幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #022「それぞれの始まり・桑原和真(序章)」
――寒い冬のある日。とある墓地に、墓参りに来ている男女の姿があった。
桑原と静流と雪菜である。
雪菜「静流さん、お水の入れ替え終わりました」
静流「ありがとうね、雪菜ちゃん。こっちもお墓の掃除が終わったわよ。和、雪菜ちゃんにお花を渡してよ」
桑原「へいへい」
静流と一緒にお墓の掃除していた桑原がお花を持ってきた。
静流「フフッ、しかし和の顔は、お花を持つと面白いぐらいに似合わないわよね」
桑原「うるせー。それが姉が可愛い弟にいう台詞か!」
静流はキョロキョロと辺りを探す。
「可愛い弟なんて何処にいるのかしらね」
静流は桑原の後ろにまわると桑原の両肩に手を置いてヒョコッと顔を出す。
桑原「おいおい…。なんだよ」
静流はちょっと悪戯っぽく雪菜に問いかける。
静流「ねえねえ雪菜ちゃん、この馬鹿は可愛いと思う?」
突然の静流からの質問に、驚いた顔の雪菜。
雪菜「えっ?えっ?和真さんですか??」
ジーーと桑原の顔を見つめる雪菜。
雪菜に見つめられて頬を赤くする桑原。
桑原(雪菜さん…。貴女はやっぱり可愛いっす)
雪菜「え、えっと…。和真さんは凄く特徴的なお顔で可愛いと思いますよ」
(何て言ったらいいのかよく分からないです)
雪菜の答えに桑原はニヤリ。
桑原「聞いたかよ姉貴!。雪菜さん俺の事可愛いとよ」
ドヤ顔でVサイン。
静流はやや呆れた顔で溜め息をつく。
静流「やれやれ特徴的なって言葉は全く耳に入ってないようね」
桑原は一人で小踊り。
静流「はいはい和、馬鹿はもういいから、雪菜ちゃんにさっさとお花を渡して」
桑原「何だよ、姉貴が言いだしといてよ~。はい、雪菜さん。お花です」
雪菜にお花を手渡す桑原。それを受け取って笑顔で返す雪菜。
雪菜「ありがとうございます。和真さん」
やることを終えた三人は、線香に火をつけてお墓に手を合わせた。
静流「でも早いもんね。婆ちゃんが亡くなって、もう三年近く経つもんね」
桑原「そうだな。幻海の婆さんが死んでからあっという間に時間が経っちまったぜ」
雪菜「いい御方でしたね」
在りし日の幻海の姿がそれぞれの中で思い出される。
桑原「婆さんの弟子の選考会で、俺は武蔵と戦って、この霊剣が使えるようになったんだよな」
手元に霊剣を作り出して、それを懐かしそうに見る。
静流「和も選考会が終わってから色々なことに首を突っ込むようになったのよね」
桑原「まあな。浦飯にくっついて四聖獣と戦ったり、垂金邸に乗り込んで暴れたり、戸愚呂や仙水たちと戦ったりっと考えたらスゲー体験だな、これ」
チラッと雪菜を見る桑原。
雪菜は桑原と目が合ってニコリ。
桑原(考えたら、あの選考会がなかったら浦飯の戦いにも首突っ込んでいないだろうし、雪菜さんに会うこともなかったんだよな…)
桑原は幻海のお墓に再び手を合わせる。何故かちょっと真面目な顔。
桑原(婆さんに感謝するぜ。願わくばこれから俺たちが変な争いに巻き込まれることなく、雪菜さんとずっと一緒に暮らせて、大学も無事に卒業出来て、それからいい就職先が見つかって、それから宝くじが…)
ブツブツと次から次へとあらゆる願いをお願いする。
その時、桑原の耳に夢か幻か、死んだ筈の幻海の声が響いた。どうやら桑原の声が天国にいる幻海まで届いたらしい。
幻海《 馬鹿たれが!!あたしは神様なんかじゃあないよ。勝手にそんなこと頼むんじゃあないよ》
ゴンッ!!!
桑原「痛って~~!!」
桑原が突然大きな声をあげる。
静流「なによ。うるさいわなね!いきなり声をあげて、びっくりするじゃあない!」
雪菜「和真さんどうしたんですか?」
桑原は頭をさすりながら
桑原「なんか、急に幻海の婆さんの声が聴こえてきて、誰かが俺の頭を叩いた」
ゴンッ!!
静流が桑原の頭をどつく。
桑原「痛ってーな姉貴。何すんだよ!!」
静流「そんな馬鹿な話しがあるわけないだろう。何を寝ぼけてるんだい」
桑原「だって婆さんの声が……」
ゴン!!!
静流「まだ言うか、この口は」
桑原「痛てーー!!また殴りやがったな!この馬鹿姉貴!」
静流「誰が馬鹿姉貴だ!」
ドカッ バキッ ボコッ
何故か幻海のお墓の前で姉弟喧嘩をはじめた二人。
――1分後
桑原「痛てて。あ、姉貴!参った、参ったって」
雪菜(前々から思っていましたが、やっぱり和真さんより静流さんの方が強いような…)
静流「全く馬鹿言ってないで雪菜ちゃんと何処か遊びに行ってきなよ」
桑原「へっ?姉貴はどうするんだ??」
静流「あたしはちょっと寄るところがあるからさ。せっかく朝から出て来て時間があるんだからさ。二人でちょっくらデートでもしてきたら?」
静流は右目でウインク。どうやら二人に気を利かせてあげるつもりのようだ。
姉の言葉に桑原はニヤリ。
桑原「おうよ。雪菜さん、今から映画でも見に行きましょうよ!」
テンションが上がってルンルン。
雪菜「映画ですか?」
桑原「そうで~す」
直ぐに行こうって感じで、桑原が後ろから背中を押す。
雪菜「え、あ、和真さん」
桑原(フンフン♬︎♡)
静流「フフ」
はしゃぐ弟の姿を姉の顔で優しく見ている。
穏やかな時。
だが、ここで思わぬ事が起きる。
桑原(!!)
背後から突然何者かが見ているような強い視線を感じたとった。
桑原は雪菜から手を離すと、彼女から離れて直ぐに辺りを見渡した。
雪菜と静流は不思議そうな顔で桑原の顔を見ている。
静流「和、どうしたのよ?」
桑原「いや~、気のせいだと思うけどよ。後ろから誰かの強い視線を感じたんだよ。なんかめっちゃめっちゃ見られているような、そんな感じだった」
静流「婆ちゃんの声が聴こえるとか、誰かに見られているとか、あんた疲れているんじゃあないの?」
桑原「そうなんかな…」
(でもなんか今感じたのは、凄く嫌な感じだったぜ)
この時、墓場から少し離れた場所で桑原たちの姿を見ていた男がいた。
風が吹き、男の長い金髪をなびかせる。
「フッ、あれがあの者が言っていた例の者か」
男はターゲットを見つけて不気味な笑みを浮かべていた。
これがこれから桑原に襲いかかる数多くの苦難の幕開けであったことを彼はまだ知らない。
続く