幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #003「奇淋(序章)」
――躯の居城・訓練所
手合わせを終えた飛影と躯の前に、奇淋が現れた。
――魔道本家奇淋…元躯の直属77人の戦士の一人。
直属の戦士の中で、最強の妖怪と言われている。
長年に渡って躯軍のNo.2として君臨していた。
彼は躯の下で、徐々に頭角を現して来た飛影によって、No.2の座から引きずり下ろされるまで、雷禅軍のNo.2の北神、黄泉軍のNo.2の鯱を超える妖力の持ち主として、各国から恐られ続けていた。
奇淋「躯様、失礼します」
躯に一礼すると側までやってくる。
躯「何の用だ?」
奇淋「はい、2番地区をパトロールしていた月畑から、面白い報告が届きましたのでその報告に来ました」
躯「面白い報告?」
奇淋「2番地区に、いつものごとく人間が迷いこんだらしいのですが、魔界の障気を吸っているのにもかかわらず、自由に動き回り、我々の手の者からも逃げ回っているとの事」
躯「それは珍しいな。殆どの人間は、魔界の障気を吸うだけでたちまち意識を失うというのにな」
飛影「捕獲には誰が行っているのか?」
飛影がここで会話に割り込む。
奇淋「月畑の話しでは、今は酒王が追跡しているらしい」
飛影「酒王…、あの不気味な野郎か」
酒王の名前を聞いて不快な顔を見せる飛影。
奇淋「フッ、そんなに露骨に嫌な顔をすると酒王が泣くぞ。あの顔で泣かれるとお前も困るだろう?」
飛影「フン」
不機嫌そうにそっぽを向く飛影。
奇淋「それより躯様、
その人間はさらに面白い事があるようです」
躯「ほう、他にまだあるのか」
奇淋「はい。その人間は、どうやらA級妖怪並みの霊力を持っているようなのです」
飛影(ピクッ)
奇淋の言葉に直ぐに反応を示す。
躯「どうした飛影?その人間に何か心当たりでもあるのか?」
飛影「別に」
興味なさそうに顔を背けた。
躯(嘘をついたな。こいつ、心当たりがあるな)
奇淋「飛影、お前の邪眼で調べてみたらどうだ?」
飛影「ああ」
飛影は目を閉じて精神を集中。邪眼の力を使って、
人間の居場所を探り始めた。
暫く邪眼で探索すると、人間の霊力が飛影の中に流れ込んできた。
飛影(なるほど、確かに強い霊力だ。2番地区から3番地区の方向に向かって逃げている)
飛影(この霊気は……)
飛影の表情が変わる。何かに気付いたようだ。
奇淋「飛影、何か分かったのか?」
奇淋の問いかけに目を開ける。
飛影「確かにお前の言うとおり、A級妖怪並みの霊力を持っている人間がいる。今、2番地区から3番地区の方向に向かっている。並みの妖怪では“奴”の捕獲は難しいだろうぜ」
飛影には人間の正体が何者か分かったようだった。
奇淋「…そうだろうな。
我々は人間を傷つけるわけにはいかない。A級並みの力の持ち主とくれば、なおさら捕獲に手間取る事になる」
飛影は無言でゆっくりと歩きだした。そして地面に置いている氷泪石を首にかけると脱ぎ捨てていたマントを羽織る
躯は飛影の様子から直ぐに悟った。
躯(フッ、行くつもりだな)
飛影「俺が捕らえてやる」
飛影の言葉に奇淋は苦笑いを浮かべる。
奇淋「お前がわざわざいかなくても、酒王なら時間がかかっても捕らえる事ぐらい出来ると思うぞ。あれでもA級妖怪の上位クラス。心配はいらない」
飛影「それは分かっている。俺が行くのはちょっと気になる事があるからだ」
奇淋「気になる事?」
飛影「お前には関係のない、実にくだらない事だ」
奇淋(???)
飛影(チッ、世話のかかる野郎だ)
訓練所を出ようと入口に向かって歩き出す。
奇淋「飛影!」
足を止めて奇淋を見る飛影。
奇淋「さっき、お前と躯様の手合わせを久しぶりに見させてもらったが、前回の大会からかなり妖力を上げているな」
飛影「当たり前だ。それはお前も一緒だろう。大会での敗北から、ずっとお前が修行を続けていた事を俺は知っているぞ。あいつに借りを返す為だろう?」
奇淋「フッ、知っていたか。私が修行を続けていたのは、私を完膚なきまでに叩きのめした電鳳を倒す目的もあるが、それ以上に私は、前の大会での公言を今大会で果たす為だ」
はそう言うと躯の方を見た。
奇淋「躯様、今大会も貴方様の打倒を宣言させてもらいますよ」
奇淋の言葉に躯、ニヤリ。
「楽しみにしているぞ」
そして奇淋は今度は飛影に、一言。
「大会でお前と対決するのも楽しみだ。私や躯様以外のつまらん相手に倒されるなよ」
飛影(……)
奇淋「フッ、人間の件、頼んだぞ」
奇淋はそう言うと、躯に一礼して、飛影より一足先に訓練所を後にした。
躯「あいつは相当修行しているようだ。お前も油断していると足下をすくわれるぞ」
飛影「お前は俺が油断しているようにみえるのか?」
躯「冗談だ。今のお前に死角はないさ」
飛影(奇淋か…)
奇淋の強さを飛影は一番よく知っている。
直属の戦士の中で最強の座を手に入れる為に、
乗り越えなければならない、大きな壁だったからだ。
このとき飛影は、奇淋と初めて出会った時の事を思い出していた。