nanaseの世界

このブログは週間少年ジャンプで連載していた、冨樫義博先生の原作漫画の幽✩遊☆白書の続編小説を中心に、映画のレビューや日々の出来事をメインにしています。

小説更新!!最新話公開中 幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #108「二回戦最終試合・凍矢vs戸熊(大会編)」

幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #097「鈴木の最高傑作(大会編)」

――魔界統一トーナメントのDブロックの二回戦・第二試合

 

武威(ぶい)
×
桑原(くわばら) 

 

――Aブロック

 

雪菜の念信による愛の告白によって、秘められていた力を発揮して、桑原は急激に霊気が強くなった。

今の桑原には、武威に対する恐怖はない。

むしろ自信に満ち溢れていた。

 

ブォォォォォ!!!!!

 

愛の力?によるその強くなった霊気を放出。

闘場が激しく揺れた。

 

「さっきまでのお返しだ!行くぜ武威」

 

ズキューーン!!

 

急激な霊力の増加により、速度か遥かに増した桑原は、高速で武威に向かっていく。

 

武威は仁王立ちで待ち構える。

 

(これが桑原か?スピードもさっきまでとはまるで違う)

 

桑原の右手には次元刀が作り出されていた。

 

(防御不可能の次元刀。あれは確実に避けなければな)

 

ビューー!!!!!

 

次元刀で武威を斬りつける。

武威は左に素早く避けて攻撃をかわした。

 

「ウラァァァァァ!!!」

 

ビューン!!!

 

桑原は武威に避けられるのを察知していたかの様な動き

左に避けた武威の顔面を左手で殴りつけた。

 

バキッ!!!

 

(何だと……!?)

 

ザザザ

 

殴りつけられて後ずさる武威。

 

武威の全身から放出されている武装闘気は、武威の身体を目に見えない鎧として守っている。

その為にある程度の攻撃を防ぐ事が出来る。 

試しの剣による霊剣の強化版と防御不可能の次元刀以外では傷をつけることが出来るとは武威は思っていなかった。

まず、試しの剣は武威により破壊されてしまった。

その為、この状態では武威の身体を傷つける事が出来るのは、次元刀だけだと完全に思っていた武威は、素手で殴られた事にかなり驚いたのだった。

 

(武装闘気に守られている俺を素手で殴ってきたか。想像以上に霊力が上がってきている)

 

「どんどん行くぜ!」


直ぐに次の攻撃に移る為に武威に向かっていく。

 

武威、ニヤリ。

「これは本当に楽しい戦いになってきたぞ!!」


実力の差が縮まり、戦いの行方がこれからどうなるか分からなくなった桑原と武威。

両者の霊気と妖気の激しいぶつかりあいが始まった。


――選手たちの休憩所

 

「スゲーぞ桑原!!何があったか分かんねーが、あれだけの霊気なら武威と戦えるぞ!」 

 

危機的状況から脱出して、さらに武威とほぼ互角に戦えるぐらいに一気に強くなった桑原に少し興奮気味の幽助。

 

「でも本当に後一歩で桑原を助けに行くつもりだったからな。これでとりあえずは安心したぜ。な、飛影?」

 

(………)

 

飛影は幽助の言葉に黙ったままでいた。

何故か機嫌が悪い。

 

「うん?飛影は嬉しくねーのかよ?おめーが俺より先に桑原を助けに行こうとしていたくせに」

 

「フン、俺があの馬鹿を助けるか」

 

「へっ、よく言うぜ。武威に対してどんどん殺気を強くしていたくせに」

 

「知らないぞ」

あくまでしらを切る。


「まあいいけどよ。それで、急に恐い顔してどうしたんだ飛影?」

 

「理由は分からん。桑原の霊気が急に上がった時、スクリーンに映るあいつの顔を見てから胸の辺りが急にムカムカしてきたのだ」

 

それは雪菜の双子の兄としての直感である。

 

「何だよそれは?」

 

飛影の答えに不思議そうな顔をする。

 

(何故か嫌な予感がする。桑原が生きて戻って来たらあの馬鹿を問いつめねば)

心の中で密かに誓ったのだった。 

 

(理由は分からないが桑原君の霊力が上がった。今の桑原君なら武威と互角に戦えるはずだ。これでひとまずは安心だ)

 

蔵馬は桑原の今の状態に少し安心した顔を見せると、スクリーンに映し出されているDブロックに今度は目を移した。

Aブロックとはうって変わって険しい表情でスクリーンを見つめる。

 

「鈴木……」

 

スクリーンに映し出されているDブロックの映像では、梟の追跡爆弾の大爆発によって起った爆風による凄まじいまでの砂煙により、鈴木がどんな状態になっているのかは全く分からない状況であった。

 

「蔵馬」

Dブロックを険しい表情で見つめる蔵馬の視線に気付いた幽助が話しかける。

 

「何だ幽助?」

 

「さっきのあの爆発は凄かったけど鈴木はあの程度の攻撃では倒されないと思うぜ」

 

「ああ、そうだな。だがあの攻撃ではっきりした。あいつは鴉だ」

 

「だな」

 

幽助と蔵馬はDブロックを再び見たのだった。

 

――Dブロック

 

砂煙の中にいる梟は周囲を見渡す。

 

「少しやり過ぎたか。肉片の一つでも残っていたらいいが」

 

暫くすると徐々に砂煙が晴れてきた。

そこには鈴木の姿がなかった。

 

「あの足の傷では追跡爆弾をかわせまい。少々やり過ぎたようだ。肉片すら残さず吹き飛ばしてしまったみたいだからな」

 

梟が勝利を確信して気を少し緩めたその時。

 

魔笛散弾射」

 

ヒュー!ヒュー!ヒュー!


氷の塊が上空から地上にいる梟をめがけて飛んできた。

それは鈴木の技ではなく凍矢の技である魔笛散弾射であった。

 

「何!?」

 

突然の上空からの攻撃に驚く梟。

 

バッ!!

 

梟は素早くジャンプして大量に降りそそがれた氷の塊をかわした。

 

ズガガガガガ!!!!!!


氷の塊は誰もいない地面を直撃した。 

梟は地面に着地すると同時に上空を見上げる。

 

――Dブロックの上空

 

「かわされてしまったな。残念だぜ」

 

上空から攻撃してきたのは鈴木であった。

 

梟の追跡爆弾をまともに受けたと思われた鈴木は上空に逃れていた。

しかも陣の様に風を操って宙に身体が浮いていたのだ。

だが完全にはかわしきれなかった。

爆撃を受けたような傷が身体にあった。


「フッ、今の俺の姿を見たら一緒に修行をした連中と酎と鈴駒以外は驚いているだろうな」

 

――選手たちの休憩所

 

「鈴木!!」

 

蔵馬はスクリーンに映し出された空中に浮いている鈴木の姿に驚いた。

 

「おいおいマジかよ」


(…………!?)

 

幽助と飛影も蔵馬同様に驚く。

 

(さっきの鈴木の攻撃は間違いなく凍矢の魔笛散弾射だったぞ。しかも今度は陣の様に風を操り空中に浮いている) 

 

陣、ニコリ。

「鈴木の奴は無事だったみたいだぞー」

 

死々若丸も陣の隣で笑顔。

「全く驚かせてやがって」

 

凍矢は苦笑い。

「あいつめ、俺の技を早速使ってきたな」

 

陣の顔がワクワクしていた。

「いよいよ、あの反則的な秘密兵器が出て来たぞ」


――Dブロック

 

鈴木「フフフ、驚いたか?これが俺の発明した作品だ!!」

 

スッ

 

鈴木は地上にいる梟に見せつけるように右腕を前に出した。

 

キラーン

 

その右腕には青く光る腕輪がつけられていた。

 

――選手たちの休憩所

 

驚いている蔵馬たちの側に凍矢がやって来た。

 

「お前達は流石に驚いているようだな」

 

「凍矢」

 

「あれは少し前に鈴木が作り出したアイテムだ。あいつの右腕に腕輪がついているだろう」

 

「あの青い腕輪だな」


「そうだ」

 

「さっきのあの鈴木の技は、お前の魔笛散弾射ではないのか?それに陣の様に風を操っているように見えるが、一体これはどういう事なんだ凍矢?」

蔵馬は感じた疑問を凍矢に問いかけた。

幽助と飛影も興味深そうに話しを聞いている。


「あの闇アイテムは…………」

 

凍矢は蔵馬に鈴木の闇アイテムについて語り始めた。


――Dブロックの地上

 

「生きていたか」

 

フッ

 

梟の目の前には追跡爆弾が再び姿を現した。

 

「行け、追跡爆弾」

 

《ギース》

 

追跡爆弾は先程と同じく不気味な鳴き声を上げて向かっていく。

 

――Dブロックの上空

 

「さっきの爆弾か。もう通じないぜ!一発程、身体に受けたからな」

 

ギュウウウウウ!!!

 

鈴木は陣の様に風を操り追跡爆弾に向かっていく。

 

「その攻撃が無駄だということを見せてやる」

 

ピカーーー!!!

 

鈴木の右腕に装着された青い腕輪は輝き始める。

そして眩い光りを放出した。

 

――選手たちの休憩所

 

「何だ!?スゲー光だぞ」

 

「何が起こっているのか分からない」

 

スクリーンに映し出されているDブロックは、鈴木の腕輪が放ち出した光によって、闘場の様子がどんなっているのかが全く分からない状態であった。

 

凍矢、ニヤリ。

「あの男が放った爆弾はこれで破壊される」

 

幽助、苦笑い。

「凍矢に話しを聞いた限りでは結構、反則だよな」 

 

――Dブロックの地上

 

腕輪から放出された光に、上空では何が起こっているのか分からなかった。


「何だこの光は……」

 

ドカァァァァァン!!!!!!!

 

光の中で大きな爆発音が辺り一面に響き渡る。

 

「追跡爆弾があいつに直撃したのか?」

 

その瞬間、爆発で音が一瞬の間かき消されていた。

 

ギュウウウウウ!!!!!


その一瞬の間に鈴木が風を操り梟に近付いて来たのだ。

 

「くらえー!!お前の技だ」

 

フッ

 

梟が先程、鈴木に放った追跡爆弾がその姿を現した。


《ギース》

 

梟が作り出した追跡爆弾と同じ様に不気味な鳴き声を上げると梟に遅いかかる。


(これは追跡爆弾!!)

 

――選手たちの休憩所

 

スクリーンに映し出されている梟に向かって凍矢が話しかけるように解説。

 

「鈴木自身が最高傑作と呼ぶあのアイテムは、一度受けた技を自分の物にすると同時に、その技を全て無効化させる光を放つ。さっきの奇襲の逆襲をされるのはお前だ鴉」

 

蔵馬は鈴木の闇アイテムに感心していた。

(まさか陣に凍矢、死々若丸。一緒に修行した三人の技が使えるとはな) 

 

――Dブロック

 

「もらった!」

 

「チッ」

梟は舌打ち。

相殺する為に追跡爆弾を作り出す。

 

《ギース》

 

梟の追跡爆弾も不気味な鳴き声を上げると鈴木の追跡爆弾に向かっていく。

鈴木の追跡爆弾を相殺する為に。

 

バッ

 

そして素早くジャンプして梟はその場を離れた。

離れたと同時にぶつかりあう追跡爆弾。

 

カーーー!!!!!

 

ドォォォォォン!!!!!


ぶつかり爆発を起こして消滅した。

 

「逃がさないぞ!!」

 

ギュウウウウウ

 

鈴木は風を操りジャンプした梟に向かっていく。

 

「受けてみろ」

 

空中で無意味なポーズを鈴木は決めた。

 

「ニューレインボーサイクロン!!!」

 

ドギュウウウ!!!!!

 

波長を変えた七色の妖気を放出して梟に向かって放つ。

 

(面白い。受けてやる)

 

ブォォォォォ!!!!!

 

空中で妖気を集中して高める。

 

「ハッ」

 

梟は両手を前に突き出す。


ピカーー!!!!!

 

梟の身体が光り始める。

 

(何!?)

 

ドガァァァァァン!!!!


七色に放出した鈴木の攻撃は、梟の身体に直撃する寸前に爆撃されて消滅させられた。

地面に何事も無かった様に着地する梟。

 

ギュウウウウウ!!!!!


「ハァァァァァ!!!!!」

 

鈴木は風を操り着地した梟に向かっていった。

 

――メイン会場

 

観客席の最上段の目立たない位置で鈴木と梟の試合を見ている者がいた。

その男は小柄の妖怪。

不気味な容姿に医者が着ているような白衣を着ていた。

 

「ヒョヒョ、中々上出来だぞ梟」

男は薄気味の悪い笑みを浮かべた。

 

続く

 

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弥勒(みろく)

弥勒(みろく)

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幽☆遊☆白書~2ND STAGE~オリジナルキャラクター。

短い金髪の髪をしたハンサムではないが、特徴的な顔つきをした男。

十二魔将の一人。

優しい笑顔を絶やさない温厚な性格。

十二魔将たちを家族の様に大事に思っている。 

十二魔将ではNo.2の位置にいる。

彼は戦闘より学問を好んでいる為に、同じ十二魔将の烙鵬からは毛嫌いされている。

智将としても名高い彼は、非常に優れた組織の参謀でもある。

比羅、そして仲間の十二魔将を守る為に、暗躍する闇撫の樹と激しい頭脳戦を戦い続ける事となる。

霊界死闘編では、幽助たちの代わりに主人公的なポジションをつとめる。

幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #096「雪菜の想い(大会編)」

――魔界統一トーナメントのDブロックの二回戦・第二試合

 

梟(ふくろう)
×
鈴木(すずき) 

 

――Dブロック

 

上空から天海が両者を見つめる。

 

「始め」

 

海の声が闘場に響き渡る。

 

――選手たちの休憩所

 

陣がスクリーンに映る梟を観た。

「なあ凍矢、あれはどっからどう見ても鴉だよなー?」

 

「ああ。あの姿形は鴉だ」

 

鈴木の試合を見ている凍矢たちもスクリーンに映し出されている梟の姿が鴉と瓜二つだと気付いた。

そしてDブロックの試合開始の合図が聞こえてくると蔵馬も桑原の事が気になりつつも鈴木と梟の試合に目を移していた。

 

(いよいよ始まるのか)


――Dブロック


鈴木、ニヤリ。

「お前には今大会で初披露となる俺の作り上げた最高傑作を見せてやる」

 

ゴソゴソゴソ

 

鈴木は腰にぶら下げている道具袋から何かを探し始める。

 

ズズズ……

 

鈴木の足下の土が何やら動き出した。 

 

バクッ

 

「な、何だ?」

 

足下に異変を感じる。

何者かが鈴木の足を捕まえたのだ。

鈴木の足を捕まえているのは爪のような生物。

その身体から細い一本の触手のようなものが少しずつ伸びてくる。

 

《キキキ》

 

触手は不気味な鳴き声を発して大きな目を開いた。

開いた目は不気味な一つ目。 

 

「こいつは!?」

 

《捕まえた》

 

カーーー!!!!

 

ボムッ!!!!

 

生物の身体が光るとその場で爆発した。

鈴木の右足が吹き飛ぶ。

 

「ぐわァァァァァ!!!!」

 

ドシャッ

 

鈴木は右足を吹き飛ばされた衝撃でその場に倒れた。


「クソッ!いきなりとは。油断した……」

 

鈴木の右足からは大量の出血。

 

「ハッ」

 

フッ

 

梟の声と同時に複数の羽の生えた丸い爆弾の形をした生物が姿を現した。

 

メキメキメキ

 

ギョロ

 

生物は瞑っていた目を開く。

 

「追跡爆弾(トレースアイ)」

 

《ギーース》

 

梟の作り出した爆弾の生物が不気味な鳴き声を上げると、足を吹き飛ばされて苦しむ鈴木に向かっていく。

 

「トドメだ」

 

「何!!!」

 

カーーー!!!!!

 

複数の爆弾の生物は鈴木の側に来ると一斉に身体を光らせた。

 

(!!)

 

ドガァァァァァァァァァァン!!!!!!!!!!!


鈴木のいた場所は梟の放った爆弾の生物により大爆発を起こした。

その爆弾の爆発の威力は、かって蔵馬が暗黒武術会の決勝で鴉が使用した地下爆弾と追跡爆弾と比べても桁違いに上がっていたのだった。

 

――選手たちの休憩所

 

スクリーンに映る光景に蔵馬は言葉を失う。

(…………!)

 

死々若丸が叫ぶ。

「す、鈴木!!」


Dブロックの二回戦の第二試合は、試合開始早々に衝撃的な幕開けとなった。

 

――Aブロック

 

鈴木と梟との試合が始まった同時刻。

岩壁から出てきた桑原は次元刀を武威に向けて構える。

 

「殺られてたまるかよ」

 

苦しい表情を浮かべながらも桑原は真剣な目で武威を見る。

 

「いい目をしている。勝負を諦めた目ではないな。さっきの様に俺を恐れている感じではなくなった」

 

(悔しいがさっきの俺はあいつの妖気にびびっていた。でもびびっていたって何もならねー!武威は俺を殺しにきている。こいつを倒さねーと月畑の仇討ちどころか俺の未来はねー)


「久しぶりに俺は抑えていた力を開放したのだ。そう簡単に終わらせはしない。戦いを楽しませてもらうぞ。直ぐに死ぬなよ桑原」

 

桑原、ニヤリ。

「へっ!俺は死ぬつもりはねーぞ。この桑原様はてめえをぶち倒すのだからな」

 

「そうか」

 

フッ

 

武威の姿が目の前から消え去る。

 

(何処だ!!)

 

必死に武威の妖気を辿って探す。

 

フッ

 

武威は桑原の背後に姿を現した。

 

「クソッ!!」

 

桑原の耳元で武威は囁く。


「今の俺の前ではお前は無力だ」

 

ガシッ

 

桑原の頭を掴む。

 

ズガガガガガン!!!!!


武威は桑原の顔面を地面に思いっきり叩きつけた。

 

「……うぐぐ」

 

「こんなものでは終わらんぞ」

 

ガシッ

 

左手一本で倒れていた桑原の頭を掴むと、その力で軽く身体ごと持ち上げる。

 

「ぐっ……、チクショー!放しやがれ!!!」 


両足をバタバタして抵抗する桑原。

 

メキメキメキ

 

桑原の頭を力で締め付ける。

 

「グァァァァァ!!!」

 

あまりの苦痛に桑原は一切の抵抗が出来なくなる。

 

ビューーン!!!!!

 

武威は右手で桑原の背中を殴りつけた。

 

ドゴォォォォォ!!!!!


「ウァァァァ!!」

 

ゴボッ

 

口から血を吐き出す桑原。


「フン」

 

ドゴォォォォォ!!!!!


「アァァァァァ……」


ドゴォォォォォ!!!!!


身動きが出来ない桑原をさらに激しく背中から殴って痛めつけた。

 

「ギャァァァァ!!!!」

 

桑原の悲鳴が闘場に響き渡る。

 

――メイン会場

 

「おーーっと!!Aブロックでは武威選手が桑原選手を捕まえて容赦なく激しい攻撃を続けています!!!」

 

「あの人間が武威に殺されるのは時間の問題だ」

 

「そうだな。さっきまでは中々頑張っていたようだが武威とは力の差があり過ぎる。圧倒的だ。これはもう勝負あったぞ」

 

「うっ、和真さん……」

 

一方的に武威に攻撃され続けている桑原の姿がスクリーンから映し出されている。

その凄惨な光景に雪菜は思わず目を反らした。

 

「大丈夫?雪菜ちゃん」

女性が雪菜に声をかけた。

それは三回戦進出を決めた棗であった。

曲尺を倒した後、棗はメイン会場にいる雪菜の所にやって来たのだ。

 

「棗さん……」

目に涙を溜めて棗を見る。

 

「和真さんがあんなに苦しむ姿なんて…。駄目です。もう私は見られません」

棗の胸に顔を埋(うず)める。

 

「あの武威って男は、あの桑原って人間を殺すつもりでいる。彼が負ける時は間違いなく死しか残されていない」

棗は冷静な声で桑原の置かれている状況を雪菜に話した。

 

「棗さん…私、私は和真さんを失いたくないです……」

 

雪菜の目から涙が地面に溢(こぼ)れ落ちる。

 

コロンコロン

 

その涙は美しく光輝く氷泪石となった。

 

(雪菜ちゃん……)

 

スッ

 

棗は優しく雪菜の頭を撫でながら語りかける。

 

「雪菜ちゃんはあの桑原って人間が好きなのね」

 

(!?)

 

雪菜は棗の言葉にハッとなり棗の顔を見上げる。

棗は優しい微笑みを浮かべて雪菜の顔を見た。

普段は大人しくて自分の本当の気持を伝える事が苦手な雪菜。

出会ってから短い付き合いでしかない棗と雪菜だが、姉の様に棗を慕う雪菜はその想いを口に出した。

 

「棗さん……、私は、私は和真さんが好きです」


涙を流しながら雪菜は武威との戦いの中で、今にも殺されそうになっている桑原という一人の人間に対する想いを初めて口にしたのだ。

雪菜は人間界にやって来てから色々な人間と出会った。彼女をお金を手に入れる為の道具の手段として扱った垂金という人間。

故郷に残した妹と同じ年頃の雪菜が重なり、捕われていた雪菜を助けようとその若い命を落とした名前も分からない心優しい人間。

男っぽいとこがあり、一つ屋根の下で雪菜と暮らすようになってからは親身になって実の妹のように可愛いがってくれる人間の女性。

少し変わっているが異世界の住人である彼女をホームステイとして受け入れ、家族の一員として娘の様に扱い大切にしてくれる人間。

人間の良い面と悪い面の両方の姿を見てきた雪菜であったが、彼女は心から人間が好きであった。

それは沢山見てきた人間の中でもある一人の人間の影響が大きかった。

いつ終わりがくるのか分からない捕われの身になってからの辛かった日々。

そんな辛い日々から彼女をその人間は救い出してくれた。

そしてその人間は、彼女が人間界で生活する様になっても、その隣でいつも優しく温かい目で見守っていてくれていた。

その人間の名は桑原和真。

心まで凍てつかせていた生まれ故郷の氷河の国では感じる事が出来なかった心の温もり。

桑原と彼の家族の優しい心の温もりに囲まれて雪菜は人間を心の底から好きになったのだ。

不器用で素朴な温かい心を持ち、常に命がけで雪菜を守ってくれていた桑原。

雪菜はいつの間にか人間界で生活していくうちに桑原に対して異性として惹かれていたのだ。

 

「雪菜ちゃんは自分の気持に気付いたのね」

 

雪菜は頷いた。

 

「安心して雪菜ちゃん。万が一の場合は私が彼を助けるから。仮に私が行かなくても幽助君や飛影が彼を助けにいくと思うわ」

 

「棗さん……」

棗の言葉に少しホッとした顔。

 

「和真さん……」

両手を胸の前で組んで桑原の事を祈り始める。

そして雪菜は妖気を集中し始めた。

 

――Aブロック

 

「ゴホッ、ゴホッ」

 

口から血が溢れ出る。

 

「かなり霊気が弱まってきたな。死が近いな桑原よ」

 

(クソッ)

 

<<和真さん>>

 

その時、桑原の耳に女性の声が聞こえてきた。

 

(こ、この声は!!)

 

<<和真さん>>

 

(俺の脳に語りかけているのはま、まさか雪菜さんっすか!!?)

 

雪菜は念信で桑原の脳に直接語りかけたのだった。

 

<<はい、私です。和真さんの脳に直接語りかけています。和真さん、お願いです。勝って生きて下さい。私は和真さんへの自分の気持に気付きました。私は、私は和真さんが好きです>> 

 

(!!!!!!!!)

 

桑原は突然の雪菜の告白で一瞬にして顔が真っ赤になった。

 

「な、何だ?」

 

突然の桑原の変化に戸惑う武威。

 

「雪菜さ~~~ん!!!!!」

 

ブォォォォォォ!!!!!


(!!)

 

桑原は歓喜の声を上げた。

それはまるで魂の咆哮。

雪菜の名前を叫ぶと急激に霊気を急上昇させていく。

 

「放しやがれーー!!!!!」 

 

「ぐっ………」

 

桑原の急激の霊気の上昇によって武威は掴んでいた桑原の頭を放した。

桑原の身体から放出された霊気が先程までと別人の様に急激に上昇し、掴むことが出来なくなったからだ。

 

「ば、馬鹿な……」

あまりの桑原の霊気の変化に驚きを隠せない。

 

――メイン会場

 

「どうしたの彼は!?もの凄く霊気が上がっているわよ。一体彼に何が?」

驚く棗に雪菜は笑顔で答える。

 

雪菜、ニコリ。

「念信で和真さんに告白してしまいました」

舌をペロッと出して照れた顔。

 

「……雪菜ちゃんって意外に大胆な事をするわね…」

 

(まさかあの状況の彼に告白するなんて驚きよ)

 

予想外の雪菜の行動にちょっと飽きれる棗であった。

 

――Aブロック

 

武威、ニヤリ。

「何がきっかけか知らないが、お前の急激な変化には驚いた。だがこれで戦いは面白くなったぞ」

 

「もう俺は負ける気はしねーぞ武威!俺には勝利の女神様がついているからな」

 

雪菜の告白がきっかけとなる愛の力?で桑原の眠っていた爆発的な霊気が目覚めようとしていた。

 

勝負はこれからだ。

 

続く

 

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幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #095「動き出した陰謀(大会編)」

――大会を一望出来る崖の上

 

駁が難しい顔で比羅の隣にやって来た。

「おい比羅、砂亜羅の気が途切れて随分経つが大丈夫なのか?」

 

「確かにな。外部に魔光気が漏れないように結界を張っているのだろうが、少し時間がかかり過ぎだ」 

 

「砂亜羅の気がこれだけ時間が経っても途絶えたままだということは、あいつの身に何かあったのではないのか?」

 

駁は砂亜羅が心配でたまらないようだ。

そんな、駁の様子を見た比羅が動いた。

 

弥勒!」

同じ十二魔将の一人であり、参謀の弥勒に声をかける。

 

「何だい?」

金髪の男が比羅の隣に歩いて来た。

 

弥勒は短い金髪の細身の体型。

その容姿はハンサムではないが特徴のある顔つきで優しげな顔をしている。


「お前も砂亜羅の気が途絶えたのは分かるだろう?私はあいつの様子を見て来る。私が戻るまではここの指揮はお前に任せていいか?」


「分かったよ。ここは大丈夫だ。安心して行っておいでよ」

 

比羅、ニコリ。

「すまんな。直ぐに戻る」

 

フッ

 

比羅の姿が消え去った。

消えた後を見ながら駁が溜息をつく。

「やれやれ、勝手な行動を許すからこんな事になる」

 

弥勒、ニコリ。

「あの比羅も妹には甘いさ」

 

弥勒は大会の方を見た。

穏やかな顔が一転、厳しい顔になった。

 

(何故だか分からないが胸騒ぎがする)

 

杞憂であって欲しい。

心の中で砂亜羅の無事を祈った。

 

――選手たちの休憩所

 

桑原と武威の試合を見ている幽助と飛影の下に、電鳳との試合を終えた蔵馬が戻ってきた。

 

「武威は凄い妖気だな」

 

「蔵馬」

戻って来た蔵馬を幽助が笑顔で出迎えた。

 

飛影が蔵馬の身体の状態を見た。

「その身体では次の試合がかなり厳しくなるだろう。あの瑠架とかいう女の所で傷を治してこないのか?」

 

「そのつもりだ。だけどその前に気になる試合があってね」 

 

「桑原の試合か?」

 

「桑原君の試合はもちろんだが、俺が気にしているのはDブロックの鈴木の試合だ」

 

「鈴木?そっか鈴木が勝てばおめーと三回戦で当たるんだっけな」

 

「違う。鈴木ではない」

 

「あいつは」

スクリーンに映し出されているDブロックの試合に視線を移した飛影が驚く。

 

「何を驚いてんだ飛影?」

幽助もDブロックの方に視線を移した。

 

「あ、あの野郎は!?」

幽助も飛影と同様にスクリーンに映る男の姿に驚いた。

 

「蔵馬、あいつって戸愚呂チームにいた爆弾男じゃねーか」

幽助の言葉に頷く蔵馬。

 

「鴉か。武威に続いてこの男まで出てくるとはな」

飛影は少しうんざりした様子。

 

「武威はともかく、あいつは蔵馬と戦って死んだはずだぜ。何で生きてんだ?」

 

「それは俺も気になる。他人のそら似ではない。さっきあいつと接触したが、その時感じた感覚は鴉その者だった」

 

幽助の目が真剣になる。

「この大会は何が起こるか分かんねーな」

 

――Dブロック

 

鈴木と梟。

対峙する両者。

 

鈴木が梟に向かって口を開いた。

「梟っていうからどんな奴かと思ったらお前だったんだな鴉」

 

梟は何も答えずに黙っている。

 

「暗黒武術会の決勝で蔵馬に殺されたとばかり思っていたぜ。まさか生きていたとはな。驚いたぜ」

 

上空から天海が鈴木と梟を見つめる。

 

「それではDブロックの第二試合の鈴木選手対梟選手の試合を始めます」

 

鈴木と梟の試合が間もなく始まろうとしていた。

 

――Aブロック

 

鎧を纏うことで抑えつけていた、自分自身で制御すら出来ない武装闘気をついに開放した武威。

目に見えてしまう程の巨大な武装闘気が全身を包み込んでいた。

 

武威、ニヤリ。

「この力を開放するのがお前とは思わなかったぞ」

 

ザザザ

 

桑原は武威の武装闘気に圧倒されて思わず後ずさる。


「マジかよ……。こ、こんなにスゲー妖気とは思わなかった…」

 

「どうした桑原?身体が震えているぞ」

 

「ば、馬鹿を言うんじゃねー!!誰が震えてるってんだコラァ!!!」

 

「そうか?今のお前は本能的に俺を恐れている」


武威の言葉に桑原の顔色が変わった。

 

「俺はてめえなんかを恐れてねーーー!!!」

 

桑原は手に持っていた強化版の霊剣を宿した試しの剣を強く握り締めると武威に向かって駆け出した。

武威の言葉を否定する為に。

 

「オラァァァァァ!!!!!!」

 

ビューー!!!

 

真っ正面から向かっていき、試しの剣で武威の頭部を狙って斬りつけた。


パシッ

 

だが、武威は試しの剣を右手で軽々と受け止めた。

 

「さっきは俺の腕に傷をつけたその剣だが、冷静さを欠いたな桑原。俺に確実に攻撃を当てるなら次元刀を選択すべきだ」

試しの剣を素手で受け止めているのにかかわらず、その手には傷ひとつついていなかった。

 

グググ……

 

「何で斬れねーんだよ!!!」

 

「開放した俺の武装闘気が形のない鎧となっている。鎧を纏っていた時の俺と同じだと思うな」

 

ブォォォォォ!!!!!!


武威は受け止めている試しの剣に妖気を伝え始める。


ピシッ!

 

桑原の握っている柄の部分に亀裂が入った。

 

(け、剣が!!)

 

「フン」

 

ブォォォォォ!!!!!

 

さらに試しの剣に妖気を伝える。

 

バチバチバチ

 

「熱っ!!」

 

試しの剣を握っている桑原の右手にまで武威の妖気が伝わってきた。

桑原はその衝撃で思わず試しの剣を放してしまった。 

 

パラパラパラ……

 

桑原の手を放れると同時に、試しの剣は粉々に砕け散った。

 

「た、た、試しの剣が!?」

 

フッ

 

驚く桑原の目の前から武威の姿が消え去る。

 

(消えた!!)

 

ポンポン

 

何者かが背後から桑原の肩を手で叩いた。

 

(!!!!)

 

血の気が引いて固まる桑原。

恐る恐る振り向くとそこには武威が立っていた。

 

ビューーーン!!!!!

 

武威の鋭い一撃が放たれる。

 

ドゴォォォォォォォ!!!!!!!

「ガハッ!!!!!」


大量の血を口から吐き出す。

武威の拳が桑原の腹部にめり込んだのだ。

 

バキィィィィィ!!!

 

腹部に一撃を受けて苦しむ桑原の顔面を追い討ちをかけるように殴りつけた。

 

(くっ!!)

 

ヒューーーーー!!!!!


ズガガガガァァァァァァ!!!!!!!

 

桑原の身体は地面を削りながら叩きつけられた。

 

「うっ……、ゲホッ!!ゲホッ!」

血を口から再び吐き出した。

武威は桑原を涼しい顔で見ている。

 

「どうした桑原?この程度の攻撃でその様か?そんな事では仇討ちなど出来ないぞ」

 

(つ………強すぎる……)

 

――選手たちの休憩所

 

「桑原君!?」

 

「ヤベーぞ!!殺られちまう!!!桑原の手に負える相手じゃねー!」

 

「まさかここまで強くなっているとはな。御堂の洞窟でもう少し戦えば良かった」

 

幽助たちも開放された武威の強さに驚いていた。

 

――Aブロック

 

ググ……

 

ゆっくりと桑原が立ち上がった。

 

「もうかかって来ないのか?」

 

「言われるまでもねー!!」

 

ジジジ……

 

左手に霊気を集中し始めた。

 

「くらいやがれーー!!!!」

 

ビュー!ビュー!ビュー!


左手から霊剣手裏剣を武威に向かって放った。

 

「霊剣を手裏剣にして飛ばすとは器用な男だ」

 

「オリャァァァァァ!!!」

 

霊剣手裏剣を放つと今度は右手に次元刀を作り出して駆け出した。

 

「ハァァァァァ!!!!!」

 

ブォォォォォォ!!!!!


武威は妖気を高めた。

 

ビュー!ビュー!ビュー

 

霊剣手裏剣が武威に迫っていた。

 

(あいつが霊剣手裏剣を防いだ時に僅かに隙が出来るはずだ。その瞬間を次元刀で攻撃してやる。防御不可能の次元刀と今の俺の剣術なら隙が出来れば武威をぜってーに斬れる)

 

しかし桑原の思惑とは裏腹に、武威は霊剣手裏剣を防ごうとはしなかった。

 

「あいつどういうつもりだ!?」

 

「消え去れ!!!」

 

グォォォォォ!!!!!

 

武威が叫ぶと同時に武威の全身から衝撃波が放たれた。

 

シュゥゥゥゥゥ……

 

霊剣手裏剣は武威の衝撃波により打ち消された。

 

「ウォォォォォ!!!」

 

武威に向かっていた桑原も衝撃波に巻き込まれて吹き飛ばされた。

 

ヒューーーーー!!!!!


ドガァァァァァ!!!!!


吹き飛ばされた桑原は岩壁に叩き込まれた。

 

「悪いが中途半端の攻撃は俺には通用しない」 


ガラガラガラ

 

崩れた岩壁の中から桑原が出て来た。

満身創痍の状態だ。

 

(チクショー……)

 

――選手たちの休憩所

 

「強い」

 

「負けを認めろ桑原ァァァァ!!本当に殺されちまうぞ!!!」

幽助は大きな声でスクリーンに映る桑原に向かって叫んだ。

 

躯と時雨も想像以上の武威の強さに驚いていた。

「あれほどの妖気を鎧で抑えていたとはな」

 

時雨の額から汗が落ちる。

「このままでは桑原は……」

 

「鎧を纏っていた時ならなんとかなったが、今の桑原とあいつの力の差はあまりにもありすぎる。殺されるのも時間の問題かもしれない」

 

――大会を一望出来る崖の上

 

スクリーンに映る桑原と武威の試合を見ていた駁が顔色を変えた。

「マズイぞ!桑原が殺されそうだ!!」

 

「落ち着いてください駁」

慌てる駁をなだめる袂。

 

「これが落ち着いていられるか!!さっきまでの戦いを見ていてもヒヤヒヤさせられたが、ここまで力の差があれば桑原に勝ち目はない。確実に殺されてしまうぞ」

 

「確かに今の状態では殺されるかもね」

弥勒は冷静に試合を分析している。


弥勒、桑原が殺されてしまう前に闘場に行って桑原を奪うか?」 

 

「比羅が不在の今は貴方に私達を指揮する権限があります。私は弥勒に従いますよ」

 

弥勒は考えるように目を瞑った。

駁と袂、その他の十二魔将も弥勒に視線を向けた。

 

弥勒が目を開けた。

「ここはこのままこの場に待機する」

 

駁が弥勒にくってかかる。

「待機だと!もし桑原が殺されてしまったら俺達の目的が果たせなくなるぞ」

 

駁の肩に手を置いて宥める。

「冷静になるんだよ駁。私達が大会に姿を現せば煙鬼をはじめたとした妖怪たちと戦うはめになるよ」


「何を言っている!どちらにしろ桑原を奪うには奴らと戦う事になるんだぞ」


「忘れていないか駁?今の私達は比羅、砂亜羅、楽越、黎明の四人を欠いている。大会はまだ二回戦、煙鬼やその仲間、躯、黄泉の力はまだまだ充分だよ。戦力が落ちた今の状態で戦ったらこちらの方が敗北する可能性が高い」

 

袂が恐る恐る弥勒に質問。

「しかし弥勒、駁の言う通り桑原が殺されてしまったらどうするつもりなのですか?」

 

「万が一桑原が殺された場合の事も考えてあるよ」

弥勒は何か策を持っているような顔だ。

 

「何か策でもあるのか?」

 

「忘れていないかい駁?樹が連れて来たあの妖怪を」

 

「はっ!?」

 

弥勒の言葉に駁は何かを思い出したようだ。

 

「なるほど。奴なら桑原が死体となっていても身体さえ手に入ればその能力を吸収出来る」

 

弥勒が頷く。

「相手の能力を食べる能力“美食家”(グルメ)だよ」

 

――会場へと続く道

 

比羅は妹の砂亜羅の魔光気が消えた場所に来ていた。

痕跡から砂亜羅が何者かと戦っていたのが分かる。

 

「私が感じていた通り、間違いなくここで何かの戦いがあった様だ」

 

比羅は周辺を調べてまわる。


「う……」

 

辺りを調べていた比羅の耳に何処からか声が聞こえてきた。

 

「むっ!誰だ?」

比羅は声が聞こえた場所に近付く。

 

(!!)

 

するとそこには砂亜羅が倒れていた。

 

「砂亜羅!!」

直ぐに妹の下に駆け寄った。


砂亜羅は無惨な姿となっていた。 

身に纏っていた鎧は殆ど破壊されて全身に大きな傷を負っていた。

 

「砂亜羅しっかりしろ!!何があった!?」

 

比羅の呼びかけに砂亜羅は目をゆっくりと開けて口を開けた。

 

「あ………う…」

(こ、声が出ない。兄さ…んに…あい…つの…こと…をつ…たえない…と…)

 

「何を言っている。しっかりしろ!」

 

(兄…さん…気を…つ…けて…)

 

ガクッ

 

(!?)

 

砂亜羅の目から涙が流れ落ちた。

比羅の腕に抱かれている砂亜羅の力が抜けていく。

砂亜羅は兄の腕の中で息を引き取った。

 

「さ、砂亜羅ァァァァァ!!!」

比羅は妹の身体を強く抱きしめた。

その目から涙が溢れる。

 

「許せん!何者か知らないが砂亜羅を殺した者を見つけ出して必ず殺してやるぞ」

 

「比羅」

 

ズズズ……

 

空間から男が姿を現す。

闇撫の樹である。

 

「お前も魔界に来ていたのか樹」

 

「砂亜羅を殺した者を俺は知っている」

 

「何!?」

 

樹の話す言葉により事態は急展開を向かえる事となる。

 

続く

 

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幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #094「第二ラウンド(大会編)」

――魔界統一トーナメントのDブロックの二回戦・第二試合

 

武威(ぶい)
×
桑原(くわばら) 

 

――Aブロック

 

実力を見せつける武威。

対する桑原の右手には次元刀がその姿を現した。

 

「こいつでおめーを鎧ごとぶった斬ってやる」

 

「初めて見たな。今までと違う剣だ。だが所詮はさっきのように霊剣に威力が増しただけの話しだろう」

 

武威の表情は兜を被っている為に分からないが、余裕を感じさせる声だ。 

 

桑原、ニヤリ

「見てろよ!威力だけじゃねーってとこも見せてやるぜ」

 

スッ

 

次元刀を武威に向けて構える。

 

――選手たちの休憩所

 

ようやく次元刀を出した桑原を見て幽助が溜息をついた。

「やっと次元刀を出したな桑原の奴。あいつにはマジでヒヤヒヤさせられちまうぜ」 

 

隣の飛影は無表情。

「最初から次元刀を出しておけばいいものを」

 

――Aブロック

 

「行くぜ!」

 

桑原は武威に向かって駆け出した。

武威は最初の時と同じ様に桑原を待ち構える。

 

バッ

 

「トォォォ!!!」

 

武威の少し手前でジャンプ。

空中で次元刀を構えた。

 

「オリャァァァァァ!!!!!」

 

ビューー!!!!

 

大きな掛け声と共に次元刀で思いっきり斬りつける。


「フン」

 

ビューーーーーン!!!!


次元刀を防ぐ為に斧で迎撃。

ぶつかりあう次元刀と斧。


ガッ!!!!!

 

武威の斧は桑原の次元刀を受け止めていた。

 

「残念だったな桑原。その剣でも俺には通用しなかったぞ」

 

だが、桑原はニヤリ。

「手応えあり」

 

武威に攻撃を受け止められたにもかかわらず桑原は不適な笑みを浮かべた。

 

(これは!?)

 

シュパーン

 

次元刀によって空間が切り裂かれていた。

 

「何!?」

 

ズバァァァァ!!!

 

「ぬォォォォォ!!!!」

吹き出る鮮血。

胸から腹部にかけて鎧ごと、桑原の次元刀によって切り裂かれていた。

武威の足が斬撃によってぐらつく。

 

「何故斬られたのだ!?俺の斧はお前の剣を完全に抑えていた筈だ」

 

地面に着地した桑原は驚く武威に解説し始めた。

 

「悪いな武威。俺の剣は次元刀。空間ごと斬らせてもらった。おめーは斧で俺の攻撃を受け止めたつもりかもしれねーが、空間を斬る俺の次元刀には防御は意味ねーぞ」 

 

「空間を切り裂く剣か……。防御不可能とは恐ろしいな」

 

ポイッ

 

武威は武器である斧を後ろに投げ捨てた。 

 

ズン!!

 

斧がその重みで地面にめり込む。

 

「俺はお前をどうやら甘く見ていたようだ。防御不可能ならお前に接近されると厄介だな」

 

スッ

 

ジジジ……

 

武威は右手を高く上げると妖気を集中し始めた。

 

「あいつは武器の斧を捨てて何をするつもりだ?」

 

武威の右手には妖気で作られた小型の斧が出現。


「また斧かよー!しかも今度は小せーし」

 

「ウォォォォォォ!!!!!!」

 

武威は大きな声で叫ぶと桑原に向けて小型の斧を投げつけた。

 

シュルルルルル!!!!!!!!

 

(!?)

 

シュパッ

 

小型の斧が桑原の左頬をかすめた。

 

桑原から斬られた頬の血と共に、額から冷や汗が流れ落ちた。

斧の凄まじいまでの速度に一歩も身体を動かす事が出来なかったからだ。

 

「なんてスピードだ!?殆ど見えなかったぞ」

 

シュルルルルル!!!!!!!!

 

パシッ

 

斧は武威の手元にブーメランの様に戻って来る。

 

「今のはワザと外してやった。だが次は外さんぞ」

 

(マズイぞ。どうすっか……)

 

「フン」

 

シュルルルルル!!!!!!!!

 

再び桑原めかげて斧が放たれた。

 

「クソーッ」

 

バッ

 

右に素早く飛んだ。

 

ズバァァァ!!!

 

「ウォッ!!」

 

斧は桑原の肩を切り裂く。


ドテッ

 

飛んだ拍子に地面に転んだ。

斬られた肩を手でおさえる。


シュルルルルル!!!!!!!!

 

斧が今度は背後から桑原の首をめがけて襲ってきていた。

 

「ゲェェェェェ!!!?」

 

ガバッ

 

瞬間的に地面にはいつくばって攻撃をかわす。 

斧は桑原の髪の毛をかすめる。

 

シュルルルルル!!!!!!!!

 

パシッ

 

「堪のいい男だ。しかし俺の攻撃は殆ど見えていない様だな」

 

「こりゃマジでヤベー……」

 

恐る恐る立ち上がると次元刀をなんとか構える桑原。

動揺を隠せないのが顔に出ていた。

 

(霊剣手裏剣を放って弾くとしても、斧が殆ど見えねーから当てる事も出来ねー)

 

「桑原、お前が死ぬのは時間の問題だ」

 

シュルルルルル!!!!!!!!

 

斧が次に桑原の眉間を狙って放たれた。

 

バッ!!

 

今度は左に飛ぶ。

 

スバァァァァ!!!

 

桑原の背中を切り裂く。

 

「ぐっ!!」

 

傷の痛みで顔が歪む。

 

――選手たちの休憩所

 

剣術の師である時雨が桑原の戦いぶりを見ていた。

 

「桑原……」

 

スクリーンには、武威の攻撃を堪と持ち前の悪運の強さで必死にかわし続けている桑原の姿が映し出されていた。

 

「お前の弟子はかなり苦戦しているようだな」

躯が時雨の隣にやって来た。

 

「躯様」

 

「あの武威とかいう男からは憎悪と殺気しか感じられない。相手を殺す戦い方をしている」

 

「拙者もそれは感じました。この試合で桑原が負ける時は、月畑と同じ様な運命を辿る事になってしまうでしょう」

 

「桑原がもしここで死ぬようなことになれば、桑原を狙う者たちの企みが全て水の泡となる。魔界の維持にはそれもありだな」

それは現状の魔界の維持を願う躯の頭に描いている選択肢の一つであった。

 

「躯様……」

躯の言葉に驚く時雨。

 

時雨の顔色が変わったのを見て、躯はニヤリ。

「フッ、冗談だ。そんな顔をするな時雨。俺はあの男の事も気に入っている。生かす方向に動く。それに」

 

「それに?」

 

「あの男があの程度の攻撃でむざむざと殺される男ではないことは、剣術の師であるお前が一番知っているだろう?」

躯の言葉に笑顔を見せる時雨。

 

「確かにそうですな。桑原はこのような場所で死ぬような男ではありません」

 

スクリーンの中で必死で武威の攻撃をかわす桑原を見て心の中で時雨は呟く。

 

(こんな所で死ねばお前が拙者に命がけで剣術を習った意味がなくなる。お前の大事な目的の為に勝つのだ桑原)

 

――Aブロック

 

シュルルルルル!!!!!!!!

 

パシッ

 

ギリギリの状態で攻撃をかわし続けている為、桑原の精神力と体力がかなり消耗していた。

だが、その目には諦めの文字はない。

 

(殺られてたまるかってんだ)

 

「……中々しぶとい。流石は浦飯と同様に戸愚呂(弟)が認めていた男ではある」

 

桑原は致命傷となる大きな傷はないものの。斧を避けた時についた傷が無数に全身にあった。

 

「チクショー!このままだとジワジワとダメージが溜ってその内に動けなくなってしまうぜ」

 

「徐々に攻撃をかわすスピードが遅くなってきている。目でとらえる事が出来ない攻撃をいつまでかわし続けられるかな」

 

シュルルルルル!!!!!!!!

 

斧が桑原の腹部を狙って飛んで来る。

 

(なるほど、目でとらえるか……)


バッ

 

桑原はかすり傷を負いながらもこの攻撃をかわす。

その時、桑原の脳裏に時雨の言葉が浮かんだ。

 

――桑原の回想

 

それは躯の居城にある訓練場で修行を始めたばかりの頃。

 

ドテッ

 

「痛てて……」

 

時雨の一撃をまともに受けて倒れる桑原。

 

スッ

 

時雨は燐火円磔刀を桑原の喉元に突きつけた。

 

「桑原、目で追うだけでは拙者の攻撃をいつまでもかわせんぞ。目でとらえる事の出来ない時は、相手の気で動きを探るのだ」

 

これまで、時雨が繰り出す目にも止まらない激しい攻撃を一度もかわす事が出来なかった。

 

「気で探るか……」

 

「拙者たち妖怪には妖気、お前たち人間は霊気を体内に持っている。攻撃をした時には大なり小なり必ず放出される。目で動きをとらえる事が出来ない時はそれを辿るのだ」

 

「気を辿ればどんな相手の攻撃でもかわせんのか?」

 

「フフッ、あまりにも極端に力の差がある相手は流石に不可能だ。例えば拙者と躯様の様にな。だが、大きな力の差がない者が相手ならかなり有効だ」

 

「分かったぜ。気で探ってかわす事をぜってーに出来る様になってやる」

 

「だったらもう一度行くぞ」

 

「おうよ」

 

こうして桑原は気で読む力を血の滲む様な修行の末に見に付けたのだった。

 

――桑原の回想・終了

 

桑原、ニヤリ。

「すっかり忘れていたぜ」

 

桑原は焦る気持を静めて冷静になり始めた。

 

「フン」

 

シュルルルルル!!!!!!!!

 

桑原めがけてまたも飛んで来る斧。

 

「おっし!!」

 

フッ

 

ここでついに桑原は妖気で作られた武威の斧を気で動きを辿り、ギリギリでかわすことに成功した。

初めて武威の投げてくる斧をかわしたのだ。

 

シュルルルルル!!!!!!!!

 

またも斧が背後から背中をめがけて戻って来る。

 

フッ

 

これも桑原はギリギリでかわす。

 

(またかわした!?)

 

突然、桑原が攻撃をかわし始めた事に武威は驚いた。


(見切ったぜ。こんな形で時雨との修行が活きてくるとは思わなかった)

 

パシッ

 

武威の手元に斧が戻って来る。

 

「反撃開始だ」

 

シュゥゥゥゥゥ

 

桑原は次元刀を右手から消すと、懐から試しの剣を取り出して霊気を集中し始めた。

 

ジジジ…

 

試しの剣による霊剣を作り出していく。

 

「あの桑原が俺の攻撃のスピードを見切ったというのか。認めんぞ」 

 

シュルルルルル!!!!!!!!

 

肩をめがけて斧を投げつける。

 

桑原の目付きが変わる。

「この鈴木の作った試しの剣は俺の気分に合わせて変化してくれる優れものだぜ!!」

 

試しの剣から放出された霊剣の形がいつもとは形状が違っていた。

なんと野球のバットの形になっていたのだ。

桑原の構えは往年の野球選手である落合博満のバッティングフォーム。 

 

「落合流首位打者剣!!」

 

シュルルルルル!!!!!!!!

 

「オラァァァァァ!!!!!」

 

ビューーン!!!!!

 

試しの剣で作ったバットで武威の斧を打ち返した。

 

ガキーーン!!!!!! 


打ち返した斧が今度は武威の頭部に向かって飛んでいった。

 

シュルルルルル!!!!!!!!!!!!!

 

その速度は武威が投げた斧の速度を遥かに上回っていた。

 

(な、速い!?)

 

バキィィィィィィ!!!!


武威はその場から一歩も動けずにいた。

斧は武威の兜を破壊。

そして斧は武威の頭部を僅かにかすめた。

兜が割れて地面に落ちた事で、武威の素顔が露になると同時に額から血が流れ落ちる。

 

桑原、ニヤリ。

「ピッチャー返しだ」


(いいだろう)

 

スッ

 

ズン!!!

 

武威は静かに身に纏っていた鎧を脱ぎ始めた。

 

「へっ、ざまーみろ!!鎧を脱がしてやったぜ」


ズン!!!

 

身に纏っていた最後の鎧のパーツを脱ぎ捨てた。

 

ブォォォォォ!!!!!!


武威が全ての鎧を脱ぎ捨てると今まで抑えていた武装闘気が開放され始めた。

 

ビリビリ

 

「なっ!!?何てスゲー妖気なんだ!さっきまでとは別人の様だぜ……」

 

武威のあまりの妖気の大きさに驚く桑原。

例えるなら背筋が凍るほどの。

そして武威の身体からは、身体が宙に浮く程の武装闘気を放出されていた。


「俺がこの状態になれば悪いが楽には死なせないぞ」

 

桑原の顔が青くなる。

「俺、マジで死ぬかも……」

 

全力の武威が桑原に襲いかかる。

 

続く

 

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幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #093「死闘の始まり!武威vs桑原(大会編)」

――魔界統一トーナメントのAブロックの二回戦・第二試合

 

武威(ぶい)
×
桑原(くわばら) 

 

――メイン会場

 

小兎の解説が始まる。

「Aブロックの二試合目は本大会で唯一の人間である桑原選手の登場です。そして一回戦で月畑選手を一撃で倒して、観客の皆さんのど肝を抜いた武威選手が登場します!!!」

 

「武威!!一回戦の様にその人間を真っ二つにしてやれー!!」

 

「スカっとする戦いを見せてくれよ武威!!」

 

一回戦の衝撃的な試合から、武威を応援する観客が多くなっていた。

 

「和真さん…」

 

興奮する観客たちの中で、雪菜だけはスクリーンに映る桑原を心配そうに見つめていた。

雪菜は桑原と今から戦う相手となる武威に目を移す。


「あの人が和真さんの相手。なんて恐ろしい妖気なの。あの人は間違いなく和真さんを殺すつもりでいる」

 

――選手たちの休憩所

 

「桑原よ、あの者は手強いぞ。心してかかるのだ」

 

時雨は三回戦進出を決めて、直ぐに休憩所に戻って来た。

弟子の戦う試合を観る為に。

 

「あの者を倒して勝ち上がって来い。三回戦では拙者が御主を待っているぞ」 

 

――Aブロック

 

この試合の審判は天海である。

「始め!!」

 

天海の試合開始の合図の声が闘場に響き渡る。

桑原と武威はお互いの顔を見た。

 

「行くぜ武威!!」

 

ジジジ……

 

桑原は右手を前に突き出す。

 

「霊剣ンンンンンンン!!!!」

右手に霊剣を作り出した。

 

「ぶった斬ってやるぜェェェェ!!!」

 

攻撃を先に仕掛けたのは桑原だった。

武威に向かって全速力で駆け出す。

 

――選手たちの休憩所

 

幽助が腕を組んで試合を観戦している。

「桑原の奴、次元刀じゃねーな」

 

一方の飛影は呆れ顔。

「様子見といったとこだろう。馬鹿め、今の武威は様子見が出来る相手ではないぞ」

 

――Aブロック

 

武威は突進して来る桑原を黙って待ち構えている。

 

(……)

 

スッ

 

ジジジ……

 

右手を横に伸ばすと妖気を集中し始めた。

 

桑原が武威に接近。

「オリャァァァァ!!!」

 

ビューー!!!

 

武威の肩を狙って霊剣で斬りつける。

 

ガッ!!!

 

「何ィィ!!」

 

霊剣は武威の巨大な斧によって受け止められていた。

 

「野郎!獲物を出しやがったな!」

 

この大会で月畑を一撃で殺して見せたあの斧である。


ググッ

 

「チクショー!!びくともしねーぜ」

 

斧によって受け止められた霊剣は、桑原がいくら力を込めてもそれ以上は動くことがなかった。

 

「フン」

 

ビューン!!!

 

左手で桑原を殴りつける。


バゴッ!!!

 

桑原の顔面に思いっきりヒット。

 

ヒューー

 

殴られた勢いでふっ飛ばされる。

 

ドテッ!!

 

「痛てて……。油断しちまったぜ」

 

スッ

 

(ゲッ!?)

 

地面に叩きつけられた桑原の目の前に武威が斧を構えて立っていた。

 

ビューーーーーン!!!

 

巨大な斧とは思えないスピードで振り下ろす。 

 

「やべーっ!」

 

バッ

 

素早くジャンプ。

 

ドゴォォォォォォォ!!!


斧が地面にめり込む。

 

「危ねー。後少しでもかわすのが遅かったら、月畑みてーに真っ二つにされていたぜ」

 

桑原は武威と距離を取って着地した。 

 

(…………)

 

ズンズンズン

 

武威は巨大な斧を持ちながら桑原めがけて駆け寄る。


スッ

 

桑原は霊剣を構えて武威を迎え撃つ。

 

「来てみやがれ」

 

ビューーーーン!!!!!


再び巨大な斧が凄まじいスピードで振り下ろされた。


バッ

 

武威の攻撃を素早くジャンプしてかわす。

 

「くらいやがれー」

 

ビュー!!!

 

空中から霊剣で斬りつける。

 

シャキーン

 

武威の左肩から右の脇腹までを切り裂いた。

 

桑原、ニヤリ。

(完璧な一撃だ)

 

着地して武威の様子を見た。

 

「どうだァァァ!」

 

(………)

 

武威は何事もなかったかのように立っていた。

そして武威が口を開く。

 

「甘いな桑原。俺の身体までお前の霊剣は届いていない」

 

「ゲッ!マジか!?てめえの鎧はこんなに分厚いのかよー」

自信のあった一撃だけに驚きを隠せない。

 

「この鎧は俺の力を抑えるだけの只の飾りだ。お前も知っているだろう?俺には武装闘気があることを」

 

武装闘気……」

 

桑原は飛影と武威が暗黒武術会で戦った時の事を思い出した。

 

「どうやら思い出したようだな」

 

「ああ。思い出したぜ。頑丈なのはそいつのせいか…」

 

武威は自分自身でも抑えることが出来ない程の巨大な武装闘気を制御する為に、自分の身体の数倍はある重さの分厚い鎧をその身に纏い、その力をなんとか抑えていたのだ。

 

「そういうことだ。武装闘気を防御にまわす事で、俺の鎧の強度は格段に上がっている。今のお前の霊剣では俺の身体に傷をつけることは不可能だ 」

 

桑原、ニヤリ。

「そうかよ。不可能って言われて黙っている俺じゃねーんだよ!」

 

シュゥゥゥゥゥ

 

桑原の右手から霊剣が消えた。

そして懐からある物を取り出す。


(何かを取り出したな)


「行くぞコラァァ!!!」

再び武威に突進して行った。

 

(霊剣を出さずに向かって来る。何かあいつに策でもあるのか?)

 

向かって来る桑原に対して武威は斧を構える。

 

「試しの剣だ!!!」


ギュォォォォォォォン

 

試しの剣は桑原の霊気を吸い始める。

 

――選手たちの休憩所

 

桑原の試しの剣に、同じ試しの剣を持つ死々若丸が反応。

「あれは鈴木の試しの剣!」

 

――Aブロック

 

「強化版の霊剣だぜェェェェ!!!」

 

バチバチバチ

 

ピキーーン

 

試しの剣は桑原の霊気を吸い込み、強力なエナジーを放出した霊剣を生み出す。


「オリャァァァァァァ!!!!」

 

ビューー!!!

 

(速い!!)

 

武威は桑原の攻撃速度が予想より早い為に、斧で攻撃を受け止めるのが遅れた。

 

ズバァァ!!!

 

試しの剣が武威を切り裂く。

だが驚いたのは攻撃を仕掛けた桑原であった。

 

「ぬっ!!!ヤロー!!」

 

なんと武威は左腕で試しの剣を受け止めていた。

 

ポタポタポタ……

 

武威の左腕から血が滴り落ちる。

試しの剣は武威の左腕に深く食い込んでいた。

 

ググッ

 

武威はここで左腕に力を込めた。


「け、剣が抜けねー!?」

 

左腕の筋肉により、試しの剣の動きを完全に封じた。

 

武装闘気を貫くとは少し驚いたが、惜しかったな」

 

スッ

 

右手に持つ巨大な斧を振りかざした。

 

「あの魚人と同じ死に方をさせてやる。死ね桑原」

 

ビューーーーーン!!!!


桑原の腹部を狙って振り下ろされる斧。

狙いは桑原の身体を真っ二つにする為に。

 

「クソッタレー」

 

スッ

 

一撃をかわす為に、桑原は試しの剣から手を放す。

 

バッ

 

そして手を放すと同時に後ろに飛んだ。

 

「かわしたか」

 

ズドォォォォォン!!!!


巨大な斧は先程と同じ様に地面にめり込んだ。

 

「うっ……」

 

桑原の腹部には、傷は浅いが武威の斧によって斬られていた。

 

「月畑もこれでやられちまったんだっけな…」

 

(桑原め、思ったより出来るな)

 

グググッ

 

ズボッ

 

武威は左腕に食い込んでいた試しの剣を外した。

 

「返すぞ」

 

ポイッ

 

外した試しの剣を桑原に投げた。

 

パシッ

 

桑原は試しの剣を受け取る。 

 

「へへへ、返してもいいのかよ。後悔する事になるぜ!」

 

「それがあってもなくてもお前がここで死ぬ事には違いはない」

 

(こいつは想像以上に強いぜ。様子見で力を出し惜しみしていたらやられちまう)

 

「今のお前もこの鎧を脱いで戦う程の相手ではない。この姿のままで殺してやる」

 

「そうかよ。殺れるものならやってみやがれ!」」

 

桑原は試しの剣を一旦、使うのを止めた。

 

スッ

 

ジジジ……

 

右手を前に突き出すと霊気を集中し始めた。

 

「次元刀ォォォォォォ!!!!」

 

ピキーン!!

 

右手に次元を切り裂く事の出来る次元刀が姿を現した。

 

シュッ

 

次元刀の剣先を武威に向けた。

 

「俺がてめえの鎧を今から脱がせてやるぜ。覚悟しな」

 

「フッ、死ぬ前にお前の力を俺に示して見せるがいい。いい思い出にしてやる」

 

桑原と武威の戦いは第二ラウンドに突入する。

 

続く

 

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幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #092「蔵馬vs電鳳戦の結末」

――魔界統一トーナメントのDブロックの二回戦・第一試合

 

蔵馬(くらま)
×
電鳳(でんぽう) 

 

――Dブロック

 

妖狐蔵馬の身体から毒死草がその姿を現した。

 

「行くぞ」

 

毒死草の中心部には目玉のようなものが見える。

そしてその少し下には口らしきものがあった。

 

《グワァ》

 

毒死草は奇声を上げて口を大きく開けた。

 

ズォォォォォ!!

 

凄まじいまでの強烈な霧のブレス吐き出した。

霧は一瞬で妖狐蔵馬と電鳳の姿を隠すように包み込む。

 

――選手たちの休憩所

 

スクリーンに映し出されている毒死草を飛影が見ている。

(蔵馬はやはり自分の身体に取り込み、毒死草に妖気を通したか)

 

幽助が興味深そうにスクリーンに映る霧を観ている。

「スゲー霧だな。だけどよ蔵馬はいつの間に体内に入れたんだ?」

 

「分からないのか?さっきの黒い煙を出した時に決まっているだろう」 

 

「あ、あの時か!」

 

「毒死草は妖気を通してから使えるまでに時間がかかる。普通に妖気を通したくても、電鳳に邪魔をされて出来ないだろうからな」

 

「蔵馬はあんな植物を身体に入れて大丈夫なのか?」

 

「大丈夫なわけがないだろう。かなり苦しい筈だ。それに本当に恐ろしいのは…」

 

「何だ?」

 

「毒死草の効果だ」

 

飛影は再び相樂を倒した時の事を思い出した。

 

――飛影の回想

 

相樂の前に毒死草が姿を現した。

 

相楽が毒死草を見上げる。

「何だ?この植物は!?」 

 

そして蔵馬が相楽を攻撃するように毒死草に指示。

「行け」

 

《グワァ!!》

 

主の命令を受けた毒死草が奇声を上げた。

 

ズォォォォォォ

 

毒死草は霧のブレスを吐き出した。

霧のブレスは蔵馬と相樂を包み込む。

 

「これは霧か!?」

相楽は一瞬で辺り一面が霧に包み込まれた事に驚く。

 

ドクン

 

そして急に相楽の心臓が激しく波打つ。

「うがが……」

 

身体から急に力が失われていく。

 

ググ……

 

「どういう事だ!?力が急に抜けたと思ったら今度は身体が動かん!」

 

「この毒死草が吐き出した霧は毒が含まれている。この霧に触れた者は一時的だが、身体の動きを封じると同時に妖力を数段階は落とす事が出来る」

 

ガクッ

 

そう言うと蔵馬も相樂と同じ様に膝を地面につく。

 

「それは同じ霧の中にいる俺も同じ事だがな……」

 

「一体、あの霧の中で何が行われているのだ?」

 

霧の外にいる飛影には中で何が行われているのか分からなかった。

だがその時、霧の外にいる飛影に向かって蔵馬は大きな声で叫んだ。

 

「飛影!この霧は一時的なものだ。霧が晴れたら、お前は直ぐに相樂を攻撃するんだ!!」

 

「何を訳の分からない事を。何なら今からでも奴を攻撃してやるぞ」

 

飛影はいつでも霧の中に飛び込む構えだ。

 

「よせっ!今は黙って俺の言う通りにしてくれ」


「クソーッ!身体がほとんど動かす事が出来ん!」

相樂は身体を動かそうとするが毒により身体の自由を奪われていた。

暫くすると毒死草が吐き出した霧が晴れていく。

霧が晴れると、そこには毒で身動きが取れなくなった相楽の姿があった。

 

カチャッ

 

飛影は剣を構えた

「なるほど。さっきの霧に身体を動けなくする力があったようだな」 

 

「今だ飛影!!」

 

蔵馬の声に反応して飛影の身体が動く。

「ハァーー!!!!」


ズキューン!!

 

飛影は素早く動いて、動けなくなった相樂に向かっていく。

 

飛影の接近に相楽が気付く。

(なっ!?)

 

「死ね」

 

シャキーン!!!シャキーン!!!シャキーン!!!


「ギャァァァァ!!!」

 

動けない相樂を飛影の剣が容赦なく切り刻む。

 

ドシャッ

 

相樂は全身を十数ケ所も飛影に斬られて息絶えていた。

 

「手間をかけさせやがって」

 

カチャッ

 

剣を鞘に納めると、飛影は毒死草の効果で動けなくなった蔵馬の所へむかう。

 

飛影の顔を見ると蔵馬はニコリ。

「やったな飛影」

 

「お前も動けなくなっているようだな。どういう事か詳しく話せ」

 

「ああ」

 

蔵馬は毒死草の事を飛影に詳しく説明した。

 

「そういう事か。しかし、お前がその様では俺がいなければ奴を倒せなかったぞ」

 

「まあね。本来ならこれ用に毒消し草を調合しているんだが、相樂がここまで強いとは思わなかったから持ち合わせていなかったんだ」

 

「あの時、俺がお前の静止を聞かなければどうしていた?」

 

「その時は動けるようになって、相樂と戦いながら考えるよ」

 

蔵馬は少しおどけて笑う。

 

「チッ」

(顔は笑っているが、こいつの目は俺が計算通りに動くことを確信していたっていっているようなものだ)

 

「ところで、飛影はどうしてここに?」

 

「お前には関係ない」


「フッ、俺が以前、お前を助けた時に口走っていた、雪菜って子が関係しているんじゃあないのか?」

 

(チッ……)

 

「まあいいさ。飛影はこれからどうするんだ?」


「さあな。俺はそろそろ行く」

 

「そうか。飛影、お前とはまた会うような気がする」

 

「俺はごめんだ」

 

蔵馬、ニコリ。

「フッ」

 

飛影は蔵馬を一瞥すると走り去っていった。

そして走りながら飛影は蔵馬の事を考えていた。

 

(蔵馬か……敵に回したくない野郎だぜ)

 

この約八ケ月後、蔵馬と飛影は手を組み、剛鬼と共に霊界の秘宝を盗む事になる。

 

――飛影の回想・終了

 

(あの一件から俺は蔵馬を敵に回すのをやめた)

 

飛影はスクリーンに目を移す。

スクリーンに移るDブロックは大きな霧に包まれている。

 

「これでこの戦いはもうすぐ決着がつく」

 

――Dブロック

 

「凄い霧だ」

辺りをキョロキョロと見回す電鳳。

 

「これでお前を倒す」

 

「何をバカな事を言っている。たかがこんな霧で俺を倒せるわけがないぞ?」

不思議そうな顔をする電鳳。

 

ドクン

 

(何だ!?)

 

その時、電鳳の身体に異変が起こる。

 

ガクッ

 

電鳳は膝を地面につく。

 

妖狐蔵馬ニコリ。

「どうやら効いてきたようだな」

 

そう言うと口に小さな草を含んだ。

 

(何を口に入れたんだ?)

 

口に妖狐蔵馬が何かを入れたのを電鳳は見逃さなかった。

 

「お、お前は何をしたんだ?急に力が抜けていく…」

 

「これは毒死草だ。妖気を通す者の妖力の大きさに比例して、より強力な毒となる霧を吐き出す植物だ」

 

「毒だと…!」

 

「妖力に大きな差があるお前を倒すには、この毒死草しかなかった。この霧は触れている者の身体の自由を奪う。そして数段階は妖力が落ちる」

 

 「お前もこの霧に触れているのに平気なのは何故だ?」

 

「俺が何の準備もなくこの植物を使うと思うか?毒消し草は準備してあるさ」

 

電鳳の脳裏に先程、小さな草を口に含んだ妖狐蔵馬の姿が浮かんだ。

(さっき飲み込んだのがそうか!!)

 

妖狐蔵馬は少しずつ電鳳に近付く。

 

「少し卑怯かもしれないが、毒の効果で妖力の落ちた今のお前なら倒せる」

 

電鳳、ニヤリ。

「なるほど、こんな切り札があるとはやられたぞ。お前の能力だ。これは卑怯ではない。しかし流石はあの坊主の友達だよ。見事だ。さあ、勝負のケリをつけろ」

 

妖狐蔵馬は頷く。

「今まで俺が戦った相手で一番お前が強かったよ」

 

妖狐蔵馬の右手に植物が巻き付く。

 

「ハァァァァ!!!樹霊妖斬拳!!」

 

ビューン!!!

 

樹霊妖斬拳を電鳳に向かって放つ。

 

ドゴォォォォォ!!!!

 

拳が電鳳の腹部に深くめり込んだ。

 

「ガハァァァ!!!」

 

電鳳が口から血を吐く

 

ドスン!!!

 

そして仰向けにその場に倒れた。

 

「本当に強かった。流石に正攻法で勝てる相手ではなかった」

 

倒れた電鳳を見つめる。

電鳳は完全に気絶していた。

 

「終わったみたい……」

 

隠れて試合の様子を見ていた審判が倒れた電鳳の様子を伺う。

 

「気絶している……。Dブロックの二回戦の第一試合は蔵馬選手の勝利です!!」

 

審判は妖狐蔵馬の勝利を宣言した。

 

ドスン

 

妖狐蔵馬はその場に崩れ落ちる様に座り込んだ。

 

シュゥゥゥゥ

 

そして妖狐蔵馬の姿が南野秀一の姿に変化していく。

 

「フゥ~、なんとか勝てたか」

 

自分の身体から出ている毒死草を見る。

 

蔵馬、ニコリ。

(またやってしまったな。やれやれ、身体で育てた毒死草を枯らすのが大変だな)

 

蔵馬は苦笑いを浮かべると身体で育てた毒死草を妖力で枯らしたのだった。

 

審判は倒れている電鳳を見ていた。

(私を助けた時、かっこよかったな。目が覚めたら声をかけてみようっと)

 

――選手たちの休憩所

 

黄泉と修羅は蔵馬の試合の一部始終を観ていた。

「パパ、蔵馬が勝ったよ」

 

「ああ」

(見事だったぞ蔵馬)

 

――選手たちの休憩所に続く階段

 

試合を終えた蔵馬は休憩所に続く階段を下りていた。

足がふらつき、壁に手をついた。

 

(思ったよりダメージが大きい。瑠架に治療してもらわないと。俺の薬草だけでは回復がきついな」

 

ブォォォォォ!!!

 

(何だこの妖気は!)

 

強力な妖気が階段の下から段々近づいて来るのを蔵馬は感じた。

そして蔵馬の目の前に現れたのは、Dブロックの第二試合に出場する為に闘場に向かう梟であった。

 

(こいつは梟か。鴉にやはり似ている)

 

梟も蔵馬の存在に気付く。

そして蔵馬と梟の目が合った。

 

(………)

 

一瞬、彼等の間に緊張が走った。

 

スッ

 

だが、梟は何も言わずに蔵馬の横を通り過ぎた。

 

「待て」

 

梟を呼び止める。

 

「何だ?」

 

梟は蔵馬の方を振り向かずに足を止めた。

 

「梟、お前はあの鴉なのか?」

 

蔵馬の問いかけに梟は表情を変えることなく答える。


「それはお前の目で確かめたらどうだ?」

 

「……そうさせてもらう」

 

ビューーー!!

 

蔵馬は振り向くと同時に、胸から薔薇を取り出すと鞭化して梟を攻撃。

 

フッ

 

梟の姿が消え去る。

 

(消えた!?)

 

その時、蔵馬は背後に気配を感じた。

 

「クールな顔をして抗戦的だ」

 

梟の声が背後から聞こえてきた。

そしてそれと同時に髪の毛に違和感を感じる。

何故なら梟が蔵馬の長い髪の毛を優しく触っていたからだ。

 

「綺麗な髪だ。髪の毛が手入れされている。トリートメントもちゃんと使っているようだ」

 

「貴様ー!」

 

蔵馬が直ぐに梟に攻撃を加えようと振り向くと梟の姿は既に消えていた。

蔵馬の額から冷や汗が落ちる。

 

「忘れるわけがない。今の感覚は間違いなくあの時の鴉と一緒だった」

 

鈴木が闘場に向かう為に階段を上ってきた。

 

「お疲れ蔵馬。かなり苦しい戦いだったな」

 

「ああ」

鈴木は蔵馬の身体の状態を見て驚く。

 

「かなり酷い怪我をしているじゃないか!直ぐに治療をした方がいい」

 

「ああ、そのつもりだ」

鈴木は直ぐに蔵馬の様子がいつもと違う事に気付いた。

 

「その顔は怪我の痛みではないな?何かあったのか?」

 

「何でもない。大丈夫だ」

 

「それならいいが、俺は今から試合だ。これに勝てば三回戦の相手はお前になる。三回戦で当たったら宜しく頼むぜ」

 

「ああ」

(あいつの相手は鈴木なのか…)

 

「俺はそろそろ行くぜ」

 

「鈴木、相手はかなり強いぞ。油断するな」

真剣な顔で鈴木に話す。

 

鈴木はあまりの蔵馬の真剣な顔に一瞬、驚いたが笑顔で答える。

 

「ああ、大丈夫だ。蔵馬も早く治療しろよ」

鈴木はそう言うと階段を上って行った。 

鈴木の後ろ姿を見ながら蔵馬は恐ろしい事を口走る。

 

「…あいつの妖力は今の鈴木よりも上だ」

 

――Aブロック

 

闘場に到着した桑原と武威が対峙していた。

お互いの顔を見つめる。

両者の間で緊張が走る。 

 

桑原が武威を指差した。

「武威、てめえには負けねーぞ!月畑の仇を取らせてもらうぜ」

 

「安心しろ。お前も同じ場所に直ぐに連れて行ってやる」

 

Aブロックではいよいよ桑原と武威の戦いが始まろうとしていた。

これが激しい死闘になるとは、この時はまだ誰も思っていなかった。

 

続く

 

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