幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #024「迫る危険の予感(序章)」
――自宅を出た桑原は、お腹を満たす為、
幽助のラーメン屋に向かって暗い道を一人歩いていた。
ピューっと冬の寒い風が吹く。寒さにブルブルと震える。
桑原「チクショー。本当に冬の夜って感じで寒いぜ」
見覚えのある女性の姿が前の方から見えてきた。
幽助の母・温子である。
桑原(あれは、浦飯のお袋さんじゃあねーか)
温子も桑原の存在に気付いた。
温子「お~!桑原君じゃあない。久しぶり~!元気にしてた~!!」
桑原(テンション高いな)
辺り一面に響き渡る温子の大きな声。 まわりが静かなせいか、声がよく通る。
桑原「浦飯のお袋さんじゃあないっすか。お久しぶりっす。お出かけの帰りっすか?」
温子「そうよ~ん。幽助のとこに行った帰り」
温子の顔が終始笑顔だ。何か良い事があったのか、
妙に機嫌がいい。
桑原「俺も今から浦飯のとこにラーメン食いに行くとこっすよ。お袋さんもラーメン食べてきたんすか?」」
温子「違うわよ。今日は別の用事でね」
桑原「そうっすか。じゃあ俺は食べに行ってきますんで、これで」
温子「ほいほい。桑原君、またね~」
ご機嫌な温子の後ろ姿を見送る。
桑原(あのテンションの高さと機嫌の良さは、何か良い事があったんだろうな…。羨ましいぜ)
温子と別れて暫く歩いて行くとラーメンの屋台が営業をしていた。
桑原(おっ!やっているな)
屋台の暖簾をくぐると幽助は紙を手に持って読んでいる。
幽助「いらっしゃい…って何だ桑原か」
桑原の顔を見ると幽助は読んでいた紙を置いた。
桑原「何だはないだろ。
せっかく飯を食いに来てやったのによ」
桑原は椅子に腰をかけた。
幽助「おめーに会うの久しぶりだな。注文はラーメンでいいのか?」
桑原「ああ。ラーメンでいいぜ」
(あれこれ考えるのもめんどくさいしな)
幽助は早速、調理を始めた。
桑原(しかしこいつ、魔界から人間界に帰って来てから直ぐにラーメン屋を始めたけど、いつラーメンの修行したんだろうな…。マジで不思議だぜ)
幽助は慣れた手付きでラーメンを作っている。桑原は不思議に思っているが、そもそも幽助自体、母親の温子が料理をあまりしない人だったので、子供の頃から料理を作っていた。その為、人並み以上に料理は出来たのだった。
桑原「しかし不思議なもんだぜ。俺も何年か前までは、おめーと一緒に戸愚呂や仙水と戦っていたんだよな。今考えると不思議なぐらいだ。マジで懐かしいぜ。今は俺は大学生、おめーはラーメン屋。何も刺激のない平凡な生活をしているんだからな」
幽助「へっ、昔のことを語るなんて大学生になって少し爺臭くなったんじゃあないのか桑原」
桑原「馬鹿、何言ってやがる」
桑原は苦笑いを浮かべる。
桑原「そういや、ここに来る途中におめーのお袋に会ったぜ。なんか妙に機嫌が良かったが」
幽助「あのお気楽中年、ついさっき俺に依頼を持って来やがったんだぜ」
桑原「依頼?ああ~依頼って浦飯が裏でやってる妖怪専門の何でも屋か」
(俺がここに来た時に浦飯が読んでいた紙がそうなのかな?)
幽助「そういうこと。お袋が仕事の依頼を俺に紹介して、お袋は仲介料をいくらか頂くって形だ。俺が依頼受けたから仲介料が入るから浮かれていたんだろうぜ」
桑原「それであんなに機嫌良かったんか」
さっき見た温子の姿が頭に浮かぶ。
幽助「本当にろくな仕事がなくてラーメン屋がそこそこ儲かってるから一本に絞ろうか真剣に考えているぜ」
桑原(俺もラーメン屋だけにした方がいいような気がする……)
幽助「食えよ。出来たぜ」
出来上がったラーメンを置く。
桑原がラーメンを見ると、これは自分が注文したラーメンと違うものだった。
桑原「おっ!浦飯、これチャーシュー麺じゃあねーか?」
(確か俺はラーメンを頼んだよな??)
幽助「サービスだ。値段は、ラーメンの値段でいいぜ」
桑原「サンキュー。気が利くじゃあねーか」
嬉しそうにチャーシュー麺を食べ始めた。
幽助「桑原、俺はもうすぐ戦いに戻るぜ」
桑原「何!?」
幽助の言葉に驚く桑原。
桑原(危うくラーメンを吹き出すとこだったぜ)
幽助「魔界でもうすぐ第二回魔界統一トーナメントが開かれるからな」
桑原「じゃあ、おめーは今回も出場するんだな」
幽助「もちろんだ。今回は絶対に優勝するぜ」
この時、桑原は優勝に燃える幽助を見て、さっき姉の静流から聞いた雪村螢子の事を思い出した。
桑原(そういえばこいつ雪村に魔界に行くって事を話してるのかな…?)
桑原はちょっとお節介と思いつつも螢子の事を聞いてみる事にした。
桑原「まあいいけどよ。そういや、浦飯、姉貴から聞いたが、大学から雪村が休みを利用して実家に帰ってきてるみたいじゃあねーか。魔界に行くならあいつにも一言ぐらい言っていかねーと内緒で行ってばれたら、後知らねーぞ」
桑原の言葉に一瞬固まる幽助。
幽助「螢子か…。大会の事ですっかり忘れてた。俺が魔界にまた行くっていったら怒るだろうな」
桑原(やっぱり言ってねーわ、こいつ)
桑原は少し溜め息をつきながら幽助にアドバイス。
桑原「てめーは雪村の事も少しは気にかけてやらないと雪村に愛想をつかされて、他の男にかっさらわれても知らねーぞ」
幽助「うっ…」
完全に言葉に詰まる幽助。
幽助「仕方ねー…。明日でも蛍子と話すか」
桑原「へっ、まあ頑張れや」
(なんかわからないが浦飯に勝った気分だぜ!)
幽助は螢子の事を考えているのか、困った顔で頭をポリポリと掻いていた。
桑原「そうそう、明後日雪菜さんと遊びに出るんだが、ちょうど蔵馬の会社の近くまで行くからよ。久しぶりに会うつもりだ」
桑原が蔵馬に会う目的は、あの視線の事について相談する為だった。
幽助「蔵馬か。最近忙しくてあってねーな。あいつも多分大会に出るだろうもうすぐ会えるな。宜しく伝えといてくれ」
桑原「おう」
ラーメンを食べ終えると空になったラーメンの器を見る。
桑原(ラーメン美味かったな。浦飯の奴、また腕を上げたみてーだ)
ポケットをゴソゴソッと探して小銭を取り出す。
桑原「ごっそうさん。金ここに置いとくぜ」
幽助「おう、悪いな。毎度あり」
桑原「じゃあ浦飯またな。大会頑張れよ」
幽助「ああ」
幽助にエールを送ると、屋台を後にした。
桑原「さてと、食うもん食って腹も膨れたし、姉貴に頼まれたタバコを買って家に帰るか」
コンビニに向かって歩いていると、見覚えのある小柄の女の子が前方から歩いてきた。
桑原(あ、あれは雪菜さん!?)
雪菜「あっ、和真さん」
桑原の存在に気付くと笑顔で駆け寄って来る。
桑原「雪菜さんどうしたんっすか?」
雪菜「和真さんがいつも出掛ける時に着ているコートを着ていない事にさっき気付いて、もしかしたら寒い思いをしていないかなって思って持ってきたんです」
桑原「感激っす!雪菜さ~ん」
雪菜の優しい言葉に涙を流す桑原。
雪菜(和真さん、何で泣いてるのかしら??)
桑原「俺、今から姉貴のタバコを買いにコンビニ行きますけど、雪菜さんも一緒に行きませんか?」
雪菜「はい。行きます」
桑原(やったぜー!)
嬉しくて子踊りする。
この時、桑原たちを見つめる一つの視線があった。
駁である。
駁「さてと、貴様の能力を見せてもらおうか」
駁の目がピカッと光ると、雪菜の頭上にある看板が、
グラグラッと大きく揺れ始めた 。
駁「しかし何で氷女が人間と一緒にいるのか不思議だぜ」
雪菜「和真さん、どうぞ」
コートを手渡そうと近付こうとしたその時。
ガタン!!
雪菜の頭上に看板が落下してきた。
桑原(!?)
落下する看板に気付く。
駁「フフッ」
桑原「雪菜さん、危ねーーーー!!」
雪菜(?)
桑原「クソッ!間に合わねーか」
桑原は直ぐに右手から霊気で作った霊剣手裏剣を飛ばした。
駁(!!)
霊剣手裏剣は看板に当たり、その衝撃で落下先の軌道がずれた。
桑原(よしっ!)
素早く雪菜のいる場所に駆け寄る。
雪菜「和真さん…」
桑原「大丈夫っすか」
駁(霊気を手裏剣にして飛ばすとはな。ならばこれならどうだ!)
駁の目が再び光ると、軌道を変えたはずの看板が、
再び桑原と雪菜に向かって来た。
桑原(おいおい何だよ!)
雪菜「か、和真さん!」
桑原「なんの」
今度は両手に霊気の剣を作り出した。看板に向かって行く。
シュパーン!!
素早い動きで看板を細かくばらばらに切り裂いた。
桑原「ふ~う。久しぶりに霊気を使ったぜ」
地面に膝をついた。
滅多に使わない霊気を使った為、少し消耗したせいだ。
直ぐに辺りを見回して、怪我をした人がいないことを確認。
桑原「他に誰もいなくて良かったぜ」
雪菜「びっくりしました」
桑原「怪我はないっすか雪菜さん?」
雪菜「はい。私は大丈夫です」
桑原「無事で良かったっす」
駁「霊気の剣か…」
桑原の能力を目の当たりした駁は、桑原こそが間違いなく自分たちにとって必要な男だと確信した。
比羅が駁の隣に来た。
比羅「今のでお前も分かっただろう。奴こそ私たちが求めている男なのだと」
駁「ああ。どうする?今からあいつを捕獲するのか?」
比羅「いや。焦ることはないさ。もう数日は今と変わらずに様子を見る」
駁「相変わらず慎重派だな比羅は」
比羅「フフッ。私は完璧主義者だからな。失敗はしたくないのだ」
桑原(今の出来事。時々感じる視線と何も関係ねーと思うが、なんか嫌な予感がしてならねーぜ)
桑原が感じた嫌な予感。
それがもうすぐ現実となろうとしていた。
続く