nanaseの世界

このブログは週間少年ジャンプで連載していた、冨樫義博先生の原作漫画の幽✩遊☆白書の続編小説を中心に、映画のレビューや日々の出来事をメインにしています。

小説更新!!最新話公開中 幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #108「二回戦最終試合・凍矢vs戸熊(大会編)」

幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #058「試練に挑戦②(大会編・前章)」

ーー洞窟「御堂」の内部

 

「さあ始めてくれ」

 

飛影の試練を受ける準備は万端だ。

 

「よし、行くぞ」

御堂は円の中に手を入れると、飛影の頭に手を置いた。

そして御堂の手が小さく光る。

 

(なんだ…意識が遠くなるぞ…)

バタリと円の中で飛影は倒れた。

木阿弥が声を上げる。

 

「飛影!!」

 

円に近付こうとする木阿弥を御堂が手で制する。

 

「大丈夫じゃ。この者の意識が飛んだだけだ。最終的には、この者が過去の心の傷とどれだけ向き合えるかが、試練の成功の鍵となる」

 

木阿弥は倒れた飛影の姿を見る。

「試練なんかに負けるなよ」

 

御堂、ニヤリ。

「この者が目覚めた時、成功したか、殺戮者になるのかは起きてからの楽しみじゃ」

 

ーー飛影の意識の中

 

ここはどこだ?

真っ暗で何も見えない。

身体を動かす事が一切出来ない。

俺はまるで何もない真っ暗な空間で身体が浮いているように感じている。

御堂の試練とやらは、俺に何をさせるのか。

だが、不思議と何も恐れてはいない。

俺は、これまでどんな試練でも乗り越えてみせるだけの揺るぎない自信があった。

だが、この自信は早くも揺らぐ事となる。

それは何も見えない暗闇の状態の時間がずっと続いているからだ。

何時間、いやもしかしたら何日も経ってしまっているのかもしれない。

そもそも時間の流れすらどうなっているのかも分からない。

俺は何も起きない事に段々とイライラしてきた。

意識があるだけで、身体を動かす事も、何も見る事も出来ないのだ。

これがいつまで続くのかわからない。

だが、これが永遠に続くとなると俺の性格なら、

イライラがどんどん積もり、気が狂いそうになる。

イライラという負の感情が、今俺の中で強くなっているのを自分でも感じていた。

だが、もしこれが御堂の試練の一つだとしたら、

俺は御堂の試練にいきなり屈してしまう事になる。

俺がその程度の男で終わるわけがない。

冷静になった俺は何も考えないように無になるようにした。

そして自ら思考を止めた。

すると突然暗闇の中から俺の意識は放り出されて、

強く光る場所に向かって進んでいる感じがした。

俺はどうやら暗闇の無限ループから抜け出せたようだ。

 

ーー洞窟「御堂」の内部

 

飛影の様子を見ていた御堂が声を上げた。

「ほうほう。この者やりおるわい。まずは一つ目の試練をクリアしたぞ」

 

「よっしゃあ!!さすがは飛影だぜ」

 

雑魚が拳を上に振り上げて喜ぶ。

木阿弥も安心したように横で微笑んでいる。

 

「この最初の試練で八割方の挑戦者は、クリア出来ずに負の感情が爆発し、殺戮者となる。なかなかやりおるわい」

 

御堂は円の中に倒れている飛影の頭に手を置いた。

「最初の試練は序の口じゃ。次は怒りの感情を見せてもらおうかのう。これをクリア出来れば終わりじゃ」

 

御堂の手が光る。

 

ーー飛影の意識の中

 

長く続く光りの中を俺は進んでいる。

試練はまだまだ続くようだ。

さっきの試練は一歩間違えたら、俺も他の挑戦者と同じ様に御堂の子になってしまっていたのかもしれない。

俺は御堂の試練を少し甘くみていた。

あの躯も手が出せない男なのだから、一筋縄ではいかないことも分かっていたはずなのに。

うん?どうやら出口のようだ。

もうすぐ光が消えてどこかに出る。

この先にあるのが次の試練なのか。

俺の身体はついに光の中を抜けて外に出た。

抜けた先、そこは俺の知っている場所だった。

昔、俺はこの場所にいたのだ。

ここは忘れるはずがないだろ。

何故ならここは俺が生まれた場所「氷河の国」なのだから。

どこからか声が聞こえてくる。

それも一つではない。

少なくとも複数はある。

俺は意識を集中して会話を聞いてみることにした。

 

「男の赤子……忌み子……!忌み子じゃ」

 

「百年周期の分裂にあわせ男と密通しおったのじゃ」

 

「なんという汚らわしいおそろしい娘じゃ」

 

俺はどうやら寝かされている赤子の中に意識が宿ったようだ。

この赤子は生まれたばかりの俺自身だ。

俺を忌み子と呼んで騒いでいるのは氷河の国のババアどもだ。

 

「男と女の双子など氷河始まって以来のこと」

 

「長老…いかがなされましょう…」

 

俺の隣にいる赤子は妹の雪菜か。

ババアどもが騒いでいる中で、無邪気に寝ている。

ババアどもが俺を見る目は明らかに蔑んだ目だ。

まるでゴミや汚物を見て嫌悪するそんな感じだ。

俺は生まれる前から目は見え耳も聞こえていた。

まさかまたこの光景を見る事になるとはな。

この忌々しいほど憎い氷河の国の女どもを。

 

「女児は同胞じゃ。しかし男児は忌み子。必ず災いをもたらし氷河を蝕む」

 

耳もとで騒ぐババア共を丸焼きにするぐらいの力はあったかもしれない。

今、再びこの光景を見ると、赤子だったこの時より、世の中が分かるようになったせいか、このババアどもが憎たらしい。

殺意がわく。

いや、わくどころではない。

むしろ何もかも壊してしまいたい衝動にかられる。

氷河の国の全ての女どもを。

それだけじゃない、全ての生き物を。

俺が忌み子?

世の中には、子供には罪がないのに生まれてくるべきではない子供は不条理だがいる。

俺は自分の出生を恨んだ。

氷女が外界との交流をさけ、厚い雲に覆われた流浪の城(氷河の国)で漂流の生活を強いられるのには理由がある。

氷女が異種族と交わった場合、その子供は全て雄性側のみの性質を受けつぐ男児のみであること。

しかも残忍で巨悪な性格を有する例が極めて多いこと。

そして男児を産んだ氷女は例外なく直後死に至ること。

これが全てが氷女の種の保存を危ぶませるためである。

当然母親は男児の俺を産んだせいで死んでいる。

俺が母親を殺したのだ。

それと同時に妹の母親も奪った事になる。

何で俺は生まれてきたのだ。

何で母親は命懸けで俺を産んだのだ。

父親である男を愛していたのか?

思考回路を止めて全てを壊したい衝動に駆られる。

禁忌を犯した母親が俺と雪菜を出産出来たのは、泪という母親の友人の手引きがあったからだ。

今、その泪が崖の上に立ち、その腕に赤子の俺を抱いている。

 

「泪…そなたと氷菜が懇意であったことは知っている。だが情けは無用。忌み子によって何人もの同胞が殺されたかお前も知っておろう」

 

氷菜とは俺と雪菜の母親の名前だ。

この長老のババアが一番俺を率先して殺そうとした女だった。

 

「情けは無用じゃ」

 

泪は俺を見ながら泣いている。

俺の顔に泪の涙が落ちて、それは氷泪石となった。

 

「生きて戻ってきて……。最初に私を殺してちょうだいね。それが氷菜へのせめてもの償いとなる」

 

今、まさに俺は崖の上から捨てられそうになっていた

だったら今から殺してやる。

赤子の俺でもお前たちを殺せるのだ。

俺の中での殺意が爆発する。

爆発したら今までずっと俺の心の奥底に残っていた、

氷河の国から捨てられたという、心の傷は癒えるかもしれない。

このままいけば俺は確実に御堂の子になる。

だが抑えられない。

理不尽な事への怒りと悲しみ。

俺は楽になりたいのだ。

爆発しかけた俺の殺意。

全てを壊して終わろうとした瞬間、俺の中に様々な者たちの姿が次々と浮かんできた。

それは俺のこれまで生きてきて出会ってきた者たちとの出会いと戦いの光景。

俺に邪眼を移植し、剣術を教えた時雨との出会い。

蔵馬と出会い、初めて他人と組んで共通の敵を倒したこと。

この蔵馬と新たに仲間になった剛鬼と一緒に霊界三大秘宝を盗んだこと。

そしてその直後に出会った妙な人間の浦飯幽助との出会い。

俺はこの時から少し変わり始めた。

桑原と初めて出会った四聖獣との戦い。

探し求めた妹の雪菜と初めての出会い

幽助、蔵馬、桑原、幻海と組んで参加した暗黒武術会。

そして魔界の扉を巡る仙水との戦い。

俺は奴らと一緒に戦い、また少し変わっていく。

そして魔界に戻り出会った躯。

この女と出会いが俺をまた変える。

奇淋という新たな好敵手との出会い。

そして雑魚や木阿弥という直属戦士の仲間たち。

これらの出会いはこれまで生きてきた俺の証。

俺は故郷の氷河の国から捨てられた。

それはこれからも変わらない事実だ。

だが、捨てられなかったら今まで出会ってきた奴らとはきっと出会えていない。

俺は捨てられた自分の過去を受け入れる。

過去は変わらないが未来は俺のやり方でいくらでも手に入れられる。

大会で優勝し魔界の全てを掌握する事も出来る。

こんなくだらない試練に俺は負けん!

俺の強い意志が一気に弾けた。

次々と目の前に見せている景色を壊していく。

そしてそこで俺の意識は途切れた。

 

ーー洞窟「御堂」の内部

 

御堂、ニヤリ。

「試練が終わったようじゃ。もうすぐ目を覚ますぞ。

殺戮者となるか成功者となるのかは目覚めたら直ぐに分かる」

 

飛影の試練を見守っていた雑魚と木阿弥にも緊張が走る。

 

「木阿弥、直ぐにここから出て躯様に伝える準備をしとけよ。最悪の場合は俺が飛影を足止めする」

 

「分かった」

 

彼等が見守る中、飛影が目を覚ました。

ゆっくりと起き上がる。

そして辺りを見渡した。

木阿弥と雑魚はゴクリと唾を飲み込んだ。

周囲に緊張が走る。

そんな中で飛影がようやく口を開いた。

 

「目覚めてそうそうお前の筋肉を見ると暑苦しくて堪らないぜ」

そう言うと飛影は雑魚の顔を見てニヤリと笑う。

 

「よっしゃあ!やったぜ!!」

ガッツポーズで喜ぶ雑魚。

 

この広い空間の入口前に移動していた木阿弥も安心したようにニコリと笑った。

飛影はゆっくりと立ち上がった。

雑魚が飛影に声をかける。

 

「身体は大丈夫なのか?」

 

「ああ。なんともない」

飛影は軽く手足や首を動かしてみる。

 

「おい飛影、お前の肩のそれ!」

 

木阿弥が飛影の身体の変化に気付いた。

飛影の両肩には、Zに似た形の小さな紋章が浮かび上がっていた。

 

「御堂、これは何だ?」

 

御堂が飛影の側までやって来た。

 

「これは試練が成功したという証じゃ。禁呪法・魔封紋とワシは呼んでいる。これがあれば、お前が試練前にイメージした能力が使えるはずじゃよ」

 

飛影は肩に現れた紋章を触った。

「禁呪法・魔封紋か」

 

御堂、ニヤリ。

「よくやったぞ。ここ数百年は成功した者がおらんかったのでな」

 

「何!?」

この御堂の言葉に違和感を覚えた飛影。

 

「おいおいどうしたよ飛影。いきなり声を上げてよ」

雑魚が突然声を上げた飛影に話しかける。

 

「数百年成功した者がいないだと!俺たちが来る少し前に武威という妖怪が来て成功したのではないのか?」

 

武威の名前を聞いて何かを思い出すように考える御堂。

そして思い出したように手をポンッと叩いた。

 

「ああ。来たぞ。確かに奴は成功した。だが、惜しいかな。奴は完全ではなかったのだ。そこで飛影と言ったな。お前に頼みがある」

 

「…………!?」

 

 

ーーその頃、同時刻の人間界

 

畑中建設オフィス。

 

「南野君、これを頼むよ」

 

「分かりました」

 

種類を上司から受け取る蔵馬。

幽助と同日に魔界に旅立ったはずの蔵馬はまだ人間界にいた。

 

続く

 

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