幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #046「魔界の王・煙鬼(大会編・前章)」
――魔界の3番地区
ここの地区は3年前から、魔界の中心地となり、大いなる繁栄を遂げた場所である。
いわば魔界の首都とも言える。
それは何故かというと、現在の魔界の王・煙鬼を中心とした政府の委員会がこの3番地区に設けられた為である。
魔界に迷い込んだ人間を保護する、パトロール隊の発足や法案等も全てこの地で制定された。
この3年に渡って、魔界を治めてきた煙鬼の政権も、
後僅かで、終焉を迎えようとしていた。
それは、新たな魔界の王を決める大会が開かれる為である。
そしてその大会もこ3番地区で行われるのであった。
――魔界3番地区大統領府
「煙鬼様、大会の準備が一通り完了致しました」
煙鬼に報告しに来た、この一つ目の妖怪の名前は嵐士(あらし)。
彼は大統領府に使えている、妖怪の一匹で、王である煙鬼に絶大なる忠誠を誓っている。
いつも礼儀正しく真面目な嵐士は、煙鬼の指示をテキパキと動いてよく仕事をしてくれる。
「そうか、完了したか」
威厳のある大きな声が部屋の中によく響く。
煙鬼は大統領府の中の一室に、彼の大きな身体と同じ大きさの机と椅子を置き、そこで魔界を統べる王としての実務をこなしていた。
その傍らには妻の孤光もいた。
「それでは失礼します」
煙鬼に深々と一礼をすると嵐士は部屋を後にした。
「うむ。ご苦労さん」
煙鬼の顔は王としての威厳に満ち溢れていた。
煙鬼は部屋の扉が閉まったことを目で確認する。
「ふう~。やれやれだわい」
机の上に顎をのせて急にだらける。
「孤光よ~~。王は疲れるぞ…」
煙鬼に呼ばれた孤光はちょっと呆れ顔。
「やれやれ、だらしがないわね」
煙鬼のだらけたその姿は、さっきまでの魔界の王として威厳を保っていた姿からは想像が出来ないものだった。
孤光、ニコリ。
「しかし、三年も王をやっていても、あんたは結局、
王という立場に最後まで慣れなかったよね」
「ははは、ワシはどうやら国の指導者にはむかないみたいだ。呑気な田舎暮らしが長かったからな。ここでの生活は結構疲れるぞ」
腹に両手をあてて大声で笑う。
「仮にも魔界を治めている指導者なのだから、みんなの前ではある程度ちゃんとした姿をしておく必要があるからね」
そう言うと煙鬼を後ろからバックハグする。
煙鬼も首元にある孤光の手をギュッと握った。
「だからお前や気心が知れた連中以外では一応、ちゃんとしているつもりだぞ」
「フフッ、しかしあんたのこのだらけた顔は他の人に見せられないよ」
煙鬼、ニコリ。
「まったくだ」
夫婦は楽しそうに笑い声を上げた。
「夫婦水入らずを邪魔して悪いな。お前たちは相変わらず仲がいいな」
部屋の窓の外に背中に羽が生えた妖怪の男が姿を現した。
孤光が妖怪の男の名前を呼ぶ。
「あっ、才蔵」
孤光が部屋の窓を開けると才蔵が中に入ってきた。
煙鬼が嬉しそうに出迎える。
「才蔵、久しぶりじゃあないか!」
「煙鬼、孤光久しぶりだな。大会も近いことだし、パトロールの帰りに、お前たちに一度会っておこうと思ってな」
才蔵は煙鬼や孤光、そして棗たちと同じ、幽助の遺伝上の父親にあたる、雷禅の昔の喧嘩仲間の一人。
前回の魔界統一トーナメントでは、決勝で煙鬼と優勝を争った相手でもある。
惜しくも僅差で煙鬼に敗れはしたものの、
彼の実力は本物で、魔界を代表する最強の妖怪の一人である。
「しかし、お前も魔界の王として、三年間もご苦労だったな」
煙鬼の三年間を心の底から労う。
「わしら妖怪にとっての三年は大した時間ではないのだが、この三年は本当に凄く長く感じたぞ」
もう煙鬼はやりつくして完全燃焼した感じだ。
「お前が魔界の王として苦労している姿を見ると、決勝戦でお前に勝たなくて良かったよ」
「ははは、王は本当に大変だぞ。なんとかこの三年間は魔界に大きな混乱もなく無事に治めてきたよ」
「お前の治世の間、魔界が一つにまとまって、混乱もなかった。お前は魔界に一定の秩序と平和をもたらしていたんだ。もっと誇ってもいいぐらいだぞ」
才蔵はチラッと孤光の顔を見た。
才蔵と孤光の目が合う。
「才蔵、どうした?」
才蔵、ニヤリ。
「しかし煙鬼、お前が上手くやってこれたのも影でしっかりっと支えてくれた、この妻の孤光のおかげだ。孤光に感謝するんだな」
才蔵の言葉に煙鬼は頷く。
「そうだな。孤光には、我が妻には本当に感謝している」
「ば、馬鹿、何言っているんだい。あたしは特になんにもしていないよ。一応こいつが旦那だからついてきたまでさ」
少し照れた顔で孤光は答える。
「フッ、しかし人間の女に惚れた雷禅に、お前が振られて煙鬼と一緒になった時はみんな驚いたぜ」
当時の孤光の荒れっぷりを思い出し、含み笑い。
「あんときは本当に泣いたよ。もう勢いにまかせてやけっぱちでこいつと一緒になったんだけどね」
「おいおい」
煙鬼は妻の言葉に苦笑い。
孤光は夫の顔を見た。
「まぁ、きっかけがどうあれ、今は凄くあたしを大事にしてくれているあんたと一緒になれてよかったって心から思っているよ」
「孤光~~」
煙鬼は、なんともいえない嬉しそうな声をあげた。
「しかし孤光、もし万が一、雷禅と一緒になっていたら、あの男のことだからきっとお前は色々と苦労していたと思うぞ」
才蔵の言葉に頷く孤光。
「そうかもね。でもあたしは雷禅の持つ、あの独特の不思議な魅力に惚れていたんだけどね」
「この煙鬼や俺、ここにいない他の仲間たちもあいつの不思議な魅力に惚れこんでいたんだよ」
煙鬼は手をポンッと叩く。
「そういえば、一人だけあいつに似た男がいるな」
「ああ」
才蔵も同意。
孤光、ニヤリ。
「あいつと一緒になるかも知れない女は、あいつは雷禅にそっくりな男だから、きっと色々と苦労するだろうね」
――丁度この頃、3番地区向かう途中だった幽助たち。
「はっくしょん!!」
幽助は走っていた足を止めて指で鼻をこすった。
「うわー。幽助きたなーい!!」
背中に背負われているゆりが後ろから抗議。
ボソッと呟く幽助、
「これは…」
――人間界・雪村邸
晩御飯の食事中の螢子。
「くしゅん」
目の前の螢子の母がくしゃみした娘に声をかける。
「あらあら。螢子、風邪かい?」
「あれ、変だな?」
螢子は鼻を指でこすった。
螢子もボソッと呟く。
「もしかして……」
――魔界
「螢子が」
――人間界
「幽助が」
――魔界・人間界
幽助と螢子は違う場所ながら同時に呟く。
「絶対に悪口を言ってる」
――大統領府
煙鬼たちは楽しく談笑していた。
誰かが部屋の外からドアをノックする。
咄嗟に煙鬼は今までだらけていた顔をしっかりと引き締めて、キリッとした顔になった。
「入っていいぞ」
その後ろで煙鬼の様子を見守る孤光と才蔵。
(このギャップがいつ見ても面白い)
「失礼します」
嵐士が入ってきた。
「煙鬼様にお客様です」
「客か。才蔵に続いて今度は誰だろうな?」
孤光に聞いてみる。
「さあね~、せっかくだからここに通したら?」
妻の言葉に頷く。
「そうだな。おい、通してもいいぞ」
「わかりました」
嵐士は頷くと客を連れて来る為、部屋を出た。
煙鬼と孤光は顔を見合わせる。
「今度は誰だろうな?」
「周か鉄山とかだったりしてね」
コンコンと部屋のノック。
「入っていいぞ」
嵐士が部屋に入ってくる。
「失礼します。お客様をお連れしました」
嵐士がそう言うとその後ろから男が部屋に入って来た。
「あっ、お前さんは!」
煙鬼は思わず声を上げて驚く。
才蔵も驚いている。
(珍しい客だな)
意外な人物の登場に煙鬼を含め、一同は驚いた。
孤光が男に声をかける。
「あんたは黄泉だね。何しにきたんだい」
黄泉、ニヤリ。
「孤光か。前の大会で対戦して以来になるか。久しぶりだな」
人間界から幽助たちより一足先に魔界に戻っていた黄泉。その黄泉が突然、煙鬼の住む大統領府にその姿を現した。
続く