nanaseの世界

このブログは週間少年ジャンプで連載していた、冨樫義博先生の原作漫画の幽✩遊☆白書の続編小説を中心に、映画のレビューや日々の出来事をメインにしています。

小説更新!!最新話公開中 幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #108「二回戦最終試合・凍矢vs戸熊(大会編)」

幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #103「武威の最期(大会編)」

――Aブロック

 

生きるか、死ぬか、まさに命賭けの戦いとなった桑原と武威の戦いは終わった。 

殺意と憎しみの負の感情を爆発させた武威。

復讐という負の感情を排除した純粋な桑原の生への渇望。

正の感情を爆発させた桑原の想いが、武威の負の感情に打ち勝ったのだ。

 

「お前の一撃は俺の急所を完全に切り裂いたな」


武威の腹部は桑原の次元刀によって横に一直線に切り裂かれていた。

腹部の傷口からは血が大量に地面に流れ落ちている。

 

 

「ああ。全く頑丈な身体だったぜ」

 

桑原はそう言うと倒れている武威に背中を向けて歩き始めた。

 

「待て桑原」

 

立ち去ろうとする桑原を呼び止める。

桑原は武威の方を振り向かずに足を止めた。

 

「何だ?」

 

「お前との戦いは満足のいく戦いだった。敗れた事に悔いはない。俺に止めを刺して魚人の仇を取るがいい」

 

「止めは刺さねー。おめーをぶっ殺しても、月畑は生きかえるわけでもねーしな」

 

「桑原……」

桑原の言葉に驚く武威。

 

「もうすぐしたら救護班がここに来る。手当てをしろよ武威。頑丈なおめーの身体だ。手当てすれば助かるはずだぜ」

 

「あれほど仇討ちに燃えていたお前が何故だ?」


「月畑が殺された時は確かにおめーを憎んだぜ。さっきまでは殺すつもりで戦っていた」

 

「だったら何故殺さない」

 

「もう殺されちまった本人が成仏しちまったみてーだからな。おめーに止めを刺す気はなくなっちまったぜ」

 

「成仏?一体何の話しだ?」

不思議そうな顔をする武威。

 

 

「気にすんな」

武威の方を向いて笑顔を見せた。

 

(………)

 

グググ……

 

武威は大量の血が流れる腹部を手で抑えながら立ち上がった

 

「おいおい……。今動くとマジでヤベーぞ!」

 

「桑原、お前は暗黒武術会の後から俺がどうしていたか聞いたな?」

 

「あ、ああ」

武威は静かな声でゆっくりと語り始めた。

 

「戸愚呂(弟)という俺の最大の目標を失い、武術会では戸愚呂(弟)以外の飛影に敗れた俺は、戦う事に未練がなくなり、戦う事を止めた」 

 

「戦う事を止めた?」


殺意と憎しみの塊と化していた武威が戦う事を止めていた事に驚く桑原。

 

武威、ニヤリ。

「フッ、意外だったか?」。

 

「さっきまでのおめーを見ていたからな……」

 

「だろうな。そして俺は人間が殆ど近付かない山奥で生活を始めたのだ」

蔵馬が凍矢達に語った事を桑原に語り始めた武威。

 

「桑原、お前は知らないだろうが、世捨て人の様に山に込もっている時に蔵馬が一度、俺に接触して来た事があった」

 

「蔵馬が?」

桑原は蔵馬の名前がここで出てきた事にさらに驚いていた。

 

「俺が黄泉の元にいた頃に、酎や陣と同じく武威を幻海師範の元での修行に誘ったんですよ」

 

背後から男の声が聞こえて来た。

声の主は蔵馬である。

 

選手たちの休憩所にいた蔵馬が武威の元へいつの間にかやって来たのだった。

 

「く、蔵馬!?」

 

「蔵馬……」

突然の蔵馬の登場に驚く。

 

「鎧と兜を外した素顔のお前と話すのはあの日以来だな」

そして蔵馬の後ろには、飛影の姿もあった。

 

――選手たちの休憩所

 

「あれは蔵馬!!それに飛影も」

 

「あいつら、いつの間に!?」

 

突然、闘場を映し出すスクリーンに姿が現れた蔵馬と飛影に驚く幽助達。

 

――Aブロック

 

「俺が訪ねた翌日にお前は姿を消していた。お前は今までどうしていた?そしてあれから、三年以上の時間が過ぎた。一体何があったんだ?」

 

蔵馬は真剣な顔で武威に問いかけた。

桑原は黙って様子を見ている。

 

「地獄だ。この世の地獄の中に俺はいた。お前が訪ねて来た日の夜に、ある者達が俺を誘(いざな)いに来た」

 

――Aブロックの上空

 

フッ

 

黒いマントに仮面で顔を隠した男がAブロックの上空に姿を現した。

 

スッ

 

男は右手を地上にいる武威に向けた。

 

――Aブロックの地上

 

「ある者達?」

 

「奴らは……」

 

その時、武威の身体に異変が起こった。

 

「グォォォォ!!!」


急に武威がもがき苦しみ始めた。

 

「お、おい!!」

 

「武威一体どうしたんだ!?」

突然の武威の変化に驚く。

 

(!!)

 

ドバァァァァァ!!!!!


突然、桑原に切り裂かれた傷口が大きく広がっていく。そして大量の血が吹き出た。

まるで力まかせに引き裂く様に。

 

「武威!?」

 

「……奴らの仕業か」
武威はそう呟くと上空を見上げた。

 

仮面をつけた黒いマントの存在に武威は気付いた。

 

「粛正というわけか」

 

飛影は空を見上げる。

仮面の男の存在に気付く。

 

「貴様何者だ」

 

カチャッ

 

腰の剣に手をかける。

 

 

バッ!!

 

飛影はジャンプすると剣を抜いて、仮面の男に向かっていく。

 

スッ

 

仮面の男は飛影に手をかざした。

 

「これは…!」

 

手から目に見えない何か異様な力が出ていることを

飛影は感じた。

 

(力が抜けていく…)

 

飛影は自分の力が一瞬で封じ込まれた事を感じた。

堪らず地面に着地する。

蔵馬が飛影の側に駆け寄る。

 

「大丈夫か飛影」

直ぐに蔵馬は空を見上げた。

 

「何者だ!!」

 

桑原は仮面の男を見て、全身が震えていた。

それはまさに恐怖という感情。

 

(な、何だあいつは。こんなのは今まで感じた事はね…)

 

――Aブロックの上空

 

「淘汰完了だ」

 

フッ

 

仮面をつけた黒いマントの男の姿は桑原たちを嘲笑うかのように消え去った。

 

――Aブロックの地上

 

「チッ、今の奴は何者なんだ」

飛影は先程、力を封じ込まれた事に苛立っていた。

 

蔵馬が武威の傍に駆け寄り薬草で手当てを試みる。

 

「無駄だ。俺は助からない」

 

武威は薬草をあてようとした蔵馬の手を振りきると、

何も言わずに背を向けて闘場を歩いて行く。 

 

「その身体で何処に行くんだよ!?」

 

「武威!!」

 

蔵馬たちは慌てて武威の後を追いかけていった。

武威は桑原と戦っていたこの自然式円闘場の端に向かっていた。

 

――選手たちの休憩所

 

スクリーンに映る蔵馬たちの様子を幽助たちは観ている。

「武威の奴は何処に向かってるんだ?」

 

凍矢の顔は険しい。

「傷口が裂けた。あれではもはや助からないだろう」

 

――Aブロック

 

Aブロックの自然式円闘場の端から外は、深い奈落の底とも言える崖であった。

自然式円闘場の端に到着した武威はゆっくりと桑原と蔵馬の方を見た。

 

「………一つだけ言っておくぞ。桑原、蔵馬、飛影。“奴ら”はいずれお前達の前に現れる。そして俺と同じ様にお前達も地獄を見るはめになる」

 

「奴ら?さっきから一体何を言っているんだ武威!」

 

「生きるか死ぬか、殺意と憎しみを持つ者しか生きていけない場所に俺はいた。そこから逃げて来た俺は負け犬とも言えよう。生きる為にそこで培った殺意と憎しみは逃げ出してからも消す事は出来なかった」

 

「武威!」

 

飛影が武威に声をかける。

「御堂はお前を心配していた。試練に成功した筈のお前から殺意と憎しみの心があることを感じていたからだ。成功者のお前が不完全な御堂の子になっていると。もし御堂の子になれば始末を頼まれていたが、可能ならお前を助けてやってくれとな」

 

「御堂か。あの男の力のおかげでお前たちと戦えるだけの力を得た。御堂には感謝している。御堂の試練を乗り越えたのは本当は、奴らを倒す為の力を得る為だったが、飛影、お前と再会した事で大会に参加し、そして桑原に敗れた事に俺は後悔はない」

 

そして武威は闘場の外である奈落の底へ足を向けた。

 

武威、ニコリ。
「桑原、お前の技で斬られたとき、その一撃が、奴らに埋め込まれた俺の憎しみと殺意すらも斬ってくれた。俺はホッとしたぞ。これで解放されたのだと」

 

それは満足した男の笑顔だった。

 

「武威、おめー……」


桑原が武威の側に行こうと近付こうと動いた。

 

「来るな!」

大きな声を上げた。

 

桑原は、鬼々せまる形相の武威に驚いて足を止めた。

 

「桑原、お前には感謝している」 

武威は目を閉じた。

 

「殺意と憎しみにとり憑かれた俺を救ってくれた」


バッ

 

背中から闘場の外に身を投げた。

奈落の底へ向かって。

 

桑原の身体が動く。

武威を助ける為に。

だが、間に合わない。

 

武威の身体は奈落の底に落ちていった。

 

「武威ィィィィィ!!!!!」

 

落ちて行く武威は心の中で呟く。

(……今度は本物の地獄でお前に会えるな……。待っていろよ、戸愚呂(弟)よ)

 

そして武威は奈落の底に吸い込まれる様に消えていった。

闘場に残された蔵馬たちは突然の出来事に唖然としていた。

 

「……あの野郎」


「武威……」

 

「…馬鹿め」

 

武威が遺した多くの謎。

武威の傷口をその力で引き裂いた仮面を付けた黒いマントの男。

武威が見てきたこの世の地獄とは?

戦いを止やめていた武威を誘(いざな)ったという者達の正体とは?

そして桑原や蔵馬達の前にいずれ姿を現すだろうという不気味な武威の最期の言葉。

全てを語る事なく死んだ武威。

だが、武威の言葉通り、“その者”達が後に桑原や蔵馬の前に姿を現し幽助達も巻き込んでは戦う事になるのであった。

それはまた別の話し。

多くの謎だけが残りながらも大会は何事もなかった様に試合が行われた。

そしてついにあの男の出番が訪れた。

 

――選手たちの休憩所

 

カチャッ

 

腰に剣を装着した。

 

「行くぞ」

 

飛影は静かに呟くとBブロックの闘場に向かって歩いて行く。

武威の件で、少し気が立っている。

対戦相手は蔵馬が戦った電鳳と同じく雷禅の昔の仲間である周。

 

(相手は邪眼師のチビか)


優勝を狙える力を持ち、メタル族の最強の戦士である周がついにその力を発揮しようとしていた。

 

周(しゆう)
×
飛影(ひえい)

 

二回戦の注目の試合がついに始まる。 

 

続く

 

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幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #102「勝者(大会編)」

――魔界統一トーナメントAブロックの二回戦・第二試合

 

武威(ぶい)
×
桑原(くわばら) 

 

――Aブロック

 

「オリャァァァァァ!!!!!」

 

「フルパワーァァァァァ!!!!!」

 

ぶつかり合うお互いの最強の技と技。

桑原が武威に放つ時雨の技、それは狙いを一点に集中して妖気、または霊気を最大限に剣に込める。

そして神速で動いて相手を切り裂く。

次元刀は空間ごと相手を切り裂く為に、どんな者でも防御は不可能である。

桑原の狙いは武威の腹部。

桑原の次元刀と時雨の技が合わさった一撃。

その一撃が、武威の鋼鉄の身体を切り裂く事が出来るかどうかが、桑原にとっての最後の勝負の分かれ目であった。

そして武威。

フルパワーとなり武装闘気を最大限まで放出している。

武威の鋼鉄化した身体は、突進による体当たりの攻撃力はもちろんだが、特に防御力が格段に上がっていた。

そして最大限までに放出された武装闘気は最強の鎧、そして全てを飲み込み、破壊する武器となっていた。

最後の勝負の桑原の獲物が、防御不可能の次元刀と知りながら突進して来ている武威。 

空間ごと切り裂いてしまう次元刀の前では、武器闘気の鎧は簡単に突破されてしまう事は承知していた。

そして突破される事により、武威自身の身体も次元刀によって斬られる事も覚悟の上であった。

だが、武威は鋼鉄化し、武装闘気をフルパワーで限界まで放出したその身体を、次元刀で斬られても、それを打ち破り、桑原の身体を粉々に砕く絶大なる自信を持っていたのだ。

仲間の復讐と未来への道。

相手への深い殺意と憎しみ。

桑原と武威。

それぞれの想いや狙いは違うが、相手を倒すという気迫は互角であった。

そしてこれが、死闘となってしまった桑原と武威にとっての最後の戦いとなる。

 

「ウォォォォ!!!!!」

 

ズガガガガガガ!!!!!


突進して来る武威の身体から限界まで放出した武装闘気がその周辺を全て飲み込み破壊していた。

 

「武威ィィィィィ!!!!」

 

桑原の叫ぶような大声が闘場に響き渡る。

師である時雨が得意とする必殺の一撃。

桑原にとって、この技を放つのは一回戦の牛頭戦、そしてこれが二度目となる。


シャキーン!!

 

桑原は狙いである武威の腹部を次元刀で斬りつけた。


ズバァァァ!!!!!

 

空間ごと切り裂く事の出来る次元刀が武威の身体から放出されている、その鎧ともいえる武術闘気をなんなく切り裂いた。

そして。

 

ザクッ!

 

次元刀が武威の鋼鉄の腹部に接触

だが、武威の鋼鉄の身体が次元刀を止めていた。

しかし体当たりの為に突進していた武威の身体も次元刀によって止められていた。

 

「ウォォォォォ!!!!!」

 

お互いに大声を上げる二人。

 

武威は技を止めて、両手を使って桑原を殴り飛ばす事も、突き放す事も出来た。

それは桑原も同様で、次元刀を消して武威から離れて、再び態勢を整えて技を再び放つ事も出来た。

だが、彼等はこの技で最後の勝負を決めるつもりでいた。

 

「切り裂けェェェェェ!!!!!!!!」

 

武威の腹部に刺さった次元刀にさらに霊気を込めて、完全に切り裂こうとする桑原。

 

「無駄だァァァァァァ!!!!!!!!」

 

ブォォォォォ!!!!!

 

そして桑原の攻撃を弾き飛ばし、体当たりして桑原を粉々にする為に、さらに武装闘気を高める武威。

 

ドォォォォォン!!!!!


凄まじいまでの桑原の霊気と武威の武装闘気の源である妖気の柱が天に向かって放出された。

 

――選手たちの休憩所

 

妖気の柱を見て躯、ニヤリ。

「やはり命がけの真剣勝負とはいいものだ」

 

真剣勝負を好む躯は、腕を組んで二人の戦いを楽しそうに見ていた。

 

――メイン会場

 

「和真さん……」

 

観客席から立ち上がった雪菜は、胸の前で両手を組んで桑原の勝利を祈っていた。


「雪菜ちゃん」

 

棗は雪菜の組んだ手にそっと手を置いて、ギュッと握った。

棗の顔を見る雪菜。

 

棗、ニコリ。

 

棗は口では何も言わなかったが、優しいその笑顔は「大丈夫。彼を信じなさい」っと雪菜に言っていた。

 

「棗さん…」

 

スクリーンには命を賭けて、お互いの力を振り絞る二人の男が映し出されていた。

 

――Aブロック

 

「この次元刀が弾かれた時こそ、桑原お前が死ぬ時だァァァァァ!!!!!」

 

「俺は絶対におめーをぶった斬るぜェェェェェェ!!!!!」

 

鋼鉄の身体に付き刺さる次元刀が武威を完全に切り裂くのが先か?それとも次元刀を弾き飛ばして桑原の身体を粉々にするのが先なのか?

均衡した二人の戦い。

勝利の女神が微笑むのが果たしてどちらになるのか?

まさに緊迫した状態であった。

 


武威、ニヤリ。

「桑原!!お前は地獄というものを見た事があるか?」

 

武威が突然、桑原に問いかける。

 

「あ?地獄かよ!俺は高校受験に地獄を見たぜ!!!」

緊迫した状況の中で頓珍漢な答えを言う桑原。

 

「フッ、俺は見たぞ。この数年間の間に本当の地獄をな!!!」

 

「その地獄とやらが、てめえをそんな風に変えたのかよ!!!」

 

怒号にも似た声で武威に言い放つ。

 

「そうだ。俺は変わった。今の俺は昔とは違う。目の前に立ちはだかる者は全て破壊して殺す。それが今の俺の全てだ」

 

鋭い眼光で桑原を見る武威。

 

「てめえは自分の今の顔を鏡で見た事があっか?強い殺意と憎しみで顔が歪んでいるぜ!!!」

 

「笑止。強い殺意と憎しみこそが感情の中で最も強いものなのだ。これが俺の強さの源」

 

「そんな歪んだ感情を押し出して、てめえは一体何がしてーんだよ!!」

 

「お前に話した所でお前の頭の中では俺の考えは到底、理解する事は出来ないだろう」

 

激しい会話をしながらも二人の霊気と妖気はどんどん大きくなり放出されていた。

 

「へっ!俺はおめーの頭の中なんか理解もしたくねーけどな」

 

武威の顔が邪悪な顔となり激しく歪む。

 

「殺してやるぞォォォォォ!!人間界で平和な暮らしをしてきたであろうお前ごときに地獄を見てきた俺は倒せん!!!!!」

 

武威の殺意と憎しみという負の感情が爆発。

 

「野郎!!!」

 

ズズズ……

 

(!)

 

桑原の身体が徐々に押され出した。

 

「俺のこの身体は切り裂けん!!この身体に刺さっている次元刀が弾かれた瞬間にお前の身体は原形も残らない程に粉々になる!!」

 

「うぐぐ……。チクショー!!!」

 

徐々に追い詰められていく桑原。

 

その時だった。

 

《桑原》

 

《桑原》

 

桑原の脳に男の声で何者かが語りかけてきた。

 

(だ、誰だ!?)

 

《桑原分からないのか?》


(こ、この声は月畑!?まさか、おめーなのか!?)

 

桑原の脳に語りかけていたのは武威に殺された月畑であった。

 

《そうだ。この闘場で死んだ俺の魂がお前に語りかけている》

 

(月畑、俺はまだやられていねーぞ!呼びに来るにはまだまだ早いぞ)

 

《アホか!!相変わらず、とぼけた奴だ。今のお前は俺の仇討ちの気持と自分と大事な氷女の為に生きたいという強い気持が共存している》

 

(ああ、そうだな。特に月畑の仇討ちの気持はかなり強いぜ!おめーを殺した武威の野郎を俺は許せねーからな)

 

《俺の仇討ち等は考えなくていい。あの男の負の感情に復讐という負の感情で挑むな。巨大なあいつの負の感情に飲み込まれてしまうぞ。負の感情を捨てて、自分の為にだけその力を出せ桑原》

 

(!!)

 

月畑の言葉に驚く桑原。

 

《俺は武威に殺された事を恨みに思って、魂がここに止(とど)まっているのではない。お前に俺と同じ様に死んでもらいたくないのだ。生きてくれ、そして俺の魂を安心させてくれ》

 

(つ、月畑……)

 

《お前とは本当に短い付き合いだったのに、俺の為に本気で仇討ちを討とうとしてくれて嬉しかったぞ桑原》

 

月畑の声がここで途絶えた。

その間、時間にして僅か数秒に過ぎなかった。

それは夢か現実だったのかは分からない。 

だが、月畑の魂の言葉は確かに桑原に届いた。

 

(ありがとよ月畑。分かったぜ!!そこで俺が勝って生き残る瞬間を見てろよ!!)

 

「これで終わりだ!!砕け散れ桑原ァァァァァ!!!!!」

 

もはや武威に次元刀が弾き飛ばされるのは時間の問題であった。 

 

鋭い目で武威を見る桑原。

「終わりはてめえの方だ!!武威ィィィィィ!!!!!!」

 

復讐という負の感情を排除して、これからの未来の為に殺しに来た武威を倒して生きるという強い正の感情を爆発させた桑原。

この試合で最大となる桑原の霊気が放出される。

 

ググッ!!!

 

武威の腹部に突き刺さって全く動かなかった次元刀が動き出す。

 

(な、何!!)

 

「ダリャァァァァァ!!!!!!」

桑原の絶叫とも言える声が闘場に響き渡った。

 

ズバァァァァァァァァァァ!!!!!!!!

 

ついに桑原の次元刀が鋼鉄の武威の腹部を完全に切り裂いた。

 

「ヌォォォォォォォォォ!!!!!!」

 

プシューーー!!!

 

腹部から凄まじいまでの鮮血が飛び散る。

 

武威を完全に切り裂いた桑原は少し離れた位置から背後の武威の姿を見た。

 

(………)

 

お互いの目が合う。

 

武威、ニコリ。

「桑原…」

 

武威は何故かホッとした様な笑顔を桑原に見せた。

 

そして。

 

ズドン!!!

 

武威の身体は仰向けに倒れた。

 

「う……」

 

ドテッ

 

武威が倒れたのを見届けると力尽きる様に地面に座り込んだ桑原。

 

「や、やったぞ……」


口からそれだけを言うのが精一杯であった。

そして桑原は空を見上げる。

空には月畑の姿が見える。


月畑、ニコリ。

月畑が安心した様に微笑んだ。

そして静かにその姿が消えていく。

 

桑原、苦笑い。

「へっ!魚ヅラが笑った顔なんか初めて見たぜ」
(ありがとよ、月畑。そしてあばよ)

 

上空から審判が桑原と武威の姿を見つめる。

 

「Aブロックの第二試合は桑原選手の勝利です!!!!」

 

審判が桑原の勝利を宣言した。

 

命を賭けた激しい激戦の末に勝利を勝ち取ったのは桑原であった。

 

――メイン会場

 

雪菜、ニコリ。

「和真さん良かった……」

 

涙を流して隣にいた棗に抱きついた。

 

そして優しく雪菜の髪の毛を撫でる棗。

 

(良かったね、雪菜ちゃん)

 

――選手たちの休憩所

 

「桑原君の勝ちだ」

 

「全く、最後までヒヤヒヤさせやがってよー」

 

「あいつにしては良くやったな」

 

幽助達は桑原の勝利に安心したのであった。

 

――Aブロック

 

桑原は立ち上がり、仰向けに倒れた武威に近付いて行く。

 

「武威……」

 

倒れている武威に声をかける桑原。

 

「見事だ桑原。俺の負けだ……」

 

笑顔を見せる武威の顔から殺意と憎しみは完全に消えていたのだった

 

続く

 

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幽☆遊☆白書~2ND STAGE~(#101~#150)

#101「回想と決戦(大会編)」

#102「勝者(大会編)」 

#103「武威の最期(大会編)」

#104「飛影vs周(大会編)」

#105「禁呪法・魔封紋(大会編)」

#106「邪王炎殺双龍波(大会編)」

#107「幽助の二回戦(大会編)」

#108「二回戦最終試合・凍矢vs戸熊(大会編)」

#109「二回戦終了(大会編)」

 

 

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幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #101「回想と決戦(大会編)」

――選手たちの休憩所

 

「どこから話そうか……」

 

凍矢達の前で、蔵馬は武威の事を語り始めた。

 

――蔵馬の回想

 

幽助は雷禅、飛影は躯の国に赴き、修行に励んでいた頃に時は遡る。

 

幽助、飛影の後を追う形で黄泉の誘いに応じて魔界に赴いた蔵馬だったが、当時の蔵馬はまだ黄泉の国のNo.2にはなってはおらず、黄泉の国のNo.2は軍事総長の鯱という妖怪だった。

この時の蔵馬の立場は黄泉の参謀の様な立場。

巨大な妖力を持つ雷禅と躯と黄泉の三国の国王。

三国は互いに牽制しあって均衡していた。 

だが、長年に渡る三国の均衡が崩れようとしていた。

雷禅がおよそ1000年もの間、エネルギーの源である人間を食べるのを絶っている為、もうすぐ死を迎えるのだ。

蔵馬は雷禅が死んでしまう事で魔界の均衡が崩れてしまう事を恐れていた。

魔界の均衡の為に蔵馬の内に秘めた策を実施する為に、ある行動を起こし始めていたのだった。

 

――人間界のとある喫茶店


一人の青年が喫茶店に入って来た。

 

「待たせたな蔵馬。久しぶりじゃな」

青年は人間の姿になったコエンマである。

 

「ええ」

 

蔵馬は喫茶店にコエンマを呼び出していた。

霊界にある頼み事をする為に。

 

「コエンマ、忙しい所をすみません」 

 

コエンマ、ニコリ。

「気にするな。今は特に忙しいという訳でもないしな」

 

「職務の方には戻られたのですか?」

 

仙水忍との魔界の扉を巡る戦いの中、魔族へと覚醒した浦飯幽助を危険な者として抹殺を特防隊に指示したコエンマの父・エンマ。

コエンマはその指示に逆らって幽助をかばった。

その為に表面上の咎めはなかったものの、一時的ではあるが職務から外されていた。

 

「うむ。先日、復帰したぞ」

 

「そうですか。意外と早く職務に復帰出来ましたね」

 

「まあな。忍の事件以来、霊界で問題視されていた幽助、それに力をつけてきたお前と飛影が魔界に行った事がワシの早期の復帰に繋がったのだがな」


やれやれといった顔をするコエンマ。

 

「そうかもしれませんね」

 

「それで、ワシに用とは何なのだ?」

 

「コエンマに一つ頼みがあるんですよ。霊界の情報網で、ある妖怪達を探してもらいたいんです」

蔵馬は真剣な顔で本題を切り出した。

 

「妖怪?霊界の情報網なら捜すのは簡単ではあるが、何の為にだ?」

 

「訳は後で話しますよ。この紙に書かれた者達の居場所を調べて欲しいんですよ」

 

スッ

 

そう言うと蔵馬は一枚の紙をコエンマに差し出した。

その紙には八匹の妖怪の名前が記載されていた。

 

・鈴駒
・酎
・陣
・凍矢
・吏将
・鈴木
・死々若丸
・武威

 

コエンマは紙に書かれていた名前に驚いた。

 

「これは暗黒武術会でお前達が闘った者達の名前ではないか?」

 

「ええ」

 

コエンマは真面目な顔で蔵馬に問いかける。

 

「蔵馬、お前は一体何を企んでおる?」

 

蔵馬、ニコリ。

「それは企業秘密です」

笑顔で答える蔵馬。

 

「おいおい………」


蔵馬の答えに困った顔をするコエンマ。

 

「フフ、いずれお話ししますよ」

 

「……まあ良かろう」

 

蔵馬の表情から何か深い考えがある事を察したコエンマはこれ以上聞くことを止めた。 

 

「すみませんコエンマ。宜しく頼みます」 

 

蔵馬の頼みを受けたコエンマは直ぐに霊界の情報網を使って捜索を開始。

八匹の妖怪の居場所は直ぐに見つかった。

蔵馬は霊界の情報網によって見つかった彼等を訪ねてまわったのだった。

蔵馬は訪ねた彼等に今は亡き幻海の元での修行を誘った。

誘いにのった彼等はコエンマの協力を得て、幻海の元で修行を開始したのだった。

この蔵馬の誘いを受けたのは八匹の内の六匹。

それは鈴駒・酎・陣・凍矢・鈴木・死々若丸であった。

このメンバーの中では、死々若丸が浦飯チームに対して悪態をついてはいたが、彼は鈴木に強引に連れて来られてしぶしぶ参加。

その他のメンバーは基本的に暗黒武術会で対戦した浦飯チームのメンバーに好意的であった為に、すんなりとOKを出した。

そして蔵馬は期限を設けて妖力値が100000Pを超える者を六匹連れて来ると黄泉と約束したのだった。

それはあくまで表向き。

蔵馬は雷禅の死後に、最悪の場合はその六匹と共に自身が第三勢力として立つ事も視野に入れていた。

魔界の均衡の為に。

蔵馬の誘いに応じなかったのは吏将と武威。

吏将はそのプライドの高さと性格の悪さによって、仲間である凍矢と陣の説得も虚しく、蔵馬の誘いには応じる事はなかった。

そして武威。

リストアップした八匹の妖怪の中で蔵馬が真っ先に訪ねた男はこの武威であった。 

彼もまた蔵馬の誘いには応じなかった……。

 

――とある田舎の山奥

 

コエンマから武威の居場所を聞いた蔵馬は、武威がいるという山を訪れていた。

地元の者でさえ殆ど近付く者がいないという不気味で深く険しい山。

その山の中に暗黒武術会で戸愚呂(弟)の死後、その行方が分からなくなっていた武威がいたのだ。

 

「随分と険しい山だ。こんな場所に武威がいるとはな」

 

険しい道を少しずつ進んで行くと一つの大きな洞窟があった。

 

「ここか……」

 

薄暗い洞窟の中に入ろうとしたその時。

 

「誰だ!」

 

シュルルルルル!!!!!


背後から男の声が聞こえると、同時に小型の斧が蔵馬めがけて飛んで来たのだ。

 

(!!)

 

蔵馬は咄嗟に斧をかわした。

 

シュルルルルル!!!!

 

パシッ

 

投げた者の手元に戻る斧。

斧を投げた者は武威であった。

武威に近付く蔵馬。

 

「久しぶりだな武威」


「お、お前は!?」

 

予想外の訪問者に驚く武威。

 

「……何の用だ蔵馬?それ以前によく俺の居場所が分かったな」

 

「まあね。それより武威、お前に話しがある」

 

蔵馬は本題を直ぐに切り出して武威に話したのだった。

蔵馬の話しを一通り聞き終えた武威は口を開く。

 

「あの幻海が生きていたとはな。暗黒武術会の決勝の前に戸愚呂(弟)が殺したものだと思っていたぞ」


「ああ、幻海師範は戸愚呂(弟)によって一度は殺されたよ。忘れたのか武威?暗黒武術会では優勝者の願いが叶うという事を」

 

「なるほど、生き帰らせたという事か。昔、戸愚呂兄弟が人間から妖怪に転生したように、あの大会は優勝者は願いが叶うのだったな。左京達、大会の運営者達が死んだから不可能だと思っていたぞ」

 

蔵馬、ニコリ。

「俺や幽助達も驚いたよ。帰りの船に乗ろうとしたら、死んだはずの幻海師範が現れたのだからな」 


「話しがそれてしまったな。お前からの誘いだが……」

 

武威の声のトーンが変化したのを蔵馬は聞き逃さなかった。

 

「ああ」

 

「悪いが断る」

 

蔵馬は正直誘いを断られるとは思っていなかった。

 

「何故?」

 

断る理由を問う。

 

「俺は自分の限界を知っている。これ以上は修行をした所で無駄だ」

 

「武威、お前は自分自身で限界の壁を作ってしまっている」

 

蔵馬の言葉に笑みを浮かべる武威。

 

「他に理由を付け加えるなら、俺は目標としていた戸愚呂(弟)を超える事はおろか、お前の仲間の飛影にも敗れてしまったのだ。本当に俺が倒したかった戸愚呂が死んだ今、もはや戦う事には未練はない」

 

「武威……」

 

武威は暗黒武術会の決勝戦の第二試合で飛影に敗北。

戸愚呂(弟)以外の者によって敗北した事、そして武威自身が目標として、その命すらも狙っていた戸愚呂(弟)の死。

敗北のショックと目標を失った武威は既に蔵馬が暗黒武術会で見たあの武威ではなかったのだ。

まるで戦う事自体を拒否するような目をしていた。

 

「戸愚呂(弟)は死んだんだ。いつまでもその幻影を追いかける事は無意味だぞ武威」

蔵馬は武威の説得を何度も試みた。

 

死んだ者を追いかける無意味さ、そして魔界には戸愚呂を超える妖怪がいくらでもいる事も説いた。

だが、武威は決して首を縦に振る事はなかった。

 

「蔵馬、俺はここで静かに暮らす。もう帰ってくれ」

 

「……分かった。今日の所は帰るよ。また明日も来る」

 

(………)

武威は蔵馬の言葉に何も答えなかった。

 

その日は大人しく帰った蔵馬は武威に言った通り、翌日も武威の所に赴いたのであった。

だが、武威は既に住んでいた洞窟から姿を完全に消していた。

 

――蔵馬の回想終わり

 

「俺の話はここまでだ。その後、再びコエンマに武威の行方を探して貰ったが、彼の行方は全く分からなくなった」 

話しを終えた蔵馬。

話しを聞いていた者達の中で最初に口を開いたのは凍矢であった。

 

「それで姿を完全にくらました武威の奴は、この大会に突然現れたという事か?」

 

「ああ」

 

近くで話を聞いていた死々若丸が話しに加わる。

「戦う事を止めた武威は何がきっかけで再び動き出し、あれだけの力を付けたのか」

 

「あの妖気は並大抵の修行では身につく者ではない」

 

「姿を消して三年以上の空白の時間の中に武威に動き出す何か大きなきっかけがあった事は間違いない」 

 

「一回戦の相手を殺した時、そしてあの失敗ヅラ(桑原)に向けている殺気は凄まじいものだ」

 

「何が武威を変えたのか……」

 

飛影の脳裏に魔界での武威との出来事が浮かぶ。

 

「あの強さだけなら御堂の力が大きいだろうな」

 

「御堂??」

 

飛影が魔界での出来事についてここにいる皆に語った。

そして話しを聞き終えて、蔵馬が最初に口を開いた。

 

「御堂か。噂は聞いた事がある。試練を乗り越えた者に、望む能力を与えられる者」

 

「御堂から聞いた。あいつは試練を受けて、力を得た。だが、完全に成功したわけではなかったのだ」

 

桑原の試合の様子を見ながら話しを聞いていた幽助が声を上げた。

 

「話しはそこまでだ。おめーら試合を見てみろ!どうやらあいつら勝負を決めるみてーだ」

 

スクリーンには時雨の技の構えをしている桑原と武装闘気をフルパワーにした事によって身体を鋼鉄化した武威の姿が映し出されていた。

 

「武威の身体が変化しているぜ。そのせいか知らねーが、妖気がまた馬鹿出かくなってやがる」

 

「桑原君のあの構えは!?」

 

「時雨の技だ」

 

――Aブロック

 

「一回戦で見せたあの技か。俺には通用せんぞ」


「武威、それはやってみねーと分からねーぞ!」


「分かるさ」

 

互いに構える二人。

 

「俺のこの身体はお前の技を弾く。お前の全てを粉々に打ち砕く」

 

先に動いたのは武威であった。

 

ズンズンズン

 

武威は桑原に向かって突進した。

その身体で体当たりして桑原を粉々に砕く為に。

 

「ウォォォォォ!!!」

 

ブォォォォォ!!!

 

武威の身体から凄まじいまでの武装闘気が放出される。

 

(…………)

 

向かって来る武威を見つめながら桑原は狙いを一点に集中する。

 

「行くぜ武威!!最後の勝負だ」

 

ドーーーン!!!!!

 

桑原は突進して来る武威に向かって、ついに時雨の技を発動させた。

 

――メイン会場

 

「和真さん!!」

観客席から思わず立ち上がる雪菜。

 

棗も戦いを見入っている。

「これで勝負が決まる」

 

――選手たちの休憩所

 

「桑原ァァァァ!!」


「桑原君!!」

 

――Aブロック

 

「オリャァァァァァ!!!!!」

 

「フルパワーァァァァァ!!!!!」

 

武威は桑原を殺す為に。

 

桑原は月畑の仇討ちと自分と愛する雪菜との未来の為に、自分を殺しに来ている武威を倒して生き残らねばならない。

 

それぞれの想いを胸にお互いの最強の技がついにぶつかる。

 

続く

 

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幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #100「死闘の行方(大会編)」

――魔界統一トーナメントAブロックの二回戦・第二試合

 

武威(ぶい)
×
桑原(くわばら) 

 

――選手たちの休憩所

 

ほぼ互角となり、激しい死闘を繰り広げている桑原と武威を躯と時雨は静かに見ていた。

 

「今のところは互角といったところか」

 

「ですな。しかし桑原の霊気が急激に上昇したのは驚きましたぞ」

 

「フッ、あの劣勢の中で霊気を上げるとは面白い男だ」

 

「桑原に一体何があったのでしょうか?」

 

「さあな。それは俺も知りたいところだ」

 

武威の開放した力の前に圧倒されていた桑原だが、霊気の急激な上昇によって、互角までに力を上げた理由を躯達はもちろんの事、幽助達ですらその理由が分かる者はいない。

急激な霊気の上昇の秘密が、まさかの雪菜の念信による愛の告白が原因とは、当人達と棗以外は知るよしがなかった。 

 

「時雨、状況が変わってほとんど互角となった今の状態では、お前はどっちが勝つと見ている?」

 

「躯様、弟子の勝利を信じない師がどこにいましょうか。拙者は桑原が勝つ事を信じております」

 

躯、ニコリ。

「そうか」

 

時雨はスクリーンに映る桑原を観る。

(桑原、お前が一回戦で見せた拙者の最強の技を使うのだ。あの技と御主の次元刀が合わさればあやつを必ず倒せるはずだ)

 

――Aブロック

 

桑原は武威と力がほぼ互角になったので、消耗の激しい次元刀ではなく霊剣を選択していた。

武威も再び巨大な斧を振り回して応戦していた。

 

「チクショー!中々、決定的な一撃を与えられねー」

霊剣で武威を攻撃しながらも、次元刀を出すタイミングを狙っていた。

 

「さっきはお前にかなりのダメージを与えたはずだが、ダメージを感じさせないその動きには驚かされる」

 

桑原、ニヤリ。

「それは愛の力だ」

 

「訳の分からない事を」

 

ビューーーーン!!!!!


巨大な斧で桑原の腹部を狙う。

攻撃を瞬間的に察知。

 

ブォォォォォ!!!!!

 

霊気を一気に霊剣に集中させる。

 

ガッ

 

巨大な斧より、遥かに小さな霊剣でその攻撃を受け止めた。

 

「オリャァァァァ!!!!!」

 

ドガッ!!

 

巨大な武威の斧を弾き飛ばした。

 

(!)

 

ズン!!!

 

弾かれた武威の斧が地面にめり込む。

 

「むっ!」

自分の獲物より小さい桑原の霊剣に弾かれたことに少し驚く武威。

 

「やっと巡ってきたチャンス!次元刀!!!!!」

桑原は一瞬で霊剣から次元刀に切り替えた。

 

ビューー!!!

 

そして素早く次元刀で斬りつける。

 

「チッ」

 

このタイミングでは、防御不可能の次元刀をかわせないと判断した武威は両手を十字にクロスさせた。

 

ズバァァァ!!!!

 

次元刀が武威のクロスさせた腕に食い込む。

腕に食い込んだ次元刀を通して血が溢れ落ちる。 

 

「何!?」

 

「甘いわ!!」

 

武威は次元刀を自身の腕に食い込ませたままで桑原をその腕の力で身体ごと持ち上げた。

 

「うおっ!?なんかヤベーぞ!次元刀を消さねーと」

 

シュゥゥゥゥゥ……

 

桑原は直ぐに武威の腕に食い込んでいる次元刀を消し去る。

 

バッ!!

 

桑原は次元刀が消えると同時に武威から離れる為に後ろにジャンプした。 

 

「遅い!!」

 

武威は素早く両手を合わせると武装闘気を集中させた。

 

「ハァァ!!!」

 

ズドォォォォォン!!!!


巨大な衝撃波が桑原の身体を包み込む。

 

「うわァァァァァァ!!!」

 

ドーーーーン!!!!!

 

桑原の身体が上空に吹き飛ばされた。

 

「ウォォォォ!!!」


バッ!!!

 

武威も高くジャンプする。


「チクショー、強烈な衝撃波だぜ!!」 

 

衝撃波で上空まで飛ばされた桑原の身体は、ある程度の高さまで上がって止まった。


(!)

 

ヒューーー

 

今度は徐々に桑原の身体は地上に向かって降下していく。

 

「こ、このままじゃあ地面に思いっきり叩きつけられちまうぜ」

(この勢いで落ちるとかなり痛てーぞ……)

 

地上に向かって下降する桑原の視界に武威の姿が目に入った。

 

(!!)

 

「くらえ桑原ァァァ!!!」

 

ビューン!!!

 

空中で鋭いパンチを桑原に向かって放ってきたのだった。

 

ドゴォォォォ!!!

 

武威の強烈な一撃が桑原の腹部に入る。

 

「ぐわッ・・・!」

 

まともに直撃する武威の一撃。

 

武威、ニヤリ。

 

フッ

 

腹部に一撃を入れて直ぐに武威の姿が桑原の目の前から消える。

 

「クソッタレ……!」


フッ

 

そして武威は桑原の真上にその姿を現した。

 

「フン」

 

ズガァァァァァン!!!!


さらに叩きつけるような強烈な一撃で桑原の背中を激しく攻撃。

 

ヒューーー!!!

 

一撃を背中に受けて勢いを増した桑原の身体は、地上に向かって急降下。

 

「ぬわァァァァァ!!!!!」

 

ドッガァァァァァン!!!

桑原の身体は思いっきり地面に叩き込まれた。

 

「痛てて……」

身体を地面に叩きつけられてかなりのダメージを受けた。

 

シュルルルルル!!!!!


(ゲゲッ!!)

 

飛んできたのは、小型の斧である。

先程から続く武威との死闘の中で、桑原を苦しめたあの小型の斧が、地面に叩きつけられて起き上がろうとしていた桑原をめがけて飛んできたのだ。 

 

「クソッ!」

ギリギリで攻撃をかわした。

 

シュルルルルル!!!

 

さっきまでと同じくブーメランの様に戻ってくる斧。


「野郎!マジで容赦しねーな。だけどよー、俺はこのぐらいでやられたりしねーぞ!!」

 

ジジジ……

 

素早く右手に霊気を集中。

 

「剣よ、飛べ!!!」


ビュー!ビュー!ビュー!


桑原は素早く右手から霊剣手裏剣を飛ばして迎撃。

 

ズガガガガ!!!!

 

霊剣手裏剣によって小型の斧は上に弾き飛ぶ。

 

バッ!!

 

ダメージを感じさせない動きで素早くジャンプ。

弾いた武威の小型の斧に向かう。

桑原はジャンプと同時にその右手に霊剣を作り出していた。

 

「さっきみてーに返すぜ武威!!」

 

ガキーン!!!

 

霊剣で小型の斧を武威に向かって打ち返した。

 

シュルルルルル!!!

 

斧が武威に向かって飛んでいく。

 

パシッ

 

だが、桑原が弾き返した自身の斧を右手で受け止めた。

桑原は地面に着地。

 

桑原、ニヤリ。

「今のを受け止めやがったか!!いいキャッチャーになれるぜ武威」

 

(………)

 

――選手たちの休憩所

 

梟の勝利で終わったDブロックの二回戦の第二試合。

倒された鈴木は緊急治療室に運ばれて行った。

 

鈴木の容態を心配する蔵馬。

「凍矢、鈴木は大丈夫だろうか?」

 

「今、鈴駒と陣が鈴木の様子を見に行っている」


「そうか……」

 

「……あいつは悪運だけは強い男だ。こんな事ぐらいで死んだりしないはずだ」

暗黒武術会の前から鈴木を知る死々若丸は、仲間達の中では一番鈴木の事を心配していた。

 

凍矢も蔵馬の状態を確認。

「蔵馬、お前も電鳳との戦いで受けた傷が酷い。早いうちに治療を受けた方がいい。次のお前の相手は鈴木を倒したあの梟だぞ」


蔵馬の身体に受けたダメージはかなりのものであったが、それ以上に勝つ為に自分自身の体内で育てた毒死草の後遺症の方が大きかった。

 

「ああ、分かっている。桑原君の試合が終わったら行くよ」

 

「桑原もさっきの危ない状況からよく這上がったな」

 

「そうだな」

 

凍矢、ニコリ。

「何故か分からないが、あの状況からの復活劇は吏将と桑原が戦った時の事を思い出したよ」

 

桑原は、かって暗黒武術会で凍矢や陣のいた魔性使いチームの大将であった吏将と対戦した時は、絶対絶命の状況であったのだが、土壇場で急激に力を発揮して奇跡的な逆転勝利を納めた。

この桑原の復活劇がその時の事に似ていると凍矢は言っているのだ。

 

「しかしあの武威が再び現れるとは俺達にも予想外だった」

 

「それはみんな思っているだろうな」

 

「蔵馬、お前に一つ聞きたい事があるが、聞いてもいいか?」

 

スクリーンに映し出されている武威の姿を見ながら凍矢は蔵馬に問いかける。

 

「何だ凍矢?」

 

「俺や陣、酎、鈴駒、鈴木、死々若の六名は蔵馬の誘いを受けて幻海師範の元で修行をした。俺達は幽助や蔵馬達と暗黒武術会で関わった面子だ。そして俺達と同様に蔵馬達と関わった者である武威。蔵馬、お前は武威には声をかけなかったのか?」

それは凍矢がずっと抱いていた疑問であった。

 

「俺もそれは気になるな」

 

「死々若……」

 

「暗黒武術会でお前達と関わりを持った者達の中でも、武威の強さはあの時点ではかなりのものだった。あの集まった中に武威がいなかった事に俺はずっと疑問を抱いていた」

 

死々若も頷く。

「蔵馬、計算高いお前の事、実際は武威にも声をかけていたのではないのか?」

 

蔵馬の側にいる幽助と飛影も凍矢達との話しを聞いている。

 

凍矢と死々若丸の疑問に対して蔵馬は静かに答え始めた。

 

「ああ、死々若の言う通りだ。武威にも俺は声をかけたよ」

 

蔵馬はその時の経緯をみんなの前で語り始めたのだった。

 

――Aブロック

 

「桑原、俺は今から武装闘気を込めた最大の一撃をお前に放つ」

 

(!)

 

武威の突然の言葉に一瞬、驚いた桑原であったが直ぐに真剣な顔になった。

 

「おもしれー!だったら俺もてめーをぶったおす為に最強の技をぶつけてやるぜ!」

 

ピキーン!!

 

右手に作り出していた霊剣を消して次元刀を作り出した。

 

「暗黒武術会以後に俺が見につけた最強の技だ。この技でお前の息の根を止めてやる」

 

「そういえば、てめーは暗黒武術会が終わってから、この大会まで何をやってたのか聞いてなかったな」

 

「俺を倒せたら話してやるぞ」

 

「別にいいぜ。俺はおめーをぶっ殺すのだからよー」

 

「フッ、行くぞ」

 

スッ

 

武威は両腕を後ろに引くと妖気を集中し始めた。

 

武装闘気・フルパワー!!」

 

ブォォォォォ!!!!!

 

武威の全身を包み込んでいる武装闘気が急激に上昇。


ズズズ………

 

武威の身体を徐々に変えていく。

 

「スゲー妖気だ!?それに武威の姿が変化していっている……」

 

「ウォォォォォ!!!!!」

 

カーーー!!!

 

武威の身体が一瞬、光に包まれた。

そして光の中から武威がその姿を現す。

武装闘気は物質化して武威の身体を鋼鉄化させていた。

 

武威、ニヤリ。

「待たせたな」

 

「全くとんでもねー野郎だぜ……」

 

スッ

 

桑原は少ししゃがみかげんに次元刀を構えた。

それは一回戦で牛頭を倒したあの時雨の技の構えであった。


――選手たちの休憩所

 

躯が桑原の構えに気付く。

「あれは時雨の技」

 

(桑原……)

 

――Aブロック

 

「一回戦で見せたあの技か。俺には通用せんぞ」


「武威、それはやってみねーと分からねーぞ!」


「分かるさ」

 

互いに構える。

 

桑原と武威の命をかけた闘いはいよいよ最終局面を迎えようとしていた。 

 

続く

 

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幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #099「あいつは俺が倒す(大会編)」

――魔界統一トーナメントのDブロックの二回戦・第二試合

 

梟(ふくろう)
×
鈴木(すずき) 

 

――選手たちの休憩所

 

梟の肢体爆弾によって起こった大爆発の映像がスクリーンに映し出される。

 

飛影の顔が厳しい。

(あの野郎の今の妖気はこの俺に迫るものを感じたぞ)

 

凍矢も飛影と同じく厳しい顔をしている。

「蔵馬、鈴木は大丈夫だろうか?」

 

「鈴木は今の攻撃をまともに受けたはずだ。無事だったとしてもこれ以上の戦闘はおそらく…」

蔵馬は険しい表情でスクリーンを見つめる。

 

――Dブロック

 

梟の肢体爆弾による大規模な大爆発が起きたDブロック。

辺り一面が爆発によって酷く焼けて地形も大きく変わっていた。

それは梟の起こした爆発の大きさを物語る。

立ち込める砂煙の中で、梟の変化していた髪の色がゆっくりと元に戻っていく。

梟の視線の先には、鈴木が仰向けに倒れていた。

 

梟、ニヤリ。

「ククク、手応えはあったぞ」

 

肢体爆弾をまともにその身体に受けた鈴木は、全身に大きな傷を負って瀕死の状態となっていた。

 

「うぐぐ……」

 

「あの一撃を受けて粉々にならずによく生きていたな。それがお前の強さの証なのだろうが」

 

「クソォォ……」

 

「私の肢体爆弾をその闇アイテムで使える様になったとしても、その様ではもはや私とは戦えない筈だ」

 

「……さっきのお前の一撃は爆発的に妖気が上がった。俺がかわせない程にな。鴉の姿と技、そして再生能力……、お前は俺が知っているあの鴉ではないな……。一体何者だ!?」

 

梟に問いかけながら苦しそうに上半身を起こす鈴木。


スッ

 

梟は軽く手を前に突き出した。

 

「フッ、私の名は梟だ。鴉ではない」

 

梟の瞳が妖しく光る。

 

(!!)

 

ボン!!!

 

鈴木の胸部が爆発した。

 

「ぐわァァァァ!!!!!!」

 

ドサッ

 

トドメともいえる一撃で鈴木は力尽きた。

梟は上空を見上げる。

 

天海は上空から鈴木の様子を確認。 

 

「Dブロックの第二試合は鈴木選手の戦闘不能と見なして梟選手の勝利です!!!」

 

天海は梟の勝利を宣言した。

 

「ククク!!ハッハハハハ!!!!」

梟の高笑いが闘場に響き渡った。

 

鈴木の敗北によって三回戦の第一試合は蔵馬と梟の対戦が確定となった。

 

――選手たちの休憩所

 

休憩場にあるスクリーンに映し出されているDブロック。

蔵馬はその闘場の二つの光景を深く目に焼きつけていた。

梟によって倒された鈴木の変わり果てた姿。

そして変わり果てた鈴木の姿を見ながら高笑いしている梟の姿。

隣にいた凍矢は蔵馬の表情を見た。

 

ゾクッ

 

凍矢は一瞬だが背筋が凍る様な感覚に陥る。

 

「蔵馬…」

 

勝負は既についている状態にも関わらず、瀕死の鈴木に対して非道ともいえる一撃。

蔵馬は梟に対して強い殺気を放ち始めた。

そして蔵馬は静かに呟く。


「あいつは俺が倒す」


――メイン会場

 

「あ~あ、いい男がすっかりぼろぼろになっちゃって」

 

皐月は残念そうな顔をする。

 

イチガキ、ニヤリ。

「ヒョヒョヒョ。あの梟は実験体とはいえ、ワシの研究の集大成ともいえる作品。見事な勝利じゃわい」

 

「あれだけの強さを持っている梟ならば、樹の計画が順調にいけば、これから復活する事になる“彼”のいい手駒になりそう。見事な仕事だよイチガキ」 

 

「ヒョヒョ、枯れかけたワシの夢を叶える機会と、闇撫の不思議な力による技術力を与えてくれた、樹と皐月には感謝しておるぞ」

 

イチガキの濁りきったその目は大きな野望を持つ男の目に変わっていた。 

 

「フフ、貴方の本当の役目はこれからなのだから、樹も私も期待してるよ」


ズズズ……

 

皐月はそう言うと再び空間の中に入ろうとする。 

 

「行くのかね?」


「ええ。今から樹の策の手伝いにね。沢山の血が見れそうよ」

 

「今度は何を企んでいるのかは知らないが、相変わらずご苦労な事じゃな」

 

「フフッ、ある世界を滅ぼしてくるのよ」

 

フッ

 

不気味な言葉を残して皐月は空間の中に消えていった。

イチガキは皐月の消えた後を見ながら心の中で呟く。


(ヒョヒョ、いずれお前達はワシにとっては邪魔な存在になる。いつまでも大人しく従っておるワシではないぞ。最後に勝つのはこの天才Dr.イチガキ様じゃよ)

 

――Dブロック

 

天海は全く動かなくなった鈴木の側に行って様子を見る。

 

「死んだ?いや、微かに息をしているわ」

 

天海は直ぐに救護班に連絡を入れた。

暫くすると瑠架を含んだ救護班と一緒に鈴木を慕う樹里が闘場に現れた。 

 

「鈴木!!鈴木!!」

必死に鈴木の名前を何度も呼び続ける樹里。

 

だが樹里の必死の呼びかけに鈴木は応えなかった。

鈴木は意識がなくてグッタリとしていた。

生きているのが不思議な状態であった。

 

「瑠架さんお願い!鈴木を助けて」

必死で訴えかける樹里。


瑠架、ニコリ。

「大丈夫よ樹里。鈴木の事は私に任せて」

 

瑠架は今にも泣きそうな顔の樹里に優しい笑みを浮かべて安心させる。

 

「樹里、貴方も心配でしょう?一緒についてきなさい」

 

「いいの?」

心配そうな顔で問いかける樹里。

 

「もちろんよ。これは小兎も了承済みだから大会の方は任せて大丈夫よ」 


樹里、ニコリ。

「ありがとう」

 

瑠架の言葉に笑顔を見せる。

樹里は救護室に向かって運ばれて行く鈴木に付き添う事にした。

鈴木はこの後、瑠架達の軒目な治療と樹里の手厚い看護により無事に一命を取り止めたのだった。

これがきっかけとなって後に鈴木と樹里は結ばれる事になるのだが、これはまた別の話しとなるのでここまでにしておこう。 

 

――霊界

 

蔵馬と電鳳が激闘を繰り広げていた頃に時は遡る。

幽助に頼まれてから比羅達の事を調べていた霊界のコエンマ達。

ぼたんはコエンマの推測から、樹が比羅達の協力者として関与しているかも知れない事と、見つかった資料から比羅達の事で分かった事を、通信機を通じて幽助に伝えようとしていたが、肝心の幽助と連絡を取ることが出来なかった。

 

「駄目だ~。幽助の奴、絶対に通信機を忘れているよ」

 

ハァーッとぼたんは大きな溜息。

 

ガチャッ

 

ぼたんのいる部屋にコエンマが入って来た。

 

「ぼたん、幽助とはやはり連絡がとれないか?」

 

「はい、駄目です」


「やれやれだ。幽助に連絡が伝わらんのなら直接あいつに伝えるしかないのう……」

 

通信機を見ていたぼたんはコエンマに視線を移した。


(!)

 

コエンマの姿を見て驚く。


「ぼたん、何をそんなに驚いているんだ?」


コエンマの姿は人間界バージョンになっていた。

 

「だってその姿は人間界バージョンじゃあないですか!コエンマ様、そんな格好で一体どちらへ?」


「魔界だ。どうしても嫌な予感がしてならん。この予感が何か分からんが、万が一の自体に備えて桑原を霊界の方で保護しておこうと思ってな」

 

「コエンマ様お一人で魔界に行くのですか?」

 

「いや、護衛も兼ねて、特防隊の舜潤と草雷と才頭を連れて行く。行ったついでに魔界の王が誰になるのかも見届けようとも思っておるがな」

 

舜潤は特防隊の現在の隊長。

草雷は女性の隊員。

才頭は坊主頭の隊員である。

 

「コエンマ様、あたしもたまには一緒に連れて行って下さいよ~」

 

「な、何!?お前も一緒に来るのか?」

 

ぼたんは目をうるうるさせて頼み込む。

 

「ぼ、ぼたん気色悪い顔をするな」

 

ぼたんのうるうる顔を見て、嫌な顔をするコエンマ。

 

「コエンマ様、お願いしますよ~」

ぼたんは不気味な程にさらに目をうるうるする。

 

「うう~む。ま、まあ、霊界にはあやめがいるから良かろう」

コエンマはしぶしぶ承諾したのだった。

 

「やった~!!ありがとうございますコエンマ様ァァァ!!!」

 

両手を上に挙げて大喜び。


「さてと行くなら直ぐに準備するんだ。お前の準備が出来しだい出発するぞ。今から行けば大会の終盤には間に合うだろうからな」


「あいあいさ」

ぼたんは急いで準備に取りかかり始めた。

 

(もし関与しているのがワシの推測通り、本当に樹だとしたらあいつの目的は一体何だ?)

 

コエンマは昔から樹の事を良く知っているだけに、妖気の強さを超える樹の底のしれない力を警戒していたのだった。 

それから暫くしてコエンマとぼたん、特防隊の三人は魔界に向かって旅立った。

コエンマは自身が感じた嫌な予感が間もなくこの霊界で起こる事になるとはまだ知るよしもなかった。

それが全ての世界を巻き込む壮絶な戦いの幕開けとなるのである。

 

続く

 

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幽☆遊☆白書~2ND STAGE~ #098「イチガキ登場(大会編)」

――魔界統一トーナメントのDブロックの二回戦・第二試合

 

梟(ふくろう)
×
鈴木(すずき) 

 

――メイン会場

 

「ヒョヒョ、中々上出来だぞ梟」

 

男は薄気味の悪い笑みを浮かべた。

 

「イチガキ」

 

ズズズ……

 

男の名前を呼ぶと空間から一人の女性が姿を現した。

闇撫の皐月である。

 

「ヒョヒョ、お前さんか皐月」

 

皐月、ニコリ。

「貴方の実験体の調子はどう?」

 

「お前さんの目で見てみるがいいぞ」

 

「どれどれ」

興味深そうにスクリーンを眺める。 

 

スクリーンには鈴木が映っていた。

空中を自由自在に動き回って陣の技を駆使して梟を攻め続けていた。

 

「へ~え。貴方の実験体と戦っている男は中々強いみたいね。顔もイケメンだし」

 

「あやつは鈴木だ。暗黒武術会の時には変装をしていたがのう。あれがどうやら素顔の様じゃ。あの大会の時とはまるで別人の様に強くなっておる」

イチガキは目を細めてスクリーンに映し出されている鈴木を見る。

 

「名前は鈴木っていうのね。わりといい男だわ。私は少し好みかな。でも樹には敵わないよ」

 

「ヒョヒョ、顔が良い男が好きとは若いのう。ところで皐月よ、あの者はどうしておる?」

 

「フフッ、裏男の中にいるよ」

 

――会場へと続く道

 

何者かに瀕死の重症を負わされて比羅の腕の中で息を引き取った砂亜羅。

妹の死に怒りに燃える比羅に樹が接触してきたのだった。 

 

「樹、何者が砂亜羅を殺したのだ?」

 

砂亜羅の亡骸を強く抱き締めながら、比羅は鋭い視線で樹を見た。

樹は比羅に答えた。

砂亜羅の命を奪った者が誰なのかを。

その瞬間、強い突風が吹いた。

 

ヒューーー!!!

 

「……の……者だ」

 

樹は砂亜羅を殺した者が誰なのかを比羅に伝えた。

 

「何だと……!。何故、砂亜羅を殺すのだ?」

 

樹の答えがあまりにも予想外だったので、流石の比羅も驚いていた。 

 

「比羅」

 

スッ

 

樹は手に持っていた物を比羅に見せる。

 

「これは?」

 

怪訝そうな顔で見る。

それは幽助が霊界との連絡用に魔界に持って来ていたあの通信機であった。


――Dブロック

 

ギュウウウウウウ

 

風を操り空を駆ける鈴木は、凄まじいまでの連続攻撃をひたすら続けていた。

 

「くらえーー!!!」


ビュッ!!

 

空中からの鋭い蹴り。

だが、梟はこの攻撃を素早くかわす。

 

「クソッ、さっきからチョコマカと逃げやがって」

 

梟は鈴木から繰り出されている攻撃を全てかわしていた。

 

――選手たちの休憩所

 

蔵馬は梟の動きを観察していた。

「しかし鈴木があれだけの攻撃を仕掛けているというのにダメージを与えられないな」

 

凍矢が頷く。

「ああ。遠隔攻撃は爆弾で迎撃。直前的な攻撃は全てかわしている」

 

「それにしてもよー、鈴木のあの闇アイテムは一度受けた相手の技を使えるだけじゃなくてそれを無効にしちまうのだろう?よくあんなもんを作ったよな」

幽助は鈴木の物を作り出す技術に対して感心していた。

 

「相手の性質に合わせて作る技術にかけてはあいつは本当に天才だ。あの闇アイテムも自身の性質に合わせて作った様だ」

 

蔵馬、ニコリ。

「俺や桑原君も鈴木の作り出す道具で暗黒武術会では助けられたよ」

 

暗黒武術会では蔵馬は前世の実を液体として飲むことで妖狐の姿に戻り、格上の鴉と戦う事が出来た。そして桑原は試しの剣で戸愚呂(兄)と戦い、見事にこれを倒した。

 

「そういえばあの鈴木の闇アイテムは何て名前だ?凍矢から名前をまだ聞いてねーよな?」

 

「そういえば聞いていなかったな。何て名前なんだ凍矢?」

 

幽助たちの質問に少し困った顔をする凍矢。

幽助と蔵馬は凍矢が何故困った顔をするのか、不思議そうに顔を見合わせる。

 

「ほ、ほ……」

 

凍矢は鈴木の闇アイテムの名前をどうやら口に出すのが嫌みたいだ。

 

「ほ?」

 

「ほ……本当に強いぞ!!青き模写腕輪だ……」


(…………)

 

幽助たちは聞いた事を後悔した。

 

(鈴木よ。お前の強さと物を作る天才的な技術は認めるがネーミングセンスだけは認められない……)

凍矢が遠い目をした頃、スクリーンに映し出されている鈴木は、梟に向かって再びその凍矢の技で攻撃を仕掛けようとしていた。

 

――Dブロック

 

「お前は色々な技を持っているようだが通用しないぞ」

 

「そうかよ」

 

鈴木は空中で動きを止めると手の平に結晶を作り出し始めた。

「それはさっき使ってきた氷の技か?」 

 

「そうだ」

 

ブォォォォォ!!!

 

空中で妖気を集中。

 

ヒョォォォォォ!!!!!


辺り一面に吹雪が吹き荒れた。

 

ポウ

 

鈴木の右手に妖気で氷の塊を作り出す。

 

「行くぜーー!!!」


ボッ

 

手の平の氷の塊を吹く。

魔笛散弾射である。

 

ガガァァァァァ

 

氷の塊が梟に襲いかかる。


スッ

 

梟は走っていた足の動きを止めて両手を前に突き出す。

 

ボン!!ボン!!ボン!!


鈴木の放った氷の塊は梟に近付くだけで爆発して粉々になっていく。

 

「この技はさっき見せてもらった。もはや通用しない」

 

「俺もこれがお前に通用するとは思っていない。あくまでこれは囮だ」

 

ギュウウウウウ!!!!!


既に鈴木は梟に接近していた。


ピキィン

 

梟が氷の塊を防いでいる間に、鈴木は凍矢の技の一つである呪氷剣を作り出していた。

 

(!!)

 

「もらったぞ!!」

 

ビューー!!!!!

 

一気に斬りつける鈴木。

 

ザシュ!!!

 

「ガハッ!!」

 

梟は口から血を吐き出した。

そして口に着けていたマスクが衝撃で外れた。

度重なる激しい鈴木の攻撃をかわし続けていた梟。

だがついに鈴木の呪氷剣が梟の左肩から右の脇腹までを深く切り裂いた。

 

鈴木、ニヤリ。

「手応えありだ。急所はギリギリで外してやったぜ。だがその傷では戦えないだろう。さっさと負けを認めて治療した方がいいぜ」

 

「少し驚いた」

ヨロッと梟の足がふらつく。

 

(勝った)

鈴木はこの時、勝利を確信していた。

 

――選手たちの休憩所

 

蔵馬、ニコリ

「やったぞ」

 

幽助が異変に気付いてスクリーンに近付く。

「いや様子が変だ」

 

 

――Dブロック

 

「嘘だろ!?」

 

鈴木は思わず自分の目を疑った。

 

じゅるじゅる

 

呪氷剣に切り裂かれた傷が、不気味な動きをしながら塞がっていく。

そう戸愚呂(兄)の再生能力の様に。

そして何事もなかった様に梟の身体は元の状態に戻った。

 

「驚いたみたいだな」

マスクが外れた梟は不敵な笑みを浮かべる。

 

「まさか再生するとはな。それは予想外に決まっているだろう……」

全く予想していなかった梟の傷の再生に驚きを隠せなかった。

 

――メイン会場

 

皐月、ニコリ。

「あの鈴木って男、流石に再生能力には驚いているみたい」

 

「ヒョヒョ、梟にはあの男の遺伝子を加えているからのう」

 

「ああ、樹が何処かから連れて来たあの薄気味悪い男ね。あいつは何年間も一人の男の幻覚と戦い続けていたマヌケな男だよ」

 

「じゃが、あの男の再生能力は素晴らしいぞ。ワシの理想の生物兵器を作り出すには欠かす事の出来ない能力だわい」

イチガキは嬉しそうに語る。

 

「あの薄気味悪い男の話はもういいよ。今からあの鈴木って男が貴方の実験体にやられていくのだろうね。私の好みだからちょっとやられるのを見るのは嫌だな」

 

「ヒョヒョヒョ」

不気味な高笑い。

自分が作り出した梟の強さに絶対的な自信を持っていた。

 

――Dブロック

 

「一つ聞くがお前は俺の追跡爆弾を使ってきたが、一度見た技を使う事が出来るのか?」

 

「俺の作り出した闇アイテムは一度身体で受けた技を覚える。自分が使える様になると同時にその技も無効に出来る。今の俺には同じ技は二度通用しないぞ」

 

梟、ニヤリ。

「ククク、なるほどな。二度目の攻撃が効かないのならば一度目の攻撃でお前を倒せば済むことだ」

 

「お前にそれが出来るのかよ!」

 

「こおおお」

 

ズズズズズ

 

梟の髪の色が変化。

そして口から体内に火気物質を集め始めた。

 

「これは……」

 

バチバチバチ

 

梟の両手には、凄まじいまでの妖気が蓄積されている。

 

――選手たちの休憩所

 

蔵馬がスクリーンにくらいつく。

「あれはまずいぞ!」

あの技の恐ろしさは直接戦った蔵馬には分かる。


凍矢の顔が青くなる。

「マズい。あの妖気は鈴木を遥かに上回っている」

 

――Dブロック

 

バチバチバチ

 

梟の両手が起爆装置となる。

 

「ククク、死ね!!」

 

ダン!!

 

飛び上がると素早く鈴木に向かっていく。

 

「肢体爆弾(リンボム)」


(!!)

 

ドッガァァァァァァァァン!!!!!!!!

 

梟が起こしたこの爆発は大会で最大規模となる大爆発であった。

 

「ハハハハハ」

 

爆煙の中で、梟の笑い声が闘場に響き渡る。

 

――会場へと続く道

 

樹の話しを聞いた比羅は、行動を起こす為にこの場を立ち去った。

樹は比羅の立ち去った後を見ていた。

 

「上手く事が運んだ」

 

ヒューーーッと強い突風が吹き荒れる。

樹は風になびく髪を手で掻き上げると静かに呟く。

 

樹、ニヤリ。

「砂亜羅を殺したのは俺だというのに馬鹿な男だ。だが、これで矢は放たれた。一度放たれた矢はもう止められない」

樹の恐ろしい策略は一歩一歩着実に進み出していた。

 

続く

 

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