nanaseの世界

このブログは週間少年ジャンプで連載していた、冨樫義博先生の原作漫画の幽✩遊☆白書の続編小説を中心に、映画のレビューや日々の出来事をメインにしています。

小説更新!!最新話公開中 幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #108「二回戦最終試合・凍矢vs戸熊(大会編)」

幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #054「返り血(大会編・前章)」

ーー魔界2番地区最南端・洞窟「御堂」

 

御堂の子となった鎧の男とはかって、暗黒武術会の決勝戦で飛影が戦った戸愚呂チームのメンバーの武威であった。

 

飛影と武威はお互いに見つめ合っている。

彼等の脳裏には、決戦戦での戦いが鮮明に思い出されていた。

 

「飛影、俺と一戦を交えるつもりなら、先にお前の方から殺らせてもらうぞ 」

武威から発せられのは凄まじい殺気。

 

「俺を殺る?少しばかり力を手に入れたからといって、いい気になるな」

 

両者の様子を伺う氷室は、これまでの自分と武威との戦い、そして今のやりとりである結論に辿り着こうとしていた。

そして氷室が声を上げた。

 

「飛影、待つのです!!」

 

だが氷室の声は飛影には届かなかった。

武威の殺気に触発された飛影は、武威に襲いかかると剣を頭上から一気に振り下ろした。

 

ガキーン!!!

 

戦斧で剣を弾く。

 

「チッ」

 

攻撃を弾かれた飛影は地面に着地すると剣を鞘に納めた。

 

「まずはその邪魔な斧から消させてもらうぞ」

 

ボォォォォォォォ!!!

 

飛影の右腕に魔界の炎が熱く燃え盛る。

 

「邪王炎殺拳」

 

フッ

 

飛影の姿が瞬時に消えた。

そして姿を現した場所は、武威の戦斧の前。

 

(速い)

 

飛影の余りのスピードに武威は虚をつかれた。

武威が反応する前に、飛影は戦斧を手で触れた。

 

ボォォォォォォォ!!

 

戦斧に魔界の炎が包まれる。

戦斧がまるでチョコレートを溶かすかのように炎の熱で簡単に溶けていく。

武威が直ぐに戦斧から手を離した。

手を離れた戦斧は直ぐに燃えカスとなった。

その瞬間を飛影は見逃さなかった。

 

「邪王炎殺煉獄焦」

 

武威の腹部を連打。

まともに邪王炎殺煉獄焦を受けた武威の身体は吹っ飛ぶ。

さらに飛影は追撃するべく武威を追いかけた。

そしてあっという間に武威に追いつく。

武威の膝の上に乗ると、再度、腹部に煉獄焦を叩き込む。

 

ドガァァァァァァァァァ!!!

 

武威の身体は地面に思いっきり叩きつけられた。

武威が落ちた地面は、抉れて大きな穴が空いていた。

穴の前に着地した飛影は穴の中を覗く。

 

穴はかなり深く空いている。

 

「出て来い。大して効いていない筈だ」

 

飛影の声が穴の中に響き渡った。

 

ブォォォォォォ!!!!

 

穴の中で武威の巨大な妖気がどんどん大きくなっていく。

暫くすると穴の中でドスンっと大きな音がした。

穴の中で武威が鎧と兜を脱ぎ捨てたのだ。

そしてゆっくりと穴の中から、武威が宙に身体を浮かせた状態で現れた。

 

武威の姿を見上げる飛影。

「出てきたか」

 

武威、ニヤリ。

「鎧を脱いだのは久しぶりだ」

 

両手を軽く動かす武威。

 

「暗黒武術会の時は、黒龍波を極めたお前に為す術もなく敗れたが、今の俺はあの時と違うぞ」

 

氷室は武威の身体から発せられる巨大な妖気の類に気付く。

 

「あれは武装闘気。身体を宙に浮かばせるほどの。これは凄いですね。そしてこの男は…」

 

武威が飛影を挑発する。

「あの時と同じ様に俺に黒龍波を撃って来い。今の俺にはあんな子供だましな攻撃は通じない」

 

飛影は武威の言葉にカチンと頭にきた。

 

「余程、貴様は死にたいようだな。望み通り黒龍波を出してやるぜ」

 

飛影は武威の挑発に乗った。

黒龍波を撃つ為、腕に巻いている包帯を取り出した。

 

「ちょっと待って下さい」

 

ここで氷室が彼等の間に割って入る。

そして武威の顔を見た。

 

「貴方は御堂の力を得る事に成功していますね」

氷室は確信を得ていた。

飛影は、氷室の突然の行動で包帯を取る手を止めた。

 

「どういう事だ」

 

氷室は武威の顔を見ながら話し始めた。

氷室が語るには、御堂の力を得て失敗した者は、御堂の子と呼ばれる殺戮者となる。

これは、最初に飛影にも話した内容だ。

氷室自身、御堂の子に実際に遭遇したのは、今回が初めてだが、彼が実際に御堂の子と戦った者から聞いた話しによると、御堂の子になったものは、異常な殺意が増幅されて理性が無くなり、暴れて生き物を憎んで殺すことを目的に生きる存在となる。

そして御堂の子は暴れ回った後、最後に待ち受けるのは死だった。

まず、武威が殺戮者になっていない点。

武威には理性がある。

これが殺戮者・御堂の子ではない大きな決め手となっていた。

そして躯の直属の戦士の氷室を圧倒するその力。

試練に打ち勝ち御堂の力を得た者で間違いなかった。

 

「私の判断ミスで、御堂の子と思って攻撃を仕掛けてしまい失礼しました」

 

氷室は深々と武威に頭を下げた。

 

「気を削がれたな」

 

そう言うと武威は地面に降りた。

すると大量に放出していた武装闘気が身体から消えていく。

 

「そこの男が言う通り、俺は御堂の力を得た。この力を使えば、今の魔界の王の煙鬼でも倒せるだろう」

  

右手を前に強く握り締める。

 

「暗黒武術会の後、俺は強くなる為に人間界で修行を続け…」

 

飛影が手で話し始めた武威を制止した。

武威の目付きが鋭くなる。

 

「貴様が今まで何をしていて、御堂の力を得たとか、俺にはどうでもいい話しだ。聞きたい事は一つだ」

 

「それは何だ?」

 

「貴様が次の魔界統一トーナメントに出るのかという事だ」

 

武威、少し考えた上で話し始めた。

 

「大会には出るつもりはなかったが、今日、またお前にあったのは運命なのだろう。ならば暗黒武術会での借りを返すいい機会だ。大会には出よう」

 

武威の答えに対して飛影は無表情で答える。

「そうか」

 

武威は飛影を見てニヤリと笑うと、穴の中に降りて脱いだ鎧と兜を装着した。

そして直ぐに「大会で会おう」と告げるとこの場から立ち去っていった。

 

飛影は武威が去って行った森の中を見ながら腕の包帯を巻き直している。

氷室が飛影の側までやってきた。

 

「飛影、改めて礼をいいますよ。さっきは助かりました」

 

飛影はチラッと横目で氷室を見たが、そのまま包帯を巻いている。

 

「さっきの男、貴方と因縁がありそうですね」

 

氷室は飛影の顔を見た。

飛影は何か考えているようだった。

それはまるで何か強く思い詰めているような。

飛影の様子がおかしい事に気付いた氷室は心配する。

 

「どうしました?何かありましたか?」

 

飛影が口を開く。

「氷室、御堂について俺に教えろ」

 

「えっ!?」

 

ーーその頃、2番地区の最南端・森の中

 

飛影たちと別れた武威は来た道を歩いて戻っていた。

大会がある3番地区に向かう為だ。

順調に来た道を戻っていた武威だったが、ここで突然彼に異変が起きた。

武威は突然立ち止まると地面に片膝をつく。

すると急に大きな奇声を上げた。

武威の奇声に驚いた木にとまっていた魔界の鳥たちが一斉に空に飛びだった。

遂には立てなくなり、両膝が地面に着いた。

 

「ゔぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!!」

 

兜を脱ぎ捨てる。

武威は奇声を上げて頭を地面に何度も何度も叩きつける。

額が切れて血がドクドク出てきた。

暫くすると武威の動きが止まった。

そして何事もなかったかのようにフラフラと立ち上がる。

武威の目の色が赤色に変わっていた。

そんな武威の目の前を魔界のウサギに似た小動物が横切った。

 

「ゔぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!!!!」

 

またも奇声を上げる。

既に武威自身に自我はなかった。

本能だけで彼の身体は動いていた。

小動物を手で掴むと一瞬で粉々に握り潰した。

小動物の返り血で、武威の身体は真っ赤に染まる。

 

「アーーー!!!!」

 

大きな声を上げて吠える。

武威の身体は動き、まわりにいる魔物、小動物を次々に殺し始めた。

 

………。

………。

………。

 

半時後、武威は自我を取り戻した。

変わっていた目の色はもう元の目の色に戻っていた。

 

「な、何だこれは!?」

 

大量に浴びた返り血、まわりにあるおびただしい無数の魔物、小動物の死骸。

 

そして血に染まった自分の両手を見る。

 

「俺は今一体何をしていたんだ」

 

武威は戦い以外でこの時生まれて初めて恐怖を感じていた。

 

続く

 

次へ

戻る