収出来る」

 

弥勒が頷く。

「相手の能力を食べる能力“美食家”(グルメ)だよ」

 

――会場へと続く道

 

比羅は妹の砂亜羅の魔光気が消えた場所に来ていた。

痕跡から砂亜羅が何者かと戦っていたのが分かる。

 

「私が感じていた通り、間違いなくここで何かの戦いがあった様だ」

 

比羅は周辺を調べてまわる。


「う……」

 

辺りを調べていた比羅の耳に何処からか声が聞こえてきた。

 

「むっ!誰だ?」

比羅は声が聞こえた場所に近付く。

 

(!!)

 

するとそこには砂亜羅が倒れていた。

 

「砂亜羅!!」

直ぐに妹の下に駆け寄った。


砂亜羅は無惨な姿となっていた。 

身に纏っていた鎧は殆ど破壊されて全身に大きな傷を負っていた。

 

「砂亜羅しっかりしろ!!何があった!?」

 

比羅の呼びかけに砂亜羅は目をゆっくりと開けて口を開けた。

 

「あ………う…」

(こ、声が出ない。兄さ…んに…あい…つの…こと…をつ…たえない…と…)

 

「何を言っている。しっかりしろ!」

 

(兄…さん…気を…つ…けて…)

 

ガクッ

 

(!?)

 

砂亜羅の目から涙が流れ落ちた。

比羅の腕に抱かれている砂亜羅の力が抜けていく。

砂亜羅は兄の腕の中で息を引き取った。

 

「さ、砂亜羅ァァァァァ!!!」

比羅は妹の身体を強く抱きしめた。

その目から涙が溢れる。

 

「許せん!何者か知らないが砂亜羅を殺した者を見つけ出して必ず殺してやるぞ」

 

「比羅」

 

ズズズ……

 

空間から男が姿を現す。

闇撫の樹である。

 

「お前も魔界に来ていたのか樹」

 

「砂亜羅を殺した者を俺は知っている」

 

「何!?」

 

樹の話す言葉により事態は急展開を向かえる事となる。

 

続く

 

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幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #094「第二ラウンド(大会編)」

――魔界統一トーナメントのDブロックの二回戦・第二試合

 

武威(ぶい)
×
桑原(くわばら) 

 

――Aブロック

 

実力を見せつける武威。

対する桑原の右手には次元刀がその姿を現した。

 

「こいつでおめーを鎧ごとぶった斬ってやる」

 

「初めて見たな。今までと違う剣だ。だが所詮はさっきのように霊剣に威力が増しただけの話しだろう」

 

武威の表情は兜を被っている為に分からないが、余裕を感じさせる声だ。 

 

桑原、ニヤリ

「見てろよ!威力だけじゃねーってとこも見せてやるぜ」

 

スッ

 

次元刀を武威に向けて構える。

 

――選手たちの休憩所

 

ようやく次元刀を出した桑原を見て幽助が溜息をついた。

「やっと次元刀を出したな桑原の奴。あいつにはマジでヒヤヒヤさせられちまうぜ」 

 

隣の飛影は無表情。

「最初から次元刀を出しておけばいいものを」

 

――Aブロック

 

「行くぜ!」

 

桑原は武威に向かって駆け出した。

武威は最初の時と同じ様に桑原を待ち構える。

 

バッ

 

「トォォォ!!!」

 

武威の少し手前でジャンプ。

空中で次元刀を構えた。

 

「オリャァァァァァ!!!!!」

 

ビューー!!!!

 

大きな掛け声と共に次元刀で思いっきり斬りつける。


「フン」

 

ビューーーーーン!!!!


次元刀を防ぐ為に斧で迎撃。

ぶつかりあう次元刀と斧。


ガッ!!!!!

 

武威の斧は桑原の次元刀を受け止めていた。

 

「残念だったな桑原。その剣でも俺には通用しなかったぞ」

 

だが、桑原はニヤリ。

「手応えあり」

 

武威に攻撃を受け止められたにもかかわらず桑原は不適な笑みを浮かべた。

 

(これは!?)

 

シュパーン

 

次元刀によって空間が切り裂かれていた。

 

「何!?」

 

ズバァァァァ!!!

 

「ぬォォォォォ!!!!」

吹き出る鮮血。

胸から腹部にかけて鎧ごと、桑原の次元刀によって切り裂かれていた。

武威の足が斬撃によってぐらつく。

 

「何故斬られたのだ!?俺の斧はお前の剣を完全に抑えていた筈だ」

 

地面に着地した桑原は驚く武威に解説し始めた。

 

「悪いな武威。俺の剣は次元刀。空間ごと斬らせてもらった。おめーは斧で俺の攻撃を受け止めたつもりかもしれねーが、空間を斬る俺の次元刀には防御は意味ねーぞ」 

 

「空間を切り裂く剣か……。防御不可能とは恐ろしいな」

 

ポイッ

 

武威は武器である斧を後ろに投げ捨てた。 

 

ズン!!

 

斧がその重みで地面にめり込む。

 

「俺はお前をどうやら甘く見ていたようだ。防御不可能ならお前に接近されると厄介だな」

 

スッ

 

ジジジ……

 

武威は右手を高く上げると妖気を集中し始めた。

 

「あいつは武器の斧を捨てて何をするつもりだ?」

 

武威の右手には妖気で作られた小型の斧が出現。


「また斧かよー!しかも今度は小せーし」

 

「ウォォォォォォ!!!!!!」

 

武威は大きな声で叫ぶと桑原に向けて小型の斧を投げつけた。

 

シュルルルルル!!!!!!!!

 

(!?)

 

シュパッ

 

小型の斧が桑原の左頬をかすめた。

 

桑原から斬られた頬の血と共に、額から冷や汗が流れ落ちた。

斧の凄まじいまでの速度に一歩も身体を動かす事が出来なかったからだ。

 

「なんてスピードだ!?殆ど見えなかったぞ」

 

シュルルルルル!!!!!!!!

 

パシッ

 

斧は武威の手元にブーメランの様に戻って来る。

 

「今のはワザと外してやった。だが次は外さんぞ」

 

(マズイぞ。どうすっか……)

 

「フン」

 

シュルルルルル!!!!!!!!

 

再び桑原めかげて斧が放たれた。

 

「クソーッ」

 

バッ

 

右に素早く飛んだ。

 

ズバァァァ!!!

 

「ウォッ!!」

 

斧は桑原の肩を切り裂く。


ドテッ

 

飛んだ拍子に地面に転んだ。

斬られた肩を手でおさえる。


シュルルルルル!!!!!!!!

 

斧が今度は背後から桑原の首をめがけて襲ってきていた。

 

「ゲェェェェェ!!!?」

 

ガバッ

 

瞬間的に地面にはいつくばって攻撃をかわす。 

斧は桑原の髪の毛をかすめる。

 

シュルルルルル!!!!!!!!

 

パシッ

 

「堪のいい男だ。しかし俺の攻撃は殆ど見えていない様だな」

 

「こりゃマジでヤベー……」

 

恐る恐る立ち上がると次元刀をなんとか構える桑原。

動揺を隠せないのが顔に出ていた。

 

(霊剣手裏剣を放って弾くとしても、斧が殆ど見えねーから当てる事も出来ねー)

 

「桑原、お前が死ぬのは時間の問題だ」

 

シュルルルルル!!!!!!!!

 

斧が次に桑原の眉間を狙って放たれた。

 

バッ!!

 

今度は左に飛ぶ。

 

スバァァァァ!!!

 

桑原の背中を切り裂く。

 

「ぐっ!!」

 

傷の痛みで顔が歪む。

 

――選手たちの休憩所

 

剣術の師である時雨が桑原の戦いぶりを見ていた。

 

「桑原……」

 

スクリーンには、武威の攻撃を堪と持ち前の悪運の強さで必死にかわし続けている桑原の姿が映し出されていた。

 

「お前の弟子はかなり苦戦しているようだな」

躯が時雨の隣にやって来た。

 

「躯様」

 

「あの武威とかいう男からは憎悪と殺気しか感じられない。相手を殺す戦い方をしている」

 

「拙者もそれは感じました。この試合で桑原が負ける時は、月畑と同じ様な運命を辿る事になってしまうでしょう」

 

「桑原がもしここで死ぬようなことになれば、桑原を狙う者たちの企みが全て水の泡となる。魔界の維持にはそれもありだな」

それは現状の魔界の維持を願う躯の頭に描いている選択肢の一つであった。

 

「躯様……」

躯の言葉に驚く時雨。

 

時雨の顔色が変わったのを見て、躯はニヤリ。

「フッ、冗談だ。そんな顔をするな時雨。俺はあの男の事も気に入っている。生かす方向に動く。それに」

 

「それに?」

 

「あの男があの程度の攻撃でむざむざと殺される男ではないことは、剣術の師であるお前が一番知っているだろう?」

躯の言葉に笑顔を見せる時雨。

 

「確かにそうですな。桑原はこのような場所で死ぬような男ではありません」

 

スクリーンの中で必死で武威の攻撃をかわす桑原を見て心の中で時雨は呟く。

 

(こんな所で死ねばお前が拙者に命がけで剣術を習った意味がなくなる。お前の大事な目的の為に勝つのだ桑原)

 

――Aブロック

 

シュルルルルル!!!!!!!!

 

パシッ

 

ギリギリの状態で攻撃をかわし続けている為、桑原の精神力と体力がかなり消耗していた。

だが、その目には諦めの文字はない。

 

(殺られてたまるかってんだ)

 

「……中々しぶとい。流石は浦飯と同様に戸愚呂(弟)が認めていた男ではある」

 

桑原は致命傷となる大きな傷はないものの。斧を避けた時についた傷が無数に全身にあった。

 

「チクショー!このままだとジワジワとダメージが溜ってその内に動けなくなってしまうぜ」

 

「徐々に攻撃をかわすスピードが遅くなってきている。目でとらえる事が出来ない攻撃をいつまでかわし続けられるかな」

 

シュルルルルル!!!!!!!!

 

斧が桑原の腹部を狙って飛んで来る。

 

(なるほど、目でとらえるか……)


バッ

 

桑原はかすり傷を負いながらもこの攻撃をかわす。

その時、桑原の脳裏に時雨の言葉が浮かんだ。

 

――桑原の回想

 

それは躯の居城にある訓練場で修行を始めたばかりの頃。

 

ドテッ

 

「痛てて……」

 

時雨の一撃をまともに受けて倒れる桑原。

 

スッ

 

時雨は燐火円磔刀を桑原の喉元に突きつけた。

 

「桑原、目で追うだけでは拙者の攻撃をいつまでもかわせんぞ。目でとらえる事の出来ない時は、相手の気で動きを探るのだ」

 

これまで、時雨が繰り出す目にも止まらない激しい攻撃を一度もかわす事が出来なかった。

 

「気で探るか……」

 

「拙者たち妖怪には妖気、お前たち人間は霊気を体内に持っている。攻撃をした時には大なり小なり必ず放出される。目で動きをとらえる事が出来ない時はそれを辿るのだ」

 

「気を辿ればどんな相手の攻撃でもかわせんのか?」

 

「フフッ、あまりにも極端に力の差がある相手は流石に不可能だ。例えば拙者と躯様の様にな。だが、大きな力の差がない者が相手ならかなり有効だ」

 

「分かったぜ。気で探ってかわす事をぜってーに出来る様になってやる」

 

「だったらもう一度行くぞ」

 

「おうよ」

 

こうして桑原は気で読む力を血の滲む様な修行の末に見に付けたのだった。

 

――桑原の回想・終了

 

桑原、ニヤリ。

「すっかり忘れていたぜ」

 

桑原は焦る気持を静めて冷静になり始めた。

 

「フン」

 

シュルルルルル!!!!!!!!

 

桑原めがけてまたも飛んで来る斧。

 

「おっし!!」

 

フッ

 

ここでついに桑原は妖気で作られた武威の斧を気で動きを辿り、ギリギリでかわすことに成功した。

初めて武威の投げてくる斧をかわしたのだ。

 

シュルルルルル!!!!!!!!

 

またも斧が背後から背中をめがけて戻って来る。

 

フッ

 

これも桑原はギリギリでかわす。

 

(またかわした!?)

 

突然、桑原が攻撃をかわし始めた事に武威は驚いた。


(見切ったぜ。こんな形で時雨との修行が活きてくるとは思わなかった)

 

パシッ

 

武威の手元に斧が戻って来る。

 

「反撃開始だ」

 

シュゥゥゥゥゥ

 

桑原は次元刀を右手から消すと、懐から試しの剣を取り出して霊気を集中し始めた。

 

ジジジ…

 

試しの剣による霊剣を作り出していく。

 

「あの桑原が俺の攻撃のスピードを見切ったというのか。認めんぞ」 

 

シュルルルルル!!!!!!!!

 

肩をめがけて斧を投げつける。

 

桑原の目付きが変わる。

「この鈴木の作った試しの剣は俺の気分に合わせて変化してくれる優れものだぜ!!」

 

試しの剣から放出された霊剣の形がいつもとは形状が違っていた。

なんと野球のバットの形になっていたのだ。

桑原の構えは往年の野球選手である落合博満のバッティングフォーム。 

 

「落合流首位打者剣!!」

 

シュルルルルル!!!!!!!!

 

「オラァァァァァ!!!!!」

 

ビューーン!!!!!

 

試しの剣で作ったバットで武威の斧を打ち返した。

 

ガキーーン!!!!!! 


打ち返した斧が今度は武威の頭部に向かって飛んでいった。

 

シュルルルルル!!!!!!!!!!!!!

 

その速度は武威が投げた斧の速度を遥かに上回っていた。

 

(な、速い!?)

 

バキィィィィィィ!!!!


武威はその場から一歩も動けずにいた。

斧は武威の兜を破壊。

そして斧は武威の頭部を僅かにかすめた。

兜が割れて地面に落ちた事で、武威の素顔が露になると同時に額から血が流れ落ちる。

 

桑原、ニヤリ。

「ピッチャー返しだ」


(いいだろう)

 

スッ

 

ズン!!!

 

武威は静かに身に纏っていた鎧を脱ぎ始めた。

 

「へっ、ざまーみろ!!鎧を脱がしてやったぜ」


ズン!!!

 

身に纏っていた最後の鎧のパーツを脱ぎ捨てた。

 

ブォォォォォ!!!!!!


武威が全ての鎧を脱ぎ捨てると今まで抑えていた武装闘気が開放され始めた。

 

ビリビリ

 

「なっ!!?何てスゲー妖気なんだ!さっきまでとは別人の様だぜ……」

 

武威のあまりの妖気の大きさに驚く桑原。

例えるなら背筋が凍るほどの。

そして武威の身体からは、身体が宙に浮く程の武装闘気を放出されていた。


「俺がこの状態になれば悪いが楽には死なせないぞ」

 

桑原の顔が青くなる。

「俺、マジで死ぬかも……」

 

全力の武威が桑原に襲いかかる。

 

続く

 

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