幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #004「最強の戦士(序章)」
――飛影の回想
飛影は奇淋と初めて出会った時の事を思い出していた。
飛影が躯の直属の77人の戦士の一人となるため、
その座を狙って時雨との対決が行われた。
そしてその対決は一瞬で決着がつき、結果は相討ちとなったのだった。
対決の数日後まで時は遡る。
死んだ飛影と時雨の身体は、躯の手により、
槽の中に溜められた蘇生液につけられていた。
槽の側で、躯が回復の状況を見守っていた。
躯「俺の声が聞こえているだろう?目を開けてみろ飛影」
槽の中で飛影はゆっくりと目を開けた。
まだ頭の中がスッキリとしないが、時雨に斬られた傷跡は消えて、痛みはもう感じない。
躯「目を覚ましたか。蘇生液と俺の力でお前と時雨を蘇生させた」
飛影は横目で隣の槽で蘇生液につけられている時雨を見た。
飛影「チッ、余計なことを…」
躯「お前はこれから、俺の所でしっかりと働いてもらわないといけないからな。こんな所でくたばってもらっては困る」
飛影「フン」
槽の中から出ると衣服を身に付けはじめた。
躯「飛影」
躯の呼びかけに飛影は振り向く。
躯「お前に見せたいものがある」
飛影「見せたいものだと?」
躯「俺が時雨との勝負の前に言ったことを覚えているか?お前に俺の素顔を見せてやると約束をしていたからな」
シュルシュル
バサッ
躯は顔を隠す為に身に付けていた布を外した。
飛影「貴様は…!?」
布にくるまれて、これまで謎のベールに包まれていた躯の素顔が露になった。なんとその正体は男性ではなく、美しい女性であった。
だが、その美しい顔の半分は焼けただれて機械化されていた。
躯「俺が女で驚いたか?」
予想通りの飛影の反応を見て、躯ニヤリ。
飛影(まさか女とはな)
躯「俺は顔がわれると何かと動きづらくなるからな。直属の戦士と側近ぐらいにしか、素顔は見せていない」
素顔を見せた躯から感じとれる凄まじいまでの妖気。
かなり抑えられているとはいえ、飛影はその力に畏怖を覚えていた。
飛影「俺が強くなればなるほど、貴様との力の差が遠く感じる。化物め…。男か女など俺には関係ないさ」
躯「フッ、俺の強さが分かるなら、お前が強くなっている証。これからもっと強くなるさ」
躯の言葉を聞き、飛影は首にかけている二つの氷泪石をギュッと手で握った。
一つは飛影の物。もう一つは魔界に旅立つ際に、妹の雪菜から渡された物だ。
飛影「貴様が俺の氷泪石を腹に隠し持っていたとはな。どおりで俺の邪眼で探しても見つからないわけだ」
躯「お前が邪眼を身に付けてまで探し求めた、妹と氷泪石の行方。二つの目的を果たした今のお前は目的を見失い生き急いでいる。違うか?」
飛影(……!?)
躯「フッ」
飛影(チッ、不気味な野郎だ。俺の心の奥底まで見透していやがる)
躯はここで飛影に背中を向けると、部屋の出口に向かって歩き始めた。
飛影「何処へ行く?」
躯「そこで待っていろ。目覚めて早々だが、お前と手合わせをさせたい者がいる」
飛影「何者だ?」
躯「魔道本家奇淋。俺の直属の77人の戦士の中でも最強の男だ」
飛影「お前の組織のNo.2てとこか」
躯「そういうことだ。直ぐに戻る」
だんだん遠くなる躯の姿を眺めながら飛影は思う。
飛影(No.2か、俺の力は直属の戦士の中でも最弱の時雨と同等クラス。現在の俺とNo.2との力の差がどれほどのものか。手合わせでしっかりと見極めさせてもらうぜ)
――数分後
躯が奇淋を連れて現れた。
躯「待たせたな」
奇淋「躯様から話しは聞いている。私の名は奇淋。躯様の直属の戦士の一人だ」
甲冑を身に纏い、顔もマスクによって隠されて、目元しか分からない。
飛影(こいつが躯のNo.2か)
抑えていても感じる強い重圧感。
飛影は恐怖心よりも早くこの男と戦いたい衝動に駆られていた。
飛影「お前が奇淋か」
ブォォォォォォ!!!!!
飛影は攻撃的な妖気を放ち奇淋を挑発している。
奇淋(………)
躯(飛影、妖気は完全に元に戻っているようだな)
奇淋はチラッと躯の方を見る。
奇淋「なかなかの強さですね。時雨と五分に渡り合った男だけはあります。
躯様、この者と早速ですが、手合わせをして宜しいでしょうか?」
躯「かまわん。手加減はするなよ。思いっきりやれ」
奇淋「心得ました」
飛影「最強の戦士の力がどれほどのものか試させてもらうぞ」
カチャッ
ビューン!!!!
剣を抜いて戦闘態勢に入る飛影。
飛影の最強の戦士への挑戦が今始まろうとしていた。