幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #026「比羅の接触(序章)」
ーー桑原の自宅。
雪菜「和真さん、朝ですよ~。起きてください」
桑原(zzz…)
昨日の夜は飲み過ぎたせいか、よく眠っている。
雪菜「和真さん、起きてください」
桑原(う~ん…)
どこからか聞こえてくる声が心地よい。
雪菜「和真さん、今日はお出かけですよ」
桑原(…お出…か…け…)
雪菜「和真さ~ん!」
雪菜が肩を揺らして桑原を起こす。
しかしなかなか起きない。
だが、ここでまたあの視線が。
桑原(はっ!?)
ガバッっとベッドから勢いよく起き上がる。
雪菜「きゃあっ!」
突然目を開けて起きた桑原に、
雪菜もびっくり。
直ぐに部屋の窓を開けて辺りを見回した。
桑原(チクショー!またあの視線だぜ…)
雪菜「和真さんが急に起きるから驚きました」
桑原「あ…雪菜さんおはようっす…」
尻もちをついてる雪菜の手を取って立ち上がらせた。
もう一度窓の外を見る。外には誰もいない。
桑原(昨日はあの視線を感じなかったのにな)
雪菜「急に飛び起きてどうしたんですか?」
桑原「いやぁ。寝ぼけていただけっすよ」
雪菜が心配しないように誤魔化す。
雪菜「揺すっても全然起きなかったのに、
突然起きたから本当にびっくりしましたよ」
桑原「ハハハ、申し訳ないっす」
雪菜「改めておはようございます。和真さん」
桑原「へへっ、おはようっす雪菜さん」
頭が痛い。
昨日飲み過ぎたせいで二日酔いだ。
桑原(痛てて)
久しぶりの桑原軍団集結で話が弾んでしまい、
浴びるほどお酒を飲んでしまった。
桑原(しかし気持悪いな。あいつらと会ったのが久しぶりだったもんな。ついつい遅くまで飲んじまった…。昨日は霊気痛で、今日は二日酔いかよ)
両手を左右に振ってみた。
桑原(昨日はあれだけの霊気を使ったのに、痛みはもうあんまりないみてーだな)
両頬をパンっと叩く。
桑原「よしっ!」
――今日は雪菜の提案により、桑原の父の誕生日プレゼントを買いに出かけることになっていた。
雪菜が桑原宅にホームステイしてからは、
日頃からお世話になっている御礼だと言って、
毎年雪菜が中心となって、プレゼントとその日の料理を作っている。
桑原「雪菜さん、親父のプレゼントを買いに行く前に、ちょっと会いたい人がいるんですけどいいすか?」
雪菜「会いたい人ですか?」
桑原「あの建物の看板に書いている会社名を見たら、
誰か分かりますかね?」
そう言うと目の前に見える会社の看板を指差した。
雪菜「え…っと畑中建設…」
桑原「分かったっすか?」
雪菜、ニコリ。
雪菜「分かりました。蔵馬さんですね」
桑原「正解っす。さっき家を出る前に、会社の前を通るから、昼休みに会えるんだったらどこかで会わないかって蔵馬に電話で聞いたんっすよ」
雪菜「それで蔵馬さんは大丈夫だったんですか?」
桑原「もちろんっす。あの喫茶店で待ち合わせしているんですよ」
畑中建設近くにある喫茶店を指差した。
雪菜「蔵馬さんとお会いするのは久しぶりですから、
ちょっと嬉しいです」
桑原「俺も蔵馬に会うのは久しぶりっすよ」
雪菜「蔵馬さんはお店にもう来ているんですか?」
桑原「蔵馬の事だから来ていると思いますよ。行きましょう!」
雪菜「はい!」
ーー喫茶店
店員「いらっしゃいませ」
「お客様は2名様ですか?」
桑原「いや、知り合いが先に来ていると思うんだけど」
店内を見渡すと、テーブルの椅子に座ってコーヒーを飲んでいる蔵馬を発見した。
桑原「おっ!いたいた」
店員に一声かけて、
二人は蔵馬の座っている席に向かった。
「いよぉぉ~蔵馬!」
「お久しぶりです。蔵馬さん」
蔵馬「あっ、久しぶり!桑原君、雪菜ちゃん」
声をかけると二人の姿に気付いた蔵馬は優しい顔で微笑んだ。
桑原「悪いな蔵馬。呼び出してよ。お前と久しぶりに話しがしたくてな」
久しぶりに見る蔵馬の元気そうな姿。建設現場にもよく出て作業もしているせいか、昔よりは身体に筋肉がついている感じがする。
桑原(本当は相談する為に、会社の近くをわざわざ通ったんだけどな)
蔵馬「いいですよ。丁度休憩時間だったからね。桑原君も雪菜ちゃんも元気そうじゃないですか」
桑原「おうよ!俺はいつでも元気だぜ」
右手の服の裾をまくって力コブを作る。
雪菜「蔵馬さん、お仕事の方はどうですか?」
蔵馬「ああ、順調だよ。先日大きなプロジェクトが成功してね」
桑原(へぇぇ~。流石は蔵馬だな。俺もそろそろ卒業後の就職の事を考えねーと…)
雪菜「わぁぁ!!凄いです」
桑原「しかし、もったいないよな~。蔵馬ほど頭が良かったら、かなりいい大学に入れたのによー。そしたらゆくゆくはエリートコースをまっしぐらだったろうによ」
蔵馬「はは。義父の仕事が面白くてね。桑原君の方こそ大学を楽しんでいるでしょう?」
桑原「まあな。二流大学だけどよ。暇な大学生生活を送ってるぜ。そういえばよー、浦飯に聞いたんだけど、
また魔界の王を決める大会があるんだって?」
蔵馬「ええ。現在の魔界の王の煙鬼が、
前大会で優勝した時に三年後にまたやるって言っていましたからね」
桑原「浦飯の奴、今度は優勝するって張り切っていたぜ」
蔵馬「フフ、幽助らしいですね。そうそう、昨日黄泉に会いましたよ」
桑原「黄泉?黄泉ってどっかで聞いた名前だな…。え~っと誰だったっけな~」
腕を組んで考える。
桑原(う~ん。確かにどっかで聞いた名前なんだけどな…)
蔵馬「前の大会で幽助を倒した妖怪ですよ」
桑原「なぬっ!?浦飯を倒したっていう妖怪なら、魔界でも最強クラスの奴じゃあねーか!そんな奴が人間界に来ているのか!! 」
驚いて席から立ち上がる。
桑原(マ、マジかよー…)
蔵馬「もう今は霊界の作った結界がないですからね。
どんな妖怪も人間界に来ることが出来ますよ」
桑原「お~、そういえばそうだったな。霊界は魔界との結界を解いたんだっけな。平和ボケしてすっかり忘れていたぜ」
キョロキョロと窓の外や店内を見回す。
桑原(戦いからずいぶん離れていたからな…)
桑原の反応を見た蔵馬は少し苦笑いを浮かべている。
桑原「ぬうう。この辺りにA級以上の妖級がいても不思議じゃあねーって事か。全く気にしてなかったからよー。なんか久しぶりに緊張感が……」
(あ~なんか知らねーがドキドキしてきたぜ)
蔵馬「はは。別に邪悪な妖気を感じたりしないでしよう。煙鬼の決めた法案は、人間界に迷惑をかけないということが基本になっていて、これまで人間と妖怪の間でトラブルが殆どないんですよ」
桑原「そうなんか。そういえば浦飯の奴も、
本業のラーメン屋の裏でやってる、妖怪関係専門の探偵もあんまり仕事がないってぼやいてたな」
この間食べた幽助の作ったラーメンが頭に浮かぶ。
桑原(浦飯の奴もなんでも屋なんか辞めて、
ラーメン屋一本にしたらいいのにな)
雪菜「和真さん、私ちょっとお手洗いに行ってきますね」
そう言って雪菜は席を立った。
桑原「雪菜さ~ん!トイレでゆっくりして来て下さいね」
大きな声で喋る桑原に、
雪菜は少し恥ずかしそうにトイレに歩いていった。
桑原(雪菜さんには悪いが蔵馬にあの話しをするチャンスだぜ)
桑原は雪菜の姿が完全に見えなくなるのを確認。
真剣な顔で蔵馬にここに来た本題を切り出す。
桑原「蔵馬、おめーを呼び出したのは実は気になることがあってな」
蔵馬「何かあったんですか桑原君?」
桑原の真剣な顔を見た蔵馬も真剣な顔になる。
桑原「ああ。ここ最近なんだが、妙な視線を感じることが多くてな」
蔵馬「妙な視線?」
桑原の言葉を怪訝そうに聞く蔵馬。
桑原「ずっとっていうわけではないんだけどな。
ただ、その視線が俺に向けられているものか、雪菜さんに向けられているものか分からないんだ」
蔵馬「大学以外では、雪菜ちゃんと桑原君は一緒にいることが多いですからね」
桑原「ああ。大学は丁度冬休みだからよ。雪菜さんと一緒にいられるのは嬉しいが、その視線が不気味でな。
妖気や霊気とかを特別に感じるわけでもないが」
蔵馬「妖気を感じないなら妖怪でもなさそうですね」
桑原「ああ。けどよー、妖怪じゃあねーってのが気になるんだよな。妖気なら雪菜さんも気付くだろうし。まあ俺の気のせいならいいが」
(妖怪なら本当に直ぐにでも分かるんだよな)
雪菜がトイレから出てきた。
桑原はチラッと横目で雪菜の姿を確認。
桑原「おっと蔵馬、雪菜さんが帰ってきた。もしなんかあったらまた話すぜ」
頷く蔵馬。
雪菜「お待たせしました」
雪菜が席に着く。
そして何かを思い出したようだ。
雪菜「蔵馬さん、そういえば飛影さんはお元気ですか?」
蔵馬「飛影とは最近は会っていないな。でもあいつは修行をしながら魔界に迷いこんだ人間を保護して、人間界に送り返している活動をしているみたいですよ」
雪菜「へ~。人間の保護とか飛影さんは素晴らしい活動をされているんですね。かっこいいです」
桑原「雪菜さ~ん、あんなひねくれもんより俺の方がかっこいいっすよ」
また右手の服の裾をまくって力コブを作って見せる。
桑原(飛影には負けねーぞ)
ここで魔界統一トーナメントについて話しが出る。
桑原「大会には蔵馬、おめーも出るんだろ?」
蔵馬「黄泉にも昨日聞かれましたよ。まだ分からないと答えたけど、一応、出場することになると思う」
桑原「浦飯と飛影、お前と黄泉、それに前回優勝の煙鬼って奴。今度は誰が勝つんだろうな…」
S級妖怪クラスの力は見たこともあるし、実際に戦ったこともある。その自分が唯一戦ったS級クラスの妖怪の力を持った人間の仙水忍さえも魔界の強者たちの中では下位クラスであった。
桑原(もう俺にはついていけない次元の戦いなんだろうな…)
蔵馬「俺も今回は分からないな。せっかくの大会だ、桑原君も出てみたらどうですか?」
桑原「冗談きついぜ蔵馬!俺が行ったら赤っ恥かいてしまうぜ」
魔界の強者たちと自分が戦う姿を想像する。
桑原(俺が大会に出たら命がいくつあっても足りねーぜ)
蔵馬「桑原君も妖怪でいえばA級妖怪並の力をもっていますよ。修行次第では、勝てないまでも本選まで残れる可能性はあると思いますよ」
桑原「まあ俺は、雪菜さんを守れる力があれば今は充分だけどな」
それは桑原にとって素直な気持ちであった。
桑原(雪菜さんを守りたいって気持は誰にも負けねー。昨日の特訓で次元刀は出せるようになったし、使いこなせてねーが新しい剣みたいなのも出せたし、何があっても守ってみせる)
チラリと雪菜の顔を見ると顔が何故か赤い。
桑原(あれっ?雪菜さんの顔が赤い。ここの喫茶店、ちょっとエアコン利き過ぎじゃねーか)
ここで蔵馬は急に腕時計を見て慌ただしくなる。
桑原(蔵馬の奴、急に血相を変えて一体どうしたんだ?)
蔵馬「桑原君、すまない。俺はそろそろ時間だ。
仕事に戻るよ」
桑原「おうっ!忙しい時に悪かったな蔵馬。またおめーが魔界に行く前にもう一回会おうぜ」
雪菜「お仕事頑張ってくださいね」
蔵馬「ああ。じゃあ二人ともまたね」
蔵馬は会計を済ますと喫茶店から出て行った。
蔵馬が出た喫茶店の入口を見る桑原。
桑原(何だ仕事か…。なんかあったんかと思ってびっくりしたぜ)
雪菜「蔵馬さん行ってしまいましたね」
桑原「俺たちもここで軽く食事してから行きましょうかね」
雪菜、ニコリ。
「そうですね」
――夕方を過ぎ、もうすぐ夜と呼べる時間帯。
冬の空はすっかり暗くなっていた。
雪菜「遅くなりましたね。でも時間をかけただけ、
お父様に良いプレゼントが買えましたよ」
桑原「あの親父にその服を見せたらきっと驚きますよ。猫たちが餌を待ってるから早く帰りましょうか」
雪菜「はい」
桑原の父の誕生日プレゼントを買った二人は家への帰路にいた。
桑原「この辺りは暗くて人通りが少ない場所なんだよな」
その時だった。桑原と雪菜の前に一人の男が姿を現した。
桑原「何だあいつ?髪の色が金髪だ。外人か?」
金髪の男は桑原たちの目の前までやってきた。
そして不敵な笑みを浮かべる。
比羅「初めまして桑原。私はお前の力が欲しい」
桑原(!?)