nanaseの世界

このブログは週間少年ジャンプで連載していた、冨樫義博先生の原作漫画の幽✩遊☆白書の続編小説を中心に、映画のレビューや日々の出来事をメインにしています。

小説更新!!最新話公開中 幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #108「二回戦最終試合・凍矢vs戸熊(大会編)」

幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #103「武威の最期(大会編)」

――Aブロック

 

生きるか、死ぬか、まさに命賭けの戦いとなった桑原と武威の戦いは終わった。 

殺意と憎しみの負の感情を爆発させた武威。

復讐という負の感情を排除した純粋な桑原の生への渇望。

正の感情を爆発させた桑原の想いが、武威の負の感情に打ち勝ったのだ。

 

「お前の一撃は俺の急所を完全に切り裂いたな」


武威の腹部は桑原の次元刀によって横に一直線に切り裂かれていた。

腹部の傷口からは血が大量に地面に流れ落ちている。

 

 

「ああ。全く頑丈な身体だったぜ」

 

桑原はそう言うと倒れている武威に背中を向けて歩き始めた。

 

「待て桑原」

 

立ち去ろうとする桑原を呼び止める。

桑原は武威の方を振り向かずに足を止めた。

 

「何だ?」

 

「お前との戦いは満足のいく戦いだった。敗れた事に悔いはない。俺に止めを刺して魚人の仇を取るがいい」

 

「止めは刺さねー。おめーをぶっ殺しても、月畑は生きかえるわけでもねーしな」

 

「桑原……」

桑原の言葉に驚く武威。

 

「もうすぐしたら救護班がここに来る。手当てをしろよ武威。頑丈なおめーの身体だ。手当てすれば助かるはずだぜ」

 

「あれほど仇討ちに燃えていたお前が何故だ?」


「月畑が殺された時は確かにおめーを憎んだぜ。さっきまでは殺すつもりで戦っていた」

 

「だったら何故殺さない」

 

「もう殺されちまった本人が成仏しちまったみてーだからな。おめーに止めを刺す気はなくなっちまったぜ」

 

「成仏?一体何の話しだ?」

不思議そうな顔をする武威。

 

 

「気にすんな」

武威の方を向いて笑顔を見せた。

 

(………)

 

グググ……

 

武威は大量の血が流れる腹部を手で抑えながら立ち上がった

 

「おいおい……。今動くとマジでヤベーぞ!」

 

「桑原、お前は暗黒武術会の後から俺がどうしていたか聞いたな?」

 

「あ、ああ」

武威は静かな声でゆっくりと語り始めた。

 

「戸愚呂(弟)という俺の最大の目標を失い、武術会では戸愚呂(弟)以外の飛影に敗れた俺は、戦う事に未練がなくなり、戦う事を止めた」 

 

「戦う事を止めた?」


殺意と憎しみの塊と化していた武威が戦う事を止めていた事に驚く桑原。

 

武威、ニヤリ。

「フッ、意外だったか?」。

 

「さっきまでのおめーを見ていたからな……」

 

「だろうな。そして俺は人間が殆ど近付かない山奥で生活を始めたのだ」

蔵馬が凍矢達に語った事を桑原に語り始めた武威。

 

「桑原、お前は知らないだろうが、世捨て人の様に山に込もっている時に蔵馬が一度、俺に接触して来た事があった」

 

「蔵馬が?」

桑原は蔵馬の名前がここで出てきた事にさらに驚いていた。

 

「俺が黄泉の元にいた頃に、酎や陣と同じく武威を幻海師範の元での修行に誘ったんですよ」

 

背後から男の声が聞こえて来た。

声の主は蔵馬である。

 

選手たちの休憩所にいた蔵馬が武威の元へいつの間にかやって来たのだった。

 

「く、蔵馬!?」

 

「蔵馬……」

突然の蔵馬の登場に驚く。

 

「鎧と兜を外した素顔のお前と話すのはあの日以来だな」

そして蔵馬の後ろには、飛影の姿もあった。

 

――選手たちの休憩所

 

「あれは蔵馬!!それに飛影も」

 

「あいつら、いつの間に!?」

 

突然、闘場を映し出すスクリーンに姿が現れた蔵馬と飛影に驚く幽助達。

 

――Aブロック

 

「俺が訪ねた翌日にお前は姿を消していた。お前は今までどうしていた?そしてあれから、三年以上の時間が過ぎた。一体何があったんだ?」

 

蔵馬は真剣な顔で武威に問いかけた。

桑原は黙って様子を見ている。

 

「地獄だ。この世の地獄の中に俺はいた。お前が訪ねて来た日の夜に、ある者達が俺を誘(いざな)いに来た」

 

――Aブロックの上空

 

フッ

 

黒いマントに仮面で顔を隠した男がAブロックの上空に姿を現した。

 

スッ

 

男は右手を地上にいる武威に向けた。

 

――Aブロックの地上

 

「ある者達?」

 

「奴らは……」

 

その時、武威の身体に異変が起こった。

 

「グォォォォ!!!」


急に武威がもがき苦しみ始めた。

 

「お、おい!!」

 

「武威一体どうしたんだ!?」

突然の武威の変化に驚く。

 

(!!)

 

ドバァァァァァ!!!!!


突然、桑原に切り裂かれた傷口が大きく広がっていく。そして大量の血が吹き出た。

まるで力まかせに引き裂く様に。

 

「武威!?」

 

「……奴らの仕業か」
武威はそう呟くと上空を見上げた。

 

仮面をつけた黒いマントの存在に武威は気付いた。

 

「粛正というわけか」

 

飛影は空を見上げる。

仮面の男の存在に気付く。

 

「貴様何者だ」

 

カチャッ

 

腰の剣に手をかける。

 

 

バッ!!

 

飛影はジャンプすると剣を抜いて、仮面の男に向かっていく。

 

スッ

 

仮面の男は飛影に手をかざした。

 

「これは…!」

 

手から目に見えない何か異様な力が出ていることを

飛影は感じた。

 

(力が抜けていく…)

 

飛影は自分の力が一瞬で封じ込まれた事を感じた。

堪らず地面に着地する。

蔵馬が飛影の側に駆け寄る。

 

「大丈夫か飛影」

直ぐに蔵馬は空を見上げた。

 

「何者だ!!」

 

桑原は仮面の男を見て、全身が震えていた。

それはまさに恐怖という感情。

 

(な、何だあいつは。こんなのは今まで感じた事はね…)

 

――Aブロックの上空

 

「淘汰完了だ」

 

フッ

 

仮面をつけた黒いマントの男の姿は桑原たちを嘲笑うかのように消え去った。

 

――Aブロックの地上

 

「チッ、今の奴は何者なんだ」

飛影は先程、力を封じ込まれた事に苛立っていた。

 

蔵馬が武威の傍に駆け寄り薬草で手当てを試みる。

 

「無駄だ。俺は助からない」

 

武威は薬草をあてようとした蔵馬の手を振りきると、

何も言わずに背を向けて闘場を歩いて行く。 

 

「その身体で何処に行くんだよ!?」

 

「武威!!」

 

蔵馬たちは慌てて武威の後を追いかけていった。

武威は桑原と戦っていたこの自然式円闘場の端に向かっていた。

 

――選手たちの休憩所

 

スクリーンに映る蔵馬たちの様子を幽助たちは観ている。

「武威の奴は何処に向かってるんだ?」

 

凍矢の顔は険しい。

「傷口が裂けた。あれではもはや助からないだろう」

 

――Aブロック

 

Aブロックの自然式円闘場の端から外は、深い奈落の底とも言える崖であった。

自然式円闘場の端に到着した武威はゆっくりと桑原と蔵馬の方を見た。

 

「………一つだけ言っておくぞ。桑原、蔵馬、飛影。“奴ら”はいずれお前達の前に現れる。そして俺と同じ様にお前達も地獄を見るはめになる」

 

「奴ら?さっきから一体何を言っているんだ武威!」

 

「生きるか死ぬか、殺意と憎しみを持つ者しか生きていけない場所に俺はいた。そこから逃げて来た俺は負け犬とも言えよう。生きる為にそこで培った殺意と憎しみは逃げ出してからも消す事は出来なかった」

 

「武威!」

 

飛影が武威に声をかける。

「御堂はお前を心配していた。試練に成功した筈のお前から殺意と憎しみの心があることを感じていたからだ。成功者のお前が不完全な御堂の子になっていると。もし御堂の子になれば始末を頼まれていたが、可能ならお前を助けてやってくれとな」

 

「御堂か。あの男の力のおかげでお前たちと戦えるだけの力を得た。御堂には感謝している。御堂の試練を乗り越えたのは本当は、奴らを倒す為の力を得る為だったが、飛影、お前と再会した事で大会に参加し、そして桑原に敗れた事に俺は後悔はない」

 

そして武威は闘場の外である奈落の底へ足を向けた。

 

武威、ニコリ。
「桑原、お前の技で斬られたとき、その一撃が、奴らに埋め込まれた俺の憎しみと殺意すらも斬ってくれた。俺はホッとしたぞ。これで解放されたのだと」

 

それは満足した男の笑顔だった。

 

「武威、おめー……」


桑原が武威の側に行こうと近付こうと動いた。

 

「来るな!」

大きな声を上げた。

 

桑原は、鬼々せまる形相の武威に驚いて足を止めた。

 

「桑原、お前には感謝している」 

武威は目を閉じた。

 

「殺意と憎しみにとり憑かれた俺を救ってくれた」


バッ

 

背中から闘場の外に身を投げた。

奈落の底へ向かって。

 

桑原の身体が動く。

武威を助ける為に。

だが、間に合わない。

 

武威の身体は奈落の底に落ちていった。

 

「武威ィィィィィ!!!!!」

 

落ちて行く武威は心の中で呟く。

(……今度は本物の地獄でお前に会えるな……。待っていろよ、戸愚呂(弟)よ)

 

そして武威は奈落の底に吸い込まれる様に消えていった。

闘場に残された蔵馬たちは突然の出来事に唖然としていた。

 

「……あの野郎」


「武威……」

 

「…馬鹿め」

 

武威が遺した多くの謎。

武威の傷口をその力で引き裂いた仮面を付けた黒いマントの男。

武威が見てきたこの世の地獄とは?

戦いを止やめていた武威を誘(いざな)ったという者達の正体とは?

そして桑原や蔵馬達の前にいずれ姿を現すだろうという不気味な武威の最期の言葉。

全てを語る事なく死んだ武威。

だが、武威の言葉通り、“その者”達が後に桑原や蔵馬の前に姿を現し幽助達も巻き込んでは戦う事になるのであった。

それはまた別の話し。

多くの謎だけが残りながらも大会は何事もなかった様に試合が行われた。

そしてついにあの男の出番が訪れた。

 

――選手たちの休憩所

 

カチャッ

 

腰に剣を装着した。

 

「行くぞ」

 

飛影は静かに呟くとBブロックの闘場に向かって歩いて行く。

武威の件で、少し気が立っている。

対戦相手は蔵馬が戦った電鳳と同じく雷禅の昔の仲間である周。

 

(相手は邪眼師のチビか)


優勝を狙える力を持ち、メタル族の最強の戦士である周がついにその力を発揮しようとしていた。

 

周(しゆう)
×
飛影(ひえい)

 

二回戦の注目の試合がついに始まる。 

 

続く

 

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