幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #012「妖狐蔵馬(序章)」
義弟秀一を傷つけられた事に怒った蔵馬は、
ついに妖狐の姿に変貌を遂げたのだった。
妖狐蔵馬「人間界でこの姿にはなりたくなかったが、お前を許すわけにはいかないからな」
剣を両手で持ち、構えて戦闘態勢に入る黎明。
「行くぞ、妖狐!」
一気に駆け出して妖狐・蔵馬に斬りかかる。
妖狐蔵馬はその場から一歩も動かず妖気を高めていた。
ビューン!!
黎明の剣が妖狐蔵馬の首筋を狙って振りおろされる。
妖狐蔵馬「無駄だ」
妖狐蔵馬の立っている場所から1m手前の辺りから、大きな光が溢れ出る。
ドカァァァ!!
妖狐蔵馬の足もとが大きく割れると中から巨大な植物が出現した。
黎明「何!?」
巨大な植物は口を大きく開けると鋭い牙を見せる。そして大きな奇声を上げると黎明に襲いかかった。
黎明「ぬっ!」
ガチン!!!
咄嗟に剣で牙を防ぐ。
妖狐蔵馬「魔界のオジギソウだ。簡単には逃れられんぞ」
《ギギギ》
オジギソウが不気味な鳴き声を発している。
黎明はオジギソウに噛みつかれている剣から、手を放すとバックステップで後ろに飛ぶ。
《ギギギ》
妖狐蔵馬「どうやらオジギソウは、お前を敵と見なしたようだ」
黎明「くっ!」
オジギソウから15mぐらい離れた場所に着地すると、直ぐに両腕を横に広げると床に散乱しているコンクリートの破片を吸いよせる。
《ギギギ》
オジギソウは獲物の追跡を開始した。
黎明の両手にコンクリートの破片が集まる。
コンクリートは徐々にその形状が変化し巨大な剣に変貌を遂げた。
《ギギギ》
接近するオジギソウ。徐々に殺気を放ちだした。
黎明「雷撃閃」
巨大な剣に雷が宿る。
《ギィギギギ!!!》
大きな奇声を上げると口を大きく開けて、黎明を捕食するべく噛み付く。
黎明「ハァァー!!」
襲いかかるオジギソウに向かって飛びかかった。
ズバッ!ズバッ!っとオジギソウを次々と切り裂いていく。
黎明「これで終わりだ!」
両手で剣を握り、天に掲げると一気に振りおろす。剣には雷が宿っていた。
ズドォォ!!!
オジギソウは頭から一刀両断されるとともに全身に雷による高電流が流れる。
《ギ、ギ、ギギ・・》
ドーン!!!
地面に崩れ落ちて黒焦げになるオジギソウ。
黎明「もらったぞ!妖狐ォォォ!!!」
オジギソウを蹴ちらして、そのまま勢いに乗り、妖狐・蔵馬に襲いかかる。
だが、妖狐・蔵馬は冷静。
「悪いがこの程度でオジギソウから逃げられない」
妖狐・蔵馬は不敵な笑みを浮かべる。そしてこめかみに右手の人差し指をあてて呟く。
妖狐蔵馬「BANG!!」
半分に切り裂かれ、崩れ落ちた筈のオジギソウが、突如再生して黎明に襲いかかった。
黎明(!!?)
予想外の出来事に一瞬驚くが、すぐに対応。
ズバッ!ズバッ!ズバッ!
高速の斬撃でオジギソウを切り裂く。
黎明「こいつは厄介だ」
黎明はオジギソウを切り裂きながら、横目で妖狐蔵馬の様子を見る。そしてそこで気付く。
黎明(な、妖狐がいない!?)
いつの間にか妖狐蔵馬の姿が消えていた。
黎明「チッ!!」
慌てて妖狐・蔵馬を探す。だが、見つからない。
「ここだ」
黎明の背後に姿を現す妖狐蔵馬。
黎明「くっ、おのれー!!」
妖狐蔵馬が鋭い一撃を放つ。
「樹霊妖斬拳!!」
ズボォォ!!!
黎明の複部を妖狐・蔵馬の拳が完全に貫く。
黎明「ゲボォッ!!」
大量の青い血を吐きだし、苦しむ。
妖狐・蔵馬「ハァッ!」
ドガッ!
黎明の身体に突き刺した拳を抜くと、
身体を回転して回し蹴りで黎明の頭部を直撃する。
黎明「グワーッ!!」
後ろに吹き飛ぶ黎明。
その姿を妖狐蔵馬は冷酷な目で見る。
妖狐蔵馬「チェックメイトだ」
《ギギギ》
妖狐蔵馬の発した言葉を合図に、オジギソウが吹き飛んだ黎明の身体を捕まえる。そして全身を締め付けはじめた。
バキッ、ボキ、グキ
黎明「ぐわぁぁぁぁ!!」
絶叫と不気味な音が辺り一面に鳴り響く。
妖狐蔵馬「大口を叩いたわりには大したこともなかったな」
妖狐蔵馬がパチンと指を鳴らすとオジギソウは黎明を呑み込む。そしてもう一度指を鳴らすとオジギソウは姿を消した。
何事もなかったかのように辺りは静まり返る。だが、激しい戦いが行われた痕跡は残っていた。
妖狐蔵馬「秀一」
気を失っている秀一に近付くと元の南野秀一(蔵馬)の身体に戻った。
蔵馬は秀一を抱き起こすと揺すって目を覚まさせる。
蔵馬「大丈夫か?秀一」
秀一「う……」
ゆっくりと目をあける秀一。
秀一「・・・秀兄ィ・」
蔵馬「良かった。気がついたか秀一」
蔵馬は義弟に優しい笑みを浮かべる。
蔵馬「どうして建物の中に入ってきたんだ?」
秀一「秀兄ィが爆発した建物の中に作業員の人を助けに入ってから、中々戻らないから心配で心配で、秀兄ィに何かあったと思って、俺はいてもたってもいられなくて…」
蔵馬「すまない秀一。お前をこんな危険に合わせてしまって」
秀一「何いってんだよ、秀兄ィ。俺たち家族”だろ」
蔵馬「秀一…」
義弟の頭を優しく撫でる。
蔵馬「ああ、そうだな。でもこんな危険な事はもうしないでくれよ。お前も俺にとって大切な家族なんだから」
秀一「秀兄ィ!」
蔵馬の胸に飛込む秀一を受け止め、強く抱き締める。
蔵馬は目を閉じて優しい笑みを浮かべる、
「作業員の人も連れてここから出よう」
秀一「うん!」
建物の外に出て、空を見上げる蔵馬。
(倒すことは出来たが、恐ろしい使い手だった。奴から感じた異質な力や、奴らの目的が何だったのかはまだわからない。桑原君たちが気掛かりだ。彼らに何もなければいいが)
その頃、蔵馬の心配していたことが、既に現実となっていた。何故なら、かけ桑原たちに最大の脅威が訪れていたのだ。