幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #023「感じる視線(序章)」
――幻海のお墓参りの翌日。
ここは桑原の自宅。
外は日が暮れて暗くなり、もう夜と言える時間帯になっていた。
桑原は部屋のベッドで寝転がって天井を見ていた。
墓参りの後から桑原はずっと悩んでいた。あのとき感じた謎の視線が原因だった。
桑原「なんか幻海の婆さんの墓参りに行ってから、時々誰かに見られているような気がするんだよな」
ポリポリと頭を掻きながら起き上がると、部屋の窓から外を眺めた。
窓の外は暗くて道を歩く人の姿もなかった。
桑原「なんか変なもんに取り憑かれたんじゃあねーのかな~。婆さんが生きてれば視てもらうんだけどな…」
腕を組んでやはり悩む。こんなに悩むのは本当に久しぶりのことだ。
コンコン
誰かが部屋のドアをノックをする。
桑原「鍵は開いてるぜ」
雪菜「和真さん、私です。コーヒーが入りましたよ」
部屋の外から聞こえてくる雪菜の声に思わずニコリ。
桑原「ああ~!雪菜さんだったんすか。今部屋のドアを開けます」
ダッシュで部屋のドアを開けて雪菜を大歓迎で迎える。
ドアの外には優しい笑顔の雪菜がコーヒーを手に持って立っていた。
桑原(雪菜さん、マジ天使っす)
雪菜「和真さん、コーヒーをどうぞ」
コーヒーを煎れたカップを桑原に手渡した。
桑原「今日も雪菜さんがコーヒーを煎れてくれたんすね~。でも珍しいっすね。いつもなら煎れてくれたら、リビングに呼んでくれるのに、今日は直接部屋まで持ってきてくれるなんて」
雪菜「あ~、今日のはですね…」
桑原は雪菜が話し終わる前にコーヒーを飲みだした。
桑原「やっぱり雪菜さんが煎れてくれたコーヒーが一番美味いっす。どこぞの親父の煎れたコーヒーなんか、普通に煎れるだけなのに、不味いなんてもんじゃあねーし」
雪菜「和真さん、そのコーヒーはですね……」
ゴクゴクと美味しそうにコーヒーを飲む桑原。
雪菜「あっ、和真さん、そんなに一気に飲んだら熱いですよ」
桑原「ああ~。雪菜さんの煎れたくれたコーヒーは最高っす!!」
まるで極楽浄土にいるかのような幸せな顔をしている。
雪菜(このコーヒーは私が煎れたんじゃあないのですけど…)
桑原の部屋の前を桑原の父が通りかかる。
相変わらず桑原の父は、
冬なのにアロハシャツを着て黒のサングラスをかけたハワイアンスタイルの陽気な男であった。
今日も明るく息子に声をかける。
桑原の父「HAHAHAHA!和、美味しそうに飲んでくれているな。いつもは俺が煎れたコーヒーは不味いって言って飲まねーのにな」
ブハァッ!!!
桑原は父の言葉を聞いてコーヒーを思いっきり吹き出した。
桑原「コーヒーを煎れたのはてめーかよ!親父ー!!」
桑原の父「HAHAHAHA!!」
桑原「よく味わうとこれは親父の煎れた奴だ。ま、不味い。舌も火傷しちまってる!」
桑原の父「HAHAHAHA!!気付かないお前が悪い」
桑原の父は高らかに笑いながらその場を後にした。
桑原「チクショー!親父の奴、親父が煎れたコーヒーをいつも不味いって言って俺が飲まねーから、狙って雪菜さんに運ばせたな。しかし何で俺、親父が煎れたコーヒーってわからなかったんかな??」
雪菜「和真さん、シャツにコーヒーがこぼれています。直ぐに着替えた方がいいですよ」
桑原「そうっすね」
桑原が洋服箪笥の扉に手をかけようとしたその時だった。
桑原(!)
この感じは…。
桑原は素早い動きで部屋の窓ガラスを開けて外を見た。
雪菜「和真さん、急に血相を変えてどうしたんですか?」
桑原(…またあの視線だぜ。やっぱり誰かが何処かでこっちを見ているみてーだ。感じた視線は俺を見ているのか?それとも… )
真剣な目で雪菜を見つめた。
雪菜「和真さん、恐い顔してどうしたんですか?」
桑原の突然の変化に戸惑う雪菜。
桑原は雪菜に心配をかけないように、いつもの笑顔を作った。
桑原「いやあ、何でもないっすよ、雪菜さ~ん。コーヒーをこぼして熱かったから窓をちょっと開けて、冷たい空気を部屋に入れて身体を冷やしたんですよ」
雪菜「あ~。そうだったんですね」
安心したのか、雪菜はホッと溜め息をつく。
桑原「そうで~す」
もう一度窓の方を見る。
(あの視線は、俺か?それとも雪菜さんを見ていたものなのか?チクショー……。 分かんねーぜ)
「ただいま~」
静流が外出先から桑原宅に帰ってきた。
家の中に入ると、開いたままの桑原の部屋の前を通りかかる。
静流「あれっ?和、寒いのに窓なんか開けてなんかあったのかい?しかもコーヒーをこぼしてシャツ汚してさ」
桑原「うるせーな。何でもねーよ」
雪菜「あっ、おかえりなさい。静流さん」
静流「ただいま、雪菜ちゃん」
桑原は開けていた窓を閉めると静流に話しかける。
「姉貴、今日はいつもよりやけに遅かったな。何かあったのか?」
静流「帰り道でさっき、螢子ちゃんとばったり会ってね。久しぶりに会ったもんだから話しについつい夢中になっていたのよ」
桑原「雪村の奴、大学休みだからこっちに帰ってきてんだな」
静流「螢子ちゃん、大学で小学校の先生を目指して頑張ってるみたいね。あんたは大学を卒業したら一体何の仕事につくのかしらね~」
桑原「うるせーな、全く」
静流の指摘に思わず渋い顔になる。だが、将来は自分が何をしたいとか実はまだ何も考えていない。大学を卒業するまでには、何かやりたい事が見つかればいいなって感じでいる。
ぐぅぅぅっと桑原の腹の虫が悲鳴をあげた。
お腹の音を聞いた雪菜はクスッと笑う。
桑原(飯は食ったが少し小腹が減ったな。そういえば最近浦飯に会ってねーよな。久しぶりにあいつのラーメンでも食べに行って来るか)
桑原「姉貴、雪菜さん、俺、ちょっと外に出てくるわ」
そう言うと桑原は汚れたシャツを着替えた。
静流「今から出かけるの?」
桑原「おう。ちょっと小腹が空いたんでな。浦飯のとこでラーメン食ってくるわ」
静流「出たついでに帰りにコンビニに寄ってタバコ買って来てよ」
桑原「へいへい」
桑原は自宅を後にすると幽助がやっているラーメン屋に向かった。
――桑原宅近くの屋根の上。
暗闇の中を一人歩いている桑原を、金髪の男と小柄の赤い髪の男が見ている。
比羅と駁である。
駁「あいつが俺たちに必要な能力を持っている例の者なのか?霊気もあんまり感じないし、どう見ても普通の人間みたいなんだが」
比羅「普段の生活では霊気は使う事があまりない。平和な生活だ。霊気を抑えているだけだろう。あいつの情報だとあの人間で間違いない。何度か私が意図的に発した気にも反応を示しているからな」
駁「なんか今一つ信じられないぜ。ちょっとの力を試してやるか」
比羅「駁、何をするつもりだ?」
比羅の問い掛けには答えず、駁の目は桑原の姿を追っていた。