nanaseの世界

このブログは週間少年ジャンプで連載していた、冨樫義博先生の原作漫画の幽✩遊☆白書の続編小説を中心に、映画のレビューや日々の出来事をメインにしています。

小説更新!!最新話公開中 幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #108「二回戦最終試合・凍矢vs戸熊(大会編)」

幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #067「予選開始(大会編)」

――魔界3番地区・魔界統一トーナメント会場

 

第二回魔界統一トーナメント予選の抽選がついに開始された。

魔界統一トーナメントの予選は、前の大会と同じく超巨大植物億年樹の上で行われる。

大会に参加した出場者は、128ブロックに分けられる。前回は出場者の首にリングがつけられ、それぞれがそれを奪い合うルールを採用していたが、今回は戦闘不能もしくは、降参することによって失格になるというルールに変更され、最後の一人になるまで戦い続けるバトルロワイアル方式となった。

出場選手たちが次々と抽選を引いていくなか128ブロック中で唯一71ブロックで波乱が起きた。

 

「お~~!!マジか!!?予選からいきなりかよ」

 

「前の大会で黄泉対修羅の親子対決っていう波乱があったが今回もかよ!!」

 

なんと北神と魔道本家奇淋が同じブロックで戦う事になったのだ。

抽選結果が映し出されているモニターを北神と奇淋は見ていた。

両者の目が合う。

 

「魔道本家奇淋か」


「かって雷禅の下でNo.2だった男・北神。面白そうだな」

 

予選とは思えない好カードに参加者、観客も大盛り上がり。

 

幽助が北神の肩に手を置いた。

「いきなり予選から強敵だな北神」

 

北神は頷くと溜息をついた。

「ええ。まさかいきなり奇淋と予選から戦う事になるとは思いませんでしたよ」

 

「あいつに勝てそうか?」

 

「やってみないと分かりませんがちょっと厳しいかもしれませんね」

 

「あいつは躯の所で飛影が来るまでNo.2だった男だよな」

 

「そうですね。幽助さん、蔵馬、飛影が魔界に来て、それぞれの国のNo.2の座につくまでは、私が雷禅軍、奇淋が躯軍、そして今は亡き鯱が黄泉軍のNo.2で長い間争ってきました。そして奇淋は我々の中でも頭一つ抜き出ていた存在でした」

 

「あいつ、前の大会で親父の仲間の電鳳と戦って負けたけどけっこう善戦していたんだよな」

 

「はい。かなり強いです。この三年間でどこまで強くなっているか分かりません。ですが勝敗を考えず試合では私の全てを出し尽くして戦うまでです」

 

「負けるんじゃねーぞ」

 

北神、ニコリ。
「ええ。かっての最大の好敵手と決着をつけるいい機会です。必ず勝ちます」

 

会場のモニターの画面が切り替わる。

画面には、予選会の抽選終了の文字が表示された。

そして樹里がステージに現れた。

 

「これで全ての予選の抽選会が終了しました。解説席の小兎さん」

 

樹里の呼びかけにモニターが切り替わり、解説席が画面に映し出された。

解説席には、小兎の姿が。

 

「はい、こちら解説の小兎です。樹里さん本当に御苦労様でした。予選の抽選会が終了しましたので、次は今大会の注目の選手を私がこれから紹介をしていきます」

 

モニターの画面に選手の姿が映し出された。

 

「まずは、前回の覇者であり現在の魔界の王、そして今大会の主催者でもある煙鬼選手は94ブロックです。優勝候補の筆頭ですね。前大会では準々決勝で優勝候補の躯選手を倒し、そして決勝では才蔵選手を倒して、見事に大会を制覇しました。今大会では二連覇の期待がかかっています」

 

煙鬼は顔をポリポリ掻きながら画面を見ている。

「やれやれ二連覇か。勝つのはいいが王の仕事は大変だからな」

 

「13ブロックには躯選手。その恐ろしいほどの強さは、魔界の三大勢力として君臨していた頃と変わらず、魔界最強クラスの実力は健在です。今大会でも優勝候補です」

 

躯、ニヤリ。

「フッ、最強クラスか」

 

「続いて6ブロックには、躯選手と並ぶ三大勢力の一角でありました黄泉選手。彼もまた優勝候補です。前大会で浦飯選手と60時間以上に渡る大会最長の時間を戦い抜きました。今回ももちろん優勝を狙って来ることでしょう」

 

 

「無論だ」

 

「続いて前大会の決勝で煙鬼選手と激戦を繰り広げ、惜しくも準優勝者となりました才蔵選手は22ブロックです。攻守のバランスが優れ、完成されたその力で優勝を狙います」

 

頷く才能。
「攻守のバランスか。確かにそうだな。あの解説の子はなかなか分かっている」

 

「続いて孤光選手が62ブロック。前大会の三回戦で北神選手、そして四回戦で優勝候補の黄泉選手を倒し会場に衝撃を走らせました。魔界で最速のスピードで優勝を狙います。ちなみに煙鬼選手の奥様でもあり、女性選手で唯一の人妻でもあります」

 

小兎の解説内容に顔をしかめる。

「唯一の人妻って言われるとなんか年を取っているように聞こえて嫌だね~」

 

小兎の紹介が続く中、次は幽助たちの紹介になった。

 

「続きまして36ブロックは浦飯選手。前大会の主催者でこの大会の元々の発案者でもあります。前大会の黄泉選手との熱い戦いは、手に汗を握る最高の試合でした。今大会ではどこまで勝ち進むか未知の存在です」


幽助、ニヤリ。

「どこまで勝ち進むかか。もちろん優勝までだぜ」

 

「元黄泉軍・軍事総長でありNo.2でもあった蔵馬選手は38ブロック。優しげな外見とは裏腹に非常に抗戦的であり尚且、冷静沈着な面を持ち合わせ持っています」


蔵馬、ニコリ。

「まあ、間違ってはいないな」

 

「そして85ブロックには、飛影選手。元躯軍77人の直属の戦士の中で最強の妖怪。第三の目である邪眼を使ってパトロールでも多いに活躍していました。この大会では間違いなく上位に食い込むと思われます」

 

飛影は目を閉じて無言で小兎の解説を聞いている。

 

「そして93ブロックには、今大会で唯一人の人間である桑原選手。主催者の煙鬼選手の特別な計らいでこの大会に参加。最強クラスの妖怪たちが集まる中で人間としてどこまで戦えるか見物です」

 

人間の桑原の参加は、妖怪たちをざわめかせた。

桑原を罵倒する言葉があちらこちらから出ていたが、

桑原自身は特に気にした様子は無かった。

 

「へへ。修行の成果を見せてやるぜ」

むしろ彼は燃えていた。

 

「北神選手と魔道本家奇淋選手は、国は違いますが長年の間No.2同士として凌ぎを削りあってきた好敵手。 その彼等が71ブロックで予選から激突します。一番注目を集めているブロックです」

 

「いきなり全力でいくしかないな」

 

「北神と長年に渡って決着がつかずじまいだったからな。決着をつけるいい機会だ。存分に戦わせてもらうぞ」

 

それから暫く小兎による選手紹介が続けられた。

 

「以上を持ちまして紹介を終わります。そして今から予選を開始致します」

 

――128ある億年樹の上にそれぞれブロック別に選手たたちが振り分けられた。

予選の開始の合図を待っている。

 

予選は128全てのブロックが同時に行われる。
この大会の為に128の億年樹がこの場に移植されたのだった。

 

ーー予選会場の上空

 

上空から審判の女性が会場全土を見回した。

 

「始め!」

 

審判の声が会場全土に響き渡る。

ついに第二回魔界統一トーナメントの予選が開始された。

 

――36ブロック

 

ガシッ

 

「よっしゃぁぁ!!行くぜ」

 

幽助は両手の拳をぶつけて気合いを入れた。

そして一気に駆け出した。

 

「オラァァ!!!」

 

幽助はまず一番近くにいた妖怪を一撃で倒した。

次の瞬間幽助の背後から別の妖怪が襲いかかってきた。

 

ガシッ

 

幽助は、左手の肘で相手の攻撃を受け止めた。

 

「甘えーぜ」

 

ドゴォォォ!!

 

幽助の右のストレートが相手の腹部に直撃した。

 

「ゲフッ……」

 

ドシャッ

 

妖怪はその場に崩れ落ちた。

 

 

幽助、ニヤリ。

「どんどんいくぜ」

 

――93ブロック

 

「人間風情が大会に参加してんじゃねー!!」

 

ビューン!!

 

「おっと」

 

桑原は敵の放ったストレートをかわした。

攻撃をかわした桑原は右手に霊気を集中。

 

ジジジ……

 

「霊剣!!!」

 

桑原の霊剣が妖怪を攻撃。

 

ビューン!!

 

ズバッ!!!

 

襲いかかってきた妖怪の腹を切り裂いた。

 

「ぐわっ!」

 

ドサッ

 

地面に呆気なく倒れる妖怪。

その様子を見ていた他の妖怪たちが集まってくる。

 

「あの人間やりやがった」

 

「一気にやっちまおうぜ!!」

 

桑原目掛けて複数の妖怪が同時に駆け出した。

 

「来るなら来てみやがれ!全部ぶっ倒してやる」

 

桑原は妖怪たちに向かって走っていった。

 

「うぉぉぉ!!!」

 

――38ブロック

 

「ハァッ!」

 

「うらぁぁ!!」

 

ビューン!!

 

二匹の妖怪が左右から同時に蔵馬にパンチを放った。

 

「風華円舞陣」

 

ズバッ!ズバッ!ズバッ!

 

「ぐわぁぁぁ!!」

 

「ぐぉぉぉ!!!」

 

研ぎ澄まされた花びらの刃によって、蔵馬に向かって来た妖怪たちは次々と身体を切り裂かれて倒れていく。

 

ドサッ!ドサッ

 

「俺に近づくと危険だ」

 

――85ブロック

 

「死ぬや!!」

 

妖怪は飛影に向かって走ってきた。

 

「雑魚が」

飛影はゆっくりと歩いて妖怪に向かっていった。

 

カチャ

 

そして腰の剣を手に取る。

 

ビューン!!

 

剣を抜くと横に一線。

 

ズバッ!!

 

「ぐわ!」

 

妖怪は飛影によって腹部を剣によって斬られていた。

 

ドシャッ

 

妖怪は地面に倒れた。

 

飛影はゆっくりと歩きながら次の相手に向かっていく。

 

「さっさと歯応えのある奴とやりたいとこだぜ」

 

――41ブロック

 

ここでは酔が暴れていた。

 

「オラァ!!」

 

片っ端から妖怪たちを殴り飛ばしていく。

完全に無双状態。

 

「楽勝!!」

 

――66ブロック

 

「魔妖妖」

 

シュルルルル

 

鈴駒の右手から妖気を込めたヨーヨーが前方から向かってくる妖怪たちに飛んでいく。

 

ドガッ!!

 

彼等の身体にヨーヨーが次々と当たっていく。

 

「うっ!!」

 

   「ガハッ!!」

 

ドシャッ

 

多数の妖怪が同時に地面に倒れた。

 

鈴駒、ニコリ。

「今回は流石ちゃんが出ていないから気が楽だわ」

 

――2ブロック

 

五匹の妖怪が一斉に鈴木に襲いかかる。

 

鈴木、ニヤリ。

「久しぶりに見せてやるか」

 

鈴木は意味のないポーズを決めた。

 

「レインボーサイクロン」

 

ドーン!!

 

「うわぁぁぁ」

恐怖に怯える妖怪たち。

 

ドガァァン!!!

 

鈴木が波長を変えた七色のレインボーサイクロンによって五匹の妖怪が一瞬で倒された。

 

――3ブロック

 

鈴木のすぐ隣の3ブロックでは凍矢が戦っていた。


「鈴木の奴、どうやらレインボーサイクロンを使ったようだな。相変わらず派手な奴だ」

 

「おりゃぁぁぁ」

 

ビューン

 

近くにいた妖怪が凍矢にパンチを放つ。

凍矢はその攻撃を素早くかわした。


「ハァッ!」

 

ドガッ!!

 

「ぐわぁぁ」

 

ドシャッ

 

凍矢が蹴りを放ち前方の敵を倒した。

 

「面倒だ。鈴木に負けずに俺も使ってやるか」

 

凍矢は左手の手の平に凍気の塊を集めて口元に持って来た。

 

魔笛三弾射」

 

ドドドド・・・!!

 

凍矢が凍気の塊を吹くと辺り一面にいる妖怪たちに向かって放たれた。

 

ドガ

 

ドゴ!

 

「がはっ!」

 

ドサッ!ドサッ!

 

次々と妖怪たちは倒されていった。

 

「陣も上手くやっているかな」

 

――111ブロック

 

「修羅旋風拳」

 

竜巻を帯びた修羅の右手で相手を殴りつけていた。

 

「早く幽助と戦いてーな」

 

――70ブロック

 

バッ!!

 

死々若丸は高く飛び上がると魔哭鳴斬剣を振りかざし、目の前にいる妖怪を思いっきり斬りつけた。

 

「爆吐髑蝕葬」

 

ドガァァァァァァ!!

 

「ぐわぁぁ」

 

ドシャッ


相手を倒した死々若丸の技によって地面は、大きく破裂した。そして技により現れた怨霊が近くにいた妖怪たちに向かっていった。

 

「なんだ、こ、こいつらは」

 

ヒュゥゥゥ・・・

 

「うわぁぁぁ!!」

 

辺りにいた妖怪たちは、怨霊に飲み込まれて倒されていった。


「ふう~」

 

大技を放った後で一息つく。

死々若丸は隣の71ブロックを見た。

 

「北神。前の大会での借りをお前に返さねばならない。奇淋に勝てよ。お前は俺が倒す」

 

――71ブロック

 

北神と奇淋を残して全ての妖怪は既に倒されていた。
そして両者は無言でお互いの目を見る。

 

北神vs奇淋

 

予選最大の戦いが今始まろとしていた。

 

続く

 

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幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #066「第二回魔界統一トーナメント開幕(大会編)」

――魔界の3番地区

 

現在の魔界の王・煙鬼のいる大統領府があるということで、魔界中に知られるこの地が魔界のこれからの運命を決める第二回魔界統一トーナメントの開催地である。

ここで煙鬼には王としての最後の仕事がある。

それは、魔界統一トーナメントの主催者としての役目である。

3番地区の中心地である大統領府から少し離れた先に設置された大会の会場。

そしてこの大会に使われる為に作られた様々な試合用のステージ。

 

ザワザワザワ

 

会場にはすでに大会に参加する多くの妖怪たちが集結していた。

 

前大会があまりにもハイレベルだった為か、前回より半分ぐらいのその数およそ三千強。

この大会に参加する妖怪たちは、この大会の為に修行を積み、優勝を虎視眈々と狙う猛者たちばかりである。

その者たちによって前大会を遥かに上回るハイレベルな試合がついに始まろうとしていた。


「よっと」

 

大会用に持って来た道着に着替えた幽助が、準備運動をしている。

そのすぐ横には、幽助と一緒に大会にやって来た蔵馬の姿があった。

そして幽助たちと少し離れた場所に、北神・東王・西山・南海の四人の姿。

また雷禅の喧嘩仲間たちの姿もあちらこちらに見える。

 

蔵馬が準備運動をしている幽助に声をかけた。

「幽助、いよいよ始まりますね」

 

「ああ。早く戦いたくてウズウズするぜ」

 

三年間待ちに待った大会が始まるのだ。

幽助の気分はハイテンション。

 

「お~い浦飯ィィィ!!蔵馬ァァァ!!

 

(!!)

 

めちゃくちゃ聞き慣れたこの声。

幽助と蔵馬は声が聞こえた先を見た。

 

「おっ!?」

 

「あれは桑原君!」


桑原が走って幽助たちの側にやって来た。

 

「よぉ!」

異世界である魔界に突然飛ばされて、ずっと気が張っていたせいか、久々の知っている顔との再会に満面の笑顔の桑原。

 

「元気そうだな桑原」


ペシペシペシと笑顔で桑原の頭を叩き始めた。

 

「痛て、痛てて。浦飯てめー!再会するなり何するんだコラ!!」

 

桑原は幽助に頭を叩かれながらも嬉しそうだ。

 

  「全くよー、心配かけさせやがって」

 

「元気そうでなによりですよ桑原君」

 

元気そうな桑原の姿を見て幽助と蔵馬は安心した。

 

「おう。心配かけて悪かったな浦飯、蔵馬」

 

蔵馬は桑原に人間界での出来事について話す事にした。

「桑原君を狙う連中と、俺も桑原君と喫茶店で別れたあの日に接触したよ」 

 

「そ、そうなのか?」

蔵馬にも比羅の仲間が接触していた事を知らなかった桑原は驚いた。

 

「ああ。詳しい話しは大会が終わってから話そう。奴らが桑原君を狙ってこの魔界まで追って来ているかどうかまだ分からないが油断だけはしないように」

 

「大丈夫だ!もし金髪の野郎が来ても修行の成果を奴らに見せつけてやるだけさ」

 

蔵馬、ニコリ。

「話しは聞いているよ。時雨に剣術を習ったんだってね。修行の成果を楽しみにしているよ」

 

修行によって実力がついて自信がついたのか胸を張る桑原。

 

「任せておけって! 」

 

幽助、ニヤリ。
「修行の成果を見せるっていって、いきなり予選落ちとかしたら俺は腹を抱えて笑うぞ」

 

「ケッ、パワーアップした俺様の力をたっぷりと見せつけてやるから見てな」 

 

桑原の背後からいきなり声が聞こえてくる。

「フン。相変わらず騒がしい男だ」

 

「誰が騒がしい男だコラァ!!」

 

桑原が振り向くとまた見知った顔が。

 

「あっ!、飛影じゃねーか」

 

飛影の目が一瞬、鋭くなる。

「桑原」

 

カチャッ

 

そして鞘に手をかける。

 

ビューン!!

 

飛影が腰に下げていた剣を抜くと桑原を斬りつけた。


ガシッ

 

桑原はその場から動かず瞬時に霊剣を作り出して、飛影の剣を受け止めた。

 

「危ねーじゃねーかよ」

突然の不意打ちに桑原は怒る。

 

飛影、ニヤリ。

「フッ、ちゃんと修行していたようだな」

 

当たりめーだ。死にものぐるいで修行したんだからよー」

 

蔵馬は幽助、桑原、飛影の三人の姿を見た。

「この四人がこうやって同じ場所に一緒に揃うのは、本当に久しぶりだな」


「言われて見れば」

 

「あの時以来だな」

 

「フッ」

 

飛影が魔界にいる為、この四人が全員揃ったのは、正聖神党事件以来だった。

 

「この四人が今回はそれぞれが敵同士になるとはいえ、また一緒に戦える事が俺は嬉しいな」

 

ずっとこの四人でいたいと願っていた蔵馬にとっては、

大会とはいえ嬉しかった。

 

「まあな。でも俺たちが対戦することになっても手加減なしで全力でぶつかるまでだ」

幽助は大会に燃えているため気合いが入っている。

 

「フン。俺は、元々手加減なんかしないぞ」

そして飛影も幽助同様に大会に燃えている。

 

「俺は手加減して欲しいぜ。でもよ~、本選の前の予選だけはお前たちといきなり当たりたくないぜ」

 

桑原の言葉に蔵馬は前の大会の予選での出来事を話す。

 

「前の大会は、予選から黄泉対修羅の親子が戦うサプライズがあったから今回も何があるか分からないですよ」

 

「そうなんか?あの生意気な小僧と黄泉の奴がな」

 

 

「幽助~~!!!」

 

ドーン!!

 

「!!?」

 

突然、何者かが幽助の名を呼ぶと後ろから体当たりして来た。 

 

ドテッ!!

 

幽助と突っ込んで来た者は思いっきり倒れた。

 

「いって~な……。いきなり誰だよ~」

 

「俺だよ幽助!陣だ。久しぶりだな」


「お~!!!陣!!!!!」 

 

ガシッ

 

幽助は笑いながら陣の首にヘッドロックかました。

 

「久しぶりだな~陣」


ギュウゥゥゥ~

 

「痛い痛い痛い!!」

 

「早速、二人共じゃれあってるな」

 

陣に続いて三人の男たちが歩いてやって来た。

 

「あっ、お前たち!!」

三人の姿を見た蔵馬が声を上げた。


三人の男たちとは凍矢・鈴木・死々若丸であった。

 

「久しぶりだな蔵馬」

凍矢はいつもの戦闘スタイルの姿。

 

「みんな、元気そうだ」

鈴木は背中に何やら色々と物を入れた袋を背負っている。

恐らくは闇アイテムだろう。

 

「フッ」

死々若丸は鈴木の肩に小鬼の姿で乗っている。

 

蔵馬、ニコリ。

「凍矢!、鈴木!、死々若!」

 

桑原も久しぶりの再会に嬉しそうにしている。

「なんか滅茶苦茶懐かしい連中ばかりだ」

 

死々若丸が鈴木の肩から下りると、大きな姿になる。

「なんだ?暗黒武術会の時に浦飯チームにいた潰れた顔がいるではないか」 

 

「つぶ、誰が潰れた顔だ!コラァ!!」

 

「だって潰れているだろう」

 

死々若丸は、桑原の顔に向かって指を指した。

 

「うがぁぁぁぁ!!」


ゴツン!

 

桑原が死々若丸にゲンコツをくらわせた。

 

「痛たっ!?」

 

死々若丸は桑原にどつかれた頭を擦りながら文句を言う。

 

「潰れた顔のくせにいきなり何をするんだ!俺の頭まで潰れたらどうする!」

 

「だぁぁぁ!!また潰れたって言った!ちょっと顔がいいからっていい気になるなよ!!」

 

死々若丸、ニヤリ。

「誰が見ても俺は美形だ。」

 

ピクッ

 

(美形なら美しい魔闘家と讃えられた(自称)この鈴木の方が上だ) 

鈴木が心の中で呟いた。

 

桑原と死々若丸がどつきあいを始めた。

 

凍矢と鈴木が桑原と死々若丸のやり取りを見ている。

「桑原とか本当に久しぶりだな」

 

「ああ。暗黒武術会以来だからな」

 

ここで酎と鈴駒が合流して来た。

 

「お~みんなまとめて揃ってやがるぜ」

 

「あらら。幽助と陣が桑原と死々若丸がじゃれあっているね」

 

凍矢が酔たちに気付く。

「酎も鈴駒も来たか」

 

酔と鈴駒がみんなの側にやって来た。

「よお!みんな元気か」


陣とじゃれあっていた幽助も酎たちの存在に気付いた。


幽助、ニコリ。

「おお!!酎!!久しぶりだな」

 

「幽助、久しぶりだな」

 

蔵馬が飛影に話しかける。

「飛影。これでみんな揃いましたね」 

 

飛影、ニヤリ。

「これから敵同士になるというのに、全くお気楽な連中ばかりだぜ」

 

ザワザワザワ

 

突然周辺にいた妖怪たちがざわめき始めた。

陣と鈴駒が様子を見に行く。

 

「何かあったか?」

 

「誰か大会に来たようだよ」

 

妖怪たちの輪が左右から割れた。

そこから歩いてくる者たちがいた。 

 

「む、躯だぜ」

 

「こ、こっちは、黄泉親子だ」

 

妖怪たちが冷や汗を掻くほど、躯と黄泉が強烈な存在感を醸し出していた。

 

躯が左から黄泉親子が右からそれぞれ幽助たちの下に歩いて来る。

 

彼等の様子を見ていた蔵馬が感心する。

「さすがだな。現れただけで周りにいる妖怪達が一瞬で彼等の妖気に呑まれて怯えている」 

 

躯が幽助の側に来た。

 

「躯」

 

「フッ、三年ぶりだな幽助」

 

「ああ。相変わらず凄い妖気だな」

 

幽助の姿を見る躯。

「見違えた。あれからかなり強くなっているようだな」

 

当たりめーだ。おめーたちに負けないように修行してきたからな」

 

躯、ニヤリ。

「前の大会でもお前に言ったが、実戦に勝る修行はない。全力を出した俺と互角に戦えるぐらいまでの力を俺と当たるまでにつけろよ」

 

「今でも負けるつもりはないんだけどな。おめーも俺と戦うまでに負けるんじゃねーぞ」

 

「フッ、今の俺は誰にも負けないさ」

 

そして黄泉親子がこちらにやって来ている。

躯は黄泉の顔を見た。

 

(……)

 

かっては好敵手だった両者。

久しぶりの再会となる。

 

「お前もこの男にまた敗れないように頑張るんだな。俺を失望させるなよ」

 

躯はそう言うと背を向けて立ち去っていった。

 

躯が立ち去った後に、黄泉と修羅が幽助たちの所に歩いて来た。

 

「浦飯。人間界では世話になったな」

 

「いや、世話になったのは俺たちの方だ。ありがとな」

 

「あっ、あいつは!?」

死々若丸とどつきあいをしていた桑原が黄泉に気付いた。

 

「あいつは」

黄泉も桑原の存在に気付いた。

 

「てめー。助けてくれた礼は言うが、いきなり魔界に飛ばすなよ。化物には襲われるわ、不気味な面の奴に追いかけられるわで酷い目にあったぜ」 


黄泉、ニヤリ。

「元気そうでなによりだ。いい冒険が出来ただろう?」

 

「いい冒険なわけがあるかー!!」

黄泉に噛み付こうとする桑原。

 

蔵馬「まあまあ、桑原君」

蔵馬が後ろから桑原を抑えている。

 

「蔵馬か。浦飯ともまた再戦したいが、お前と真剣に戦うのも面白いかもな」


「フッ、それはどうだろうな」

 

「黄泉!おめーとの勝負を楽しみにしているぜ」


「俺もだ浦飯」

 

これまでやり取りを見ていた修羅が幽助の隣にやって来た。

「幽助、僕もいる事を忘れるなよ」


「ああ。もちろんだ」


「修羅行くぞ」

 

「うん、パパ」

 

「浦飯、蔵馬、お前たちの健闘を祈る。また後でな」


「おう」


黄泉親子は幽助たちの前から立ち去った。

 

躯と黄泉親子を見ていた凍矢は厳しい顔。

「今回もかなり厳しい戦いになりそうだな」

 

隣にいた酔と鈴駒も同意。

「躯と黄泉。元魔界の三代勢力の二強。果たしてあいつらと当たって勝てるかな」

 

「あいつたち以外にも雷禅の仲間もいるし予選から当たりたくないね」

 

その時会場にアナウンスが流れ始めた。

話すのは樹里である。

 

「会場にお集まりの皆さん。それではこれより第二回魔界統一トーナメントの予選抽選会を行います」

 

彼女と仕事で関わりある幽助はいち早く気付いた。
「この声は、カルトの樹里だな」

 

飛影は軽く溜息。

「やれやれ。待ちくたびれたぜ」

 

桑原は合掌して天に祈る。

「予選から強い奴に当たりませんように」 

 

蔵馬の目が真剣になる。

「いよいよだな」

 

幽助、ニコリ。

「みんな行こうぜ」

 

第二回魔界統一トーナメントの本選に出場する128人を決める予選会のくじ引きがいよいよ始まる。

 

続く

 

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幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #065「そして大会へ(大会編・前章)」

――魔界2番地区・躯の居城

 

第二回魔界統一トーナメントが翌日に控え、桑原の

時雨との剣術修行は最終局面に突入していた。

 

桑原「うりゃぁぁぁ!!!」

 

ビューン!!!

 

霊剣を時雨の頭上目掛けて振り下ろす。

 

「ぬっ」

 

ガシッ!!

 

時雨は燐火円磔刀で、桑原の強烈な霊剣の一撃を受け止めた。

手応えのある一撃に、時雨は自然と笑みが溢れる。

 

「うむ。いい一撃だ。拙者の剣術をたった数日ながら随分とものにしたな。人間ながら大した男だ」

 

桑原の一撃は時雨の手が痺れるほど、強力になっていた。

 

「へへへ、やっと俺を褒めてくれたな。」

桑原の右手から霊剣が消え去った。

 

時雨は桑原の頭から足まで全身を見た。

「拙者の見立てでは、御主の今の実力は、霊界の基準で見るとすでにA級を遥かに超えてS級クラスに到達しているはずだ」

 

時雨が語るところによると、桑原は生まれつき剣の才能を持っていた。

僅かな期間とはいえ、剣術の達人から基本から実戦による本格的な修行を受けたことにより、秘めていた才能が一気に開花したのだ。


「マジかよ。俺にはあんまり実感がないが」

桑原は右手をギュッと握りしめた。

 

「数日間でこれだけ急激に霊力を上げるとは、おそれいったぞ。今の御主ならその剣もかなり使えるはずだ」

時雨は桑原のズボンの左のポケットを指差した。

 

桑原はズボンの左のポケットから、以前鈴木にもらった試しの剣を取り出した。


「これを使って次元刀を出せば、今までにない剣が出来た。前はこれを出しただけで霊気の消耗が激しくて気を失っていたからな」

 

「それは本当に変わった剣だな。強力なその能力は、大きく力の差がある相手にはかなり有効な筈だ。もう少し修行を詰めばきっとその道具を使わずに自らの手で作り出すことも出来るようになるぞ」

 

桑原は右手に次元刀を作り出した。

「だけどよー、やっぱり新しい剣は消耗が激しいから、大会はこの次元刀を使って戦うことになりそうだな」

 

時雨、ニヤリ。

「フッ、しかし次元を斬る防御不可能のその剣も特殊な能力だぞ。本当に御主は面白い男だ」

 

「そうか?」

 

「しかし御主を捕えようとした者たちは、御主の何の能力を必要としているのだろうな?」

 

「それがわかれば苦労がないけどよ。ま、考えれるとしたら試しの剣で次元刀を出したあの剣か……」

 

「とにか・・」

時雨が言いかけたその時、訓練所の外から足音が聞こえてきた。

 

桑原、瞬時にデレデレ顔。

「この足音は、雪菜さん!!」

 

桑原が言った通り間もなく訓練所に雪菜が入って来た。

 

時雨は困惑している。

(何で分かるのだ……。この男、底が知れん)

 

「雪菜さ~~ん」

雪菜に駆け寄る桑原のスピードはマッハを超えた。

 

「和真さん、時雨さん、躯さんが大会に参加する者は、明日は大会だから朝早くここを出発するので大会に備えてみんなゆっくり身体を休めるようにって言ってましたよ」

 

雪菜の言葉に時雨は頷く。

「確かにそうだな。心得た。桑原よ、修行はこれまでだ」

 

「は~い。わかりました!!」

 

(…………)

 

桑原は雪菜の隣であまりにも幸せそうな顔をしていた。

 

「やれやれだ」

時雨は苦笑いを浮かべながら、桑原と雪菜の二人が再会した時の事を思い出した。

 

ーー時雨の回想

 

それは数日前に遡る。

 

ガキーン!!

 

桑原の霊剣を時雨が弾く。


「桑原!もっと素早く動かないか!!」

 

「うぉぉぉぉ!!!」

 

死にもの狂いで時雨に襲いかかる。
だが再び弾かれる霊剣。

 

「何だその動きは!!情けないぞ!!」 

時雨の厳しい叱咤の声が訓練所に響き渡る。

 

ガキーン!!

 

「よしよし!その調子だ」

 

その時、複数の足音が訓練所の外から聞こえてきた。 

 

カチャッ

 

時雨は、燐火円磔刀を下げた。

「来客のようだ。修行は、一時中断だ」

 

「ハァハァ……。お、おう…」

 

シュゥゥゥ

 

桑原の右手からも霊剣が消えた。

 

訓練所の扉が開いた。

「おっ!やっているな」

 

桑原は訓練所に一番最初に入って来た男の顔を見て驚く。

相手が見知った顔だったからだ。

 

「久しぶりだな、桑原。暗黒武術会以来になるな。お前さん本当に魔界に飛ばされてやがったんだな」

 

「お、おめーは、酎!!?どうしてここに?」


そして酔に続いて躯が入って来た。

 

「これはこれは躯様」

時雨は躯の隣に行くと、酎の方に視線を向けて躯に話しかけた。

 

「あの者は、確か以前は黄泉の下にいた妖怪でしたね」

 

「そうだ。当時、黄泉の片腕だった蔵馬が黄泉の下に連れてきた妖怪の一人だ。あいつが桑原と知人とはな。不思議な縁だ」

 

「俺がここに来たのは、桑原、お前さんに会わせたい者がいてな」

そう言うと酔は楽しそうに桑原の背中をパンパンと叩く。

 

「痛てーよ。ったく誰だよ……」

 


酎、ニヤリ。

「今、お前さんが一番会いたがっている者だろうよ。おい嬢ちゃん、入ってきなよ」

 

「はい」

 

酎がそう言うと一人の少女が訓練所に入って来た。

 

「あ……」

 

桑原は驚きのあまりに言葉を失った。

彼の口は開いたままだ。

 

桑原の頭をガシッと掴む。

「な、会いたかっただろ?」

 

桑原が人生最大の声で叫ぶ。


「ゆ、ゆ、雪菜さ~~ん!!!」

 

そして桑原の大声が訓練所内に大きく響き渡った。

 

雪菜、ニコリ。
「和真さん。貴方が無事で良かったです」

 

雪菜は元気そうな桑原の顔を見て何かホッとしたような優しい笑みを浮かべた。

 

「雪菜さ~~ん!」

 

桑原は雪菜の下に駆け出した。

 

ガバッ!

 

雪菜の手を取る桑原。

「え……!?」

 

ギュッ!!

 

「きゃあ!?」

 

桑原は無意識に雪菜を強く強く抱きしめていた。

 

「雪菜さん……。無事で無事で本当に良かったっす」

 

突然の出来事にどうしていいか分からず顔を赤くする雪菜。

 

「か、和真さん……」


雪菜は目を閉じて安心した顔で桑原の胸に顔を埋めた。

 

酔が笑顔で冷やかす。
「やれやれ、俺たちもいるのによ~」

(良かったな。桑原、お嬢ちゃん)

 

「躯様」

 

「何だ、時雨?」

 

時雨は小声で躯に耳打ち。

 

《あの氷女は飛影の妹です》

 

「そうか。あの氷女がな」

 

躯はなるほどっと雪菜の顔を見た。

 

さらに冷やかす酔。
「おいおい、お前さんたちはいつまで抱きあってんだ?」

 

(!!)

 

桑原と雪菜は酔の言葉にはっとなる。

 

バッ

 

桑原と雪菜は慌てて離れた。

 

「は、ははは……」

 

桑原は顔を真っ赤にして照れた表情。

雪菜は下をうつむき顔から耳まで真っ赤になっていた。

 

「いいね~お前さんたち。初々しいぜ」

 

「からかうなよ、酎!親父かてめえは!」

酔に噛み付く桑原。

 

「照れるな、照れるな。みんな分かっているから」

 

雪菜、ニコリ。
「いきなりでちょっとびっくりしましたが、和真さんと本当に無事でまた再会出来て嬉しいです」

 

「雪菜さん」

 

桑原と雪菜の間にラブオーラがでていた。

 

躯がそれを見てやれやれと溜息をつく。

「盛り上がっている所に悪いが桑原に話しがある」


桑原「話し?」

 

ーー時雨の回想終わり

 

(そして躯様が桑原に大会への参加の事をお話しになったんだったな) 

 

「おい、時雨!」

 

「何だ桑原?」

 

桑原は時雨の目の前まで来ると頭を下げた。

「俺にお前の剣術を教えてくれてありがとうな」

 

時雨、ニヤリ。
「ああ。よく拙者の厳しい修行について来れたな。拙者から学んだ事を活かして御主の大切な者をしっかり守れよ」

 

時雨はチラッと雪菜を見た。

 

(?)

 

雪菜は不思議そうな顔で桑原の顔を見た。

時雨の言葉の意味を理解した桑原もニヤリ。

 

「ああ。俺が絶対に守ってみせるぜい」

 

時雨は笑みを浮かべると訓練所を出る為、入口に向かう。

そして扉の前で足を止めた。

振り向かずに桑原に背を向けたまま話し出した。

 

「桑原。大会が始まればもはや拙者と御主は師弟関係ではない。拙者ともし対戦する事があれば、御主に拙者が教えた事の全てを出しつくすつもりで向かってこい」

 

「ああ。あんたに習った全てを出しつくしてそして俺が勝つ」

 

「楽しみにしているぞ。明日は早い。ゆっくり身体を休めろ」

 

「おう」

 

時雨はそう言うと訓練所を後にした。

 

「時雨さんって強くて優しい方ですね」

 

「そうっすね」

(時雨、ありがとうな)

 

桑原は時雨に学んだ剣術と新たな力を武器に大会に挑む。

 

ーー魔界3番地区・大統領府

 

幽助は雷禅の墓参りの後、同じく墓参りに来ていた煙鬼たちと合流し、大会がある3番地区に一緒に行った。

そして今は大会までの間に、大統領に滞在していた。

楽越とは3番地区に到着した時点で別れた。

大会での再会を約束して。

そしてゆりとも雷禅の墓参りの翌日に別れた。

彼女が7番地区に行く当初の目的の知り合いの元に行くとの事だった。

大会が始まれば幽助たちの応援に行くとの言葉を残して。

大会を翌日に控えて、幽助は煙鬼から借りている部屋の中で、大会でのイメージトレーニングをしていた。

しばらくイメージトレーニングをしていると、部屋のドアをコンコンコンと誰かがノックした。

 

「鍵空いてるぜ」

 

幽助がそう言うとガチャッと部屋のドアが開いた。

 

「煙鬼に聞いたら幽助がここにいるって聞いてね」

 

ドアを開けて部屋に入って来たのは蔵馬だった。

 

「お、蔵馬じゃねーか。今着いたのか?」

 

蔵馬、ニコリ。

「まあね。幽助の後を直ぐに追いかけるつもりだったんだけどね。人間界でちょっと色々あったから、着いたのはついさっきだよ。ギリギリ大会に間に合って良かった」

 

蔵馬は部屋の中に入ると幽助のベッドに座った。

蔵馬は幽助と別れてからの人間界での話しをした。

幽助を一番驚かせたのは、蔵馬に人間の彼女が出来たという事だった。

幽助は蔵馬を冷やかしつつも、蔵馬の新しい門出を祝福したのだった。

 

「蔵馬は、今日はこれからどうするんだ?」

 

「俺は、ここに残って明日からの大会に、備えて回復用の薬草の調合と戦いに使う植物の手入れでもしているよ。今回の大会は、前の大会以上に激しい戦いが予想されるからね」

 

「あれから三年も立っているんだ。みんなかなり強くなっているだろうぜ。陣や酎たちにも明日会えるのが楽しみだぜ」

 

幽助は早くみんなに会いたくて身体がウズウズしているようだ。

 

「煙鬼から聞いたが、その酎が雪菜ちゃんを保護してくれたみたいだね。桑原君が保護されていた躯のとこに彼女を連れて来てくれるとは思わなかったよ」

 

「ああ。そうだな」

 

「とにかく桑原君と雪菜ちゃんの無事の情報が煙鬼の所に入って来て良かった。彼等も躯たちと一緒にここに来るらしいし明日には会えますよ」

 

幽助と蔵馬の脳裏に元気な桑原の姿が浮かんでいた。

 

「しかしよー。煙鬼のおっさんからあの話しを聞いた時は、本当に驚いたぜ。まさか桑原の奴が大会に参加するなんてよ」

 

幽助の中では、桑原は人間界に直ぐに送り返されると予想していた。

意外な展開に正直驚いている。

 

「躯の提案らしい。それに下手に彼を保護して警護するより、大会に参加させてしまった方が魔界の猛者が揃う大会だから、奴等が桑原君を追って魔界に来たとしても簡単には、手を出しづらいだろうからね」

 

「そうだな」

 

ガシャ!!

 

部屋の窓が急に開き、強い魔界の風が部屋に吹き込むと

窓にかかっていたカーテンが激しく揺れ始めた。 

幽助と蔵馬は窓の方を向くと笑みを浮かべる。

 

「久しぶりですね。わざわざそんな所から入って来なくてもここの部屋の入口から入って来たらいいのに」

 

「まったくだぜ」

 

部屋の窓から鋭い目つきをした小柄な男が入ってきた。

 

「いちいち面倒だからだ。お前等に会えればそれでいい」

 

蔵馬、ニコリ

「相変わらずだな飛影。とにかく元気そうじゃあないですか」

 

「ああ。邪眼でお前と幽助がここにいるのが分かったのでな」

 

幽助が嬉しそうにガシッと飛影と肩を組んだ。

「久しぶりじゃねーか、飛影。元気だったか」

 

「チッ、離れろ」

暑苦しくて嫌がる飛影。

 

「飛影、魔界でのパトロール生活はどうです?貴方は、物足りないでしょう?」 

 

飛影が幽助の顔を押しのけて無理矢理剥がす。

「退屈だな。こんなくだらないものは。大会で俺が優勝してさっさと廃止にしてやるぜ」

 

飛影はうんざりした顔を見せた。

本当に嫌なのだろう。

 

「ハハハ。飛影には、そうかも知れないな」

 

「フン」

 

「飛影。躯の近くにいるお前の事だから、桑原君が異質な気を持つ謎の連中に狙われていることと、桑原君たちが黄泉によって魔界に飛ばされてきているのは知っているのだろう?」

 

頷く飛影。

「ああ。桑原を捕獲した時に、直接あいつから話しを聞いたからな」

 

「奴らの話しだと、俺たちの事を知っている者が奴らと接触して、桑原君や俺たちの事を彼等に教えていた。考えられるとしたら暗黒武術会の参加者か仙水の仲間の誰かと俺は睨んでいるが、飛影はどう思う?」

 

「誰でもいいさ。目障りな連中は、みんな倒してしまえばいいだけだからな」

 

飛影の答えに幽助も同意する。

「まったくだ。全部ぶったおしてやるぜ」

 

「フッ、お前たちらしいな。それで飛影、桑原君は元気にしているのか?」

 

「桑原とは、捕獲した後は直接会ってはいないが元気だ。あの馬鹿は時雨に剣術を習っているようだぜ」

 

「お、桑原の奴、スゲーじゃあねーか」

 

時雨の名前に蔵馬が強く反応する。

「あの時雨にか?」

 

飛影、ニヤリ。

「そういえばお前は奴と前回の大会の二回戦で戦っていたな」

 

「ああ。凄まじい剣術の使い手だった。倒すのにかなり苦労したよ」 

 

「少し気になって、桑原の修行を覗いてみたが、時雨が本格的に剣術を教えていたのには驚いたぜ」

 

「確か前回の大会で、時雨と俺が戦った後にお前が言っていたな。飛影の剣術を教えたのと邪眼の移植は、時雨の手によるものだと」 


「ああ。俺の邪眼と剣術の基礎は、奴によるものだ。だが俺の剣技は、奴から習った基礎を基に我流で磨いたものだかな」

 

蔵馬、ニコリ。
「でも良かったじゃあないですか飛影。弟弟子が出来て」

 

「何を馬鹿な事を言っている。剣を時雨から確かに習ったが、俺はあいつを師匠とは思っていないぜ」

 

「桑原君は、霊剣や次元刀という剣を武器に使うが剣に関しては、全くの素人だから本格的な剣術を時雨から習えば格段に強くなるでしょうね」

 

「さあな。だがあの馬鹿にしては頑張っているようだぜ」

 

「そういえば雪菜ちゃんとは、もう会ったのか?」

 

ピクッ

 

雪菜の名前が蔵馬の口からでてきて飛影の表情が少し変化した。

 

「ああ……」

 

蔵馬は飛影の様子から何かあったのだと感じ取る。

 

「煙鬼から聞いた話しだと、酎が見つけて雪菜ちゃんを保護し、桑原君のいる躯の所に連れて来たそうだけど、桑原君のいる所を酎に教えたのは、飛影お前だろう?」

 

蔵馬の鋭い指摘に恐れ入った飛影。

「チッ、相変わらず勘の鋭い野郎だ。雷禅の仲間の家で雪菜の無事が確認出来たから、あいつに会わずに帰るつもりだったが、帰り際に酎の奴とばったり会ってな、奴によって強引に引き会わされてしまった」

 

「フッ、そうだったのか。折角、雪菜ちゃんが魔界に来ているんだ。飛影、もうそろそろあの子にお前が彼女の兄だと言うことを名乗ってやったらどうだ?」

 

「どいつもこいつも俺に名乗れとうるさいぜ」

 

蔵馬、ニコリ。

「その言い方だと俺以外にも誰かに言われているんだな」

 

「酎と会った後に、雷禅の仲間だった棗とかいう女にも会ったが、奴が俺が雪菜の兄だと気付きやがった。全くお前と同様に勘の鋭い女だぜ」

 

飛影は、幽助と蔵馬に棗との出来事を話した。

 

「なるほどな。やっぱ親父の仲間はするどいんだな」

 

「棗がそんなことをね。大会で当たったらお前にとっては大きな強敵になるな」

 

「俺があの女に勝てばいいだけの事だ。今の俺なら負ける相手でもないし大した問題でもない」

 

「相手は、あなたに雪菜ちゃんの兄と名乗らせたいばかりに実力以上の力を出してくると思うけど。油断していると倒されちゃいますよ」

 

「あいつの強さは、前の大会で躯とやりあっているのを見たが、かなりのものだというのは分かっている。だがそれでも今の俺は負けないさ」

 

「まあいいですけどね。勝負にもし負けて兄と言うのを名乗らせられるのは、ちょっとカッコ悪いですよ飛影」

 

蔵馬はちょっと飛影をからかっているようだ。

 

「うるさいな。俺が負けないっていったら絶対に負けない」

蔵馬にからかわれたからかちょっとムキになっていた。

 

「ハハハ、冗談ですよ。飛影には油断はないでしょうからね」

 

「フン」 

 

「飛影」

蔵馬は真面目な顔になっていた。

 

「俺は勝負とか抜きで、雪菜ちゃんにお前が兄だと名乗って欲しいと思っている。今後のお前の為にも雪菜ちゃんの為にも」

 

蔵馬に言われて面白くない飛影。

「フン。要らぬお世話だ。俺の心配より、お前こそ明日からの大会での自分の事を心配したらどうだ」

 

「御心配なく。最初はあの大会で優勝出来る力の持ち主なら、誰が優勝しても悪い世界に成らないと思ったから大会には出ないつもりでいたが、大会に出るからには全力でやらせてもらうよ」 

 

「フッ、抗戦的なお前のことだ。出ないわけがない」

 

「否定はしないさ」

 

幽助は蔵馬と飛影の後ろにソッと近付くと後ろから二人の肩を抱き締める。

 

「ゆ、幽助」

 

「またか貴様。暑いから離れろ」

 

幽助、ニヤリ。

「明日から始まる大会。俺はおめーらにも躯や黄泉にも負けない。優勝してみせるぜ」

 

蔵馬と飛影は顔を見合わす。

 

蔵馬、ニコリ。

「フフ、幽助とは戦ったことないから一度戦ってみたいですね」

 

飛影もニヤリ。

「俺は例え誰でも立ちはだかる者は全員倒す。幽助、お前もな」

 

「大会、沢山暴れてやろうぜ」

 

幽助、蔵馬、飛影、それぞれの思いを胸に秘めて大会に挑む。

そして翌日。

新たな魔界の王を決める第二回魔界統一トーナメントがついに開幕する。

 

大会編へ続く

 

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雷禅(らいぜん)

雷禅(らいぜん)

f:id:nanase1500:20200620111131j:image

声:菅生隆之 


魔界三大妖怪の一人。 


「闘神」の異名を持つ魔界でも最強クラスの 
妖怪。

食人鬼の一種。幽助の先祖で(遺伝子上)、
彼の父親と呼ぶべき存在。

人間 の女性(食脱医師の女)の生き様と目に惚 れ、その女性と一晩だけ愛し合った。

お互いに再会の約束をしなかったが、別れ際に彼自身は、再会するまで人間を食さないと心に誓う。

その結果、700年近くもの間食事をとらず、栄養失調に陥ったことで力が著しく衰 え、やがて幽助の眼前で「あー、腹へったな」と言い残し飢死する。

魔界の行く末を見 抜いていたらしく、食人鬼のような存在は過渡期における突然変異のような存在だと考え、将来の魔界に必要なくなるという考えも持っていた。 

三大妖怪の中では最も年長で、人を食べてい た全盛期は、ライバル関係の黄泉や&躯、仲間であり後に魔界統一トーナメント覇者と なる煙鬼ですら、問題にならない程の圧倒的戦闘力を誇っていたらしい。 

アニメでは、平安時代に人間により手負いになり、幽助の遺伝上の母のもとに逃げ込むという描写が存在した。

黄泉の諜報員が測定した戦力データ:TP(妖 力値)1,322,000、HP(体力)

OP(攻撃力)424,000、DP(守備力) 352,000、SP(特殊能力)86,000。

(この数値が最高時の力では無い) 

髪の色は原作の完全版のイラストでは金色だが、アニメでは白髪だった。 

 

2ND STAGEでは、雷禅の遺体が眠る墓は、北神たちにより守られて、一部の者にしかその場所は知らされていなかった。

魔界に戻ってきた幽助と一緒に墓参りに来た、ゆりによよって、その墓の場所は闇撫の樹の知るところとなる。

そして闇撫の樹の手により、雷禅の遺体は悪用されることになる。

幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #064「雷禅の命日(大会編・前章)」

ーー7番地区・雷禅の墓

 

幽助は第二回魔界統一トーナメントが行われる3番地区に向かう前に、7番地区に寄ったのは、遺伝上の父である雷禅の墓参り。

ようやく目的地である雷禅が眠る墓に到着した。

 

幽助の背中に乗るゆりがひょこっと顔を出す。

 

「幽助、ここが貴方のお父さんの墓がある場所なの?」

 

幽助が頷く。

「ああ。ここが親父の墓だ」

 

7番地区から19番地区との境にあたる場所に雷禅の墓がある。

巨大な岩の一部を切り取り、そこに雷禅の墓石が作られ、雷禅の遺体はそこに埋葬された。

周りには森も少なく、巨大な岩壁が立ち並ぶ。

荒野に近い感じで、何も無い場所である。

ここを通る妖怪も殆どいない。

一国を支配していた妖怪が眠る墓としては、非常に寂しい場所だ。

 

幽助はゆりを地面に下ろすと、墓の前まで歩いていく。

墓の前に来ると幽助はドスンとその場に座り胡座をかく。

北神たちはその様子を後ろで見ている。

 

(国王、幽助さんが来てくれましたよ)

 

幽助は墓石に声をかけた。

「ここに来るまで色々あってな、遅くなっちまった。間に合って良かったぜ。今日はあんたの命日だったよな。来てやったぜ。親父」

 

『よお!息子』

 

墓石から雷禅の声が聞こえる。

他の者には聞こえていない。

幽助の目にはうっすらと在りし日の雷禅の姿が映っていた。

それはもしかしたら幽助だけにしか見えない幻だったのかもしれない。

 

「今日で親父が死んでちょうど三年目だな」

 

雷禅、ニヤリ。
『俺の命日を覚えていたか。いい心がけだ。オシメがやっと取れたか?』

 

相変わらずの雷禅の言葉に幽助は嬉しくなり、ニコリと笑う。

「へへっ。相変わらずだな、クソ親父」

 

『三年もここに顔を見せないで何をしていた?』

 

雷禅からの質問を聞いて、ちょっと申し訳なさそうな顔になる。

「人間界で色々とな。ずっと墓参りに来なくて悪かったな」

 

『三年ぶりにお前が来るとは、何か魔界やお前のまわりであったんだろうな』

 

「まあな。魔界が大きく変わる話しがあるぜ。明日から次の魔界の王を決める魔界統一トーナメントがあるんだ。」

 

大会の概要を雷禅に説明する。

 

『ほう。また面白い事になってんじゃねえか!俺が生きていたら暴れてやるのだがな』

ニヤニヤ笑って楽しそうに話す。

 

「てめえがさっさとくたばるからだ。悔しかったら生き返って大会にでて暴れちまぇ」

 

『 けっ、無理いうな。生き返れるなら苦労はないぜ。だがな、死んだとはいえ俺の肉体自体は朽ちていないぜ。まあ、俺が出たらあまりの強さに大会がしらけてしまうだろうがな』

 

「全盛期の強さの親父と戦ってみたかったぜ。煙鬼のおっさんたちから話しを聞いたけど、おっさんたちより遥かに強かったっていうじゃねーか」

 

幽助の言葉にうんうんと頷く。
「まあ、俺は最強だからな」

 

「自分でいってら」

幽助は苦笑いを浮かべた。


『まぁ、大会を頑張れや息子」 

 

雷禅のエールに対して親指を立てる幽助。

「ああ、もちろんだぜ。親父が早く死んだことを後悔させるぐらい派手な大会にしてやるぜ」

 

『フン、言ってくれるな。俺を驚かしたいならお前が優勝して魔界の王になってその姿を俺に見せろよ。それが出来たら俺はお前に言ってやるよ。やっと息子がオシメが取れて一人前になりましたとな』

 

幽助、ニヤリ。
「ああ。任せておけってクソ親父」

 

『結果を楽しみにしといてやる。また来いよ。そして魔界をしっかりっと頼んだぞ。バカ息子』


「大会が終わったらまた来てやるぜ」 

 

『フッ』

 

雷禅が微笑むとその姿が消えた。

幽助はゆっくりと立ち上がると北神たちの側にいく。

北神が戻ってきた幽助に声をかける。

 

「親子の会話は終わりましたか」

 

幽助はニコリと笑うと頷く。

 

「そうですか。それでは私たちもお参りします」

 

北神、東王、西山、南海たちは並んで、亡き主の墓を拝む。

それに続いて、ゆりも拝んだ。

 

幽助は後ろに下がってみんながお墓を拝むのを見ている。

北神たちに幽助は感謝していた。

雷禅の息子であるのにもかかわらずここには残らず人間界に戻った自分に対して、彼等は心の内には思うところがもしかしたらあるかもしれない。

でも国王だった雷禅が死に、国が解体した後も変わらず忠義を尽くして墓を守ってくれている。

彼等にはいつか報わねばならないと強く思っている。

 

北神たちがお参りを終えて戻ってきた。

「北神、それにお前等、俺がいない間、俺の代わりに親父の墓を守ってもらって本当に悪かったな」

 

「雷禅国王が亡くなり国も解体してしまった今でも、あの方は私たちの王に変わりはありませんから。これからも国王のお墓をお守りするつもりでいます」

 

北神の横にいる東王、西山、南海も同時に頷く。

 

「すまねえ。親父の墓を頼む。俺も今回のように、親父の命日は毎年必ず顔を出すようにする」

 

北神、ニコリ。

「そうしてください。貴方がここに来てくれたら、国王も喜ばれますから」

 

「分かったぜ。さてと墓参りも終わったことだし、戻るか」

 

ゆりを背中に乗せて、帰る支度をしていた幽助の前に来客たちが現れた。

 

「お~~い幽助!!」

 

大きな声が辺り一面に響き渡った。

 

幽助たち6人が振り向くと、そこには煙鬼をはじめとした雷禅の昔の喧嘩仲間たち全員がこの場に集結していた。

 

親父の喧嘩仲間大集合に幽助は驚く。

「煙鬼のおっさん!?孤光にそれに才蔵、棗や他のみんなも来たのか?」

 

煙鬼、ニヤリ。
「今日は、大事な喧嘩仲間の命日だからな」

 

「おっさん、王の仕事はいいのかよ?」

 

「今日は雷禅の命日なのだから、仕事なんかほったらかしにしてでもここにくるよ」

胸を張って答える煙鬼。

 

孤光がフラフラな足取りで前に出て来る。
「幽助、あたしはね、年に一度こいつに文句を言ってやりに来ているのさ」

 

孤光は、そう言うと雷禅の墓の前に両手と両膝をついて喋り始めた。

 

「ヒクッ。雷禅のバカヤローー!!!」

 

孤光の大声が墓の周辺に響き渡った。

そして泣き出す。

 

「勝ちっぱなしで死んでしまうなんて許さないよ。全くもーー!!」

 

孤光はずっと泣きながら雷禅の墓に向かってひたすら文句を言っていた。

 

「おっさん、あれって?」

 

「孤光の奴は、朝から酔っ払っておるからな。雷禅の命日はいつもあの調子だよ。あいつ酔っ払うと泣く癖があるんだ」 

 

「あらあら」

幽助は苦笑いを浮かべた。

 

鉄山が声を上げる。

「みんな、雷禅のお墓を参ろうではないか」

 

鉄山がそう言うと棗や電鳳たちが雷禅の墓に花を供えた。

そしてみんなで雷禅の墓の前に座り拝んだ。


お墓参りが終わると帽子を被った精悍な顔つきの男が幽助の側に近付いて来た。

 

「元気そうだなボウズ」

 

「痩傑。久しぶりだな」

 

痩傑、ニヤリ。

「どうだ?少しはあれから強くなったのか?」

 

当たりめーだ。大会で修行の成果を見せてやるぜ」

 

「ボウズの気合いの入った妖気は、見ていて気持がいいからな。出来たらお前と戦いたいぜ。当たったら試合で俺がお前を鍛えてやるぞ」

 

「痩傑、そのボウズってのやめてくれよ~」

幽助は恥ずかしいのか、ちょっと困った顔。

 

「ははは。お前は雷禅の息子だからな。俺から見たら可愛いボウズだよ」


「おいおい」

幽助は苦笑いを浮かべた。

 

幽助と痩傑が話していたら、小柄で頭はスキンヘッド。頭の横に角が生えた男が今度は近付いてきた。

周である。

 

「その似合わない帽子の男じゃなくて、俺と大会で当たるといいな雷禅の息子」


「やれやれこの帽子は俺のトレードマークだぜ周よ。この帽子のセンスは、金物臭いメタル族のチビにはわからんだろうがな」

 

「けっ。お前のセンスなんか一生わからんわ」

 

「なにおう」

 

パチパチパチ

 

いきなり火花を散らす二人。

 

(この二人は、相変わらずだな」

やれやれって顔で定番の二人の喧嘩を見守る。

 

「幽助君。お久しぶり」


「幽助、元気そうじゃあないか!」

棗と九浄の双子の兄妹がやってきた。

 

「棗に九浄も久しぶりだな。棗、蔵馬に前に話しを聞いたが酎と付き合っているんだってな」

 

棗、頬が少し赤くなる。

どうやら照れているようだ。

「まあね。実は彼にプロポーズされたのよ」

 

「おいおいマジかよー。でもあいついい奴だし、棗なら俺は意外とお似合いと思うけどな」

 

「意外とは失礼ね。でもプロポーズを酎から受けたのはいいけど話しがちょっとややこしくなっていてね」

 

チラッと兄の九浄を見た。

 

棗、ニコリ。

「ね、九浄」

 

「な、何だよ」

ちょっとバツが悪い顔。

 

「はは~ん。なんか兄貴の九浄が言ってるんだな」

 

「そういうこと。大会で酎が九浄に勝つか、九浄より上の順位にいかないと結婚は認めないってこいつが言いだしたのよ。酎もそれを受けて燃えちゃっているし」

 

「あ、あんなムサイ男が可愛い妹の旦那になって俺の義弟になるのが反対なだけだ」

胸元で腕を組んでそっぽを向く。

 

幽助に小声で耳打ちする棗。

「口では、こう言っているけど実際はあいつのことを認めているのよ。本音は、酎がどこまでやれるか試したいのだと思うわよ」

 

幽助がニヤニヤ笑って九浄を見る。

「へ~。九浄、そうなんだ」 

 

「違うわ」

九浄は慌てて否定した。


「まあ、そんな状況になっているってわけよ」

 

「ははは。でも酎の奴は、単純だから必死で頑張るだろうぜ」

 

「そうね。幽助君と一緒で単純よ」

 

「……俺も単純なのか」

軽くへこむ。

 

「おお~い、みんな!!」

 

電鳳が声を上げて煙鬼たちに呼びかけた。

 

才蔵が電鳳に近付く。

「どうした、電鳳?」


「今日は、雷禅の命日だから派手な事が好きだったあいつの前でそろそろあれをやらないか?」

 

「なるほど。そうだな」

 

他の喧嘩仲間たちも顔を見合わせて頷く。

どうやらみんなで何かをやるようだ。

 

不思議そうに彼等の様子を見る幽助。

「あいつら何をやるんだ??」


北神が幽助の隣にやってくる。

「幽助さん、これは、国王が亡くなってから毎年の事ですよ。まあ見ていて下さい」

 

煙鬼たち喧嘩仲間全員が円状に並んだ。

煙鬼が声を上げた。

「よし!いくぞみんなー!!!」 

 

「オウ!!」

 

幽助は煙鬼たちが今から何をするのか気付いた。

「なあ、北神、これってもしかして?」

 

北神、ニコリ

「やっぱり分かりましたか。」

 

喧嘩仲間たちの気合いが入った声が辺り一面に響き渡る。

 

「うぉぉぉぉ!!!!!」

 

ドーーン!!!!

 

煙鬼たちは全力で一気に妖気を放出させた。

 

ビリビリビリと幽助の肌に凄まじいまでの妖気が伝わって来た。

 

「ははは。やっぱな。マジで親父の仲間たちはすげーぜ!!」

 

幽助は左手を右手の腕に軽く添えて、右手を空に向けて銃の形を作って構えた。

 

慌てる北神。

「幽助さん、何を??」

 

幽助、ニヤリ。

「せっかくだから俺も一発かましてやるぜ」

 

ジジジ…

 

幽助の右手の人差し指に巨大な妖気が集まっていく。

 

「受け取れクソ親父!!!妖丸!!!」

 

ズドォォォォン!!

 

幽助の放った妖丸が魔界の空に向かって放たれ、

ぐんぐん天に昇っていく。


「フッ、あいつめ」

煙鬼等、喧嘩仲間たちも天に昇っていく妖丸を見守る。

 

「へへっ。北神、あの親父に届いたかな」

 

北神、ニコリ。
「きっと国王に届いてますよ」

 

幽助は両頬を叩いて気合いを入れた。

 

「さてと大会はいっちょ全力でやってやるか!!」

 

幽助は三年ぶりの大会の優勝を目指していざ大会に挑む。

 

――幽助たちが立ち去った後の雷禅の墓

 

幽助たちが寝静まった後、ゆりは一人でまた雷禅の墓にやってきていた。

 

「ここがそうだよ」

 

ゆりは誰もいない場所に向かって話している。

 

ズズズ…

 

すると闇撫の樹が亜空間の中から姿を現した。

 

「ご苦労だったなゆり。上手くやったな」

 

ゆり、ニコリ。

「ここまで来るの本当に大変だったんだからね」

 

そう言うと樹にくっつく。

「でも本当に樹が生きていて良かった。あいつを倒したんだね!」

 

樹の身体には無数の傷跡がある。

激しい戦いを終えた後の姿だ。

樹はゆりの頭を優しく撫でた。

「ああ。あれは死闘と呼ぶに相応しい戦いだった。我々があいつに勝てたのは奇跡なのかもしれない」

 

樹は墓に近付くと墓石を触る。

 

「これが魔界最強の妖怪といわれた闘神・雷禅が眠っている墓か」

 

樹は雷禅の墓を見つめながら亜空間の中から壷のような物を取り出し、何かを始めた。 

 

3番地区で、間もなく魔界全土を巻き込む新たな王を決める大会が幕を開ける。

いよいよ前回を超える熱き男たちの闘いが始まろうとしていた。

その前に最後にあの男の行方を追う。

 

続く

 

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幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #063「魔界に来た者たち(大会編・前章)」

ーー7番地区・北神たちの居住地

 

楽越を見る黎明の顔は涼しく、どこか陰があった。

「その驚き方だと私が死んだと聞かされていたようだな」

 

頷く楽越。

「ああ。比羅から妖狐・蔵馬に倒されたと聞いていた」

 

死んだと思っていた者がいきなり目の前に現れたのだ、

まだ動機が収まらない。

 

「私は妖狐に敗れた。まともに戦えば私は勝てただろうが、私は自分の力を過信し、奴の力を甘く見過ぎていた」

前をはだけてオジギソウにやられた傷を楽越に見せる。

傷を凝視する楽越。

「結構、派手にやられたな。とにかくよく生きていたな」

 

黎明は傷を手で触る。

「この傷の借りは妖狐に必ず返す。奴には決して手を出すな」

 

楽越、ニヤリ。

「大丈夫だ。お前の獲物は取ったりしないぜ。今の俺が興味あるのは浦飯幽助だ。あいつと戦いたい」

 

そう言うと楽越はジャンプして木の高いところにある果物を取る。

「食うか黎明?」

 

「う、うむ」

楽越から果物をなんとなく受け取る黎明。

木を背にその場に腰を下ろして果物を食べる二人。

シュールな光景かもしれない。

 

「ところで俺に話しとはなんだ黎明?」

 

「そのことだが、どうしてお前が浦飯幽助たちと一緒にいるのだ」

 

浦飯幽助は黎明たちにとっては敵である。

黎明に瀕死の重症を負わした妖狐・蔵馬とも深い繋がりがある人物。

そんな者たちと仲良く行動をしている楽越が不思議でならないのだ。

楽越は頭をポリポリと掻きながらちょっと苦笑い。

この魔界に一人で来ている理由と幽助との出逢いについての流れを黎明に説明した。

 

「やっぱりそうか……。違う世界に来ているとはいえ、相変わらずの方向音痴……。勝手な単独行動……。お前はどれだけ比羅や弥勒を泣かすつもりか……」

 

深い溜息をつく。

楽越はどうやら元いた世界でも問題児のようだ。

 

「さて、私は行く。お前の話しだと比羅たちが魔界に来るというなら、私は彼等と合流する。お前は好きにしたらいいさ。どうせお前の勝手な行動は今に始まった事ではない」

そう言うと黎明は立ち上がった。

 

「悪いな黎明。俺はどうしても魔界の奴らと戦いたい。大会で大暴れしてやるぜ」

そう言うと楽越も立ち上がった。

 

「お前が魔界の強者を完膚なき叩きのめして奴らの戦力を削ぐのは、決して悪い話しではない。但し、私のように奴らをなめると足元をすくわれるぞ」

 

拳を強く握り締めて黎明に見せた。

「安心しろ。俺は実力だけなら王を除けば十二魔将最強だぜ。俺に油断はない。立ちはだかる者は全て破壊してやる」

 

黎明、ニコリ。

「お前の強さは誰もが認めるとこだ。ではまたな。まだここにいるなら浦飯幽助に正体がばれないようにしろよ」

 

楽越に告げると黎明は集落を出て、森の方へ走っていった。

 

黎明が走り抜けた集落の入口を見る楽越。

(黎明が生きていた。良かった。十二魔将は誰も欠けていない)

 

森の中を走り抜ける黎明。

(北神に何も言わずに集落を出たのは少々心残りだが、あいつが妖怪とはいえ、俺は命を助けてもらった。北神から受けた恩はいつか必ず返す)

 

ーー3番地区・とある崖の上

 

風に揺られて金髪の美しい髪をなびかせた端正な顔立ちの男が、大統領府とその先に見える大会の会場を眺めていた。

金髪の男の背後には彼が引き連れてきた9人の仲間たちがいた。

金髪の男の名は比羅。

桑原を捕えて何かを企んでいる者たちの中心的な人物である。

比羅は風に揺れる長い髪を手でおさえる。

 

「あれが魔界の王の煙鬼のいる大統領府とやらか」

 

比羅の直ぐ後ろにいた小柄の赤い髪の男・駁が答える。

 

「そうだな。あそこに煙鬼がいやがる。ここが現在は魔界の中心地として機能しているようだ」

 

「つまりあそこが樹が言っていた、新たな魔界の王を決める大会の会場か」

 

比羅の視線の先には複数の大会の会場、そして試合用の沢山のステージがあった。 

 

「そうみたいだな。比羅よ、あの樹という妖怪だが、あいつは何が目的で俺たちに近づいて来たんだ?」

 

駁は面白くないって顔をしている。妖怪に対してあまり良い感情を持っていないようだ。

 

比羅が駁の質問に答える。

「あの男は王の持つ秘宝の力を欲している。我々の目的が成就すれば、その見返りとして秘宝の力を使わせて欲しいと言っているようだ」

 

「なるほど、秘宝の力か。しかし比羅よ、樹の力は俺たちより遥かに下だが、あいつから何か得体のしれない力を感じるぜ。侮れない。あの男だけは決して油断はするなよ」

 

頷く比羅。

「フッ、分かっているさ。あいつは俺たちを利用するが、私たちも奴を利用すればいい」

 

「兄さん、一人勝手な行動をとっている楽越はもうこの場所に到着しているのだろうか?」

 

駁の横にいた者が口を開いた。

 

その姿は全身を鋼鉄の鎧を身につけ、顔は鋼鉄の仮面で隠れている。

一体どのような顔をしているのかすらわからない。

 

「おそらくはな。砂亜羅(サーラ)よ。楽越のように大会でお前も戦いたいのだろう?」

 

「長い間、血を見ていないからな。血が騒ぐ。魔界の猛者が集うこの大会で奴らと戦ってみたいものだ」

 

砂亜羅と呼ばれたこの人物も十二魔将の一人。

実は彼女は比羅の双子の妹である。

兄以上の激情化で、気性が荒い女性である。

 

「我々の戦力の分散は今はしたくない。大会が終われば桑原の捕獲の為に、どちらにしろ奴らと事を構える可能性が高い。それまでは我慢しろ」

 

「ああ、それは分かっている」

双子の兄の言葉に頷く。

ここで比羅は8人の仲間に告げた。

 

「我々の最大の目的は例の者・桑原の捕獲だ。必ず奴を国に連れて帰り、私たちの悲願を必ず果たす」

 

「オゥ!!!」

この場にいる8人の十二魔将は一斉に声を上げた。

そして魔界の王・煙鬼のいる大統領府を比羅は見た。

 

「私たちの世界はこの十二魔将が必ず守る。どんな手段を使ってもな。魔界よ、我々の糧となるがいい」

 

続く

 

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幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #062「三年ぶりの手合わせ(大会編・前章)」

ーー7番地区・北神たちの居住地

 

北神たちと再会した幽助は、久しぶりに彼等と語りあった後、近くの広場で北神と手合わせすることになった。

広場の中央で対峙する両者。

そのまわりには、東王、西山、南海ら元雷禅配下の幹部と配下たち、そして楽越とゆりが見守る。

黎明も建物の陰に隠れて様子を見ている。

バトルマニアである楽越は魔界の強者同士の手合わせに、戦士としての血が騒いでいる。

 

(楽しみだ。幽助が戦うところが見れる。相手もこの魔界でもかなりの強者のようだ。魔界の戦士たちの力見せてもらうぜ)

 

幽助と北神が手合わせするのは、前の大会の直前以来になる。

幽助は、手合わせ前のウォーミングアップの為、手足を動かしたり、入念に準備運動をしている。

 

北神は幽助の準備運動を見ている。

「こうして幽助さんと手合わせするのは、本当に久しぶりです。私も、そしてここにいる者たち全てがこの三年もの間、鍛錬をしてきました」

 

幽助、ニヤリ。

「そいつは俺も同じだぜ。手加減はしねーぞ北神」

 

幽助につられて北神もニコリ。

「それは私も一緒です。今の私が幽助さんとどれだけやれるのかを知る為にもお願いしますよ」

 

お互いに構えて戦闘態勢に入る。

西山が両者の様子を目で確認。

 

「始め!!」

 

西山の口から手合わせ開始が告げられた。

 

「行くぜ」

 

「行きますよ」

 

幽助と北神は同時に駆け出した。

先に攻撃を仕掛けたのは幽助。

 

「ウラァ!!」

 

強烈な右ストレートパンチを顔面目掛けて放つ。

北神はこれを得意の軟体術を使わずに、横に身体をずらしてかわした。

幽助はさらに攻撃を仕掛ける。

次は左ストレートパンチ。

北神はこれも身体を横にずらしてかわす。

攻撃を連続でかわされても幽助は構わず攻撃を続ける。

右、左と次から次へと連続でパンチを放つが北神は幽助の攻撃を身体の動きだけでかわしていく。

 

(軟体術で攻撃を直ぐにかわそうとする悪い癖がなくなっている。北神、いい動きだぜ)

 

今度は北神が幽助に攻撃を仕掛ける。

幽助と同様に右、左と次々とパンチを放つ。

幽助も繰り出されていくパンチを身体を横にずらしながら次々にかわしていく。

どちらにも攻撃がまだ一発も当たっていない。

両者の攻防は果てしなく続く。

激しく動き、お互いに身体が温まってきた。

 

ブォォォォォ!!!

 

幽助と北神が妖気を高める。

両者の身体から凄まじい妖気のエナジーが放出される。

 

北神の目が鋭くなる。

「幽助さん、行きますよ!!」

 

北神の首が伸びる。

北神の能力であり、最大の武器でもある軟体術だ。

伸ばした首が幽助に向かっていく。

 

(俺に巻きついて身体を締め付ける気だな。やらせねーよ)

 

身体を巻きつけられないように警戒する。

だが、幽助の予想は外れていた。

 

北神、ニヤリ。

「もらいましたよ。霧津流・硬弾」

北神の伸びた首が瞬時に硬化された。

硬化された北神の首は鉄球のような役割となる。

 

「ま、マジかよ!?」

 

まさかの軟体から硬体へ。

これまで幾度も手合わせして、北神の手の内を知り尽くしていた幽助であったが、予想外の攻撃に反応が遅れた。

 

ドガァァァァァ!!

 

幽助の肩に硬化された北神の首が直撃。

そのスピードと破壊力に、見守る観衆の誰もが幽助の身体が吹っ飛ばされると思った。

だが、幽助の身体は吹っ飛ばされていなかった。

北神の一撃は幽助の肩を直撃していたが、幽助は肩でその一撃を受け止めていた。

 

驚く北神。

「ゆ、幽助さん!?」

 

幽助、ニヤリ。

「意表を突かれちまったが、甘いぜ」

 

幽助の目がキラリと光る。

狙いは残された北神の身体。

 

バゴォォォ!!

 

硬化された北神の頭をアッパーで殴り飛ばす。

そして幽助は動いた。

 

ズキューン!!!

 

北神の身体目掛けて。

 

「オラァァ!!!」

 

ドゴォォォォォ!!!

 

北神の腹部に強烈なパンチ。

北神の身体は吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた。

 

幽助、ニコリ。

「俺の勝ちだ北神」

 

観衆たちから歓声が上がる。

「さすがは幽助さんだ」

 

「あの人はやっぱり強いな」

 

「勝者!浦飯幽助

西山が幽助の勝利を宣言した。

 

北神の伸びた首は硬体から軟体に戻り、身体に首が戻る。

そしてゆっくりと上半身を起こす。

 

「参りましたよ。完敗です」

 

「でもよー、俺も驚いたぜ。いきなり硬くなるとは流石に俺も思わねーよ」

 

北神に手を貸して立ち上がらせる。

 

「全く自信を無くしますよ。意表をついて幽助さんに攻撃を当てたのに殆ど攻撃が効いていないんですからね」

 

そう言うと幽助の耳元に近付く北神。

 

「貴方に攻撃が当たる直前、ほんの僅かな一瞬だけですが、幽助さんの姿が変わりました。あれが幽助さんの新たな力ですか?」

 

幽助、ニヤリ。

「まあな。そんなとこだ。他の連中は気付いていないようだな」

 

「やれやれですよ。貴方との差が縮まるどころか、逆に大きく開いてしまうとは」

 フ~ゥと残念そうに溜息をつく。

 

手合わせを終えた二人の元に観衆たちがやってきて幽助と北神をもみくちゃにする。

 

二人の手合わせを陰で見ていた黎明。

(あれが浦飯幽助か。桑原を捕獲する目的の我々にとって、奴は大きな障害となりそうだ)

 

そして幽助の戦いを近くで初めて見た楽越。

(いいね。強いよ幽助。願うならお前と大会で思いっきり戦いたいぜ)

 

ーー数時間後

 

北神との手合わせを終えてひと休憩を終えた幽助は、

これから遺伝上の父親の雷禅の墓参りに行くことにした。

墓参りに行くメンバーは、集落に残る楽越を除き、

幽助、ゆり、北神、東王、南海、西山の6名。

ゆり以外が秘密裏にされている雷禅の墓の場所を知る者であった。

 

幽助が背中に乗っているゆりに声をかける。

「ゆり、サンキューな。クソ親父の墓参りに着いてきてくれてよ」

 

ゆり、ニコリ。

「私こそここまで連れて来てくれてありがとう幽助」

 

「じゃあ行くぜ」

 

6名は雷禅の墓に向かう為、集落を出た。

幽助の背中の上でゆりの目つきが変わる。

 

(やっとだ。いよいよ私の目的が果たせる)

 

ーーその頃、集落に残っていた楽越は、近くの森の木に登り、果物を食べていた。

 

「ここの果物うめー!!」

 

人間界のバナナに似た果物をむさぼるように食べる。

 

「楽越!!」

 

木の下から楽越を呼ぶ声。

 

「うん?何だ?」

 

口に果物を頬張ったまま下を見る。

木の下を見た楽越に衝撃が走る。

 

「れ、黎明……」

思わず手から果物を下に落とした。

 

「何してるんだ。降りて来いよ」

そう言うと黎明はニヤリと笑う。

 

地面に降りた楽越。

恐る恐る顔を上げると死んだと比羅から聞かされていた

黎明がそこにいた。

黎明と楽越の目が合う。

 

「生きていたんだな、楽越……」

 

「楽越、お前に話しがある」

 

続く

 

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