幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #009「謎の視線(序章)」
――蔵馬が黄泉親子と会った翌日。
畑中建設の近くの喫茶店で、蔵馬は一人でコーヒーを飲んでいた。誰かを待っているようだ。
店員「いらっしゃいませ」
リーゼント風の髪型をした長身の男と小柄の可愛いらしい女性が喫茶店に入ってきた。
「いよぉぉ~蔵馬!」
「お久しぶりです。蔵馬さん」
蔵馬「あっ、久しぶり!桑原君、雪菜ちゃん」
桑原「悪いな蔵馬。呼び出してよ。お前と久しぶりに話しがしたくてな」
蔵馬「いいですよ。丁度休憩時間だったからね。桑原君も雪菜ちゃんも元気そうじゃないですか」
桑原「おうよ!俺はいつでも元気だぜ」
右手の服の裾をまくって力コブを作る。
雪菜「蔵馬さん、お仕事の方はどうですか?」
蔵馬「ああ、順調だよ。先日大きなプロジェクトが成功してね」
雪菜「わぁぁ!!凄いです」
桑原「しかし、もったいないよな~。蔵馬ほど頭が良かったら、かなりいい大学に入れたのによー。そしたらゆくゆくはエリートコースをまっしぐらだったろうによ」
蔵馬「はは。義父の仕事が面白くてね。桑原君の方こそ大学を楽しんでいるでしょう?」
桑原「まあな。二流大学だけどよ。暇な大学生生活を送ってるぜ。そういえばよー、浦飯に聞いたんだけど、
また魔界の王を決める大会があるんだって?」
蔵馬「ええ。現在の魔界の王の煙鬼が、
前大会で優勝した時に三年後にまたやるって言っていましたからね」
桑原「浦飯の奴、今度は優勝するって張り切っていたぜ」
蔵馬「フフ、幽助らしいですね。そうそう、昨日黄泉に会いましたよ」
桑原「黄泉?黄泉ってどっかで聞いた名前だな…。え~っと誰だったっけな~」
桑原は腕を組んで考え込んでいる。
蔵馬「前の大会で幽助を倒した妖怪ですよ」
桑原「なぬっ!?浦飯を倒したっていう妖怪なら、魔界でも最強クラスの奴じゃあねーか!そんな奴が人間界に来ているのか!! 」
桑原は驚いて席から立ち上がる。
蔵馬「もう今は霊界の作った結界がないですからね。
どんな妖怪も人間界に来ることが出来ますよ」
桑原「お~、そういえばそうだったな。霊界は魔界との結界を解いたんだっけな。平和ボケしてすっかり忘れていたぜ」
キョロキョロと窓の外や店内を見回す。
桑原「ぬうう。この辺りにA級以上の妖級がいても不思議じゃあねーって事か。全く気にしてなかったからよー。なんか久しぶりに緊張感が……」
蔵馬「はは。別に邪悪な妖気を感じたりしないでしよう。煙鬼の決めた法案は、人間界に迷惑をかけないということが基本になっていて、これまで人間と妖怪の間でトラブルが殆どないんですよ」
桑原「そうなんか。そういえば浦飯の奴も、
本業のラーメン屋の裏でやってる、妖怪関係専門の探偵もあんまり仕事がないってぼやいてたな」
雪菜「和真さん、私ちょっとお手洗いに行ってきますね」
そう言って雪菜は席を立った。
桑原「雪菜さ~ん!トイレでゆっくりして来て下さいね」
大きな声で喋る桑原に、
雪菜は少し恥ずかしそうにトイレに歩いていった。
蔵馬(桑原君デリカシーがないよ……)
桑原は雪菜の姿が消えたことを確認すると急に真面目な顔になった。
桑原「蔵馬、おめーを呼び出したのは実は気になることがあってな」
蔵馬「何かあったんですか桑原君?」
桑原「ああ。ここ最近なんだが、妙な視線を感じることが多くてな」
蔵馬「妙な視線?」
桑原「ずっとっていうわけではないんだけどな。
ただ、その視線が俺に向けられているものか、雪菜さんに向けられているものか分からないんだ」
蔵馬「大学以外では、雪菜ちゃんと桑原君は一緒にいることが多いですからね」
桑原「ああ。大学は丁度冬休みだからよ。雪菜さんと一緒にいられるのは嬉しいが、その視線が不気味でな。
妖気や霊気とかを特別に感じるわけでもないが」
蔵馬「妖気を感じないなら妖怪でもなさそうですね」
桑原「ああ。けどよー、妖怪じゃあねーってのが気になるんだよな。妖気なら雪菜さんも気付くだろうし。まあ俺の気のせいならいいが」
雪菜がトイレから出てきた。
桑原「おっと蔵馬、雪菜さんが帰ってきた。もしなんかあったらまた話すぜ」
頷く蔵馬。
雪菜「お待たせしました」
雪菜が席に着く。
そして何かを思い出したようだ。
雪菜「蔵馬さん、そういえば飛影さんはお元気ですか?」
蔵馬「飛影とは最近は会っていないな。でもあいつは修行をしながら魔界に迷いこんだ人間を保護して、人間界に送り返している活動をしているみたいですよ」
雪菜「へ~。人間の保護とか飛影さんは素晴らしい活動をされているんですね。かっこいいです」
桑原「雪菜さ~ん、あんなひねくれもんより俺の方がかっこいいっすよ」
桑原はまた右手の服の裾をまくって力コブを作って見せる。
蔵馬(フフ、相変わらずだな)
――その頃、魔界では
パトロールしていた飛影と雑魚と木阿弥。
「ヘックション!!」
木阿弥「おい、誰か今クシャミしたか?」
雑魚「俺じゃあないぜ」
二人は飛影を見た。
飛影「何だ?」
飛影は何事もなかった振りをしていた。
――蔵馬たちに戻る
桑原「大会には蔵馬、おめーも出るんだろ?」
蔵馬「黄泉にも昨日聞かれましたよ。まだ分からないと答えたけど、一応、出場することになると思う」
桑原「浦飯と飛影、お前と黄泉、それに前回優勝の煙鬼って奴。今度は誰が勝つんだろうな…」
蔵馬「俺も今回は分からないな。せっかくの大会だ、桑原君も出てみたらどうですか?」
桑原「冗談きついぜ蔵馬!俺が行ったら赤っ恥かいてしまうぜ」
蔵馬「桑原君も妖怪でいえばA級妖怪並の力をもっていますよ。修行次第では、勝てないまでも本選まで残れる可能性はあると思いますよ」
桑原「まあ俺は、雪菜さんを守れる力があれば今は充分だけどな」
雪菜はさりげない桑原の優しい言葉に頬を赤くしている。
蔵馬は雪菜と桑原の関係を見て微笑ましく思った。
蔵馬(この二人には平和な世界で幸せになってもらいたいな)
その時だった。
蔵馬(!?)
蔵馬は何かの気配を感じ取った。桑原たちは気付いてないようだ。
チラっと時計を見る振りをする蔵馬。
蔵馬「桑原君、すまない。俺はそろそろ時間だ。
仕事に戻るよ」
桑原「おうっ!忙しい時に悪かったな蔵馬。またおめーが魔界に行く前にもう一回会おうぜ」
雪菜「お仕事頑張ってくださいね」
蔵馬「ああ。じゃあ二人ともまたね」
会計を済ますと、二人を残して喫茶店を後にした。
蔵馬(桑原君たちは気付いていなかったが、さっき感じたのは、妖気とも霊気とも違う全く異質な力だった。
しかも今のは明らかに俺に向けられたもの)
そして喫茶店の向かい側にあるビルの屋上に視線を向けた。
蔵馬「恐らく今のが桑原君が言っていた、謎の視線の正体。一体何者だ」
――ビルの屋上
美しい金髪の髪を風になびかせた端正な顔立ちをした男が立っている。
「上手く気配を消したつもりでいたが、私に気付くとは、流石は妖狐・蔵馬といったところか」
男は蔵馬を見ながらニヤリと不気味に笑っていた。