幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #006「A級妖怪並みの人間(序章)」
――躯の居城の近くの丘の上
飛影はヘアバンドを外すと、第三の目である邪眼を開いた。
千里先まで見渡す事の出来るその能力は、
広い魔界を捜索するのに、いまではかかせないものとなっている。
飛影(大きな霊力が一つ、東に向かって移動している。
霊力以外に、いくつか妖気を感じる。やはり捕獲に手間どっているようだ)
飛影はヘアバンドを装着すると霊力を感じた場所に
向かって走り出した。
――2番地区は魔界統一トーナメント前までは、
躯が支配する領地であった。深い森に囲まれ、
凶暴な獣が多く生息している場所である。
森の中を妖怪が走りながら叫んでいる。
妖怪「おい貴様!いい加減に逃げるのをやめて、
こっちに来い!!」
ザッ!!ザッ!!ザッ!!
一人の人間が森の中を全力で走っている。
人間「クソ!なんだってんだ、あいつらは」
人間は 振り向くと同時に、霊気で作った複数の手裏剣を、追手に向かって飛ばした。
ビューン!ビューン!ビューン!
「おっ!?」
ガキーン!ガキーン!ガキーン!
妖怪は霊気の手裏剣を腕で弾き飛ばした。
人間はその間に霊気と気配を完全に消して姿を消した。
「チッ、こんなことまで出来る人間がいるとはな」
後ろから躯の居城に報告に行っていた月畑が追いついて来た。
月畑「人間を見失しなったのか、酒王?」
酒王と呼ばれた妖怪は、頭をポリポリと掻きながら、
振り向く。全力で追いかけていたせいか、全身は汗だくだ。
酒王「ああ、完全に逃げられた。人間のくせにやたら強いってだけでなく、霊気まで消すことまで出来る奴とは驚きだ」
月畑「さっき上に報告してきた。多分躯様の直属の戦士の誰かが、ここに派遣されて来るはずだ」
酒王「まったくパトロール中にあんな人間に遭遇するとは」
月畑「しかしあの人間、俺たちが危害を加えると思っているんだろうな」
酒王「失礼だよな。俺の顔を見るなりいきなり逃げ出したんだからな」
月畑「そ、そうだな」
(お前の顔をいきなり見たら人間なら驚いて逃げるよ)
酒王「このナイスガイな俺に驚いたんだぜ」
月畑「ははは…だろうな」
(絶対にない)
ザッザッザッ
草村から足音が聞こえてきた。そして1匹の妖怪が姿を現す。
月畑「時雨様!?」
酒王「時雨様が派遣されてきたのですか?」
時雨「何の話だ?拙者は躯様に用があって居城に向かっていたところだ」
酒王たちは時雨にこれまでの事情を話した。
時雨「これは真に驚いた。そんな人間がいるのか。何者か興味があるな。拙者が捕獲してやる」
――その頃、酒王たちの追跡から逃れた人間は、
森の出口を探して走り続けていた。
人間「チクショー、どうにか妖怪をまいたのはいいが、早くここから抜けねーと」
人間の姿は180cmを超える長身で髪の毛はリーゼント風。逃走中の為か、所々ズボンとシャツは破れている。
人間「ここは多分魔界だろうな…。また来ることになるとは思わなかったぜ。あんにゃろう!こんなとこに俺を飛ばしやがって」
(だがよ、ここが魔界なら俺を助けてくれそうな奴は、やっぱあいつぐらいしかいねーな)
焦りと苛立を顔に出しながら、ひたすら深い森の中を走り抜ける。
自分がどこを走っているのかわからないが、今は安全なところまで逃げるしかない。
だが、その想いとは裏腹に1匹の妖怪が立ちはだかる。
人間(!?)
時雨「悪いが先回りさせてもらったぞ」
人間(こいつはスゲー妖気だぜ。俺を追いかけていた奴らとは比べものにならねーぜ)
冷たい汗が流れる。目の前にいる妖怪は自分が今まで出会った妖怪の中でも間違いなく一番強い。
時雨「人間にこれほどの霊気を持った奴がいるとは、
真に驚いた。霊界の基準だとA級妖怪クラスか」
人間(まずいぜ・・・。まともにやりあってどうにかなる相手じゃあねーな。逃げる方法を考えねーと)
時雨「人間にしては、高い霊力を持つ御主が一体
何者か興味はあるが、御主を傷つけるつもりはない。
拙者と一緒にくれば悪いようにしない」
人間(浦飯、てめーならこの場合はどうするんだろうな)