nanaseの世界

このブログは週間少年ジャンプで連載していた、冨樫義博先生の原作漫画の幽✩遊☆白書の続編小説を中心に、映画のレビューや日々の出来事をメインにしています。

小説更新!!最新話公開中 幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #108「二回戦最終試合・凍矢vs戸熊(大会編)」

幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #042「飛影と雪菜(大会編・前章)」

――棗の家の前

 

飛影は棗と楽しそうに話しをする雪菜の姿を家の影から見ていた。

 

(どうやら、雷禅の昔の仲間に助けてもらったようだな)

 

飛影は、人間界から飛ばされて魔界に来た桑原から、雪菜も一緒に魔界に飛ばされたと聞かされた。

雪菜の安否が気になり、邪眼を使って居場所を突き止め、この場所までやって来た。

そして無事に雪菜が助けられていた姿を見て安心したのだった。

飛影が雪菜の姿を見るのは約4年ぶりである。

蔵馬から飛影と雪菜が最後に会った後、雪菜がその後、どうしていたのかは聞いていた。

桑原の家で、家族同然のように大切にされていると。

 

(人間界で生活しているせいか、随分感情が豊になった。雪菜の無事が分かればいい。もうここには用はない)

 

飛影は来た道を戻り始めた。

今更、妹には会うつもりはない。

 

「飛影じゃあないか?」

 

帰り道で大きな男に遭遇する。

 

  「お前は確か…」

 

大きな男は酎である。

偶然、棗の家に向かっていた酎とばったり鉢合わせしたのだ。

 

「お前さんがこんなとこで何をしているんだ?」

 

不思議そうな顔をしている。

当然だろう。

普通ならこんなところにいるわけがないのだから。

 

(チッ、タイミングが悪い)

 

あれこれ詮索されるのが、面倒と思った飛影は、

ここは無難な事を言ってやり過ごす事にした。

 

「別に大した用はない。パトロールで来ただけだ」

 

「何だパトロールか。まあそうだろうな」

 

飛影の目的がパトロールと聞いて納得した。

そうでないと、こんな妖怪があまり住んでいない場所にまずは来る事がないからだ。

 

「そういうお前はいつもの女の所か?」

 

「まあな。お前さん…俺と棗さんの事知っていたんだな。今からその棗さんのとこに行くんだ」

 

(雷禅の喧嘩仲間に惚れて、女の尻を追いかけているという事は蔵馬から聞いている。目の前で見ると御苦労なことだぜ)

 

「あ、そうだった」

 

何かを思い出した様に酎は手をポンっと叩いた。

 

「飛影、暗黒武術会の時に、お前さんたちと一緒にいた氷女の嬢ちゃんを、この直ぐ先の棗さんとこで保護しているぜ。この森の入口で、あの子が倒れていたのを俺が見つけて、棗さんの家に運んだんだ」 


(なるほど。こいつが発見したのか

この場所に雪菜がいた理由がこれで分かった)

 

酎は話しを続ける。

 

「軽い打撲をしていたが大したことはなかった。嬢ちゃんから話しを聞くと、人間界で大変な目にあってたみたいだぜ」

 

「その大変な目とは、妖気でも霊気でもない正体不明の気を持つ相手に襲われたということだろ?」

 

「そうだぜ…って何で飛影がそれを知っているんだ?」

 

目を見開いて驚く。

 

酎の顔が面白かった為か、ニヤリと笑う飛影。

 

「桑原の馬鹿に聞いたからな」

 

「桑原!?って桑原は無事だったんか!嬢ちゃんが凄く心配していたからよー」

 

酎は桑原の無事を聞いてホッとする。

酎も酎なりに桑原の事を心配していた。

 

「あの馬鹿は2番地区の森の中を彷徨っている時に、パトロール隊の者が発見した。今は恐らく躯の居城にいるはずだ」

 

「そうかそうか。あの嬢ちゃんが桑原の無事を知ったら安心するだろう」 

 

後ろから棗の声が聞こえてきた。

 

「そこに誰かいる?何か話し声が聞こえたけど」

 

飛影と酎の話し声が聞こえたのだろう。

 

(チッ、今度は雷禅の喧嘩仲間の女か。あいつまでここに来ると面倒だ)

 

「棗さん、俺だ!」

 

酎が大きな声で棗を呼ぶ。

 

「誰かと思ったら酎か。貴方以外にそこに誰かいるの?」

 

「俺はそろそろ行くぞ」

 

棗がここに来るまでに立ち去る。

出来れば顔を合わせたくない。

 

ガシッ

 

立ち去ろうとした飛影の腕を酎が掴んだ。


「飛影、何処に行くんだ?嬢ちゃんと会っていかないのか?」

 

「俺はいい」

 

酎、ニコリ。

 

「まあ、折角来たんだからよー。知らない仲じゃあないんだから嬢ちゃんに会って行けよ」 

 

飛影は酎の腕を振り払おうとしたが、棗を負かす為に特訓をした結果、酎は既にS級妖怪を遥かに凌駕する妖力を持った妖怪になっている、酎の腕を振り払う事など、もはや簡単な事ではなかった。

 

「棗さ~ん!!ちょっとこっちに来てくれよ!珍しい奴に会ったぜ」

 

(こいつ…。力が強いぞ)

 

完全に腕をロックされている。

これは外せそうにない。

飛影は抵抗しても無駄だと分かり観念することにした。

 

「珍しい奴?」

 

「誰でしょうか?」

 

雪菜と棗は顔を見合わせる。

 

「雪菜ちゃん、とりあえず行ってみようか」

 

「はい」

 

棗と雪菜がやってきた。

 

「あ…飛影さん…」

 

(雪菜…)

 

飛影と雪菜の目があった。

なんとなくだが気まずい。

沈黙が流れる。

 

(この人は、飛影っていう名前の躯の所にいた、邪眼を持つ妖怪ね。確か幽助とも友人だったはず)

 

棗も飛影が何でこんなところにいるのだろうっと

酎と同じ様な反応を示す。

 

沈黙の中で先に口を開いたのは、雪菜の方だった。

 

「お久しぶりです。最後に会ったのは貴方が魔界に行った時でしょうか?」


「ああ。そうだったな」 

 

飛影は人間界から魔界に旅立つ時、雪菜に氷泪石を手渡された時の事を思い出し始めた。

 

――飛影の回想

 

雪菜「これを…。母の形見です」

 

雪菜は飛影に自分の氷泪石を手渡した。

 

「氷女は子を産むと一つぶの涙をこぼします。それは結晶となり産まれた子供に与えられます。私の母、氷菜は二つぶの涙をこぼしたそうです」

 

飛影は黙って雪菜の話しを聞いている。

 

「一つは私がそしてもう一つを私の兄が持っているはずです」

 

「よくあの垂金に盗まれなかったな」

 

「おなかの中に隠してましたから。

あ!!ちゃんと洗いましたから汚くないです」


雪菜は慌てて飛影に説明をした。

 

「どうしてこいつを俺によこすんだ?」

 

「私の兄は炎の妖気につつまれていたそうです。全身を呪布にくるまなければ持てない程だったと泪さん(飛影と雪菜の母の友人)が言っていました」

 

(俺を放り投げた女だな)

 

「あなたと近い種族の人だと思うんです。もしもそれと同じ物を持った方に会ったらそれを渡して私は、人間界にいると伝えて下さい」

 

「くたばったに決まってるぜ。空飛ぶ城の上から捨てられたんだろ?」

 

雪菜、ニコリ。


「きっと生きています。これも泪さんが言ってました。『あの子は、私達の言葉を理解していた…。きっといつか復讐にくるわ』っと。私もそう信じています」

 

雪菜の目は真剣である。

本当にそう信じているのだろう。

 

「心まで凍てつかせてなければ長らえない国ならいっそ滅んでしまえばいい。そう思います」

 

「フン…それでお前、国を飛び出したわけか~となると氷河の国が兄探しを許したって話しもウソっぱちだな」

 

雪菜は顔色を変える事なく飛影の言葉を聞いている。


「いいか、甘ったれるなよ。滅ぼしたいなら自分でやれ。生きてるかどうかも知れん兄とやらにたよるんじゃない」

 

それは飛影の本心からでた言葉だった。

 

雪菜は飛影の言葉に一瞬、驚いたが、直ぐに元の顔に戻った。

 

「そうですね。本当…そうです。

なんだか兄に会っても同じこと言われそうですね」

 

――飛影の回想終了

 

「俺が最後に人間界に行ったのが、正聖神党の事件の時だったが、あの時はお前とは会わなかったな」

 

「そうでしたね」

 

「今、お前が魔界にいるのに聞くのもあれだか、人間界での生活はどうだ?」

 

「人間界での生活は本当に楽しいです。お世話になっている桑原家のお父さんと和真さんと静流さんには本当によくしてもらっています」

 

「人間界の生活に随分と馴染んでいるようだな」

 

「私がいた氷河の国の同胞たちは心の中まで凍てついていましたが、人間界で知り合った方々たちは、本当に温かい心で私に接してくれています」

 

そう言うと雪菜はニコリと笑った。

 

雪菜の笑顔は、人間界での生活は本当に幸せなのだと言っているように思えた。

 

「そうか」

 

棗は飛影と雪菜の会話を横で聞きながら、飛影の様子を興味深そうに見ている。

 

(あいつが雪菜ちゃんと話しをしている時のあの目、何故か分からないけど、今まで見た事のない温かい目をしている。まるで親や兄弟、子供を見るようなそんな目だ)

 

ここで酎が会話に入ってくる。

 

「話しの途中で悪いが、さっき飛影に聞いたんだがよ、お前さんが心配をしていた桑原の居場所が分かったぜ」

 

「え…それは本当ですか……」

 

本当に桑原の事を心配していた雪菜は、

桑原の無事を知って嬉しさのあまり目を潤ませる。

 

酎は雪菜の頭を優しく撫でる。

そして、ニコリ。


「この飛影に聞いてみな」

 

飛影に聞くように雪菜に促す。

 

「飛影さん…和真さんは今どこに?」

 

「桑原なら無事だ。パトロールをしていた者が、森の中で彷徨っていたあいつを見つけた。躯の居城に俺の仲間たちが連れて行っているはずだ」

 

「そうですか。和真さんが無事で本当に良かったです」

 

桑原の無事を知って心の底からホッとしているようだ。

棗が雪菜の肩に手を置く。

 

「雪菜ちゃん、良かったわね」

 

「はい」

 

棗は雪菜を自分の後ろにやると飛影の前に来た。

 

「そういえば貴方は一人?ここに何しに来たの?」

 

棗は何か飛影に感じるものがあった。


「俺だけだ」

 

「パトロールって言っていたぜ」

 

酎から飛影の目的がパトロールって聞いて棗の頭の中で疑問が浮かぶ。

 

(パトロール?パトロールはいつも必ず複数で動く決まりのはず。単独で動くなんて変だ。酎は不思議に思わないのかしら?)

 

「パトロールで探していた人間は見つかった?」

 

「いや、残念だが見つかっていない」

 

(目が少し泳いだ。パトロールっていうのはどうも嘘みたいね) 

 

ますます飛影に対して疑念が浮かぶ。

ここに一体何をしにやって来たのか。

 

「そうか。私もこの間パトロールに参加したけど、迷い込んだ霊気の弱い人間を見つけるのは大変よね。嗅覚に優れた妖怪か、貴方みたいな邪眼を持つ人が一緒にいれば楽なんだけどね」 

 

「安心しろ。大会で俺が優勝したら、このくだらんパトロールを終わらせてやるさ」

 

「言うわね。私ももちろん大会には参加するから、貴方ともし対戦することになったら宜しくね」 

 

この飛影という妖怪、かなり強いと思う。

前の大会で躯と戦うところを見たが、スピードは相当速い。

棗はその時、流石は幽助の仲間だと思った。

 

(雪菜ちゃんが私に、身の上話しをした時に言っていた。魔界にいるかも知れないというお兄さんの話し。この間、聞いたばかりの話しだからあれだけど、雪菜ちゃんを見る目といい、他にも何かこの人は引っかかるのよね) 

 

棗、ニコリ

 

「まあいいわ」

 

(何がだ?なんかこの女、俺の事を見透かそうとしているような目をしている。気に入らないな)

 

棗は今度は雪菜に話しかける。

 

「雪菜ちゃんはこれからどうするの?躯の所にいる、貴女の探していた桑原って人間の所に会いに行ってみる?」

 

「そうですね。和真さんも私のことを心配していると思います。行ってみようと思います」

 

飛影はこの場から離れる丁度良い機会だと思った。

 

「俺はそろそろ行くぞ」

 

立ち去ろうとした飛影を棗が引き留める。

 

「待って。行くなら雪菜ちゃんを一緒に、躯の居城まで連れていってあげて欲しいのだけど」

 

雪菜の方をチラッと見る飛影。

 

「悪いがまだパトロールがあるからな」

 

雪菜は無言で頷く。

 

「いいぜ。なら俺が後で嬢ちゃんを連れていってやる」


「酎さん、ありがとうございます」

 

深々と頭を下げる雪菜。

 

「いいってもんよ」

 

酎は気にするなと雪菜の頭を上げさせる。

それを横目で見る飛影。

 

「じゃあな」

 

飛影はそう言うと走り去っていった。


「飛影さん」

 

雪菜は走り去った飛影の後ろ姿を見つめていた。

雪菜は飛影と会うといつも不思議な気持ちになる。

自分でもそれが何かは分からない。

まるで失った何かが戻ってくるような…。

何とも言えない感じだ。

 

「とりあえず一旦、棗さんの家に行こうぜ」

 

酎がさあさあと雪菜と棗に促す。

 

「そうね。雪菜ちゃんもいい?」

 

「はい」

 

酎を先頭に棗の家に戻り始めた。

家が見えてきた時、棗の姿がいつの間にかない事に、

雪菜が気付く。

 

「あれっ、酎さん、棗さんは?」

 

「へっ?」

 

酎が振り向くと一番後ろで歩いていたはずの棗の姿が消えていた。

 

――飛影たちがいた森の直ぐ近くの崖の上

 

飛影は一人立っていた。

 

飛影は首にかけている雪菜から渡された氷泪石と、

自分自身の氷泪石を手に取って見つめていた。

 

「それは氷泪石。やっぱりね」

 

(!!?)

 

飛影は突然自分の背後に現れた棗に驚く。

咄嗟に氷泪石を隠した。

 

「お前か。俺に何か用か」

 

「飛影、貴方に話しがある」

 

棗の目は鋭く真剣な目をしていた。

 

 

続く

 

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