nanaseの世界

このブログは週間少年ジャンプで連載していた、冨樫義博先生の原作漫画の幽✩遊☆白書の続編小説を中心に、映画のレビューや日々の出来事をメインにしています。

小説更新!!最新話公開中 幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #108「二回戦最終試合・凍矢vs戸熊(大会編)」

幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #045「桑原の弟子入り(大会編・前章)」

――魔界の7番地区

 

7番地区の西部の外れに一つの小さな小屋がある。

傷ついた黎明が小屋のベッドで寝ている。

身体中の至る所にあった傷は治療され、包帯が巻かれている。

 

「うっ……」

 

黎明は目をゆっくりと開けた。

見慣れない場所だ。

自分がどこかの家の中にいるというのは分かる。

辺りを見渡すと直ぐ近くに男がいる。

記憶がまだ曖昧だが、あの男には微かに見覚えがある。

男は黎明が目を覚ました事に気が付いて、側までやって来た。

 

「気が付いたか?」

 

男は黎明に声をかけると傷口の状態を確認。

 

「お、お前は…誰だ?」


黎明はベッドから身体を起こす。

 

「ぐっ……」

 

手で胸の傷をおさえた。

傷口が酷くまだ痛む。

 

「生きているのが不思議なぐらい、お前は瀕死の重傷だったんだ。まだ動かない方がいい」

 

黎明の黒い瞳は目の前にいる男に向けられる。

改めて男の姿を観察。

頭はスキンヘッド、恰好は黒い道着を着ている。

この男から感じるのは妖気。

抑えていても分かるこの男の巨大な妖力。

つまりこの男は妖怪ということ。

となると、ここは魔界の可能性が高い。

 

「私の名前は、北神だ」

 

(ようやくこの男を思い出した。私が気を失う前に、

森の中で見た男だ)

 

黎明は自分の身体の状態を見た。

丁寧で完璧な傷の手当が施されていた。

 

「この傷の手当はお前がしてくれたのか?」

 

「ああ。お前は獰猛な魔界のオジギソウにやられたんだ。全身にかなり酷い傷を負っていたよ」

 

(私が破壊したオジギソウの残骸か)

 

妖狐・蔵馬によって召喚されたオジギソウに飲み込まれた時の記憶が頭の中を過ぎる。

自分でもあのオジギソウの中からどうやって外に脱出が出来たのか分からない。

ただ、生き残る為に必死にあがいた事は間違いない。

 

「私の名は…」

北神に自分の名前を伝えようとしたが、北神がそれを手で遮った。

 

「黎明だろ?私が名を聞いたら、意識を再び失う前に名乗ったよ」

 

「そうか。北神、助けてくれた上に傷の手当までしてくれて本当に感謝する」

 

北神、ニコリ。

「私は倒れていたお前を見つけて、ここに連れて来て傷の手当をしただけだ。大した事をしたわけでもないさ」

 

「ありがとう。北神、ところでここは一体何処なんだ?」

 

「お前が気を失う前にも話したが、ここは魔界の7番地区だ」

 

「魔界か」

 

自分の想像していた通り、ここは魔界だった。

 

(どうやらあの妖狐は、私を飲み込んだオジギソウを元いた魔界に戻したのだろう。当然、身体の中に飲み込まれていた、私も魔界に飛ばされたってことか)

 

「そうだ。ここは魔界だ。黎明は一体何者なんだ?」

北神が黎明の素性を聞いてきた。

 

(今は、傷のある程度の回復が必要だ。ここは差し障りのない答えをしておくか)

 

自分はただの旅人で、旅の途中でオジギソウに襲われたということにして北神に説明した。

黎明の説明を北神は疑うことなく信じた。

 

(よし、こいつはこれでいい)

 

黎明の頭の中にはある人物の顔が浮かんいた。

今の黎明には新しい目的が出来ていたのだ。

 

(妖狐よ。私をこんな目に合わせた借りはしっかりと返させてもらうよ)

 

――躯の居城

 

飛影と再会してから翌日。

桑原は月畑と時雨に、保護されて躯の居城に連れて来られていた。

 

時雨が、桑原に声をかける。

 

「桑原、昨日は良く寝れたか?」

 

「ああ、おかげでな。あの森の木の上で寝ていたことを考えたらここは天国たぜ」

 

「それなら良かった。本来なら保護した人間は、ここでの記憶を消して、人間界に返すのだが、御主はその必要があるまい。それ以前に、魔界の焦気を吸ったらほとんどの人間は昏睡して仮死状態になるのだがな」

 

「飛影も人間の記憶を消したりしているんだろ?」


「よく知っているな。奴は邪眼の能力を使って記憶を消している」

 

「昔、人間界に返された人間が、宇宙人とかの話しのTV番組にでていてな、その人間が僅かに残った記憶で書いたスケッチが飛影にそっくりだったからよー」


「それは完全に人間の記憶が消えていなかったのだな」


桑原、ニヤリ。
「ぷぷっ。しかしあいつが宇宙人だとよー。なんか考えたら、はまってそうで笑えるぜ」

 

「しかし御主の話しを聞いた限り、今は人間界に戻らない方がいい。我らの下にいた方が安全だろう。御主のここでの滞在の許可は、躯様に頂いたから暫くここにいるがいい」

 

躯の居城に来てから、この時雨も月畑たちも桑原によくしてくれている。

 

「すまねえな。ところでよー。俺と一緒に魔界に飛ばされた雪菜さんの情報はまだ入ってきてねーか?」

 

「氷女は人間ではないからな。パトロール隊ではなく拙者の手の者で探させている」

 

この捜索は、時雨は正直その必要はないと思っている。

ここにいる者たちの中で、探す事に長けたあの男が既に動いているのだから。

 

(おそらく氷女はもう飛影が見つけているだろう) 

 

「すまねーな。悪いけど頼むぜ」

本当に何から何まで本当に感謝の気持しかない。

 

桑原は辺りを見渡す。

「そういえば、飛影の奴はまだここに戻ってきてねーのかよー」

 

「まだ戻ってきていない。それにあやつはここで生活をしているわけでもないからな」

 

「そうか」

ちょっと残念そうな顔の桑原。

 

「飛影に何か用でもあったのか?」

 

「ああ。その俺と一緒に飛ばされた子が、魔界にいるかも知れないっていう兄貴を探しているんだ。せっかく飛影に会ったからよー。あいつに兄貴の消息の手がかりが何かないか聞きたかったんだ」

 

「なるほど」

(桑原は飛影が兄だと言う事を知らないようだな)

 

「そういえば、酒王に聞いたんだが、あんたが飛影に邪眼を移植したって言ってたんだっけ?」

 

「如何にも、拙者が飛影に邪眼の移植手術をした。移植前の飛影は13層北東部で忌み子・飛影と呼ばれ、生まれて僅か5年で、A級クラスの妖怪になった天才少年だった」

 

桑原の脳裏には、四聖獣との戦いで初めて会った時の飛影の姿が浮かぶ。

「へ~すげえな。でも俺が初めて会った時のあいつは、C級かD級クラスの妖怪だったぜ」

 

「そうだろうな、移植は能力変化。すなわち生まれ変わるのと同じ事となる。その為に妖力もA級クラスから最下級クラスの妖怪に落ちることとなる」

 

ここで桑原の中で、飛影に対してある疑問が浮かんだ。

それを時雨に聞いてみる。

「なるほどな、納得したぜ。あいつは何でせっかくA級妖怪クラスの妖気を持っていて、わざわざ最下級クラスまで妖力を落として邪眼を移植したんだ?」

 

時雨は、首を振る。

「患者に対する守秘義務があるから詳しくは話せぬ。 だが、一言だけいえば、あやつにはその時に良く見える目が必要だったのだ」 

 

「まあ、あいつにも俺にはわからねー事情ってもんがあったんだろうな」

 

「フッ、人間でも妖怪でもそれぞれが色々な事情を抱えて生きているものだ」

 

「そういえば邪眼の移植手術以外にもあんたが飛影に剣術も教えたって言っていたな」

 

「剣術の真似事を少々な。最下級クラスまで落ち込んだ妖力では、拙者が以前住んでいた森に多く生息している獰猛な怪物を相手に、無事に抜けることが厳しかったからな。それに妖力が再び見につくまでの間、あやつの身を守る為に教えてやったまでだ」

 

「以前、青竜って妖怪を飛影が倒した時に、初めてあいつの剣技を見たけどよー、素早い上に凄い剣激だったぜ」

 

「あやつは拙者が教えた事を基にそれを我流で研いたようだ。その後、僅か数年で前以上の妖力で拙者の前に現れた時は、真に驚いた。大した男だ」

 

(……)

 

桑原は何かを考えている。

非常に真剣な顔。

 

(急にどうしたんだ?)


桑原はゆっくりと口を開く。

「その飛影に剣術の基礎を教えたのは時雨、あんただ。そこであんたに頼みがある」

 

「拙者に頼み?」

 

「俺がここにいる間だけでもいいから、俺にあんたの剣術を教えてくれ」

 

「御主が拙者の剣術を学びたいというのか」

意外な言葉に少し驚く。桑原から剣術の指導を頼まれるとは思わなかったからだ。

 

「ああ。金髪の野郎に狙われて、あまりにも自分の無力差を実感したぜ。俺のせいで雪菜さんを巻き込んだ上に、怪我までさせちまった。もうあんな思いをしたくねーんだ」

 

時雨は、桑原の目を見た。

心の底から強くなりたいと言っている目だ。

こういう目をした者は嫌いではない。

むしろ、好意的に思える。

 

「俺の今の霊力では、あの金髪野郎に絶対に勝てねー。頼む時雨!俺にあんたの剣術を教えてくれ!!」

 

桑原の訴えは時雨の心に響いた。

 

時雨、ニヤリ。

「いいだろう」

 

時雨の言葉に桑原の目が輝いた。

「ほ、本当か!!」

 

そして時雨の目が戦士の目に変わる。

「だが拙者が教えるからには、御主にも命をかけてやってもらうぞ」

 

桑原、ニヤリ。
「たりめーだ。どんなきつい修行にも耐えてやるぜ!」

 

「その言葉忘れるな。後でこの居城にある訓練所に来るがいい。拙者が涙が枯れるまでお前をしごいてやる」

 

そう言うと時雨はこの場から立ち去っていった。

 

先ほどの桑原の言葉を思い出す時雨。

(拙者がまさか、人間に剣術を教えることになるとはな…。だがそれもまた一興か)


桑原はこうして時雨から、剣術を学ぶこととなった。

大会までの僅かな期間ながら、桑原の剣術の技、そして霊力は、時雨の教えを受ける事で格段に強くなっていく。

 

気合いを入れて吠える桑原。

「やってやるぜ!!」

 

続く

 

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